第4話 追放と絶望3
あれから数日が過ぎた。
この短い時間でメリュジーヌは、周りに不信感を抱くようになっていた。
なぜなら日に日にメリュジーヌに向けられる視線が冷たくなって行ったからだ。
スキルのせいだとメリュジーヌは直感的に理解していた。
そして本で読んだ限り、傀儡魔法に良い記述はなかった。
むしろ、後ろめたいことや人を操る忌避すべき魔法などとも書かれていた。
まるで、誰かが傀儡魔法を広めたくないからそう書いたのではないかと疑ってしまうほどに。
自分の置かれている状況を理解するほど、違和感と疑念が募っていくばかりだった。
それは昨日まで仲が良かった人全員が、いきなり自分にそこまで冷たい視線を向けることができるのか。
そう思っても仕方がなかった。
それが現実から逃げようとしているからこそ生まれる思考なのでは思ってしまう。
さらに日が経つと、メリュジーヌは周りに陰口や罵倒され始めた。
これは幻覚で幻聴なのではないかと思いたくなるほどだ。
それは屋敷の人間も例外ではない。
家族さえ味方ではなくなってしまい、メリュジーヌは部屋に引きこもるようになった。
部屋から出るのは最低限のことをする時のみ、それ以外はずっと人形遊びをしたりスキルの練習をする日々が続いた。
引きこもりは天真爛漫な彼女にとっては暇すぎた。
新手の嫌がらせではないかと思えるほどに。
図書室からスキルに関係する本や医学書など、暇を潰せる物を持ってきては、読み漁る日々が続く。
部屋にいるのが辛くなると、夜中に抜け出して庭で剣術の稽古を一人で行った。
誰も味方などいない。
居るのは自分と大切な人形とぬいぐるみたちだけだ。
そう思うようになると、少しだけ気持ちが楽になったように感じた。
毎日、決まった時間にアレクがお茶とお菓子を持ってきてくれる。
彼からは不思議と今まで感じていた不信感を感じない。
彼女にとって唯一の味方と言ってもいい存在に感じていた。
わざわざこんな自分のためにスキルの調律を行ってくれることに、感謝の念が絶えなかった。
いつか必ずお礼をしようと決めて、今の不甲斐ない自分を変えるために、スキルの理解を深めることを改めて決意するのだった。
「あの子、大丈夫かしら? ずっと部屋に籠っているみたいだし、最近では目にクマができているように見えるわ」
「やはりスキルのことがよほどショックだったみたいだな。メリュジーヌには辛いだろうが、このまま家に置いておくわけにもいかない」
「そうね。ただでさえ社会的に忌避される傀儡魔法のスキルを貴族が持っているなんて他の家に知られれば、あの子にどんなことをされるかわからないもの」
「ここはメリュジーヌの為に、追い出すしかないだろう」
「あの子も大きくなればきっとわかってくれるわ」
辛そうにしているクリスにエレナが優しく肩を抱いて、胸に抱き寄せた。
その気持ちを二人で分かつために。
翌日、メリュジーヌは父クリスに呼ばれ、嫌々部屋を出て彼の執務室に向う。
(やっぱりみんなメリュのことをよく思ってないのかな? なんでいきなり嫌いになっちゃたのかな……)
周りの視線が辛くなり、使用人の声が全て罵倒されているように聞こえる。
地獄のような状況に、メリュジーヌは必死で涙を堪えてワンピースの裾を強く握った。
(昔に戻りたい。スキル鑑定なんてしなければよかった。なんで! なんで!! あんなに楽しみにしたの!! こんなことになるなら、いつもみたいにサボればよかったのにぃ!!! …………)
どんなに悔やんでも過去は変わらない。
一歩進むごとに後悔が襲ってくる。
その辛さに押しつぶされそうだ。
もう楽になりたいと何度も思ったことか。
(メリュが生きてる意味はあるの? 傀儡魔法なんて人を操るための最悪の魔法……なんでこんな忌避される魔法が……。メリュはただ、お人形さんをまるで生きてるみたいに動かしたかっただけなのに……)
