第59話 謁見前夜
アルフォンスが嵐のように去った後、応接室には息苦しいほどの沈黙が落ちた。さっきまでの和やかな宴の空気は、まるで幻だったかのように跡形もなく消え去っている。
暖炉で揺らめく炎が、俺たちの強張った顔を不安げに照らし出していた。
「……明日の朝、だと?」
クローウェル子爵が、絞り出すような声で呟いた。
「親ガルダ派に先手を打つためだとは言え、いくらなんでも急すぎる……。」
動揺が、張り詰めた空気を通して肌に突き刺さるようだ。'それだけ重要視してくれたと、逆に感謝しておくべきか'
だがしかし、俺の心臓を氷の指で締め付けているのは、謁見への緊張だけではなかった。
'残り、1日……!返済期限まで、もう時間がない!'
脳裏に点滅する、マリエクの非情なカウントダウン。
明日、謁見が終わるまでに、この一千万という莫大な借金を返済しなければならない。信用ランクの降格、スキル効果も制限を受けるだろう、自由度もなくなるし利子もついてくる。 最悪の未来を想像するだけで、背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
'……やるしかない'
頭を切り替える。
最悪借金は仕方ない、ひとまず冷静に考え、明日の王への謁見だ、準備をしておくか...。
相手はどんな人物で、どんな思想を持っているか分からないし、良い印象を与え好感度を上げるのは定石だな...。
「いくつか、面白い品物の心当たりがある、セーラ、ヒルダ。ちょっと手伝え」
「え、あたしたち?」
「ああ。重要な役目だ」
俺は戸惑う二人を手招きし、子爵に用意してもらった客室へと向かった。
* * *
「で、あたしたちに一体何をしろってんだ?」
部屋に入るなり、ヒルダが腕を組んで尋ねる。その声にはまだ不審の色が濃い。
「まあ、見てろって。ちょっとした物を見せてやる、2人にとっても良い事だと思うぞ。」
'っとその前に、スキル習得しておかないと...。この分野は簡単な事なら分かるが、流石に詳しくは分からない。美容の知識、経験を現代知識経験インストールパックを使い購入する'
[現代知識経験インストールパック:美容関係 200,000円]
[インストールしますか? はい/いいえ]
「はい」 貸付残金635万円
俺は新しい知識と経験をもとにマリエクを起動し、頭の中にリストアップした商品を次々と検索、購入していく。
まず、テーブルの上に出現させたのは、お馴染みの有名シャンプーとリンス「SUBAKI」ボディソープは「IVEA」
次にガラス細工のように美しい、様々な形の小瓶やコンパクトケースだった。
全部合わせても5万円だった。
(残金630万円)
「なんだ、こりゃ。綺麗な容器や瓶だな。宝石みたいだ」
「髪や身体を洗う洗剤のような物だ。んで化粧品だ。ファンデーション、アイシャドウ、口紅……」
俺は手早く説明しながら、色とりどりの化粧品をセーラとヒルダの前に並べる。二人はきょとんとした顔で、見たこともない道具の数々を見つめていた。
「試しに使ってみてくれ。特にこの『美容液』とやらを塗ってからだと、化粧のノリが格段に違う、使い方は今から教える」
「は、はあ……? これを顔に塗るのか?」
しかし化粧をするの前にまずは、髪や身体を洗う必要があるので使い方を教え、浴室で洗って来てもらう事にした。
しばらく待つこと一時間....
セーラとヒルダが戻ってくる。
ヒ「ナオキ!この洗剤すごいぞ!とってもいい匂いがする!髪もサラサラだ!」
セ「いつもは水で洗うか、灰を使って洗うだけだったから、ゴワついていたのに……!」
非常に喜んでいるようだ。
'うん、そのリアクションを待っていたんだよ。これなら明日も大丈夫そうだ'
戸惑う二人を尻目に、俺はさらにマリエクから別の品物を取り出す。
それは、光沢のある滑らかな絹でできた、優美なデザインのドレスだった。淡いブルーと、落ち着いた深紅の2着。
2着合わせて、なんと5万円。調べると凄く高価なものもあるが、意外にも中世ヨーロッパ風のドレスとして販売されているは驚いた。
「うわっ……! なにこれ、すっごく綺麗! 触り心地も、雲みたい……!」
セーラが歓声を上げ、うっとりとドレスの生地を撫でる。ヒルダも、ぶっきらぼうな態度の裏で、その精緻な刺繍と美しいシルエットから目が離せないようだった。
「お前たち用だ。明日の謁見、それで出てくれ」
「ばっ、馬鹿言え! あたしがこんなフリフリした服、着れるわけないだろ! 鎧の方がずっと落ち着く!」
顔を真っ赤にしてうろたえるヒルダ。だが、その反応は想定内だ。
「いいから着るんだよ。これは、俺たちの今後を左右する重要な『演出』の一部なんだ。お前たちが綺麗になればなるほど、意味があるんだよ。」
「まぁ.....なんだ......、綺麗になった2人も見てみたいしな....(ボソッ)」
「「えっ!!?」」
2人の声が揃う。変な空気になったがセーラが答える。
「ま……。まぁ、ナオキがそう言うなら……仕方ない」
なんだか、顔が赤く恥ずかしそうだ。
女性たちが隣室で身支度を整えている間、俺は謁見で披露する『切り札』を次々と購入していく。
'男性陣用に双眼鏡、あとは女性陣の心を掴むためにも高級チョコレートの詰め合わせ、それから……宝飾品。ありきたりな宝石じゃインパクトが弱い。王侯貴族は見慣れているはずだ。ここは……養殖真珠のネックレスだ。この世界には存在しないであろう、完璧な球体と均一な輝き。これなら……!'
一つ一つの品が、この世界の常識を覆す力を持っている。問題は、それをどう効果的に見せるかだ。
[双眼鏡 50,000円]
[真珠ネックレス 200,000円×2個]
[合計450,000円]貸付残金595万円
'もっととんでもないレベルもあるが、まずはこのくらいが良いだろう.....購入!'
「よし、献上品はこんなものでいいだろう。」
やがて、準備を終えたセーラとヒルダが部屋から出てきた時、俺は思わず息を呑んだ。
現代の化粧品と洗練されたデザインのドレスは、二人の魅力を劇的に引き出していた。快活なセーラの美しさはより華やかに咲き誇り、そして普段は無骨な鎧に隠されているヒルダの、凛とした女性的な魅力が際立っている。特にヒルダは、普段の男勝りな印象が嘘のように、気品すら漂わせていた。
「……どうだ? 変じゃないか?」
照れくさそうに視線を逸らすヒルダ。その仕草が、ドレス姿と相まって妙に可愛らしく見える。
「ああ。最高だ。二人とも、そこらの貴婦人よりずっと綺麗だ」
俺の率直な言葉に、セーラとヒルダの頬がわずかに赤く染まった。セーラは嬉しそうにくるりと一回転してみせる。
俺たちの、一夜漬けの準備は終わった。あとは、明日の本番を待つだけだ。
* * *
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