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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第1章 第2の人生のはじまり

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22/23

第22話 駒にはならない

ゲルトの鷲のような目が、俺を射抜く。

金、地位、そしてグルフの復興支援。差し出された条件は、破格だった。普通の人間なら、二つ返事で飛びつくだろう。だが、俺の心は微動だにしなかった。


「断る」


俺の即答に、ゲルトの眉がわずかに動いた。隣に立つセーラが、息を呑む気配がする。


「……ほう?このわしの誘いを、断ると申すか。理由を聞かせてもらおうか」


「あんたの『駒』になるつもりはない。俺は、もう二度と誰かの駒になるのは御免なんでな」

'駒の変えなんていくらでもいる、組織での人の価値なんて所詮、歯車よ。壊れたら変えるだけ........'

過去の現代会社であった、自分への扱いを思い出す。


俺はゲルトの目を真っ直ぐに見据えて言い放った。彼の背後に、かつて俺を裏切った上司の顔が重なる。差し伸べられた手を取った先にあるのが、甘い蜜などではないことを、俺は骨の髄まで知っている。


「……ふん。面白い」


ゲルトは怒るでもなく、心底おかしそうに口の端を吊り上げた。


「よかろう。だが、この街で生きるなら、いずれまた顔を合わせることになる。その時、今日の決断を後悔せんことだな」


老獪な商人はそれだけ言い残すと、音もなく闇の中へと消えていった。

部屋に残されたのは、重い沈黙と、仲間たちの戸惑いの表情だけだった。


* * *


「……どうしてですか、ナオキさん!」


ゲルトが去った直後、沈黙を破ったのはライアンだった。その声は、非難と絶望に震えている。


「なぜ断ったんですか! 金獅子商団の庇護があれば、僕たちは安全に……グルフの再建だって、ずっと楽に進められたはずなのに!」


「楽な道に美味い話はねえんだよ、坊主」


俺が答えるより先に、セーラが腕を組んでライアンを睨みつけた。


「ナオキの判断は正しい。『駒』なんざになったら、最後には血反吐を吐くまで使い潰されるのがオチだ」


「ですが!僕たちは追われる身なんですよ!?ヴァーミリオン商会の残党が、いつ僕らを襲ってきてもおかしくない!なのに、最大の防御壁を自ら手放すなんて……正気の沙汰じゃない!」


