第17章:裁き
シグ 視点
***
深いため息が漏れ、胸につかえていた重苦しさが少しだけ和らいだ。
「はぁ……やっと休む時間ができた」
静まり返った部屋で、俺は小さく呟く。
少なくとも、この静かな場所なら少しの間は目を閉じられる。
さっき殺したプレイヤーたちの記憶が頭の中へ流れ込み、自分の記憶まで混ざり始めていた。
この混乱を整理するには、一人になれる時間が必要だった。
俺は部屋の隅にある古びたソファへ体を投げ出した。
カビ臭く、擦り切れた布地はざらついていたが、今の俺には王のベッドよりもずっと心地よく感じられる。
どれほどそうしていたのかは分からない。
意識はゆっくりと眠りへ沈み、心地よい眠気に身を委ねていた。
――だが、その安らぎは突然終わった。
奇妙な冷気が足先から這い上がる。
皮膚をすり抜け、骨の髄まで凍らせるように、その冷たさは全身へと染み込んできた。
両目を開いた瞬間、身体がふわりと浮いたような感覚に襲われた。
俺はもう、あの古びたソファの上にはいない。
見渡す限り、果てしなく血の海が広がっている。
恐る恐る視線を落とす。
俺は、その血の海の上に立っていた。
鼻を突く錆の臭い。
鉄の臭い。
そして、死の臭い。
「ここは……どこだ?」
俺の声は恐ろしいほどの静寂へと吸い込まれていく。
体を巡らせ、周囲を見渡す。
だが、地平線の先には何もない。
星ひとつない暗い空と、それを映し出すどす黒い血の海が広がるだけだった。
「なぜ……俺はここにいるんだ?」
歩き出そうとした。
だが、足は鉛でも括りつけられたように重く、ぴくりとも動かない。
何が俺を引き止めているのかと思い、視線を落とした瞬間――
人間の手が、俺の右足首を掴んでいた。
皮膚はなく、濡れた赤黒い肉が剥き出しになっている。その色は、足元に広がる血の海とまったく同じだった。
氷のように冷たいその手は、決して逃がすまいと言わんばかりに俺の足首を強く締めつけていた。
ズルッ! ズルッ!
一つ、また一つと、赤い水面の下から手が現れ始めた。
飢えた蛇のようにうねりながら、俺の足へ群がり、掴もうと伸びてくる。
「はっ!?」
ゆっくりと、だが確実に、その手は俺を血の海の底へと引きずり込み始めた。
その瞬間、静寂が破られる。
聞き覚えのある声――俺がかつて命を奪った者たちの声が、頭の中に響き渡った。
「逃げるな!」
「俺たちを忘れるな!」
俺は力の限りもがいた。
蹴り、引っ掻き、その恐ろしい束縛から逃れようとする。
だが、すべて無駄だった。
一つの手を振り払うたびに、新たな手がその隙間を埋めるように現れる。
「俺たちを忘れるな!」
「チッ……クソッ!」
気づけば、体は胸のあたりまで血の海へ沈んでいた。
生臭く冷たい液体が服の内側まで染み込み、体温を容赦なく奪っていく。
その中でも一際長い手が何本も這い上がり、肩を掴む。
そして、骨を砕くほどの力で俺の首を締め上げた。
その声は今や、耳元で親しげに囁く嗄れ声へと変わっていた。
「思い出せ……」
「お前は俺たちを殺した人殺しだ!」
ボコッ。
その瞬間、俺の体は冷たい血の海の底へと一気に引きずり込まれた。
視界は完全な闇に染まる。
ここには空気がない。
息が詰まり、見えない何かに首を締めつけられているように呼吸が止まる。
肺は酸素を求めて悲鳴を上げていた。
目の前が白く霞むほどの恐怖の中、俺は闇へ向かって必死に手を伸ばし、何かを掴もうともがく。
『誰か……』
そう願っても、口の中には鉄臭い血の味が広がるばかりだった。
