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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第1章 第2の人生のはじまり

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第57話 馬車の中のチェスゲーム

重厚な扉が閉まり、俺たちを乗せた馬車は王都へ向けて走り出した。石畳を叩く車輪の音だけが響く車内は、豪華な内装とは裏腹に鉛のように空気が重い。


向かいの席には、アルフォンスとクローウェル子爵が座っている。隣に俺とセーラ。ヒルダとバルクは少し窮屈そうに、しかし警戒を解かずに身構えていた。誰もが口を開かず、ただ馬車の揺れに身を任せている。


その沈黙を破ったのは、アルフォンスだった。


「ナオキ殿」


彼の鋭い目が、真っ直ぐに俺を射抜く。


「先日の話、いくつか不可解な点がある」


「……何がだ?」


「貴殿の出自だ。カワダ、という姓には聞き覚えがない。どこの家の者だ?」


'来たか……'


鑑定で見た彼のスキル、『真実の瞳』。嘘はつけない。だが、本当のことも言えない。言葉のチェスゲームだ。


「……故郷と呼べる場所はない。ここより遥かに遠い場所だよ。」


異世界に飛ばされ、帰る場所も失った今の俺にとって、それは半分真実でもあった。


「ほう……。この状況でその落ち着き。ただ者ではないな」


アルフォンスは腕を組み、探るような視線を向けてくる。


「なぜこのアステル王国へ?」


「……流れ着いただけだ。特別な目的があったわけじゃない」


「あの王族や英雄が持つ『アイテムボックス』もそうだが、それだけではない。貴殿の立ち居振る舞い、思考、その全てが、ただの『流れ者』とは違う」


アルフォンスの視線が、俺の魂の奥底を覗き込むように、存在そのものを吟味している。


「まるで、我々とは違う理で動いているようだ。ナオキ・カワダ……貴殿は、一体何者なのだ?」


空気が張り詰める。セーラたちが固唾を呑んで俺を見守っているのが分かった。ここで下手にボロを出せば、築きかけた信頼が全て崩れ去る。


その時だった。


「アルフォンス卿、ナオキ殿の詮索はそのくらいにされよ」


口を挟んだのは、今まで黙って話を聞いていたクローウェル子爵だった。


「今は、王都の情勢を共有することの方が重要では?」


「子爵……」


「監察官殿がアッシュベルク侯爵の不正調査に奔走されている間に、王都の空気は随分と変わりましたぞ。特に、ガルダ帝国との関係においてはな」


クローウェル子爵の言葉に、アルフォンスは眉をひそめた。


「詳しく聞かせてもらおう.....」



'クローウェル子爵ナイス!助け舟を出してくれたお陰で助かった。'


「王都では、ガルダ帝国の軍事力に魅せられ、協調を主張する左派の者たちが派閥を形成しつつあります。『親ガルダ帝国派』と呼んで差し支えないでしょう」


「馬鹿な。あの侵略国家に与するだと?」


「彼らはそれを『現実的な外交』と呼んでおります。筆頭は、王国交通卿のオルコット侯爵。そして、外務卿のヴァインベルク伯爵も、侯爵に同調しているとの噂です」


次々と挙げられる王国の重鎮の名に、アルフォンスの顔が険しくなっていく。


「オルコット侯爵とヴァインベルク伯爵……。どちらも王国の中心人物ではないか」


「左様。もし、このアッシュベルク侯爵の不正、そして帝国との密約が彼らの耳に入れば……彼らは十中八九、この件を揉み消しにかかるでしょう。監察官殿、あなたの首と引き換えにな」


車内に、再び重い沈黙が落ちた。敵は、逃げたレナードだけではない。王都の中枢に、既に見えざる敵が潜んでいるのだ。


* * *


ガタンッ!


突如、馬車が激しく揺れ、悲鳴のような金属音が響き渡った。俺たちの体は大きく傾き、座席から転げ落ちそうになる。


「うわっ!」


「どうした!」


馬車は数回大きく跳ねた後、きしむ音を立てて停止した。御者の怒声と、馬のいななきが外から聞こえてくる。


アルフォンスが即座に扉を開け、外の状況を確認した。


「報告しろ!」


「はっ! 監察官殿、申し上げます! 馬車の左後輪の車軸が……完全に折れております! これ以上の走行は不可能です!」


騎士の報告に、アルフォンスは忌々しげに舌打ちした。


「くそっ、このタイミングで……!」


クローウェル子爵が蒼白な顔で呟く。


「一番近い町まで、ここから半日はかかりますぞ。修理の当てもない……」


全員の顔に焦りの色が浮かぶ中、俺は静かに立ち上がった...。


'借金の返済期日が迫っている中で時間を無駄にする事はできない...だが!この状況でマリエクを使用するのはリスクだ.....仕方ない。'

「……俺に任せてもらえないか」


「ナオキ殿? だが、どうやって……」


俺はアルフォンスの言葉を遮り、馬車から降りた。折れた車軸は、見るも無残に垂れ下がっている。


「少し、特殊な道具を使う」


俺は周囲に誰もいないことを確認すると、アイテムボックスに意識を集中した。


'マリエク、検索。『油圧ジャッキ、3トン用』『ウェルダー溶接機』『高強度ステンレス合金溶接棒』、それに『工具セット一式』'

ウェルダー溶接機とはエンジン付きの移動溶接機の事だ。レギュラーと軽油の2種類のタイプがある。

ガソリンもいるな....これはレギュラーか


『油圧ジャッキ、3トン用』 20,000円

『ウェルダー溶接機+溶接面皮手袋付』 350,000円

『高強度ステンレス合金溶接棒』 10,000円

『工具セット一式』 15,000円

『レギュラーガソリン4L缶』 5,000円

[合計金額:400,000円。購入しますか?]

