第66話 四人の誓い、そして新たな旅立ち
第1章最終話です。
ヒルダは弾かれたように振り返る。そこに立っていたのは、待ちわびたナオキとセーラの姿だった。だが、その表情を見て、ヒルダの言葉が止まる。
「……どうしたんだよ、二人とも。幽霊でも見たみてえな顔して」
ナオキの顔には、成功者の高揚感など微塵もなかった。あるのは濃い疲労の色と、何か得体の知れないものに触れてしまったかのような、空虚な眼差しだけだ。セーラはそんな彼の横顔を心配そうに見つめている。
「この状況見て分からない? 魂、半分くらい持っていかれてるわよ」
セーラがやれやれと肩をすくめる。ナオキは無言のまま、ふらふらと部屋の中に入ってくると、一番近くにあったソファにどさりと沈み込んだ。
「おい、ナオキ! 大丈夫か!?」
バルクが心配そうに駆け寄る。ナオキはゆっくりと顔を上げたが、その目は焦点が合っていないように見えた。
「……ああ。少し、な。王族ってのは、思った以上にエネルギーを吸い取るらしい」
「少しどころじゃないでしょ。王妃様に王女様、第一王子に第二王子、挙句の果てに陛下本人だなんて」
セーラの言葉に、ヒルダは目を丸くした。
「は!?約束は王妃王女に王子だけじゃなかったのか? 陛下本人にまで会ったのか!?」
「ああ。それで……とんでもない厄介事を押し付けられてきた」
ナオキはソファに深く身を沈めたまま、天井を仰いだ。そして、絞り出すような声で言った。
「……ガルダ帝国へ行け、と。」
「がるだ……ていこく……?」
ヒルダ、バルク、セーラの表情は凍り付いていた。
「正気か!? あのガルダ帝国に!?」
ヒルダが声を荒らげる。
「アステル王国といつ戦争になってもおかしくない、あの軍事大国にか? 死にに行けと言っているようなものだぞ!」
「正気の沙汰じゃないわ」
セーラが苦々しく吐き捨てる。
「……だが、王の頼みでもある。断れば、ナオキの立場がどうなるか……」
バルクが重い口調で現実を突きつける。部屋に重い沈黙が落ちる。誰もが、ナオキに押し付けられた任務の、その絶望的なまでの危険性を理解していた。
だが、その静寂を破ったのは、意外にもヒルダの快活な声だった。
「……面白えじゃねえか」
「え?」
ナオキが思わず聞き返す。
「だから、面白そうだって言ってんだよ! 相手が帝国だろうが魔王だろうが関係ねえ!」
ヒルダはニヤリと笑うと、打って変わって真剣な眼差しでナオキを見据えた。
「だがな、ナオキ。ただ面白そうだからって、無責任について行くわけじゃねえ」
ヒルダは一度言葉を切り、背筋を伸ばしてナオキに向き直った。その隣に、バルクも静かに並び立つ。
「さっき、クローウェル辺境伯様に言われたんだ。『お主たちは、もはや私の護衛ではない。ナオキ殿の仲間であろう』ってな。……つまり、あたしたちはもう、あんたの護衛としてここにいるわけじゃない。自由の身なんだ」
バルクの巨体からも、揺るぎない意志がひしひしと伝わってくる。
「だから、改めて頼む」
ヒルダは、ナオキの目をまっすぐに見つめて言った。
「あたしとバルクを、あんたの正式なパーティーに加えてくれ。仲間として、一緒に戦わせてほしい」
「うむ」とバルクが力強く頷く。「俺も同じ気持ちだ。ナオキ殿、どうか俺たちを仲間として使ってほしい。この命、あんたのために預ける」
まっすぐな忠誠。裏切りも打算もない、純粋な言葉が部屋に響く。
「ちょっと、二人とも! 抜け駆けはずるいわよ!」
その真剣な空気を、セーラがわざとらしく頬を膨らませて割り込んできた。
「私も当然、その『パーティー』の一員なんだから。忘れないでよね、リーダー?」
セーラはそう言うと、悪戯っぽく片目を瞑った。やれやれと肩をすくめる仕草はいつもと同じでも、その瞳はヒルダやバルクと同じくらい真剣な光を宿している。
三人の、揺るぎない視線がナオキに注がれる。
ナオキは、一人一人の顔をゆっくりと見回した。その瞳が大きく見開かれ、戸惑いが浮かぶ。
'仲間……パーティー……'
過去に裏切られた記憶が、心の奥で警鐘を鳴らす。誰も信じないと決めたはずだった。
'そう、誰しも自分に都合良い事ばかり....、聞こえの良い事ばかり.....。期待すれば裏切られ、使えなくなれば捨てられる。
替えなどいくらでもいる「駒」。
それに世の中
『言っている事と、やっている事が違うやつ』ばかり。
俺はもう、行動で示してくれる人しか信用出来ない。そう思って過ごしてきた。
しかし、彼女らのこれまでを見ても当てはまるだろうか?
目の前にいる三人の瞳には、一点の曇りもない、そして行動で示してくれてきた。
じんわりと、胸の奥が熱くなる。凍り付いていた何かが、音を立てて溶けていくのが分かった。
「……お前たち」
ナオキは短く呟くと、ふっと息を吐いた。それは、諦めでも安堵でもない。
過去感情が、心の底から込み上げてくる、温かい感情の発露。
そして目から涙が止まらなかった........。
「……ああ。よろしく頼む、俺の仲間たち」
~第1章 完~
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
無事に第1章を締めることができました。
当初、生きる気力を失いかけ、無気力だったナオキですが、仲間と出会い、支えられ、支えながら、少しずつ前を向けるようになってきました。
そんなナオキが少しずつ仲間を増やし、変わっていく姿を書いてきましたが、ここから先はさらに世界が広がっていきます。
第2章では新たな土地、新たな出会い、そして新たな問題も待ち受けています。
少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!
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第2章もよろしくお願いします!
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たにやん




