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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第1章 第2の人生のはじまり

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第52話 会計監査官の置き土産

俺の号令と共に、隣に立つバルクが短く息を吸い込んだ。次いで、獣のような咆哮が彼の喉から迸る。


「うおおおおおっ!」


彼が構えた巨大な盾が、そのまま重戦車のように樫の扉へ叩きつけられた。

バゴオオオン!

凄まじい破壊音と衝撃波が、屋敷の静寂を粉々に砕く。重厚な扉は蝶番ごと吹き飛び、木片がホール中に弾丸のように飛び散った。


「な、何者だ! 奇襲だ!」


粉塵が舞うホールの奥から、護衛たちの動揺した声が響く。即座に数人の剣士が、剣を抜きながら駆けつけてきた。俺たちは躊躇なく、まだ扉の残骸が舞うホールへと突入する。


「来るぞ!」


先頭にいた剣士が怒声と共に斬りかかってくる。だが、バルクは盾でそれを受け止めるどころか、逆に盾の縁で相手の胴を殴りつけた。

ゴッ、と骨まで響く鈍い音がして、剣士がくの字に折れ曲がり壁まで吹き飛ぶ。叩きつけられた壁には蜘蛛の巣のような亀裂が走り、男は呻き声一つ上げることなく崩れ落ちた。


「ひ、ひいっ!」


「化け物か!」


残りの護衛たちが、その圧倒的な膂力に怯んで一瞬足が止まる。その隙を見逃す俺ではない。


「マリエク!『閃光手榴弾』!」

1個.100,000円


取り出した球体を、護衛たちの足元へ正確に投げ込む。


「目くらましだ! 目を閉じろ!」


俺の警告とほぼ同時に、ホールが昼間のように真っ白な光に包まれた。


「ぐわあああ! 目が、目がぁ!」


視力を奪われ、無防備に顔を覆う護衛たち。その混乱の中を、黒い影が音もなく駆け抜けた。セーラだ。レベルアップした彼女の動きは、以前とは比べ物にならないほど速く、しなやかだった。

峰打ちに切り替えた短剣の柄が、護衛たちの首筋や鳩尾に正確無比に叩き込まれていく。まるで流れるような演舞。抵抗する間も与えず、面白いように敵が無力化されていった。


「裏口は片付いたぜ! 雑魚ばっかりだったな!」


そこへ、裏口を制圧したヒルダが合流した。その背後には、のされた見張りが数人転がっている。完璧な連携だった。


「よし、二階だ! レナードを逃がすな!」


俺たちは階段を駆け上がった。数人の護衛がまだ残っていたが、もはや俺たちの敵ではない。バルクが盾でなぎ払い、セーラとヒルダがその隙を突く。屋敷は、突入からわずか数分で完全に制圧された。


