第27話 戦場のカスタムディレクション2
俺はライアンの元へ駆け寄ろうとして、ぴたりと足を止めた。
背中に突き刺さる、数十の視線。それは、俺を化物として見る、恐怖と不信の色を帯びていた。
先に処理すべきは、こっちだ。
「ゴードン、ライアンを頼む! 呼吸を確保しろ!」
俺はそう叫ぶと、ゆっくりと振り返った。震える傭兵たち、そして戦意を喪失した騎士たちへと。
「セーラ、マルコ、見張ってろ」
俺の静かな声に、二人はこくりと頷く。
俺は投降し、武器を落とした騎士たちの中央へと、悠然と歩を進めた。彼らはなすすべもなく地面に膝をつき、呆然と俺を見上げている。
「さて、お前たちはもう騎士じゃない。ただの捕虜だ」
俺はそう言うと、地面に散らばった剣や鎧、そして彼らが身につけている装備に手をかざした。
「捕虜に、武器は必要ない」
'アイテムボックス、発動。この場の全ての武具を、『収納』しろ'
かすかな金属音が響いたのを最後に、川辺は再び奇妙な静寂に包まれた。
騎士たちが身につけていた分厚いプレートアーマーが、手の中の剣が、腰の鞘が、音もなく、光もなく、ただそこから『消えた』のだ。
まるで、最初から何もなかったかのように。
「な……」
「鎧が……消えた……?」
数秒後、自分たちの身に起きたことを理解した騎士たちは、みすぼらしい下着姿で呆然と立ち尽くす。
その光景は、もはや魔法や奇跡というより、神の御業に近かった。
「ひぃっ……!」
傭兵の一人が、短く悲鳴を上げて後ずさる。
俺は、恐怖に染まった彼らの顔を見渡し、ニヤリと笑った。
「どうした? これが俺のやり方だ」
マルコが、ゴクリと喉を鳴らす。彼の目から、先ほどまでの反抗心や対等な取引相手という意識は完全に消え失せていた。そこにあるのは、力を持つ者への、純粋な畏怖だけだ。
「……な、ナオキ……。何でも、いってくれ……」
マルコが、震える声で膝をつく。それを皮切りに、彼の部下たちも次々と武器を捨て、地面にひれ伏した。
'よし、これで第一段階はクリアだ'
俺は彼らのボロボロの革鎧と、錆びついた剣を一瞥する。そして、虚空に向かって再び手をかざした。
「お前たちの装備はガラクタ同然だ。これを使え」
'アイテムボックス、『放出』!'
傭兵たちの目の前に、先ほど収納したばかりの騎士団の装備が、巨大な山となって現れた。月明かりを浴びて鈍く輝く、高品質な鋼の鎧と剣。
「今日からお前たちはグルフ復興部隊だ。それ相応の装備を身につけろ。……」
恐怖で支配し、実利で繋ぎとめる。
傭兵たちの目が、恐怖から驚愕へ、そしてギラついた欲望へと変わっていくのを、俺は満足げに眺めていた。
* * *
「これからの方針を話す」
新しい装備を手に、狂喜乱舞する傭兵たちを部下に任せ、俺はセーラとマルコを呼び寄せた。
川辺のぬかるんだ地面に、木の枝で大雑把な地図を描く。中心には、寂れた町グルフ。
「目的は二つ。この川沿いでのカオリン採掘。そして、グルフの町の『要塞化』だ」
「要塞化、だと……?」
セーラが訝しげに眉をひそめる。
「ああ。ただの寂れた宿場町を再建するだけじゃ、また同じことの繰り返しになる。外敵から身を守り、富を蓄え、誰にも侵されない俺たちの拠点を作るんだ」
俺の言葉に、マルコはゴクリと唾を飲んだ。彼の頭の中では、一介の傭兵隊長から、城塞都市の幹部へと成り上がる未来が描かれているのかもしれない。
「だがな、ナオキ。採掘と町の整備、同時にやるなんて無茶だ。人手も金も、何もかもが足りねえ」
マルコの現実的な指摘に、俺は不敵に笑った。
「人手は、こいつらと、これから集めるグルフの町民で賄う。問題は、作業効率だ」
俺は二人の顔を交互に見た。
「お前たち、『発電機』というものを知っているか?」
「はつでんき……?」
「ああ。それと、『電動削岩機』もだ」
二人は、初めて聞く異国の言葉に、ただ首を傾げるだけだ。
「火も油も使わずに夜を昼間のように照らし、屈強な男が十人がかりで一日かかる岩盤を、たった一人で数分で砕くことができる。……そんな『魔法の道具』だ」
「……!」
「そ、そんなものが……この世にあるとでも言うのか!?」
マルコが信じられないという顔で叫ぶ。セーラは何も言わない。だが、その目は俺が人間ではない何かを語っているかのように、細められていた。
「ああ、ある。そして俺は、それを手に入れる術を知っている」
俺の口から語られる計画は、あまりにも壮大で、あまりにも異質だった。それは、この世界の常識を根底から覆す、革命の設計図そのものだった。
「……あんた、一体……。いや、もう聞かねえよ」
セーラは呆れたように首を振った。
「あんたがやると言うなら、やるんだろうさ。あたしは、あんたの剣になるだけだ」
その言葉には、揺るぎない信頼が宿っていた。
* * *
「ナオキさん! もう、ライアンさんが……息が……!」
俺たちが未来の構想に思考を巡らせていた、その時。ゴードンの悲痛な叫びが、再び俺を現実に引き戻した。
ハッとして振り返ると、ライアンの胸の動きは、もはやほとんど止まりかけている。
「くそっ!」
俺の顔から、計画を語っていた時の冷徹さが消え失せる。
「すまん、話は後だ! 全員、撤収準備!」
俺はライアンの元へ駆け寄り、彼の状態を『鑑定』する。
[状態: ショック症状進行、バイタルサイン著しく低下。危険水域]
'このまま運んだら、途中の揺れで確実に死ぬ……!'
「じゃあ、どうするんだい!? ここで夜を明かすわけにもいかないだろう!」
セーラの焦った声が飛ぶ。
俺は一瞬だけ逡巡し、そして腹を括った。もう、隠している場合じゃない。
'マリエク! 衝撃吸収機能付きの、電動式ストレッチャーを!'
目の前に、俺にしか見えないウィンドウが展開される。
[検索結果:バッテリー駆動式 全地形対応型レスキューストレッチャー…… 280,000円]
[送料:5,000円]
[合計:285,000円]
'金貨3枚弱か……! だが、仲間の命だ! 安い!'
俺は、セーラやマルコ、そして全ての傭兵たちが見守る前で、強く購入を念じた。
'購入する!'
祈るような一瞬の後、俺の足元に、ありえない物体が出現した。
ゴトン、という鈍い音と共に現れたのは、金属のフレームと黒い強化繊維、そして太いキャタピラを備えた、機械的な担架だった。この世界の誰もが見たことのない、異質なテクノロジーの塊。
「なっ……!」
「なんだ……これは……」
セーラが絶句し、マルコが後ずさる。傭兵たちの間から、どよめきが起こった。
俺は彼らの反応を気にする余裕もなく、その異質な担架を指さして叫んだ。
「急げ! ライアンをそいつに乗せるんだ! これがあれば、揺らさずに安全に運べる!」
俺の怒号に、傭兵たちがはっと我に返り、慌てて動き出す。異形の機械への恐怖よりも、目の前の仲間の命と、俺への畏怖が彼らを動かしていた。
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