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異世界ネットショッピング  作者: たにやん
第2章 帝国の闇編

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第108話 帝都の影

宿への帰り道、バルクは時折、背負った新しい盾『センチネル・ガーディアン』の感触を確かめるように肩を揺らした。その堂々とした後ろ姿は、もはやただの寡黙な巨漢ではない。俺たちの揺るぎない守護者そのものだ。


宿に戻ると、俺たちは食堂のテーブルで一息ついた。


「いやー、それにしてもすげえ盾だったな! バルク、これでマジで無敵じゃねえか?」


ヒルダが興奮冷めやらぬ様子でバルクの背中をバンバン叩く。


「……油断はしない」


「ちぇっ、相変わらずつまんねえ返事。まあ、お前らしいけどよ」


「ヒルダ、そんなに叩いたらバルクさんが痛いでしょう」


セーラが呆れたように言うが、彼女の顔にも笑みが浮かんでいる。パーティ全体の戦力が大幅に向上したのだ。嬉しくないはずがない。


「さて、皆。明日にでもアルテナを発つつもりだ」


俺が切り出すと、テーブルの賑やかな空気が少しだけ引き締まった。


「いよいよ帝都へ向かうのですね」


ライアンが眼鏡の位置を直しながら、確認するように言った。


「ああ。これ以上ここに長居しても意味がない。出発前にギルドへ顔を出しておこうと思ってな」


「おう! やっとか! 帝都じゃどんなうまいもんが食えるかな!」


ヒルダの能天気な声に、俺は釘を刺す。


「遊びに行くんじゃないぞ。いいな?」


「へーへー、分かってるっての」


口ではそう言いながらも、彼女の目は完全に新しい冒険への期待で輝いていた。


* * *


翌日。


出発前の挨拶も兼ねて、俺たちは冒険者ギルドへ立ち寄った。

坑道の一件以来、何かと世話になった場所だ。カウンターの向こうにいたのは、見慣れた受付嬢だった。彼女は俺たちの顔を見るなり、ぱっと表情を明るくする。


「ナオキさん! もう出発されるんですか?」


「ああ。その前に挨拶だけと思ってな」


「そうでしたか……。少し寂しくなりますね」


どうやら噂はすでにギルド中に広まっているらしい。周囲の冒険者たちも、遠巻きにこちらを見てはヒソヒソと何かを話している。

「あれが女王殺しか」といった羨望と畏怖の混じった視線が突き刺さる。


「坑道の依頼を受けて頂きありがとうございました。そして本当に、お疲れ様でした」


受付嬢は深々と頭を下げた。


「ガレスにも世話になったと伝えておいてくれ。俺たちは明日、帝都へ向けて発つ」


俺がそう告げると、受付嬢の明るかった表情がふと曇った。


「……帝都、ですか」


「何か問題でも?」


ライアンが鋭くその変化を捉えて尋ねる。


「いえ、そういう訳では……。ただ、最近、帝都に関してはあまり良くない噂を耳にすることが多くて……」


受付嬢は声を潜め、不安そうに続けた。


「良くない噂?」


「はい。帝都へ向かった商人や旅人が、何人も行方知れずになっているとか……。街道の検問も、理由なく厳しくなっているそうです。まるで、何かを隠しているかのように……」


