第61話 借金完済と新たな扉
その後、宰相から次の予定が詰まっているとの事で、惜しむ顔をよそに、俺たちは謁見の間から解放され、クローウェル辺境伯の屋敷へと戻る道中にいた。豪華な馬車の柔らかな揺れすらもどかしく、俺の心と思考は、ただ一つの目的――借金返済に囚われていた。
屋敷に到着し、客室に通されるや否や、俺は仲間たちを振り返った。
「すまん、少しだけ一人にしてくれ。すぐに済む」
「ナオキ?」
心配そうなセーラたちの視線を背に、俺は隣の寝室へ駆け込んだ。
扉を背で閉ざし、鍵をかける。震える手でアイテムボックスを確認すると中には、王から賜った金貨300枚。日本円にして三千万円だ。
'これで、ようやく……!'
俺はすぐさまマリエクのシステムウィンドウを起動する。
[緊急貸付金:10,000,000円]
[返済期限:残り1時間を切りました]
赤く点滅する警告が俺の心臓を締め付ける。だが、もう焦る必要はない。
俺は、金貨をウィンドウに表示された投入口へと叩きつけるように注ぎ込んだ。ジャラジャラとけたたましい音を立て、黄金の奔流がシステムに吸い込まれていく。
[三千万円分の通貨を認識。貸付金の返済に充当しますか?]
[- 融資時手数料 (ランクC: 8%)]
'当たり前だ! 今すぐ全額返済!'
俺は叫ぶように念じた。
[貸付金10,800,000円を完済しました。(手数料込)]
[現在のマリエク残高:25,150,000円]
ウィンドウに表示された『完済』の文字と、残高のゼロの数を何度も見返す。全身から一気に力が抜け、俺はその場にへたり込んだ。
「……はぁ……終わった……」
異世界に来てから、常に背中に張り付いていた重圧。死の淵を何度も覗き、裏切りと不信に心をすり減らし、ようやく掴んだ解放感。心の底から、深く長い安堵のため息が漏れた。
俺が感傷に浸っていると、システムウィンドウに新たな通知がポップアップした。
[貸付金の完済を確認しました、信用ランクが『C』から『B』へ昇格しました。]
「……Bランク!」
Cランクですら様々な機能が解放されたのだ。Bランクとなれば、一体何が……?
期待に胸を膨らませていると、次の通知が俺の目の前に現れた。
[信用ランクB昇格に伴い、以下の機能が解放されます。]
* * *
俺は身を乗り出し、食い入るようにシステムウィンドウの情報を追った。
[信用ランクB:特典一覧]
- 送料の割引率が向上:一律2,000円になります。
- 転送機能の安定性が向上:失敗率が5%に低下します。
- 緊急貸付金の上限額が上昇:最大30,000,000円まで利用可能です。
- 追加融資時、手数料 (ランクC: 5%)
- スキル購入リストが更新されました。
「送料2000円! それに転送の失敗率も5%まで下がっただと!?」
'Cランクでは送料5,000円、転送失敗率10%だった'
これまで小物を買うにも送料がかかるという足枷、理不尽な状況が少し緩和された。だが、それ以上に俺の目を引いたのは、新たなスキルリストの解放だった。
俺は興奮を抑えきれずに、次にスキルリストを開いた。
[スキル購入リスト(ランクB)]
- アイテムボックスLV.3 (容量: 1000㎥) …… 金貨10枚
- 鑑定 (Lv.3) …… 金貨10枚
- 身体強化 (Lv.1) …… 金貨3枚
- 生活魔法入門 …… 金貨1枚
- 魔法各種 …… 金貨10枚~
- 現実世界の参考書各種 …… 金貨2枚~
- 現代知識経験インストールパック各種 …… 金貨1枚~
▼New- 付与魔法入門:金貨30枚
▼New- 錬金術入門:金貨50枚
▼New- 契約魔法:金貨1000枚
'錬金術……付与魔法……それに、契約魔法だと!?しかもこれだけ金貨1000枚って高すぎるだろっ!日本円にして1億円だぞ!?'
しかし俺自身の商人としての付加価値を高めるスキルが目白押しだ。『付与魔法』は商品価値の向上に繋がるだろう。
『錬金術』……これは未知数だが、とんでもない利益を生むかもしれない。
お財布と相談してスキルを取得していこう。
『契約魔法』....。なんでこれだけが、こんなに高額なんだ?なんだか怖いが、使い方次第で強力になるだろう、
でも使いどころが今の所思い付かない...。
まぁ、かなり高額だし、しばらく放置でいいだろう。
金を稼ぎ、スキルを買い、さらに大きなことを成し遂げる。もはや、日銭を稼ぐだけの便利屋じゃない。
この力を使えば、国一つ動かすことだって……。
'今は難しいかもしれないが、誰にも邪魔されないくらいの影響力と力をつけられれば.........'
