第64話 王子の問いと王の密命
アステル王国が持つ地図を掲載しました。
案内された第二王子エドワードの書斎は、謁見の間とは全く違う空気に満ちていた。高い天井まで届く書架には革張りの書物がぎっしりと並び、インクと古い紙の匂いが静かに漂っている。ここは王族の部屋というより、学者の研究室そのものだった。
「待っていましたよ、ナオキさん」
穏やかな声は、俺が張り巡らせていた不安材料を先に緩和する一言を告げた。
「あなたが何者なのか、問うつもりはありません」
エドワード王子は、俺の警戒心を完全に見透かした上で、その裏をかくように悪戯っぽく微笑む。
「私が興味があるのは、あなたのその『頭の中』です」
穏やかな声で俺を迎えたエドワード王子は、俺が警戒心を解く間もなく、机の上に広げられていた一枚の巨大な羊皮紙を示した。
それはエルドリア大陸の地図だったが、その描写は国が扱うにしては、あまりに大雑把だと感じるものだった。
「見ての通り、これはエルドリア大陸の地図です。これでも莫大な時間とお金をかけて作られたものです。これが我が国がもつ測量技術の現状です。山脈の位置はおろか、河川の正確な流れ、都市間の距離や方角さえも曖昧。これでは、軍事、交易、そして領土の管理、その全てに大きな支障が出ています」
彼の声には、学者の知的好奇心だけでなく、為政者としての深い憂いが滲んでいた。
「私は星の位置や地形を観測し、より精密な地図を作れないかと研究を続けてきましたが……限界を感じています」
エドワードは顔を上げ、俺の目をまっすぐに見つめた。その瞳には、試すような、そして僅かに懇願するような色が浮かんでいる。
「ナオキさん。あなたの知識で、この問題を解決する術をご存じないですか?」
'試されている……。俺の知識、そしてそれを具現化する能力そのものを'
これは、双眼鏡や化粧品のような、単なる物品の取引ではない。国家の根幹に関わる、知性の取引だ。俺はゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めて口を開いた。
「王子。正確な地図を作るには、いくつかの『概念』と『道具』が必要です」
「へえ、聞かせてください」
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'俺は追加スキルから測量についての知識を買う事にする'
[現代知識経験インストールパック]
[初級測量学 金貨2枚]
[地図製作技法 金貨3枚]]
[天体航法入門 金貨2枚]
[三角測量理論 金貨2枚]
[測量機器取扱 金貨1枚]
[合計金貨10枚 '購入しますか?' はい/いいえ]
'勿論「はい」だ'
[現在のマリエク残高:43,720,000円]
王の報酬と王妃や王子達の金貨で所持金が随分増えたな....。
'それは、さておき新しい知識と経験が俺にインストールされる.......。一気に視界が開ける感覚がする。......「よし!」'
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「まず、正確な方角を知るための『羅針盤』または方位磁石とも言います。次に、海上や陸地で、星の高度から現在地を割り出す『六分儀』。そして、精密な測量を行うための『測量望遠鏡』と、正確な距離を測る『巻尺』です」
俺が挙げる未知の道具の名に、エドワードは興味深そうに頷く。だが、俺が本命として切り出した概念に、彼の表情が変わった。
「そして最も重要なのが、『三角測量』という考え方です」
俺は近くにあった羊皮紙の切れ端と炭を借り、簡単な図を描いてみせた。
「例えば、A地点とB地点、二つの場所の正確な距離が分かっているとします。そこから、遠くに見えるC地点――例えば山の頂上――をそれぞれ観測し、角度を測る。すると、直接C地点まで歩かずとも、数学的な計算だけでA地点とB地点からC地点までの正確な距離と位置を割り出すことができるのです」
「……なんだって?」
エドワードの目が驚愕に見開かれる。彼の知性が、その概念の持つ意味を瞬時に理解したのだ。
「直接、歩かずとも……距離と位置を測定できる……だと?そんなことが……数学的に可能だと言うんですか!?」
「可能です。この技術を応用すれば、敵国の砦までの距離を安全な場所から測ることさえできます」
「……っ!」
エドワードは息を呑み、地図に視線を落とした。だが、彼の瞳に映っているのは、もはやただの羊皮紙ではなかった。それは、これから描き変えられるべき、アステル王国の未来そのものだった。