その言葉に、俺は眉をひそめた。権力と隠蔽。ろくでもない組み合わせだ。過去の経験が、俺の中で警鐘を鳴らす。


「……物騒な話だな」


「ええ。なので、もし帝都へ向かわれるのでしたら、どうかお気をつけて。今の帝都は、少し普通ではないのかもしれません」


彼女の心からの忠告に、俺は短く礼を言った。

ギルドを出ると、いつもと変わらないアルテナの活気が、どこかよそよそしく感じられた。帝都に落ちる影は、俺たちが思うよりずっと濃いのかもしれない。


* * *


その足で、俺たちは近くの武器屋へ立ち寄った。

女王との戦いを思い返す。セーラやヒルダ、ライアンが戦っている中、俺だけが素手で動き回っていた。

もちろん魔法もある。身体強化もある。

それでも、あの時は何度も思った。一本でも剣があれば。

店内を一周すると、壁に並ぶ片手剣の中から一本を手に取る。

装飾もなければ、特別な能力もない。

どこの街でも売っている、ごく普通の片手剣だった。何度か軽く振ってみる。


「……これでいい」


代金の金貨三枚を支払い、剣を腰へ差した。

腰に差すと、ようやく冒険者らしい格好になった。

これから先、使う機会が来るかどうかは分からない。

だが、もう女王戦のような思いだけはしたくなかった。


【片手剣:金貨3枚=300,000円】

【残高:27,735,000円】


* * *


その夜、俺たちはアルテナでの最後の晩餐を宿の食堂で囲んでいた。テーブルには、この街の名物だという猪肉のローストと、焼きたてのパンが並んでいる。


「うっめえ! この肉、最高だな! 帝都にはこれよりうまいもんがあんのかな!?」


ヒルダが大きな肉塊を頬張りながら、目を輝かせている。


「あるかもしれないが、まずは無事にたどり着くことが先決だ」


俺が釘を刺すと、隣にいたセーラが不安そうに口を開いた。


「ナオキさん……。ギルドで聞いた噂、やっぱり気になります。帝都は、本当に大丈夫なのでしょうか……」


「大丈夫じゃないからこそ、俺たちのような連中が必要とされるんだろう」


ライアンが冷静に、しかし確かな口調で言った。彼はテーブルに広げた地図を指さす。


「帝都は王国とは別世界です」


ライアンは地図へ視線を落とした。


「実力があれば評価もされますが、その力を利用しようとする者も必ず現れます」


「めんどくせぇ国ってことだな」


ヒルダが肩をすくめる。ライアンは苦笑しながら頷いた。


「ええ。だからこそ、慎重に動きましょう」


俺は黙って頷いた。

人の欲や権力争いなんてものは、この世界でも変わらないらしい。

「……守る」


不意に、今まで黙々と食事をしていたバルクが、短く呟いた。その手は、傍らに置かれた巨大な盾『センチネル・ガーディアン』にそっと添えられている。


「そうだな。お前がいれば、大概の攻撃は防げる」


俺がそう言うと、バルクはこくりと頷き、再び肉を口に運んだ。その姿には、以前より格段に増した自信と覚悟が滲んでいた。


「バルクさん、頼りにしてますね」


セーラが微笑むと、バルクの耳がまた少しだけ赤くなった。


「ま、何が来ても、あたしとバルクがいりゃ何とかなんだろ!」


ヒルダが自分の胸を叩き、豪快に笑う。その単純さが、今は少しだけ頼もしく思えた。

期待、不安、知略、そして決意。それぞれの想いを胸に、俺たちのアルテナでの最後の夜は更けていった。


* * *


翌朝。俺たちは夜明けと共に出発した。

アルテナの街門を抜ける際には、何人かの衛兵や早起きの住民が、畏敬の念のこもった視線で俺たちを見送っていた。


「達者でな、『女王殺し』!」


誰かの声援を背に、俺たちは帝都へと続く街道を歩き始めた。


しばらく進んだ頃、道の向こうから数台の荷馬車が、慌ただしくこちらへ向かってくるのが見えた。馬に鞭を当て、必死の形相で何かから逃げるように駆けてくる。


すれ違いざま、俺はその一団のリーダーらしき男に声をかけた。


「おい、何かあったのか? そんなに急いで」


男は俺たちの姿を認めると、一瞬だけ速度を緩め、血走った目で叫んだ。


「あんたたち、まさか帝都へ向かうのか!?」


「ああ、そうだが?」


「やめとけ! 死にに行くようなもんだ! 今の帝都は普通じゃねえ!」


男は唾を飛ばさんばかりの勢いで捲し立てる。


「検問所じゃ理由もなく荷を改められ、少しでも疑わしけりゃ即連行だ! 街の中じゃ得体の知れない連中がうろついてて、夜には人が消える! 俺たちは仲間を何人か見捨てて、命からがら逃げてきたんだよ!」


「……得体の知れない連中?」


「ああ! とにかく、今の帝都は地獄だ! 近寄るんじゃねえ!」


男はそれだけ言うと、再び馬に鞭を入れ、砂埃を上げて走り去っていった。

あっという間に遠ざかる荷馬車を見送り、俺たちの間には重い沈黙が落ちた。


「……どうやら、ギルドの噂は本当どころか、もっと深刻みたいだな」


俺が呟くと、ヒルダが好戦的な笑みを浮かべた。


「上等じゃねえか。面白くなってきた」


セーラはゴクリと喉を鳴らし、不安そうに俺の服の袖を掴んでいる。ライアンは冷静に顎に手を当て、思考を巡らせていた。バルクは、背中の盾に手をかけ、静かに前を見据えている。


俺は仲間たちの顔を一人ずつ見回し、彼らが逃げてきた帝都の方角を真っ直ぐに見据えた。


「行くぞ」


俺の短い言葉に、全員が力強く頷く。


帝都。


そこに待つものが敵なのか、それとも真実なのか。

まだ誰も知らなかった。


俺たちは覚悟を新たに、帝都へと続く道を踏みしめた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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