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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第2章 帝国の闇編

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第92話 因縁の再会

夜空を見上げた俺の隣で、セーラはどこか遠い目をしていた。その横顔に浮かぶのは、再会を喜ぶ色ではない。むしろ、忘れたい過去を無理やり掘り返されるような、そんな苦い表情が張り付いている。


「……無理に行く必要はない。次の目的地アルテナを避けて、別の町を経由するルートもある」


俺がそう声をかけると、セーラはハッとしたように俺を見、やがて力なく首を振った。


「ううん、大丈夫。いつかは向き合わなきゃいけないことだもの。それに、帝都へ向かうには、この町……アルテナで補給するのが一番効率的なのは事実よ」


彼女は無理に笑顔を作ってみせる。だが、その瞳の奥が微かに揺れているのを、俺は見逃さなかった。'大丈夫'と言う人間ほど、大丈夫ではないことを、俺は身をもって知っている。


そこへ、ライアンが地図を片手に俺たちの会話に加わった。彼の表情には、もう昨日までの暗い影はない。墓標の前で全てを吐き出し、俺たちという仲間を得た彼は、吹っ切れたように清々しい顔つきをしていた。


「セーラさんの言う通りです、ナオキさん。商業都市アルテナは、この先の街道で最も大きな町。帝都へ向かうための情報や物資を揃えるには、最適の場所と言えるでしょう」


「……決まりだな」


俺たちは再び歩き出した。それぞれの過去と、これから対峙すべき巨大な敵。背負うものはまた一つ増えたが、足取りは不思議と軽かった。隣を歩く仲間たちの存在が、これ以上ないほど心強かったからだ。


* * *


翌日の昼過ぎ、俺たちはアルテナの町に到着した。石畳の道が綺麗に整備され、行き交う人々の服装も、グルフやフェルムとは比べ物にならないほど洗練されている。活気はあるが、どこか殺伐としていた商業都市フェルムとは違う、落ち着いた豊かさが町全体に満ちていた。


「へえ、いい町じゃないか。飯の匂いも上等だ!」


ヒルダがキョロキョロと周囲を見回しながら、楽しそうに言う。


「まずは宿を確保しましょう。荷物を置いてから、今後の行動方針を決めます」


ライアンが手際よく提案する。俺たちは彼の案内に従い、『風鳥の羽亭』という、清潔感のある大きな宿屋に部屋を取った。


部屋に入るなり、全員がベッドや椅子にどっと体を沈める。連日の移動と、時折挟まる戦闘の疲れが溜まっているのだろう。


「さて、まずは補給だ。これがなければ始まらん」


俺はマリエクを起動し、必要な物資をリストアップしていく。頭の中で瞬時に計算を終え、購入ボタンをタップした。


「保存食と、矢、それから旅に必要な備品も補充しておく」


携帯用保存食セット(5人×3日分):10,000円

高強度スチール製矢尻(100本):5,000円

包帯・消毒用品セット:2,500円

鎮痛剤(24錠):1,500円

高強度ロープ(30m):3,000円

送料:2,000円

合計:24,000円

[現在のマリエク残高:13,562,000円]


アイテムボックスから次々と現れる物資を、ライアンとセーラが手際よく仕分けしていく。その手際の良さにも、俺たちの旅が積み重ねてきた経験が表れていた。


「よし、これで当面の物資は大丈夫だろう」


俺が頷くと、ライアンがテーブルに地図を広げた。


「次は情報収集です。帝都の現在の状況、特に警備体制や貴族間の力関係について、できるだけ正確な情報が欲しいところです」


「どこで情報を集めるのが一番いいんだ?」


俺の問いに、ライアンは即答する。


「こういう場合、最も手っ取り早いのは冒険者ギルドです。様々な情報が集まりますし、運が良ければ帝都へ向かう護衛依頼などが見つかるかもしれません。それに便乗する形で潜入できれば、これ以上ない目くらましになります」


「冒険者ギルド……」


その言葉が出た瞬間、俺の隣で、セーラの肩が微かにこわばったのを確かに感じた。彼女が言っていた『昔の知り合い』がいるかもしれない、因縁の場所だ。


俺はセーラの顔をそっと窺う。彼女は俺の視線に気づくと、一度唇をきつく結び、そして小さく頷いた。


「……ええ、行きましょう。それが一番いいわ」


彼女は覚悟を決めたようだった。その瞳には、拭いきれない不安の色と、しかしそれを乗り越えようとする強い意志の光が宿っていた。


「わかった。行こう、ギルドへ」


俺たちは顔を見合わせ、頷き合った。セーラの過去が何であれ、今、彼女の隣にいるのは俺たちだ。何があっても、全員で向き合う。その覚悟は、もうとっくにできていた。


* * *


アルテナの冒険者ギルドは、町の中心部にあり、俺たちがこれまでに見たどの酒場よりも広く、熱気に満ちていた。屈強な戦士、ローブを纏った魔術師、身軽そうな斥候。様々な人種と職業の者たちが、依頼掲示板の前で情報を交換したり、カウンターでエールを酌み交わしたりしている。その喧騒は、生命力の塊のようだった。