俺は右手をできるだけ高く伸ばす。
『助け……てくれ。』
答えは最初から分かっていた。
人殺しを助けようとする奴なんて、いるはずがない。
聞こえてくるのは、自分自身の囁きだけだった。
「これで分かっただろ? 誰もお前なんか気にしちゃいない」
「お前は人殺しだ……どれだけ他人を救おうとしても、誰もお前を見ようとはしない」
「全部、お前自身が選んだ結果だ。自分が死ぬくらいなら、他人を殺す道を選んだ」
「死ぬのが怖いのか? 誰かを失うのが怖いのか? それとも……両方か?」
「本当に、救いようのない負け犬だな」
その言葉に返すことはできなかった。
冷たい静寂だけが、ゆっくりと俺を飲み込んでいく。
俺は諦めた。
これが俺の最期なのだと思った。
自分の罪に溺れて死ぬのだ、と。
だが、その時だった。
伸ばした右手を、誰かの温かな手が強く握り返した。
「はっ!?」
次の瞬間、眩い白い光が弾け、俺を閉じ込めていた漆黒の闇を切り裂く。
荒い息を吐きながら、俺は勢いよく目を覚ました。
額には冷や汗が滲み、心臓は暴れるように脈打っている。
俺は必死に肺いっぱいの空気を吸い込んだ。
あの生臭い鉄の匂いは消え去り、代わりに優しいバラの香りと、どこか安心する温もりが俺を包んでいた。
ぼやけていた視界が少しずつ焦点を結ぶ。
そこでようやく気づく。
俺の頭が乗っているのは、硬いソファではない。
柔らかく、温かな感触だった。
――ルーシーの膝枕だ。
彼女は両手で俺の右手を包み込むように握っていた。
夢の中で、必死に伸ばしたあの手だ。
その温もりだけが、俺を現実へ繋ぎ止めてくれていた。
ルーシーはうつむき、不安げな瞳で俺を見つめている。
親指がゆっくりと俺の手の甲を撫で、不安を落ち着かせるように優しく指先を滑らせた。
「シグ、大丈夫?」
彼女は静かに問いかける。
その優しい声が、悪夢の残滓を少しずつ溶かしていく。
「悪夢でも見ていたみたいね。さっきまで、体がひどく震えていたわ」
俺はぎこちなく体を起こし、彼女の膝から離れようとした。
「あ、悪い、ルーシー――」
だが、その途中で彼女の両手がそっと俺の肩へ置かれる。
優しいのに、不思議と逆らえない力だった。
気づけば、俺は再び彼女の膝へ押し戻されていた。
「このままでいて、シグ」
彼女は優しく、けれど反論を許さない声で言う。
「まだ起き上がらないで。あなたには本当に休息が必要よ」
「でも、ルーシー……悪いよ。俺ならソファで十分だから」
俺は申し訳なさに耐えきれず、顔を逸らした。
手を汚してきた俺が。
あんな悪夢を見たばかりの俺が。
こんなにも温かくて優しい場所に甘えていいはずがない。
それでも、ルーシーは俺の言葉を聞き入れなかった。
俺を見つめる瞳には、「譲らない」とでも言いたげな揺るがない意志が宿っている。
肩に添えられたその手は、せめてこれくらいはさせてほしいと静かに訴えているようだった。
その決意を見てしまえば、もう何を言っても無駄だと分かる。
俺は小さく息を吐き、諦めるように再び彼女の柔らかな膝へ頭を預けた。
しばらく、心地よい静寂が俺たちを包んでいた。
俺はぼんやりと天井を見つめ、やがて彼女の胸元に少し隠れたルーシーの顔を、膝枕越しに見上げた。
「どうしてここにいるんだ、ルーシー?」
気まずさを紛らわせるように、俺は何気なく尋ねた。
「さっき、大聖堂の孤児院で子供たちと一緒にいたよな?」
ルーシーは小さく微笑んだ。