’ガソリン買えるのか...。今更の事だが、なんでも買えるんだな。’兵器だって買えるくらいだから、なんでもあり、、、なのか?


'……購入だ!'


[残金655万円(貸付)]


次の瞬間、俺は空間から次々と無機質な金属の塊を取り出した。油圧ジャッキ、溶接機、溶接棒。おまけに、スパナやレンチが詰まった工具箱まで。


「なっ……!」


その光景を見ていた全員は、息を呑む。


ヒルダが聞く

「おい、ナオキ……。そりゃ、何だ……?」


俺は驚く仲間を尻目に、手際よくジャッキを車体の下に滑り込ませてレバーを動かす。ギッ、ギッと音を立て、重い馬車が軽々と持ち上がっていく。


「おいおい……なんだそりゃ……」


「見たこともない……魔法道具か?」


クローウェル子爵が、信じられないといった表情で呟く。


俺は答えず、溶接機のスイッチを入れる。折れた車軸の断面に青白い閃光が走った。

バチバチッ!と火花が散り、金属の溶ける刺激臭が漂う。

転移前の職場では、こんな事ばかりやっていたので現実世界の知識、経験をマリエクから買う必要もない。


アルフォンスも、まるで魔法でも見ているかのように、俺の作業を呆然と眺めているだけだった。


* * *


修理は一時間もかからずに終わった。

折れた部分からテーパーに削ってから溶接したとはいえ、溶着面積が少ないから強度は怪しいが、この品質の馬車の作りからして

元よりも頑丈になっただろう。



「……よし、終わったぞ」


俺が汗を拭うと、クローウェル子爵が信じられないといった様子で近づき、修理箇所を指で弾いた。キン、と硬質な音が響く。


「……信じられん。一体、どんな魔法を使ったのだ」


「魔法じゃない。ただの技術だ」


俺は工具をアイテムボックスにしまいながら、そっけなく答えた。

馬車に戻ると、そこには先程とは質の違う、探るような視線が俺に突き刺さっていた。


口火を切ったのは、ヒルダだった。


「ナオキ」


彼女は腕を組み、真剣な眼差しで俺を見据えている。


「前々から気になってはいたが。説明してもらうぜ。あんたのその『アイテムボックス』は、一体何なんだ? あんな道具、見たことも聞いたこともない。普通のアイテムボックスじゃないだろ」


「うむ」


バルクも、力強く頷く。


「ナオキ殿。我々は仲間だと思っている。隠し事は、なしにしてもらいたい」


本当の事を知っているセーラも、不安そうな顔でこちらを見ている。

逃げ場はなかった。彼らは、その力を何度も目の当たりにしてきたのだ。


'……話すか?'


蘇る、裏切りの記憶。人間不信は、まだ俺の奥底に巣食っている。こいつらは違うと信じたい。だが――。

俺はちらりと、向かいの席で腕を組み、目を閉じているアルフォンスに視線をやった。

王命の監察官。彼のことは信用できるかもしれない。だが、俺の力の源があまりに異質すぎる。この世界の理から外れた力を、国家の中枢にいる人間に知られることが、果たして吉と出るか凶と出るか。今はまだ判断できない。

だが、この問いに黙り込むことは、目の前の仲間たちを裏切ることと同じだ。


「……分かっている。お前たちの言う通りだ」


俺は観念して、静かに口を開いた。


「隠していたわけじゃない。ただ、あまりに突拍子もなくて……どう話せばいいか、分からなかった」


俺は仲間たちの目を真っ直ぐに見据える。


「これは、ただのアイテムボックスじゃない。俺の力の根幹に関わる、極めて特殊なものだ」


俺の真剣な声に、ヒルダとバルクが息を呑むのが分かった。


「だからこそ、今ここで軽々しく話せる内容じゃないんだ。特に……」


俺は視線だけで、向かいのアルフォンスを示す。彼は目を閉じているが、その気配は少しも緩んでいない。間違いなく、俺たちの会話に聞き耳を立てている。


「王都に着いて、落ち着いたら、俺たちだけになれる場所で、必ず全てを話す。約束する。それまで、待ってくれないか?」


アルフォンスに聞こえないような小さな声で喋る、俺の必死の問いかけに、ヒルダはしばらく俺の顔をじっと見つめていたが、やがてふうっと大きく息を吐いた。


「……分かった。その言葉、信じる。だが、忘れるなよ。あたしらは、あんたの背中を預かる仲間なんだからな」


「うむ。ナオキ殿がそう言うのであれば、我々は信じて待とう」


バルクも、力強く頷いてくれた。その瞳に、疑いの色はない。

俺の言葉を、仲間を信じてくれた。その事実が、胸に温かいものを広げる。セーラが安堵したように、小さく微笑んだ。


今はまだ、全てを話す時ではない。

だが、いつか必ず。


俺は仲間たちに対して、真実を打ち明けるという、重く、そして確かな約束を交わした。馬車の中の沈黙は、先ほどとは違う、未来への期待を孕んだものに変わっていた。


残金655万円(貸付金1,000万円、期限:残り4日)


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
こんにちは。 まぁ不振に感じるのが普通ですわなぁ…。でもセーラ達三人は(それこそ強力な催眠とか洗脳とかヤバい薬を使われない限り)そうそう裏切ることはなさそうですから、きちんと話し合いしといた方が良さ…
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