第22話 傀儡士、パーティーを組む
それから一か月が経った。
メイの商売も少しずつ軌道に乗り始め、宿の一室には商品用の荷物が増えていた。
そしてヴァレリアは毎日のように複数の依頼を同時に受けていると、冒険者にも顔を覚えられ、今では軽く声を掛けられるようになり、気が付くとEランクに昇級していた。
これでやっとダンジョンに潜れるようになった。
本でしか読んだことがなく、自分とは縁遠いものだと思っていたものが目の前にある。
もし昔の自分が聞いたら、飛び跳ねて喜んでいたのだろうなと思いながらヴァレリアは今日も朝から掲示板に貼られた新しい依頼書に目を通していた。
最近はゴブリンの討伐依頼が多く出されている。
これも少し前のコマンダーの仕業なのかとも考えていたが根拠がなく、その考えを振り払った。
結局、今日までコマンダーは見つからなかったからだ。
そして掲示板の端にダンジョン探索の受注書があるのに気が付いて目を通す。
「最低でも四人パーティーか……報酬は良いけど相手がいない」
ヴァレリアが受注条件を満たせていないことに気が付き落胆していると、近くが何やら少し騒がしいのに気が付いた。
「すみません。あたしとパーティーを組んでくれませんか?」
「悪いな。俺のとこはもう定員なんだ」
赤髪の少女が様々な人に話しかけては断られて、困っているように見えた。
彼女ほどの行動力があれば、自分もパーティーを組めるのかなとヴァレリアはふと考えてしまった。
昔の自分なら絶対にあっち側なんだろうな、と感じながらやや諦めた視線を送ってしまう。
彼女の行動に耳を傾けながら、ダンジョンの受注書を名残惜しそうに何度も見ながら依頼書を見ていると、後ろから一人の同年代の男性に声を掛けられた。
「さっきからダンジョンの依頼を見てるみたいだが、俺たちと組まないか?」
振り返るとそこには、男二人と女一人の三人組のパーティーがいた。
「いいの?」
「見た感じ前衛だろ。ちょうどフロントがもう一人欲しかったんだ。君さえ良ければなんだけどさ」
そのパーティーは女が弓を持っていて、男二人はタンクとアタッカーだった。
バランスが取れてはいるが、攻め手がもう一人欲しいのは事実なのだろうとヴァレリアは感じていた。
実際、ヴァレリアにとっても渡りに船で、断る理由が見つからない。
「わたしは別に構わないよ。むしろパーティーが組めなくて困ってたから」
「うっし決まりだな。……あとは魔導士かヒーラーがいればバランスが良くなるんだが」
「あんたねー欲張りすぎよ。私たちみたいな駆け出しと組んでくれる相手がいただけでも、運がよかったんだから」
リーダーの男が女に詰められて少し困った顔をしていると、先ほどの赤髪の少女が四人に声を掛けてきた。
「よければ、あたしともパーティーを組んでもらえませんか? 職業は錬金術士だから、支援は得意だよ」
小さく跳ねた癖毛にショートヘア、右側に三つ編みがあるのが特徴的で、彼女からはほんのりと薬草と薬品の香りがした。
そして腰のベルトには、何かの薬品が入っている試験管が数本刺さっている。
「俺は構わねーけど、お前らはどうだ?」
「私は構わないわよ」
「オレも同じくだ」
「わたしは皆の判断に従う」
全員の意見が一致し、赤髪の少女もパーティーに加わることになった。
五人は場所を移して、昼食を取りながら自己紹介をすることになった。
「わたしはヴァレリア。職業は……傀儡士で前衛をやってます」
少し言い淀むと、意を決して口に出した。
「へー傀儡士か。珍しいな! 俺はよくわからんがきっと強い! うん、そうに違いない」
「あんたのことバカだと思ってたけど、やっぱりバカだったのね」
「え? 酷くない? てか辛辣すぎなんだが!?」
なんとなくため息を吐いたのが、パーティーで斥候や罠解除を担っている金髪に紫の瞳をしている少女だ。
肩あてと胸当て、そして片腕に篭手を着けており、かなりの軽量スタイルである。
「はぁぁ。このバカは置いといて私はオフィリア。見ての通りの斥候探査士よ。そんでこっちのバカがうちのリーダー」
どこか腑に落ちない面持ちをしながら、パーティーリーダーの黒髪に碧眼の少年が口を開く。
「なんか解せない……まあいいか。パーティー”翡翠の猟犬”のリーダーをしてるノイジーだ。俺は戦士で前衛と陽動を担ってる。よろしく!」
パーティーでタンクを担い仲間を守っている緑の髪の少年が短く自己紹介をした。
「オレはタンクをやってるアレスだ。二人ともよろしく頼む」
そして最後に赤髪の少女の番だ。
「あたしはフィリス、フィリス・エフェメロス。錬金術士だから支援と採取は任せて」
一通りの自己紹介が済むと最初の話題に戻ってきた。
「そういえば傀儡士の人ってあたし初めて会った。まさか、こんなに可愛い子とは思わなかったよ~」
「……怖くないの? 錬金術士ならわたしの職がどういったものかも、本で読んだことあるんじゃない?」
「もちろん知ってるよ。でも、少なくともあたしは怖いとは思わないかな。錬金術士って職業は発想力が大事なの。こんな道具なら便利じゃないか、こんな薬ならもっといい効果を出せるんじゃないかって具合にね。だから知識は大切だけど、先入観を持っちゃいけないとあたしは思ってるんだ。だから、怖いよりも好奇心の方が勝っちゃうんだよ」
フィリスが明るい笑顔で微笑んだ。
「俺たちはその辺の事情には疎くてな。本とか読む機会がないから噂程度しか知らないんだ」
「そうそう。噂を真に受けるほど、馬鹿でもないしね。実際に見て確かめるのも冒険者の醍醐味でしょ」
「そんなわけでオレらも別に気にしてないから、ヴァレリアさんも気にしなくていい」
翡翠の猟犬のメンバーもフィリスと似たような意見だった。
ヴァレリアはそれを聞いて少しだけ安心する。
もしかしたら依頼どころじゃないことになるかも、という最悪なケースも考えていたからだ。
話がまとまった一行は、昼食を食べると連携の確認のために適当な討伐依頼を受けて街をあとにするのだった。
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