その笑顔だけで、不思議と胸に残っていた悪夢の冷たさが少しずつ溶けていく。
「孤児院のシスターに子供たちを引き渡した後、わざわざここまであなたを探しに来たの。」
そう言うと、彼女は冷や汗で乱れた俺の髪を、指先で優しく整えた。
「直接お礼を言いたかったの、シグ」
「さっき、あなたが子供たちを連れて来てくれた時、お礼を言う暇すらなかったから……」
彼女は少しだけ言葉を止め、真っ直ぐ俺を見つめる。
「本当にありがとう、シグ」
「あの子たちを助けてくれて」
「あなたがいなかったら、今頃あの子たちがどうなっていたか分からないわ」
「あなたは……あの子たちに未来をくれたのよ、シグ」
ルーシーの純粋な想いを聞き、胸が少しだけ締めつけられた。
だが、それはさっきまでのような息苦しさではない。
胸いっぱいに広がる温もりのせいだった。
「俺は、自分がやりたかったことをやっただけだ」
胸の奥で渦巻く感情を隠すように、俺は短く答えた。
ルーシーはその返事を聞くと、くすりと笑い、優しく俺の頭を撫でる。
「さて、おしゃべりはここまで。今はもう一度寝て」
「こんな状況で寝られるわけ――」
「目を閉じて、シグ」
俺の言葉を遮るように、彼女はそっと手のひらで俺の目を覆った。
言われるまま、俺は静かに目を閉じる。
やがて彼女の指先がゆっくりと動き始めた。
優しいリズムで髪を撫で、そのまま頭をそっと撫で続ける。
「よし、よし……いい子ね」
まるで子供をあやされているみたいだ。
それでも、不思議と嫌ではなかった。
全身に張りつめていた力が、ゆっくりとほどけていく。
優しく頭を撫でられる中、ルーシーの口から静かなハミングが漏れ始めた。
それは子守唄だった。
どこか懐かしく、穏やかな旋律。
彼女の澄んだ歌声は静かな部屋に優しく溶け込み、さっきまで悪夢の中で聞こえていた忌まわしい囁きも、あの悪夢の余韻も、少しずつ消し去っていく。
彼女の手の温もりと子守唄に包まれながら、俺は生まれて初めて味わうような安らぎを感じていた。
意識がゆっくりと眠りへ溶けていく中、俺は確信する。
もう、あの血の海から伸びる手は俺を引きずり込まない。
そう思えた瞬間、俺はようやく穏やかな眠りへと身を委ねることができた。
***
翌朝。
黄金色の朝日が古びた建物の木壁の隙間から差し込み、夜の冷気を少しずつ溶かしていく。
朝日に照らされた埃が、静かな部屋の中をゆっくりと舞っていた。
ゆっくりとまぶたを開く。
最初に気づいたのは、まだ体を包み込んでいる心地よい温もりだった。
血の海はない。
呪いのような悲鳴も聞こえない。
俺の頭は、まだあの柔らかな場所にあった。
少し顔を上げると、そこにはまだルーシーがいた。
彼女は疲れた体をソファの背にもたれさせたまま、静かに眠っていた。
その穏やかな寝顔にも、隠しきれない疲れの色が滲んでいる。
両手はまだ俺の頭のそばに残されたままで、眠っていてもなお、俺を見守ろうとしているかのようだった。
……一晩中、俺のそばにいてくれたのか。
悪夢にうなされる俺を放っておけなかったのだろう。
自分だって休まなければならないはずなのに、それでも彼女は俺のそばを離れなかった。
ゆっくりと、俺はルーシーの膝から頭を離した。
衣擦れすら立てないよう慎重に身を起こす。
古びたソファが小さく軋み、思わず動きを止めた。
ルーシーが起きてしまったかと思ったが、彼女は小さく寝息を漏らしただけで、再び穏やかな眠りへと沈んでいく。
俺は静かに立ち上がり、朝の冷え込みに身を小さく丸めるルーシーへ視線を向けた。