ライアンの叫びが、狭い隠れ家に響き渡る。ゴードンはただオロオロと、俺たち三人の顔を交互に見るばかりだ。


「だからって、虎の檻から獅子の檻に飛び込んでどうするんだ!あんたは少し落ち着け!」


「落ち着いていられますか!あなたは強いからいいでしょう!でも、僕やゴードンさんは違う!僕たちはただの……!」

セーラとライアンの喧噪が始まる....。


「ライアン」


俺は、激高する彼の言葉を静かに遮った。

二人の視線が俺に突き刺さる。


「あんたの言うことはわかる。安全が欲しい。後ろ盾が欲しい。……その気持ちは、痛いほどわかる」


俺の脳裏に、かつての光景が蘇る。会社に尽くし、上司に尽くし、それでも切り捨てられた日。誰も助けてはくれなかった。

安全など、どこにもなかった。


「……俺も、昔はそうだった」


俺がぽつりと呟くと、セーラとライアンが怪訝な顔で俺を見た。


「人を信じて、組織を信じて……俺の全てを捧げた。その結果、どうなったと思う?」


俺は自嘲気味に笑う。


「見事に裏切られて、何もかも失った。家族も、仕事も、信頼も……」


「ナオキさん……?」


ゴードンが、心配そうに俺の名を呼ぶ。


「だから、もう誰かの下で働くのは御免なんだ。誰かの都合で切り捨てられるのは、もううんざりだ。俺は俺のやり方で、対等な立場でやっていく」


俺の過去の告白が、部屋の空気を重く支配する。

ライアンは何か言いたげに口を開きかけたが、結局何も言えず、悔しそうに唇を噛み締めた。

セーラは、ただ黙って俺の横顔を見つめている。その目には、いつもの獰猛さとは違う、何かを理解したような色が浮かんでいた。


仲間との間に生まれた亀裂を前に、俺はかける言葉を見つけられなかった。


* * *


重苦しい空気が流れること、数時間。隠れ家の扉が、控えめにノックされた。

俺たちが身構えると、扉の向こうから聞こえてきたのは、金獅子商団の執事の声だった。


「ナオキ様。ゲルト様が、改めて『商談』を、と」


再び、俺たちはゲルトの前にいた。だが今度の彼は、応接室ではなく、彼の私室と思しき書斎に俺たちを招き入れた。


「先ほどの提案は忘れろ」


暖炉の火を背に、革張りの椅子に深く腰掛けたゲルトが言った。その態度は、以前よりもずっと柔らかい。


「改めて、対等な関係としての話がしたい。わしはお主の才覚を見誤っていたようだ」


ゲルトはゆっくりと立ち上がると、窓の外に広がるフェルムの街並みを見下ろした。


「駒などという器ではなかったな。お主のような男は、誰かの下に置くべきではない。対等な立場でこそ、真価を発揮する」


彼の内面で、何らかの思考の変化があったらしい。その目は、俺を試す色から、純粋な興味の色へと変わっていた。


「わしらも、グルフ近郊で採れるという『カオリン』は欲しい。だが、ヴァーミリオンのような汚いやり方は好かん。そこで提案だ」


ゲルトは振り返り、俺の目を真っ直ぐに見た。


「グルフ再建への先行投資として、金貨二十枚を融資しよう。無利子でな。その代わり、お主らには例の『カオリン』の現物を確保し、グルフの町との独占供給契約を取り付けてきてもらいたい。もちろん、我々金獅子商団が、その粘土を適正価格で買い取るという条件付きでだ」


それは、俺たちの実力を試し、同時に信頼を示すという、老獪な商人らしい一手だった。

俺たちの身の安全を保証し、資金を提供し、そして対等なビジネスの舞台を用意する。この提案を断る理由は、どこにもなかった。


「一つ聞きたい。独占供給契約と言ったが、誰と結ぶんだ?グルフにはギルドもなければ、町長もいない。ただの寂れた町だ。契約書にサインする相手が存在しない」


俺の指摘に、ゲルトはニヤリと口の端を吊り上げた。


「その通りだ。だからこそ、お主が必要なのだ」


ゲルトは続ける。


「お主が、グルフに新たな『仕組み』を作るのだ。生産者たちを束ねる組合でもいい。新たなギルドでもいい。その代表として、お主が我々と契約を結ぶ。町人たちには、お主が適正な対価を分配する。さすれば、利権は我々に、富はグルフの民に、そして信頼はお主の元に集まる。一石三鳥だろう?」


'なるほど。単に粘土が欲しいだけじゃない。俺を代理人に立てて、グルフを金獅子商団の経済圏に組み込むつもりか。だが、悪くない話だ。俺にとっても、町にとってもな'......その為に金貨20枚も、旨味のある話だ。しかも無利子とな...。


「つまり、実質的な利権と町の統治の仕組み作りを俺に委ね、その上で独占契約を結びたい、と?」


「話が早くて助かる!そういうことだ!どうだ、この話、乗るか?」


「……いいだろう。その話、乗った」


俺が答えると、横にいたライアンの顔に、安堵の色が浮かんだ。


* * *


話は早かった。

ゲルトから提供された詳細な地図を手に、俺たちはすぐさまグルフへと向かう準備を整えた。カオリンの価値をこの目で確かめ、そして何より、相棒のバルガスにこの吉報を伝えなければならない。


俺たちの目的地は、グルフの町から少し離れた川沿いの土地。ヴァーミリオン商会が、密かに採掘を行っていた場所だ。


「本当に、よかった……」


馬車に揺られながら、御者をするゴードンが涙ぐむ。ライアンも、先ほどの気まずさを忘れたかのように、地図を食い入るように見つめていた。


「ナオキ、あんた、とんでもねえジジイに気に入られたもんだな」


セーラが、呆れたように笑う。


'俺はゲルトとのやりとりの事を思い出す.....。'


結局のところ、俺は誰かにとっての便利な『駒』でしかないのか。会社でも、家庭でも、そしてこの異世界でも。

利用価値があるうちは甘い言葉で側に置き、価値がなくなれば捨てる。ゲルトの鷲のような目が、かつて俺を裏切った連中の顔と重なった。


「そう簡単に人を信じる事は出来ない...。」


'もう騙されるのはごめんだ'


この男が本当に俺を評価しているのか、それともただ利用しようとしているだけなのか。見極める力が必要だ。人の価値も、物の価値も、情報の価値も。全てを正確に鑑定し、俺自身の目で判断する力が。

脳裏に、あの時のスキルリストが浮かび上がる。


'……あったはずだ。俺が今、一番必要とする力が'


'マリエク、スキルリストを開け'


目の前に、見慣れた半透明のウィンドウが展開される。


[スキル取得リスト]

[- アイテムボックス (容量: 小) …… 取得済み]

[- 鑑定 (Lv.1) …… 金貨3枚 (300,000円)]

[- 身体能力強化 (微) …… 金貨3枚 (300,000円)]

[- 生活魔法入門 …… 金貨1枚 (100,000円)]

[- 現実世界の知識、参考書各種 …… 金貨2枚 (200,000円)]


やはり、ある。

俺は躊躇なく『鑑定 (Lv.1)』を選択した。


[鑑定 (Lv.1) を取得しますか?]

