TASMANIA LOVE STORY ②
ここタスマニアに来ることが決まってすぐ、僕の脳裏によぎったのは幻の動物タスマニアタイガーだ。
絶滅していると言われている動物をもし見つけることが出来たらと、考える度に顔がニヤついていた。
けれどその前にしなければいけないことがあった。せっかく旅行に来たのだからと人は言うかもしれないが、平均8時間はいつも睡眠をとっている僕には、寝ていないことほどつらいことはない。人間食べないことよりも眠らないことの方がつらいというが、まさに僕はその典型だ。とにかくホテルに着いたら少し早い昼寝をしようと心に決めていた。だから、タスマニアタイガーは二の次だった。
ホテルはホバートの市内にあり、もちろん住所も知っていたので、すぐ見つかると思っていた。とにかく空港から市内へはバスを使った。シティ行きと書いてあるバスを幸いにも発見。たぶん大丈夫だろうと我ながらいい度胸をしている。とにかく眠気が襲っていたので、タクシーに乗ることを避けたかった。この国では助手席に座るのが一般的で、運転手は助手席の客に良く話しかけてくるという話をお兄ちゃんから聞いていたので、それは面倒くさいと思い、一か八かでバスに乗り込んだのだった。
ホテルのパンフレットに大まかな地図が載っていたので、バスに乗るさい運転手さんに、
「I wanna go here. OK?」
ダテに大学には通ってないと、勝手に感心しながら地図を見せ聞いていた。すると何やらごちゃごちゃ喋った後、ドアを閉め走りだしてしまった。何かまずいことを言って怒らせたのか、絶対…いや、たぶんそんなことはない。じゃあどうして?僕は頭がパニックになっていた。一応、「ここに行きたいだけど、OK?」とホテルを指差し聞いたつもりだったんだけど、どうやら通じていないらしい。これが日本の大学生の英語力かと落ち込んでしまいそうだった。
そんな僕の不安と絶望をよそにバスは止まった。運転手が僕に何か言っているようだということだけは分かった。意気消沈していた僕は、外に向かって指をさされているので、降りろという意味だと察して、バスを降りることにした。
目の前にどこかで見たことのある建物がある。なんでだろう?不思議に思いながら、ふと手に持っていたパンフレットを見ると、どこかで見たことがあるのはこの写真だということに気づいた。楽天家の僕は、やっぱりダテに大学に通ってないと自分を買いかぶっているしまつだ。
ホテルに無事チェック・イン(お兄ちゃんの話だと特別だとか言っていたが僕はよくわかっていない)し部屋に入ると、そのままベッドに横になってしまった。しかも靴を履いたまま。そして夢をみたらしい。
見たらしいとは自分の事ながら頼りないが、なんとなく見たということだけで、詳しく内容を覚えているわけでもない。朧げだがポニーテールの女の子が出てきたことだけは記憶にあるような。空港で見た女の人にまだ未練があるのかもしれない。いつもの正夢のようなはっきりとしたビジョンではないからなんとも言えないが、夢に出てきた女の子が空港であった女の子なら、正夢であってほしいと心底願った。
目が覚め時計を見るとちょうどお昼前だった。起き上がり、眠気眼で鏡の前に立つと、顔にはいくつかの模様が出来ていた。うつぶせで眠っていたのでしょうがないが、気休めながらも顔を洗った。その際、頭がくらっときたので、もしかして風邪を引いたのか心配になり、指に鼻息をかけ確かめた。小さい頃、僕のおばあちゃんはよくこう言った。『鼻息があったかかったら熱がある証拠なんだよ』と。そう教わっていたので、いつも最初に試してみるのだ。そうしたら少しだけ、あったかいような感じがした。
「べつに大丈夫だろ」
そう独り言をいい、自分で納得した。ひとり旅は話し相手がいないので寂しいと気が付いた瞬間だった。せっかくただでここまで来ているのに、一人寂しさに浸っていてもしょうがないので、気を取り直し外出することにした。
威勢よくドアを開け、第一歩を踏み出した時、忘れ物があることに気づいた。お兄ちゃんからもらった紙、それと小さい辞書、あとはガイドブックだ。これは僕にとっては必需品だ。しかも鍵を閉め忘れ…それ以前にドアを閉め忘れている。なんてドジは奴なんだろうまったく。そして全てを詰めこんだショルダーバッグをひっさげて、タスマニア・ホバート市内への探検が始まろうとしていた。
もちろん最大の目的はタスマニアタイガーを見つけること。
ようするにタスマニアタイガー・クエストだ。
もし見つけた場合の証拠を収めるためのカメラを持ったことも確認し、もう一度持ち物チェックをした。そして再びさっそうと部屋を出た。
しばらくして立ち止まると、今度は鍵を閉め忘れていた。やっぱり微熱があるに違いない。けれど鍵を閉めようと部屋の前に戻り鍵穴に鍵を差し込んだところ空いてしまった。もう一度閉め、今度は何もしないで開けようとしたところ開けられなかった。僕みたいな奴の為に閉めると自動的にロックするようになっているのだろう。そのことに気づきさすがホテルだと感心した。
今度こそ本当にホテルを飛び出し、市内観光へと向かった。
頭の中でタスマニアタイガーを思い浮かべながら。