右手をかざしてインベントリから毛布を取り出すと、そっと彼女の肩まで掛ける。
毛布を少しだけ整えたあと、俺は眠る彼女を見つめ、小さく呟いた。
「ありがとう、ルーシー」
温かい毛布に包まれ、静かな寝息を立てているルーシーを見て、俺はそっと背を向けた。
これ以上、彼女の休息を邪魔したくなかった。
音を立てないよう慎重に歩き、古びた木の床を抜けて出口へ向かう。
錆びたドアノブを握り、蝶番が軋まないようゆっくりと回した。
俺は静かに外へ出ると、古い扉をゆっくり閉める。
そしてその場を離れる前に、誰にも彼女の眠りを邪魔させないよう、自分の影を彼女のそばに残しておいた。
しかし、外へ出た瞬間、サンクト・オーダー・ギルドの連中が行く手を塞いでいた。
「お前ら……何の用だ?」
俺が短く尋ねると、返事の代わりに奴らは一斉に俺を取り囲み、拘束しようとしてきた。
その気になれば、この場で全員始末することもできる。
だが、この建物ではルーシーが眠っている。余計な騒ぎは起こしたくなかった。
俺はあえて抵抗せず、そのまま奴らに拘束され、連行されていった。
***
リフェリーの中央広場は、普段なら市場の活気で賑わっている。
だが今日だけは違った。
広場を包むのは喧騒ではなく、重苦しい緊張だった。
その中央には、古びたオーク材の処刑台が据えられている。
あれは演芸場じゃない。サンクト・オーダー・ギルドが正義を演じるための舞台だ。
プレイヤーもNPCも関係ない。一度罪人と決めつけられれば、この場所で裁かれる。
そして今日、その茶番の主役に選ばれたのは――俺だった。
サンクト・オーダー・ギルドの連中に舞台へ引きずり上げられると、群衆の歓声はさらに大きくなった。
重装甲のプレイヤーが俺の両腕を拘束する鎖を乱暴に引き、舞台へと連れていく。
抵抗はしない。
俺は鎖に従って歩きながらも、その足取りを最後まで崩さなかった。
「この悪党を見ろ!」
サンクト・オーダー・ギルドのリーダー、ガレンが叫ぶ。
拡声のマジックスキルによって、その声は広場中に響き渡った。
乱暴に、俺を引きずっていたプレイヤーが俺を舞台の中央へと突き飛ばした。
奴らはきっと、俺が無様に床に転がり、そのまま這いつくばって命乞いをするとでも思っていたのだろう。
だが、俺は微動だにしなかった。
荒波にも揺るがない岩のように、体勢を崩すことなく、その場に立ち続ける。
その程度の力で、俺を揺るがせることなどできない。
「こいつが、この町でNPCの子供たちを誘拐し、売り飛ばした黒幕だ!」
ガレンはそう叫び、俺へと鋭く人差し指を突きつけた。
その瞬間、観衆が一斉に沸き立つ。
『正義』の名を借りた怒号が広場を埋め尽くした。
「クソ悪党が!」
「このゴミ野郎!」
「まったく……」
ガレンは軽蔑の眼差しで俺を睨みつけた。
「この町にいる資格すらない、忌まわしい犯罪者め!」
ペッ――。
そう吐き捨てると、俺の靴へ唾を吐きかけた。
俺は瞬き一つしない。
視線だけを一度足元へ落とし、ブーツのつま先に落ちた唾を一瞥すると、静かに顔を上げた。
俺の瞳には、何の感情も宿っていない。
俺が無言を貫いたことで、ガレンはわずかに顔をしかめた。
挑発に乗り、取り乱す姿を期待していたのだろう。
だが、その期待は外れたようだった。
あまりにも冷静な俺の態度に、舞台下の群衆の怒りはさらに燃え上がった。
彼らには、その無反応さが傲慢そのものに映ったのだ。
ベチャッ!