知れば知るほど傀儡魔法が自分が思っていた魔法とは違い、絶望に押し殺されてしまいそうだった。
人を操る魔法なんて望んでいない。
変えられるのなら変えたいぐらいだと思ってしまう。
(ごめんなさいって謝れば、みんな許してくれるかな。元に戻ってくれるよね? だって、我儘だったメリュに怒ってるからみんな意地悪するんでしょ)
答えは分かっていた。
わかっていたが思わずにはいられなかった。
そうでも思っていないと、自分が自分じゃなくなってしまいそうだったから……。
もう元には戻らない。
その事実を受け入れるには、メリュジーヌはまだ子供すぎたのだ。
「……着いた」
メリュジーヌが小さくそして力なく呟き、ドアノブに伸ばした手が震えている。
入るのが怖かった。
何を言われるのか、わかっていたからだ。
それでも、もしかしたらと思ってしまう自分が嫌になりながらも人の性には逆らえない。
希望がないというのがわかっていても、ほんの少しの希望を持ってしまう。
それがより深い絶望になるとしてもだ。
複雑な気持ちを胸にメリュジーヌは、抱いているぬいぐるみを力強く抱きしめると、意を決して執務室の扉を開いて中に入った。
中にはクリスとエレナ、そして次期当主のリアスがメリュジーヌを待っていた。
怯えながらもメリュジーヌは、クリスの鋭い目を見る。
「はぁ、まったくなぜこんな者が我が家に生まれてしまったのだ。傀儡魔法など貴族の恥でしかない!」
落胆の声と浴びせられる怒声。
メリュジーヌはそれに当てられ萎縮してしまう。
胸の奥が痛くて苦しい。
そんな思いを必死に押し殺す。
「あなたなんて生むんじゃなかったわ。家を没落させかねない汚点なんて早く消えてしまいなさい!! 親孝行すらできない親不孝者!」
「こんな妹をもって俺も不幸でしかない。もう少しはアリサたちみたいな真っ当なスキルでも持ってみろよ。はぁぁ。次期当主候補としてお前に命じる。二度と家名を名乗るな! この家の出だと知られることも許さん!! これは父さんの意見でもある」
家族くらいはもしかしたら味方かも知れないと言う淡い期待は叶うことはなかった。
むしろもっと最悪な形になってしまった。
家族だと思っていた自分が馬鹿みたいに思える。
あの頃から自分のことを家族としてすら見てもらえていなかったことに絶望を感じるのと同時に、頭の中で何かに亀裂が入るような音がした気がする。
メリュジーヌはその辛さに体を震わせて、ぬいぐるみを抱く腕の力が強くなる。
視界が歪み、息ができない。
必死に現実から逃げようとしても、家族からの罵声が現実に引き戻してくる。
その顔は絶望に歪むことはことなく、ポーカーフェイスとまではいかないが、それでも平静を装っていた。
今、弱みを見せれば何をされるかわからない。
そんな思いとそれを悟った本能がさせた行動だった。
「本当なら貴様を処分している処だが、これでも一応は娘だ。温情としてこの家からの追放を命じる! 二度と顔を見せるな! そしてこの屋敷の敷地を超えることも許さん。もし破れば次こそはその命ないものと思え。期限は一週間だ。それまでに家を出ろ! 送迎はアレクにさせる。好きな場所にでも送ってもらえ出来損ない。話は以上だ。さっと失せろ! ……言い忘れていた。民にはバレるなよ。追放者がでたなどこの家の名に泥が付くからな」
頭から血の気が引いていくのを感じる。
(ダメ! ダメ! まだ……まだ耐えないと……)
必死に溢れだしそうな物を堪える。
「今までありがとうございました」
メリュジーヌはお礼を言うとそのまま執務室を後にした。
扉を閉めると堪えていた物が溢れだし、泣きながら自室まで走っていく。
その背中は悲壮感に満ちていた。
そして四日後、メリュジーヌは家族の冷たい視線を受けながら、アレクが御者をする馬車に乗って屋敷を後にするのだった。
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