[取得費用として金貨3枚 (300,000円) が消費されます]


'取得する'


懐にあった金貨27枚のうち3枚、マリエクの残高に変換され、瞬時にゼロになる。そして、新たな力が脳に流れ込んできた。

世界を構成する情報が、奔流となって押し寄せる感覚。物の本質、人のステータス、あらゆるものの『価値』が、おぼろげながらも視えるような、新しい知覚。


[スキル『鑑定 (Lv.1)』を取得しました]

[説明:鑑定(Lv.1)では、人物の【名前、年齢、性別、人種、、出身、ステータス値】、物質の【簡単な詳細】のみ鑑定可能です。]

[追加費用【金貨5枚】で、対象の【状態、背景、弱点、など】物質の【詳細】を鑑定する詳細機能が解放されます。]


'なるほどな。さらに金をつぎ込めば、より深く見通せる、か......。疑心暗鬼な俺には、これとない必要なスキルだ....'

相手をよく観察しなければならない....。洞察力は必要だ。これはマストスキル。

「金貨5枚なら払えない額じゃない、LVを2にあげておくか...」

さらに金貨を5枚支払い鑑定スキルLVを1→2へ上げる。


「よし!」


俺が新たなスキルを取得して間もなく、みんなが馬車を降り、寂れた川辺にたどり着く。

あたりには、放棄された採掘道具や掘り返された地面の跡が生々しく残っていた。


「地図によれば、この一帯のはずです。粘土層は地表近くに……」


ライアンがそう言った時だった。

俺は足元のぬかるんだ地面に違和感を覚え、粘土をひとつかみ、手に取った。白く、驚くほどきめ細かい。


'なんだ、この土は……?'


俺はマリエクの鑑定機能を意識し、手のひらの粘土に集中した。

すると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


[鑑定結果]

[名称:高品質カオリン原石(最高級)]

[説明:王侯貴族に献上される陶磁器の原料となる、極めて希少価値の高い粘土。市場では金と同等の価値で取引されることもある。]


俺は息を呑んだ。金と同等の価値……?


'これが……ヴァーミリオン商会が、町一つを潰してまで独占しようとした宝……!'


そんな矢先の事であった。


「――待ち伏せだ!伏せろ!」


セーラが絶叫した。

ヒュン、と空気を切り裂く音。俺たちの足元に、数本の矢が突き刺さる。

それと同時に、周囲の茂みが一斉に揺れ、縄が引かれる甲高い音が響き渡った。


見上げると、斜面の上から巨大な丸太がいくつも、俺たちめがけて転がり落ちてくる。


「くそっ!」


ヴァーミリオン商会の傭兵部隊。その残党が、最後の意趣返しとばかりに、この場所に罠を仕掛けていたのだ。

逃げ場はない。轟音と共に迫りくる巨大な丸太が、俺たちの視界を覆い尽くした。


俺が新たなスキルを取得して間もなく、みんなが馬車を降り、寂れた川辺にたどり着く。

あたりには、放棄された採掘道具や掘り返された地面の跡が生々しく残っていた。


「地図によれば、この一帯のはずです。粘土層は地表近くに……」


ライアンがそう言った時だった。

俺は足元のぬかるんだ地面に違和感を覚え、粘土をひとつかみ、手に取った。白く、驚くほどきめ細かい。


'なんだ、この土は……?'


俺はマリエクの鑑定機能を意識し、手のひらの粘土に集中した。

すると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


[鑑定結果]

[名称:高品質カオリン原石(最高級)]

[説明:王侯貴族に献上される陶磁器の原料となる、極めて希少価値の高い粘土。市場では金と同等の価値で取引されることもある。]


俺は息を呑んだ。金と同等の価値……?


'これが……ヴァーミリオン商会が、町一つを潰してまで独占しようとした宝……!'


そんな矢先の事であった。


「――待ち伏せだ!伏せろ!」


セーラが絶叫した。

ヒュン、と空気を切り裂く音。俺たちの足元に、数本の矢が突き刺さる。

それと同時に、周囲の茂みが一斉に揺れ、縄が引かれる甲高い音が響き渡った。


見上げると、斜面の上から巨大な丸太がいくつも、俺たちめがけて転がり落ちてくる。


「くそっ!」


ヴァーミリオン商会の傭兵部隊。その残党が、最後の意趣返しとばかりに、この場所に罠を仕掛けていたのだ。

逃げ場はない。轟音と共に迫りくる巨大な丸太が、俺たちの視界を覆い尽くした。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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