トマトが一つ、俺へ向かって飛んできた。
俺は身じろぎ一つせず、それを胸で受ける。
潰れたトマトが黒いローブを赤く汚した。
続いて飛んできた卵が肩へ直撃する。
それでも俺は黙ったまま、降り注ぐ罵声と投げつけられる物を受け続けた。
侮蔑の罵声と嘲笑が、広場一帯を埋め尽くしていた。
「やめて!!」
その声が広場に響き渡る。
その場は一瞬静まり返り、群衆の視線が一斉に声の主へと向けられた。
「またお前か、ヴィオナ!」
またしても邪魔をされたガレンは、苛立ちを隠そうともせず吐き捨てる。
「何度言えば分かるの? 無実の人を裁くのはやめて!」
「無実だと? 何を根拠に言っている? こいつが子供を売ったところを見た証人がいるんだぞ!」
ヴィオナは信じられないという表情で俺を見つめた。
まるで俺の口から直接、真実を聞きたいと願うように。
「シグ……彼の言っていることは、本当なの?」
事実、俺は彼らを救うために子供を売った。
それでも、本当のことを話すつもりはなかった。
何よりも、ヴィオナをこんな事態に巻き込みたくなかった。
「ああ、本当だ」
俺は自分を弁護することもなく、短く答えた。
「ほら、聞いただろう……」
ガレンは満足げに口元を歪める。
「本人も認めている。それでも、この悪党を庇うつもりか?」
ヴィオナは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
それでも、彼女の視線だけは俺から離れない。
まるで俺の本心を見抜こうとしているかのように。
半年前、アンダーガーデンでの一件以来、ヴィオナと直接話すのはこれが初めてだった。
あの時、俺があれだけ酷い言葉をぶつけたというのに、それでも彼女は俺を庇いに来てくれた。
ヴィオナは優しすぎる。
眩しすぎる。
俺のような汚れた魂が、彼女のそばにいる資格なんてないほどに。
無意識に、俺は彼女から目を逸らした。
恥ずかしさからか、自己嫌悪からか……あるいは、その両方かもしれない。
「そいつを罰しろ!」
「そんな悪党は処罰されるべきだ!」
群衆の怒号が再び広場に響き渡り、俺へ罵声が容赦なく浴びせられる。
裁判官であり、サンクト・オーダーのリーダーでもあるガレンは、自分こそが正義そのものであるかのように、満面の笑みを浮かべていた。
「静粛に! これより、この社会のクズに判決を下す。」
「正義は守られねばならない。悪は根絶やしにせねばならない。」
「こいつが犯した罪に対し、我々は追放刑を言い渡す。」
「この悪党は町から追放され、文明の及ばぬ地――モンスター同士が喰らい合う領域へ送られる。」
「そこで待つのは、ゆっくりとした死だけだ。」
当然だ。
奴らは自分たちの手を汚したくないだけだ……それ以上に、PKペナルティを恐れているのだ。
「サンクト・オーダー・ギルド万歳!」
「最近はあいつらのおかげで町も平和になった!」
「あいつらは裁判だけじゃない!町の悪党プレイヤーまで退治してくれてるんだ!」
「ジャスティス・ギルド! ジャスティス・ギルド!」
連中の賛美を聞いていると、思わず失笑しそうになった。
サンクト・オーダー・ギルドの一人が俺の前まで歩み寄り、立ち止まった。
右手を掲げ、静かにマジックスキルを詠唱する。
「マジックスキル……スリープ」
ゆっくりと意識が遠のき始めた。
完全に意識を失う直前、俺は最後にヴィオナの方へ顔を向けた。
ヴィオナは唇を強く噛み締め、両手を固く握りしめている。
その瞳には、困惑と悲しみ、そして拭いきれない疑念が入り混じっていた。
何かを言おうとして、唇がかすかに震える。
今にも駆け出して、このすべてを止めようとしていたのかもしれない。
だが――
俺自身の自白が、その言葉を奪ってしまった。
やがて俺の意識は完全に闇へと沈み、体は舞台の上へ崩れ落ちた。
***
次回、第18章 「流刑」
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