俺たちがその喧騒に足を踏み入れた、まさにその瞬間だった。


「……っ」


俺の隣を歩いていたセーラが、まるで凍りついたかのように、ぴたりと足を止めた。その体からすっと温度が失われるのが、隣にいるだけで分かった。


「どうした、セーラ?」


俺が声をかけるが、返事はない。彼女の視線は、ギルドの奥、一つのテーブルに釘付けになっていた。その顔からサッと血の気が引き、呼吸が浅く、速くなっている。


「おい、セーラ?」


ヒルダが心配そうに彼女の肩に手を置く。その時、俺もセーラの視線の先にいる者たちに気づいた。


テーブルには四人の男女が座っていた。リーダー格らしき、自信に満ちた傲慢な笑みを浮かべた金髪の剣士。その隣で媚びるように微笑む、小柄な女性魔法使い。向かいには、人の良さそうな顔で偽善的な笑みを浮かべる神官服の男。そして、テーブルの隅で下卑た笑いを浮かべながらナイフを手入れしている、痩せた盗賊の男。


彼らは、こちらの視線に気づくと、一瞬訝しげな顔をしたが、やがてセーラの姿を認めると、獲物を見つけた肉食獣のように、ニヤリと口角を上げた。


「よお、あれって……」


金髪の剣士が立ち上がり、悪びれる様子もなく、馴れ馴れしくこちらへ歩いてくる。


「よお、セーラじゃねえか! 久しぶりだな!」


その声がギルド内に響き渡る。周囲の冒険者たちの視線が、好奇の色を帯びて俺たちに集まった。セーラの体が、一層硬直した。


「こんな所で会うなんて奇遇だな。……まだ生きてたのか。」


「いやぁ、あの状況だったしな。てっきり死んだもんだと思ってたぜ。」


男――セーラの元パーティリーダー、カイトは、人の神経を逆撫でするような軽薄な笑みを浮かべて言った。


「カイト……」


セーラの唇から、かろうじてその名が絞り出される。


「なんだよ、そのツレない顔。昔の仲間に会えて嬉しくないのか?」


カイトの後ろから、他のメンバーもぞろぞろとやってきた。


「ほんとよ、セーラ。まさか生きてたなんてね。もっと早く顔を見せてくれてもよかったのに。」


魔法使いのリナが、心にもないことを猫なで声で言う。


「あの時は本当に大変だったんだぞ。お前がいなくなって、せっかく受けた依頼も大騒ぎになった。でも、あれは仕方なかったよな……。」


神官のマルコが、大げさに肩をすくめてみせる。


「まあ、お前がいなくなっても、代わりに入った前衛の方が、今じゃ俺たちに合ってるけどな! ギャハハ!」


盗賊のジンが、下品な笑い声を上げた。


その言葉の一つ一つが、鋭いナイフのようにセーラの心を抉っていくのが、隣にいる俺にも痛いほど伝わってきた。彼らの態度は明白だった。自分たちがセーラにしたことについて、罪悪感など微塵も抱いていない。それどころか、全ての責任をセーラ一人に押し付け、自分たちは被害者であるとすら思っているのだ。


「……っ、あんたたち……」


セーラが、怒りと屈辱に震える声で何かを言おうとする。だが、言葉にならない。唇がわななくだけだ。


「なんだよ。まだ何か文句あんのか?」


カイトが、心底不思議そうに首を傾げた。その底抜けの無神経さが、俺の怒りの導火線に静かに火をつけた。


「てめえら……」


ヒルダが、剣の柄に手をかけ、一歩前に出ようとする。それを、俺は腕で制した。'まだだ。まだ動く時じゃない。'


カイトは、そんな俺たちを一瞥し、値踏みするように鼻で笑った。


「ふーん。そいつらが、お前の新しいパーティか。なんだかパッとしない面子だな。お前も落ちぶれたもんだ」


彼はセーラに視線を戻し、まるで慈悲でもくれてやるかのような、恩着せがましい口調で言った。


「なあ、セーラ。ちょうどいいところにいたな」


その言葉に、俺は眉をひそめる。’……なるほど。こういう人間か。’


「実は今度、ちょっと面倒な依頼があってな。頭数が足りなくて困ってたんだよ」


カイトは、にこやかに、そして信じられない言葉を続けた。


「昔のよしみだ。お前も一緒に来いよ。なんだかんだ、お前とは組みやすかったしな。」


その提案が放たれた瞬間、ギルドの空気が凍った。セーラの顔から、感情という感情が全て抜け落ち、まるで美しい石像のように固まる。


ヒルダの握りしめた拳が、ギリ、と骨の軋む音を立てた。ライアンは静かに眼鏡の奥で目を細め、その瞳は氷のように冷たい光を宿している。バルクは拳を静かに握り締めていた。


俺は誰よりも冷静だった。'怒りはあった。だが、それ以上に頭は冷えていた。'


俺はゆっくりと一歩前に出た。完全に虚を突かれているセーラを背に庇うように、カイトの真正面に立つ。


カイトは、予期せぬ俺の行動に、怪訝そうな顔で眉を上げた。


「なんだ、お前?」


俺は彼の目を見据え、静かに、しかし、その場にいる全員の耳に届くほどはっきりと、告げた。


「……断る。」


ギルド中が静まり返った。


カイトの笑みが、初めて消えた。

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