「これは……これは、単なる地図作りなどという矮小な話ではないですよ!。ナオキさん、あなたが今語っているのは、国家の未来を左右する、まさに戦略級の技術だ」
彼の声は、興奮に打ち震えていた。その瞳はもはや学者のものではない。世界という盤面を俯瞰し、次の一手を読む戦略家の、鋭い光を宿していた。
「おっしゃる通りです」俺は続けた。「正確な地図は、軍事行動の精度を飛躍的に高めます。補給路を最適化し、交易を活性化させ、未知の航路を開拓する。そして、未開地の資源開発さえも可能にする、国家の礎です」
しばらくの沈黙の後、エドワードは深く、長い息を吐いた。
「素晴らしい……。実に素晴らしい。ナオキさん、あなたという人間は、私の想像を遥かに超えている」
「地図の測量に必要な道具一式と、測量技術の教本はなにかありませんか?出来る事ならナオキさんを技術指導の顧問として、雇いたい。もちろん、報酬は言い値で構いません。」
「……お誘いはありがたいのですが、私は仕える気がありませんので、道具と要領を記載したものを用意しますので、それでお願いします。」
'俺はマリエクを起動し商品を探す'
[六分儀 100,000円]
[高級方位磁石 30,000円]
[測量用メジャー(100m巻尺)10,000円]
[双眼鏡 30,000円]
[図解中心の専門書 10,000円]
[送料 2,000円]
[合計 182,000円]
[現在のマリエク残高:43,538,000円]
俺はエドワード王子へ購入して全てを渡す
「こ!これはっ!?」
「こちらの使い方に関しては、こちらの図解の専門書をみてください。要所は私が追記しておきましたので....。
お代は金貨50枚になります。」
吹っ掛けてもいいが十分、元も十分取れているし、これくらいでいい。
エドワードの顔は驚いているが、目がキラキラしている。
「ありがとうございます!こんなに素晴らしいものが金貨50枚だなんて!安すぎます!」
そう言ってどこかへ行ったかと思うと、袋を抱えてすぐに戻ってきた。
「こちらを納めてください!」ドンッ!!(金貨200枚)
「き、きんか200まい!!」
思ってもない金額に今度は俺が驚くはめになる。
「ありがたいのですが。こんなにも頂いてよろしいのでしょうか?...」
「金貨200枚でも安いくらいです!お礼を言うのはこちらの方です。まさか、これほどの知識と道具を持った人がいるなんて・・・」
「ナオキさんと言う才能を繋ぎ止めるための先行投資(手付金)ですよ。遠慮なく貰ってください。」
ふと、エドワードの探るような視線が和らいだ。彼の瞳は、俺という未知の存在に対する純粋な知的好奇心で輝いている。
そして何かを考えてそうな顔、目つきをしてこちらを見る。
だが、その鋭い光はすぐに自制の色に変わった。
底知れない男だ。兄のリチャード王子が太陽のような武人なら、このエドワード王子は、どこまでも静かで深い海のようだ。ただ、その深淵には冷たさだけでなく、獲物への深い理解と、手に入れるための忍耐が渦巻いている。
「あなたという人間が、ますます面白くなりましたよ、ナオキさん。今後も、あなたの『知識』を借りることがあるかもしれない。その時は、また力を貸してください」
その言葉は、協力の依頼であると同時に、決して逃がさないという宣告のようにも聞こえた。
* * *
エドワードの書斎から解放された俺は、鉛のように重い足取りで廊下を歩いていた。隣を歩くセーラが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ナオキ、大丈夫? すごく疲れた顔をしてるわよ」
「ああ……少しな。あの王子は……なんて言うか怖いな.....」
武力で威圧されるのとは違う、精神的な疲労がどっと押し寄せた。
「そうみたいね。あなたをここまで疲れさせるなんて。一体、何を話したの?」
「地図……この世界の未来についての問答さ。」
セーラはそれ以上何も聞かず、ただ静かに隣を歩いてくれた。その気遣いが、今は何よりもありがたかった。だが、その安堵も束の間だった。
廊下の向こうから、一人の侍従が慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。その顔は青ざめ、息を切らしている。
「ナオキ様! お探ししました! 至急、陛下がお呼びです!」
「え……また、ですか?」
俺は思わず眉をひそめる。
'今度はなんだ!?'
