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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第2章 帝国の闇編

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第67話 新たな旅立ち

第2章のはじまり

~ 第2章 帝国の闇編 ~



王から下された依頼――軍事大国ガルダ帝国への潜入。

それは、無謀な任務だった。

しかし、俺はもう一人ではなかった。

絶望的な未来を前に、この無謀な旅路を共に歩むと誓ってくれた仲間たちが、すぐ隣にいる。

過去にすべてを失い、心を閉ざした俺が、この異世界で得たかけがえのない宝物。


「……ああ。よろしく頼む、俺の仲間たち」


静かな部屋に、俺の絞り出した声が響く。一度決壊した涙腺は、そう簡単には元に戻らないらしい。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちるのを、俺はもう止めようともしなかった。


「な、なんだよ、泣くなよ……。こっちまで調子狂うだろ」


ヒルダが照れ臭そうに、そっぽを向きながら言う。だが、その耳は真っ赤に染まっていた。


「ナオキもいい歳して。でも、まあ…悪くないわね、そういう素直なところ」


セーラはわざとらしく肩をすくめるが、その口元には優しい笑みが浮かんでいる。


「ナオキ殿……」


バルクは何も言わず、ただその大きな体で、俺を静かに見守っていた。その無骨な優しさが、今は何よりも心に沁みる。


'ああ、そうか。俺は……'


心の奥底で、ずっと凍り付いていた何かが、完全に溶けていくのを感じた。

裏切られ、見捨てられ、誰も信じないと誓った。一人で生き、一人で死んでいくのだと。明日死んでもいい、そう思っていた。


だが、目の前にいるこいつらは、そんな俺の固く閉ざした扉を、いとも簡単にこじ開けてしまった。

いや、違う。簡単ではない。今までの行動が全てだった、その積み重ねが閉ざした扉を開いてくれたんだ。

打算も、裏切りもない。ただまっすぐに、俺という人間を見てくれている。


じんわりと、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。

それは、もう何年も忘れていた、温かい感情だった。


「……ははっ」


不意に、笑いが漏れた。

四十二にもなって人前でボロボロ泣いている自分が、なんだかおかしくて、そして少しだけ誇らしかった。


「悪い。ちょっと、な」


俺は乱暴に袖で涙を拭うと、顔を上げた。


「……よし。決まりだな」


俺の言葉に、三人が力強く頷く。

ヒルダ、バルク、セーラ。そして、俺、川田直樹。

たった四人だけの、しかし、誰よりも固い絆で結ばれたパーティーが、今この瞬間に誕生した。


* * *


「さて、と。いつまでも感傷に浸ってる場合じゃないな」


俺はパンパンと膝を叩いて立ち上がった。空気が切り替わる。仲間を得た高揚感と同時に、現実という名の重い課題が目の前に横たわっていた。


「改めて、作戦会議だ。相手はあのガルダ帝国。正面突破なんて論外だ」


ソファに座り直した俺の言葉に、部屋の空気が再び引き締まる。


「だよな。そもそも、どうやって潜入するんだ? 国境の警備は、アステル王国とは比較にならないほど厳しいって話だぜ」


ヒルダが腕を組んで唸る。


「……それに、帝国は強者が多いと聞く。万が一、正体が割れれば逃げ切るのは困難を極めるだろう」


バルクの言葉も重い。


「一番の問題はそこじゃないわ」


セーラが冷静に指摘する。


「王様の依頼は『商人として上層部に接触し、帝国の真意を探れ』よ。ただの商人が、どうやって帝国の貴族や軍のトップに会うっていうの? 門前払いが関の山だわ」


三人の指摘は、どれも的を射ている。普通に考えれば、無謀としか言いようのない任務だ。

だが、俺たちには『普通』ではない武器がある。


「その通りだ。だから、俺たちは『普通の商人』で行くんじゃない」


俺はニヤリと笑ってみせた。


「俺たちは、『アステル王国の王族を虜にした、奇跡の品々を扱う謎の商人一座』として、鳴り物入りで帝国に乗り込む」


「奇跡の……商人一座?」


ヒルダが眉をひそめる。


「ああ。目的は戦闘じゃない。情報収集だ。だから、俺たちは戦士としてじゃなく、役者として振る舞う必要がある」


俺は三人の顔を順に見回した。


「俺がリーダー。そして、商品の仕入れ役だ」


「セーラとヒルダ。お前たちは、この一座の看板女優だ。俺がマリエクで用意する最新の美容品とドレスで、その美貌にさらに磨きをかける。帝国のどんな女貴族も嫉妬するくらいの、圧倒的な存在感を放ってもらう」


