第21話 不穏な気配
翌日、ヴァレリアは早速依頼を受けて近くの森にゴブリンの討伐と薬草の採取に訪れていた。
そしてヴァレリアの傍らには糸でバラされ、剣で切られたゴブリンの死骸が転がっている。
「これでラスト。聞いてたより数が多かったけど、こんなものなのかな?」
依頼内容より十倍の数のゴブリンがいたが、ヴァレリアは冒険者の普通がわからず、これは当たり前のことなのだと思っていた。
そして残党がいないか確認するために、ゴブリンの小さな集落の中を探索する。
気配はないが捕まっている人間がいないか念の為も兼ねて入念に探索を行った。
しばらくの間、目的もなく歩いていると、集落の中でも頑丈そうな建物が目の前に現れた。
何があるのかはわからないが、少なくとも危険物ではないだろうと直感して躊躇なく扉を開ける。
扉はやや重く、歯切れの悪い音を立てながら開き、徐々に中に光が差し込んでいく。
中は薄暗く、埃っぽい空気が立ち込めている。
とりあえず視界を確保するために、腰につけているランタンに火を付けると、目の前に現れたのは古びた武器やお金などの財宝だった。
「これは……ゴブリンが集めたもの? でも、そこまでの知性はないって本には書いてあったけど……」
本の知識が役に立たないことがあるのは、死の森で嫌と言うほど味わってきた。
その経験がヴァレリアに疑問を与えるが、その答えを教えてくれる者は誰もいない。
さてどうしようかと歩いていると、普通の個体よりも大きめの足跡を見つける。
「この足跡、他のと比べて二回りくらい……ってことはやっぱり上位の個体が?」
ヴァレリアはランタンの明かりで、他の足跡を照らして確認して確信を持つ。
しかし、殺したゴブリンの中にそんな個体は居なかった。
「まだどこかにいるってことか」
意識を集中させて気配を探り、ランタンの明かりで周囲を照らしていくが、やはり小屋の中にはなにもいない。
それを確認すると留守にしていると判断し、ヴァレリアは戦利品と討伐証明部位を回収してゴブリンの死体を魔法で焼き払い、早々にその場を後にした。
街についたのは夕方頃だった。
一度メイの元に戻るか悩んだが、今回は報告する方が優先だと結論付けてそのままギルドに向かう。
そしてギルドに着くと依頼の達成報告と同時に集落のことも伝えた。
「――以上がわたしが見たものです」
「つまり上位個体ないしそれに近い存在ですか。ちょっと待ってくださいね」
受付嬢のナリアが机の下を漁って一冊の分厚い本を取り出して、該当のゴブリンのページを開く。
「こんな感じの足跡でしたか?」
「ん。それに近いかも。装備の跡もあったから断定は難しいかな」
「なるほど。では、こちらがゴブリンの足跡です。拡大すると大体ヴァレリアちゃんの言うくらいの大きさになります。」
ヴァレリアは、本に書かれた内容と現場で見たものを照らし合わせる。
ナリアが見せてくれた物も近いような気がするがそれでも、どこか違和感を覚えた。
その違和感が何なのかはわからない。
しかし、これではないという予感めいた何かを感じたのも事実なのだ。
そしていくつかページをめくると、とあるページでヴァレリアは手を止めた。
「これだ。わたしが見た足跡にそっくり」
「ホブゴブリン・コマンダーですか……これはまた厄介な個体ですね」
「厄介?」
「はい。ゴブリンコマンダーの上位互換的な存在なんですけど、下手をしたらキングなどの個体より強い場合があるんです。キングなどの個体は突然変異で発生することが多いのですが、純粋に戦闘経験を積んで進化した個体なんです」
「それは確かに厄介ですね」
「報告ありがとうございます。それと依頼内容についてこちらの不備で危険な目に遭わせてしまい申し訳ございません」
「気にしないで。わたしなら無事だから」
「そう言っていただけると助かります。こちら依頼報酬と謝礼金です。ご確認ください」
渡されたお金の金額を確認し、依頼金額と差異がないことを確認すると、ヴァレリアは財布の中にしまった。
「ん。たしかに」
「次の依頼も受けていかれますか?」
「ううん。明日の朝にまた見に来る」
「わかりました」
ヴァレリアはナリアに笑顔で見送られながら、ギルドを後にしたのだった。
そして宿に着く頃には、日は沈んで夜になっていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。初のお仕事はどうでしたか?」
「問題なかったよ。追加報酬も貰えた」
「ふふ、よかったです。メイも来週からお仕事できるようになりました」
そう言うとメイが一枚の紙をヴァレリアに見せた。
それは国が発行している営業許可書だった。
そして同時に商人ギルドの印も押されている。
つまりこれで名実ともにメイは商人になったのだ。
ヴァレリアがメイの頭をそっと撫でると、装備を外して大きく背伸びをする。
「お姉ちゃん、ご飯を食べに行きましょう」
「そうだね。わたしもお腹減った」
そう言ってヴァレリアたちは一階に降りて、宿の食事を楽しむのだった。
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