やがて俺たちは、目的の部屋――二階の最も奥にある、レナードの執務室の扉の前にたどり着く。重厚なマホガニーの扉だ。


「……この奥だな」


バルクが静かに盾を構え直す。俺は彼に目配せし、顎で扉をしゃくった。


「頼む!」


俺の短い命令に、バルクは再び盾を叩きつける。

凄まじい音を立てて扉が砕け散る中、俺は叫びながら突入した。


「レナード! 神妙にしろ!」


だが、返事はなかった。

豪華な装飾が施された執務室は、もぬけの殻だった。開け放たれた窓から冷たい夜風が吹き込み、分厚いベルベットのカーテンが不気味に揺れている。


「くそっ、逃げられたか!」


俺は悪態をついた。机の上には飲みかけのワインが残されており、指で触れるとまだ微かに温かい。逃げてから、そう時間は経っていない。


「いや、待て」


部屋の隅々まで鼻をひくつかせていたヒルダが、俺を制した。


「おかしい。匂いがまだ濃すぎる。恐怖に怯えた汗の匂いと……インクと古い紙の匂いが、この部屋から出ていった形跡がない」


「どういうことだ?」


ヒルダは壁にかけられた巨大なタペストリーの前で足を止めると、それを乱暴に引き剥がした。

現れたのは、何の変哲もない石壁だ。


「ここだ。この壁の向こうに、何かある」


「隠し通路か!」


バルクが拳を鳴らす。


「俺が壊す」


「待て。罠の可能性がある」


ヒルダが静止させ壁に耳を当て、指先で注意深く表面をなぞり始めた。


「……巧妙なロックだ。内側からしか開かないようになってる。普通のやり方じゃ無理だな。だが……」


ヒルダは壁に顔を寄せ、目を閉じて深く息を吸い込んだ。


「……待て。この辺りだ。ほんの僅かだが、古い油の匂いと、空気が動く匂いがする」


彼女はそう言うと、匂いの元を辿るように壁の一点を指でなぞった。そして、ほとんど目に見えない石の継ぎ目を見つけ出すと、短剣の切っ先を慎重に差し込む。


「あたしの『獣の嗅覚』を舐めるなよ。……ここだ!」


彼女が短剣を捻ると、壁の内部でカチリ、と小さな金属音が響いた。

ゴゴゴゴ……と、重い石が擦れる音を立てて、石壁の一部が静かに横へスライドしていく。隙間から、埃とカビの匂いが混じった空気が流れ出してきた。


「開いた!」


隠し通路の奥は、狭い書庫のようになっていた。そして、その中央の床には、おびただしい数の帳簿が乱雑に山と積まれていた。


「見つけたぞ! 裏帳簿だ!」


セーラが歓声を上げる。

俺が駆け寄り、帳簿を手に取ると、その山の上に一通の封筒が置かれていることに気づいた。宛名はない。ただ、『残される者へ』とだけ記されている。


俺が封を開けると、中から一枚の羊皮紙が滑り落ちた。そこには、震えるような筆跡で短い文章が綴られていた。


『『幽霊』が戻らぬ。もはやこれまで。侯爵、私は、私の道を行かせてもらう』


「……レナードの字だな」


ヒルダが覗き込みながら言った。


「つまり、あいつは自分の意思で、俺たちからじゃなく、侯爵から逃げたってことか」


俺は書き置きを音を立てて握り潰した。目的の物は手に入れた。だが、どこか後味が悪い。


「どうする、ナオキ? レナードを追う?」


セーラが不安そうな顔で俺に尋ねた。


「いや、その必要はない」


俺は帳簿の山をアイテムボックスにしまいながら、首を横に振った。


「奴はただの駒だ。それに、この証拠の山さえあれば、侯爵の罪を証明するには十分すぎる」


「ああ。金の流れは完全にこっちで押さえた。侯爵はもう、言い逃れできねえ」


ヒルダが確信に満ちた声で言う。


'そうだ。最大の脅威だった『幽霊』は消え、不正の証拠も手に入れた。侯爵は今、牙を抜かれた獅子同然だ。'


俺は仲間たちを見回し、決然と言い放った。


「今夜が、決着の時だ。今から、侯爵の屋敷へ向かう。目的は、アッシュベルグ侯爵、本人の身柄確保だ」


「「「応!」」」


三人の力強い声が、隠し部屋に響いた。

絶望的な敗北から始まった長い一日が、今、最終局面を迎えようとしている。


* * *


俺たちは夜の闇に再び身を投じ、街の中心にそびえ立つ、巨大な屋敷へと向かった。

アッシュブルグの支配者が住まう、悪意の巣窟。アッシュベルク侯爵の屋敷。


やがて俺たちの目の前に、高く、堅牢な塀に囲まれた侯爵の屋敷がその姿を現した。闇に沈むその姿は、まるで巨大な獣が獲物を待ち構えているかのようだった。


俺は闇に沈む巨大な城壁を見上げ、静かに口角を上げた。

疲労困憊の仲間たち、そして俺自身。だが、その瞳には誰一人として諦めの色はない。


「さて、と」


俺はマリエクのウィンドウを脳裏に開き、ある兵器のリストを睨みつける。


「正面から、派手に挨拶してやろうじゃないか」


残金760万円(貸付金1,000万円、期限:残り6日)

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