「なっ……!?」


「あたしたちが、女優……?」


二人が目を丸くする。


「そうだ。お前たちが歩くだけで、帝国の男たちの視線は釘付けになる。女たちは、その美しさの秘密を知りたがる。そうやって、向こうから接触してくるように仕向けるんだ」


「なるほど……。美貌を餌に、情報を釣るってわけね。悪くないわ、その役」


セーラが不敵な笑みを浮かべた。ヒルダも、最初は戸惑っていたが、すぐにその意図を理解してニヤリと笑う。


「へえ、面白そうじゃねえか! 帝国の奴らを、あたしの魅力でメロメロにしてやんよ!」


「そして、バルク」


俺は黙って話を聞いていた巨漢に向き直る。


「お前は、俺たちの守護神だ。圧倒的な武力と、その威圧感で、くだらないゴロツキどもを寄せ付けない。お前が黙ってそばにいるだけで、俺たちの価値と神秘性はさらに増す」


「……うむ。任された」


バルクが重々しく頷く。その瞳には、新たな役目への覚悟が宿っていた。


「基本的な流れはこうだ。まず、帝国の商業都市で派手に活動して噂を広める。俺の品物に食いついてきた下級貴族や商人から、徐々にパイプを広げていく。最終目標は、王が言っていた非人道的な研究、そして軍備拡張の裏付けを取ることだ」


「……だが、それだけじゃ情報源として心もとないな」


俺は顎に手をやった。


「帝国へ直接行く前に、いくつか寄るべき場所がある」


「寄るべき場所?」


ヒルダが首を傾げる。


「ああ。まずは商業都市フェルムだ」


「フェルム? 何しに行くのよ。金獅子商会に挨拶でもするってわけ?」


セーラの言葉に、俺は頷いた。


「その通りだ。あのゲルト爺さんには、きっちり貸しを作ってある。帝国に潜入するにあたって、巨大商会の後ろ盾は絶対に必要になる。協力関係を確実なものにしておく」


「なるほどな。あの狸爺を味方につけておけば有利になるか」


ヒルダが納得したように腕を組む。


「フェルムの次は、グルフだ」


「グルフ……。ライアンたちに会うのね」


セーラの声に、俺は頷く。


「そうだ。まずはライアンの身体の具合を確認する。容態が良ければ協力を頼みたい。あいつの情報分析能力は、この任務には必須だからな。それに、グルフの復興をずっと任せっきりだからな。ゴードンにも今後のことを伝えておかないとな。俺たちの旅立ちをきちんと話しておく必要がある」


「……そうだね。ゴードンも、きっと快く送り出してくれるはずさ!」


「そして、グルフの次は旧アッシュベルク領、アッシュブルグへ向かう」


「アッシュブルグ? あそこには何が?」


「ザハルに挨拶しておく。各地の有力者との連携が、後々俺たちの命綱になるかもしれないからな」


フェルム、グルフ、アッシュブルグ。点と点だった繋がりが、帝国潜入という大きな目的のために、一つの線として結ばれていく。

'帝国領へ向かう通り道でもある。寄らない理由はない'


「そして、万全の準備を整えた上で、ガルダ帝国に入る」


俺は地図の上に指を滑らせ、最終目的地を力強く叩いた。


「フェルム、グルフで、アッシュブルグでそれぞれ人脈を活かして臨むってわけか。……あんたらしい、周到なやり方じゃねえか」


ヒルダがニヤリと笑う。


「悪くないわ。むしろ、その方が成功率は格段に上がる。行き当たりばったりで死地に飛び込むのは、ただの馬鹿のやることよ」


セーラも不敵な笑みを浮かべた。


「うむ。異存ない」


バルクも力強く頷く。


仲間たちの顔には、もう不安の色はなかった。明確な道筋が見えたことで、絶望的な任務は、攻略可能なクエストへと変わっていた。


仲間たち、それぞれの役割。そして、遠く離れた仲間との連携。

一人では決して描けなかった、壮大な計画の輪郭が、少しずつ形になっていく。


「……本当に、あんたって奴は」


セーラが、呆れたような、それでいて感心したような溜息をついた。


「不可能を可能にするのが、あんたのやり方ってわけね」


「当たり前だろ」


俺は不敵に笑った。


「俺たちは、ただの四人組じゃないからな」


その言葉に、三人も笑みを返す。

絶望的だった任務が、今は胸の躍るような大冒険に思えた。


* * *


「よし、方針は決まったな。早速、準備に取り掛かろう」


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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