第7話 過去との決別1
翌日、起きるとすぐに壁の隙間から外を確認する。
魔物の気配がないことに安堵して、ようやく背伸びをした。
「ふう、よかった。今日は失敗してないみたい」
おねしょしてなかったことに胸を撫でおろし、干し肉を一枚食べると空腹を誤魔化す為に水で腹を満たす。
「うう……お腹がたぷたぷ……」
水っ腹になったお腹を摩りながら今後の事を考えるが、やはりこの森から脱出しないことには先のことは考えられなかった。
そして諸々の準備を整えて探索に出かけた。
昨日同様に、魔物とは遭遇しないように隠れながらの行動を試みる。
見かける魔物はどれも一匹街に入っただけで、壊滅的被害を与えるような存在ばかりだった。
改めてこの森での自分の立ち位置を思い知らされる。
食物連鎖で下層に位置する生物はこれほどまでに無力なのかと、メリュジーヌは嫌というほど身をもって体験した。
ただの狼の魔物でさえあのザマだったのだ。
もしこの森の上位捕食者に出会えば、そう考えただけで背筋が冷える。
とにかく今は武器が欲しかった。
こんな森で短剣一本だけでは、心もとない。
せめてもう一つ武器があればと考えて、生産魔法で弓を作ってみた。
材料は頑丈な木の枝とツルを使用した。
「ふんっ! ぬぬぬぬ!」
弓の玄を引くが筋力が足りず、しっかり引き切ることができない。
そして矢を番えて撃つが一メートルも飛ばず、ほぼ目の前に落ちた。
「あああ! ダメだ……」
メリュジーヌが膝から崩れ落ちて、地面に両手を付く。
「大抵のことは努力なしでもある程度までならできるけど、力が足りないのはどうしようもないよ……。それに弓、難しすぎ……。流石のメリュでも練習なしだと、当てられない気がしてきた」
得意武器である片手直剣はここにはない。
短剣も使えなくはないが、リーチが短すぎる。
ピアノ線に限っては、使い道が釣り以外に思いつかなかった。
「これ振動させると切れ味があるみたいだけど、指に巻くから指ごと切れちゃう……どうしよう……」
ピアノ線を罠に使うにもこの森の魔物相手だと、まともに機能しないというのは試す前からわかってしまった。
探索を進めながら武器問題を考えていると、化け物のような魔物が視界に入り、慌てて茂みにしゃがんで身を隠した。
(な、何あれ。見たことない。形状はカマキリみたいだけど、色々混じってる)
見た目はカマキリだが、まるで竜のような体をしていて首の様に見える部分が人の胴体の様な形をしたなんとも気持ち悪い魔物だった。
その異形の姿にメリュジーヌの心臓が、不気味さとそこから感じる恐怖で高鳴った。
(お願い早くどっか行って。お願いお願いお願い!)
気配を殺し、とにかく自然の一部に徹する。
もしも見つかれば確実に死ぬと本能が叫ぶ。
呼吸が乱れるが、とにかく平静を装って必死で呼吸を整える。
それからしばらくが経ち、葉の隙間からカマキリがいた場所を確認すると居なくなっていた。
「すぅぅはぁぁ……よかった、行ったみたい」
魔物に見つからず、安堵感から息を深く吸って吐き、もしもを考えるだけで身震いしてしまう。
「戻ってこないうちに早くここを――!?」
メリュジーヌは自身の後ろで草葉は擦れる音を聞いた瞬間、嫌な予感を覚えて咄嗟に前方へ飛び込むようにして逃げる。
直後に大鎌がメリュジーヌがいた場所に振り下ろされた。
「いつの間に!? さっきまでいなかったじゃん!!」
カマキリの擬態と隠密行動の能力は、その巨体でも健在だった。
逃げられないと悟るのと同時に、勝つこともできないと直感してしまった。
その絶望を押し殺し、必死で生きる残る手立てを考える。
「ファイヤーボール!!」
無詠唱による一撃。
効果がないのはわかっていた。
それでも目くらましにはなる。
その間に逃げようとした時だった。
大鎌にメリュジーヌは左脚の脹脛を貫かれ、盛大に転んだ。
「あああああああぁぁぁああ!!!」
想像を絶するような痛みがメリュジーヌを襲う。
あまりの痛みに油断したら意識を奪われそうで、その痛みに耐えきれず、メリュジーヌは漏らしてしまう。
そんな失態に恥ずかしがっている暇はなかった。
「痛い痛い痛い痛い!」
大粒の涙が溢れ出る。
呼吸が乱れ、まともな思考ができる自信がない。
痛みを必死で堪え、短剣を抜いて鎌に斬りつけるが、傷一つつけることはできなかった。
何度も何度も斬りつけるが意味がない。
もう一本の鎌を振り上げられ、やばいと感じるとダメ元で再び”ファイヤーボール”を放つ。
すると、運よく眼球に当たり、カマキリが一瞬怯む。
その隙に貫かれた脹脛を引き裂きながら絶叫し、再び漏らしながら脱出した。
左足は血まみれになって裂けていて、走るなんて出きるはずもない。
だが、逃げる以外に選択肢はない。
正面からやって、どうこうなる相手ではないのはバカでもわかる。
「痛い痛い痛いよ! なんでなんでメリュばかり! こんな目に合わないといけないの……。死にたくない死にたくないよ」
その声は弱々しかった。
そこには、もう命が枯れるような儚さがあった。
必死に逃げるが、カマキリに追いつかれしまう。
奴にとっての一歩は、メリュジーヌにとっての数十歩だった。
痛みでふらついて、その体重を左脚で支えることができずに倒れてしまった。
しかし、その偶然がカマキリの一振りを避けることになったのだ。
もう先はない。
死を覚悟し、受け入れたとき一瞬だがとても長い走馬灯を見ることになるのだった。
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