不安と新たな緊張が、どっと全身にのしかかる。休む暇も与えられず、俺は侍従に導かれ、王の待つ部屋へと向かうことになった。
* * *
案内されたのは、王の私的な執務室と思われる部屋だった。
華美な装飾は抑えられ、壁には大陸地図や軍略図が掛けられている。重厚な机の上には、山積みの書類と幾つもの封蝋付き文書。そこは王族の優雅な空間というより、国家の意思決定が行われる“戦場”そのものだった。
その中央で、アステル王国国王アルフレッドが静かに立ち、傍らには宰相ギルバートが控えていた。
「来たか、ナオキ殿」
王の表情には、謁見の時の穏やかさはない。張り詰めた空気が部屋全体を支配している。
俺はセーラと共に一礼した。
「突然のお呼び立て、一体どうされました?」
王はしばし無言で俺を見つめると、低く静かな声で口を開いた。
「実は最近、ガルダ帝国内部で不穏な噂が流れている」
その一言で、室内の空気がさらに重くなった。
「非人道的な研究、獣人奴隷の大規模売買、そして異常な速度で進む軍備拡張……。どれも確証こそないが、無視できぬ話ばかりだ」
宰相ギルバートが険しい顔で地図上のガルダ帝国を指し示す。
「それに加え、我が王国内で暗躍していたレナードの件だ」
俺の表情が自然と強張る。
「帝国の諜報員として奴が何を探り、何を目的として動いていたのか。そこだけが未だ掴めておらぬ」
「.....」
王は静かに続けた。
「レナードは王国内で何をしようとしていた? なぜアッシュベルグ侯爵と繋がっていた? そして、帝国は何を企んでいるのか……」
その声には、王としての警戒心だけではなく、得体の知れない巨大な何かに対する不安が滲んでいた。
やがて王は真っ直ぐに俺を見据える。
「ナオキ殿。お主には、商人としてガルダ帝国へ向かってほしい」
「……商人として?」
「うむ。お主は貴族でも外交官でもない。だからこそ、帝国も完全には警戒し切れん」
王の言葉を引き継ぐように、宰相が口を開く。
「今やお主は、“クローウェルを救った奇跡の商人”として名が広まり始めておる。特にその未知の品々は、帝国の貴族や商人たちも必ず興味を示すだろう」
「その特異な商人としての力を利用し、帝国上層部へ接触してほしいのだ」
「そして、帝国の真意を探ってほしい!勿論報酬として金貨100枚を渡そう。」
その言葉の横でギルバートが金貨が入っている袋を机の上に置き、ドンと言う音を立てる。
部屋に沈黙が落ちる。
あまりにも重い依頼だった。
単なる交易ではない。国家間の腹の探り合い。その中心へ、俺を送り込もうとしている。
「……つまり、俺を利用したい、と」
俺がそう返すと、王は目を逸らさず静かに頷いた。
「否定はせぬ」
その潔さに、逆に言葉を失う。
「本来ならば、このような危険な役目を民間人に頼むべきではない。だが今のアステル王国には、お主ほど自然に帝国へ入り込み、上層部へ近づける者がおらぬのだ」
王は苦しげに息を吐いた。
「……それに」
そこで僅かに言葉を止める。
「これは極秘の話だが、娘ルミナの“予見”も気になっている」
「予見……?」
「この話はナオキ殿を信頼して話すのだが、我が娘、ルミナ……あの子には、生まれながらにして微弱な『予見』の力がある。王家の者でもごく稀に発現する、極秘の力だ」
王の表情が僅かに曇る。
「そして最近、何度も同じ光景を口にしているのだ」
『ガルダ帝国で、大きな災厄が動き出す』
『そして、その中心には必ずナオキ殿がいる』
部屋の空気が凍り付く。
国家機密。それも、王女の特異な能力という、外部に漏らせば国がひっくり返りかねないほどの情報を、俺にあえて開示した。
聞こえは良いが、これは、信頼の証なのか?俺を、この巨大な運命の歯車から、決して逃がさないためにも聞こえるが...。
「……」
「無論、予見が全て当たるとは限らぬ。だが、レナードの件、帝国の異常な動き、そしてお主という存在……。余には、全てが無関係とは思えぬのだ」
王はゆっくりと俺へ向き直った。
「ナオキ殿。どうか、力を貸してはくれぬだろうか」
王の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。
その言葉が、絶対的な重みを持って俺の双肩にのしかかる。
'断ればどうなるかくらい、俺にも分かる。
王を拒絶した得体の知れない異邦人。
そんな存在を、この国が野放しにするはずがなかった。
「断れば要注意人物確定だな.....。最悪消される可能性もある。受ければ戦地、どっちも地獄か……」
[現在のマリエク残高:73,538,000円]
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