俺は自分の拳を強く、強く握りしめた。
* * *
俺が部屋に戻ると、仲間たちが心配そうな顔で俺を待っていた。
「ナオキ、大丈夫か? 顔色が……」
「ああ、問題ない。むしろ絶好調だ」
俺がそう言って不敵に笑った、その時だった。客室の扉が恭しくノックされる。
クローウェル辺境伯の従者が、少し困惑したような表情で顔を覗かせた。
「ナオキ様。王宮より、3人の使者の方々がお見えです。面会を求めておられますが……」
「使者が3人?」
俺と仲間たちは顔を見合わせる。従者に案内されて応接室へ向かうと、そこには三人の人物が、それぞれ少し距離を置いて立っていた。一人は王妃に仕える侍女、一人は近衛騎士団の制服を着た厳格な顔つきの騎士、そしてもう一人は学者風の文官だった。
まず、侍女が進み出て、優雅に一礼した。
「ナオキ様。王妃エレノア様とルミナ王女様より、個人的なご依頼でございます」
彼女が差し出した書状には、謁見で披露した化粧品一式を、とにかく早く納品してほしいという内容が優美な文字で綴られていた。金はいくらでも払う、と。そして、可愛らしい文字での追伸。
『追伸:あの不思議なドレスも欲しいです。それから、『甘いお菓子』もありましたら、楽しみにしていますわ!ルミナより。』
「へえ、やっぱり食いついてきたか」セーラがニヤリと笑う。
次に口を開いたのは、厳格な顔つきの騎士だった。
「ナオキ・カワダ殿。第一王子リチャード様よりの伝言だ。先日の『双眼鏡』、その性能と軍事利用の可能性について、直接お話を伺いたいとのこと。また、追加の調達が可能かどうかも含め、後日、演習場にてその真価を示していただきたいそうだ」
第一王子リチャード。武勇に優れ、国の軍事を担う人物だと聞く。
最後に、学者風の文官が静かに口を開いた。
「ナオキ殿。第二王子エドワード様は、貴殿がもたらした品々の背後にある、その類稀なる技術と文化に、いたくご興味を持たれております。もしご迷惑でなければ、王宮の図書館にて、貴殿の故郷についてお話を伺い、知識を交換する場を設けさせていただけないかと。無論、こちらからは、我が国の歴史や魔法に関する文献を、可能な限りご開示いたします」
'知識の交換、か……。聞こえはいいが、要は俺の持つ情報の価値を探りに来た、ということだな'
魔法や歴史の文献は喉から手が出るほど欲しい。だが、俺の故郷……日本のことを、そう簡単に話すわけにはいかない。具体的なことを話せば、俺という存在の異質さが、より浮き彫りになるだけだ。
第二王子エドワード。彼は兄とは対照的に、学問を好む穏やかな人物らしい。だが、その要求は、兄や母、妹とはまた違う、じわりと内側から暴こうとするような、ある意味で最も厄介なものだった。
使者たちが帰った後、部屋は静まり返った。
「……おいおい、マジかよ。王妃様に王女様、それに両王子から、根こそぎじゃねえか」
ヒルダが呆れたように言う。
「ナオキ殿は、今や王国で一番の注目人物ですな」
バルクが感心したように頷く。
俺は腕を組み、口元に浮かぶ笑みを隠そうともしなかった。これは、面倒ごとじゃない。王家という巨大な権力に取り入る、またとないビジネスチャンスだ。
「どうするんだ、ナオキ? 全部受けるのか?」
「当たり前だ。これは、俺たちの今後の活動を左右する、重要な『軍資金』稼ぎになる」
王家を相手にした取引だ。ふっかけようと思えば、いくらでも金をむしり取れるだろう。グルフの復興、仲間たちの装備、そして俺自身のスキル強化。全てには、莫大な金が必要なのだ。
「よし、決めた」
俺は不敵な笑みを浮かべ、仲間たちを見回した。
「まずは、甘いもの好きのルミナ王女様へ。ケーキと、チョコレートを」
「ケーキと前食べたチョコレート? それなら王女様も絶対に気に入るわ!」
セーラが興奮気味に声を上げる。
「ちょこれーと……? 聞き慣れないな。なんだそりゃ」
ヒルダは未知の単語に首を傾げた。
俺はそう宣言すると、マリエクの検索ウィンドウに、とある有名な商品の名前を打ち込んだ。
[ガトレーゼ 6号ホールケーキ 8,000円]
[ロディバ グランプラス(59粒入) 20,000円]
[購入金額:30,000円]
'購入だ!'
次の瞬間、俺の手の中に、豪華な箱が現れた。世界最高峰のチョコレートブランド。その濃厚で複雑な甘美さは、ケーキしか知らない王女の舌を、そして心を、確実に鷲掴みにするだろう。
そして何層にもクリームと果物が重ねられた芸術品のようなケーキが出現する。
ただそこにあるだけで、計り知れない価値を雄弁に物語っていた。
「うわ!!なんだか、とても高そうな入れ物にチョコレートが入ってるわね!それにケーキも前のよりとても華やかな感じがするわ!」
「ちょっと食べたいわね......チラッ、チラッ」
「私も食べてみたい!.....チラッ 」
'セーラとヒルダから「圧」を感じる.....'
仕方ない.....。
俺は2人にあげる為に、同じものを買ってあげた。
飲み物に微糖のコーヒーもいくつか一緒に渡す。
「「..........うまい!」」
'モグモグ。もぐもぐ。MOGUMOGU。'
セーラとヒルダが一心不乱に食べている......。
「そんなにか......。」
俺はバルクと2人で取り留めない会話をしながら、その場を楽しんだ。
'こうゆう何気ない空気に癒しを感じるな。'
「王城への納品は俺とセーラの2人で行く!ヒルダとバルクはクローウェル辺境伯の傍で待機していくれ!」
「なんでだよっ!」
ヒルダが反応する。
「そりゃ、2人はクローウェル辺境伯に仕えてるんだから当然だろ、道中も2人がいるから護衛も兼ねてたし、一緒に王城に行ったら、その間の辺境伯に付く者がいなくなるからだろ......」
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