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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第1章 第2の人生のはじまり

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第65話 仲間たちの覚悟~ヒルダ視点~

本日2回更新になります。

第1章の最終話66話を18時に更新します。

~sideヒルダ~

その頃、クローウェル辺境伯の屋敷では、重苦しい沈黙が支配していた。

ナオキとセーラが出かけてから、もう半日以上が経つ。窓から差し込む西日が、豪華な客室の調度品を鈍い金色に染めていた。留守を預かるヒルダは、落ち着きなく部屋の中を歩き回っている。


'……何やってんだ、あたしは'


手入れの行き届いた庭園。磨き上げられた銀の食器。安全で、快適なこの場所が、今は息苦しい檻のように感じられた。苛立ち紛れに、腰の剣の柄を握りしめる。


ナオキは今頃、王城で得体の知れない貴族や王族を相手に、一人で立ち回っているはずだ。

あの男は、いつもそうだ。不思議な道具を次々と取り出し、絶望的な状況をひっくり返してきた。フェルムで人々を助け、幽霊との戦い、そして昨日の、仲間たちへの告白。


最初は、ただ得体が知れず、何を考えているか分からない男だった。

だが、彼の行動はいつも、仲間を救うため、そして未来を切り開くためのものだった。


'……あたしたちを、信じてくれた'


異世界から来たという、途方もない秘密。それを打ち明けてくれた時、ヒルダの中でナオキへの評価は完全に変わった。彼はもう、共に戦い、背中を預けるべき『仲間』なのだ。


なのに、自分はこうして豪華な部屋で、安全な場所で待っているだけ。


「ちっ……」


苛立ちに舌打ちしたヒルダは、部屋の隅で黙々と槍の手入れをしているバルクに目をやった。

彼は何も言わない。だが、槍を磨く布を持つその手に、普段以上の力が込められているのが見て取れた。その背中からは、ヒルダと同じ焦燥感が滲み出ている。


'バルクも、きっと同じ気持ちなんだ'


言葉を交わさずとも、分かる。彼もまた、ナオキという男に惹かれ、その力になりたいと願っている。自分たちの居場所は、こんな豪華な屋敷ではない。あの男の隣こそが、自分たちの戦場のはずだ。


その時だった。


「どうやら、随分と落ち着かないご様子ですな(ニヤリ」


静かな声と共に、クローウェル辺境伯が音もなく部屋に入ってきた。その穏やかな瞳に悪戯小僧のような笑い顔、二人の内心を見透かしているかのようだ。


「へ、辺境伯様! い、いえ!滅相もございません!」


ヒルダは慌てて背筋を伸ばし、取り繕う。だが、辺境伯は優しく首を横に振った。


「無理もない。あの男は、嵐のようなものだ。周りの者全てを巻き込み、そして一人で中心に立とうとする。見ていて歯がゆくなる気持ちは、私にも分かる」


辺境伯は、窓の外に視線をやりながら、静かに続けた。


「……お主たちは、ナオキ殿の元へ行きたいのだろう?」


核心を突く言葉に、ヒルダは息を呑んだ。バルクも、槍を磨く手を止め、顔を上げている。

図星だった。反論の言葉など、出てきようはずもない。


そんな二人を見て、辺境伯はふっと慈愛に満ちた笑みを漏らした。


「ナオキ殿は、これから更に大きな困難に苛まれることになるだろう。彼の持つ力は、国さえ動かすが、それ故に多くの敵を作る。一人で抱え込むには、あまりに重すぎる荷だ」


その声には、単なる領主としてではない、一人の人間としての深い憂いと、そしてナオキへの信頼が込められていた。


「……行って、助けてやれ」


「え……?」


「お主たちは、もはや私の護衛ではない。ナオキ殿の仲間であろう。ならば、いるべき場所はここではないはずだ」


辺境伯の言葉は、威厳に満ちていながら、どこまでも優しかった。それは、二人の背中を強く、そして温かく押してくれる、力強い後押しだった。


* * *


クローウェル辺境伯が部屋を去った後も、ヒルダとバルクはしばらくその場に立ち尽くしていた。


「……聞いたか、バルク」


やがて、ヒルダが絞り出すように言った。


「ああ」


バルクは短く応えると、手入れを終えた槍を傍らに置き、ゆっくりと立ち上がった。その巨体が、夕日を背負って大きな影を作る。


「どうする?」


ヒルダの問いに、バルクは迷いなく答えた。その無骨な顔には、確固たる決意が浮かんでいる。


「決まっている。俺は、ナオキ殿の剣となり、盾となる。あの人の力になりたい。……ただ、それだけだ」


その言葉は、ヒルダが聞きたかった答えそのものだった。

彼女の顔に、ようやく吹っ切れたような快活な笑みが戻る。


「だよな! あたしも同じだ!」


気持ちは、完全に一つだった。

辺境伯の、あの懐の深さ。自分たちの揺れる心を見抜き、その上で最も望む道を指し示してくれた。


「……あのオヤジ、食えねえ奴だと思ってたけど、結構いいとこあるじゃねえか」


「うむ。感謝せねばな」


二人は顔を見合わせ、力強く頷き合った。もう、心に巣食っていた迷いの霧は、完全に晴れていた。


* * *


よし、決めた。


ヒルダは、王城の方角を睨むように見つめながら、固く拳を握りしめた。

ナオキとセーラが戻ってきたら、すぐに伝えよう。


もう、一時的な護衛じゃない。正式に、あんたのパーティーに加えてくれ、と。

これからどんな危険が待っていようと、あの男の隣で、仲間として戦い抜く。


それが、自分たちが選んだ道だ。


新たな決意が、ヒルダの胸に熱い炎を灯す。

あとは、あの二人を、仲間たちの帰りを待つだけだ。


その時、ガチャリと扉が開く音が響いた。


「! おかえり!」

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