第19話 傀儡士、装備を整える
時間は戻り、ギルドを後にしたヴァレリア達は買い出しに出ていた。
「まとまったお金も入ったから武具を揃えに行くけど、メイも来る?」
「はい! メイもご一緒します。買い出しのついでに調理器具とかも揃えたいですから。そういえば鍛冶屋さんはもう決めてるんですか?」
「ん。知り合いの師匠がやってる鍛冶屋がちょうどこの街にある。ボロボロだけど、紹介状もこのとおり」
ヴァレリアが鞄から一枚の手紙を取り出した。
死の森で過ごしたせいで、紹介状がくたびれていた。
主に雨の影響が大きく、所々に乾いた跡がある。
「え、えーと年季が入ってますね」
「まあ、野ざらしだった期間もあるからね。仕方ない」
そんな話をしているとあっという間に目的の鍛冶屋に到着した。
話に聞いていた通り、人目に付きにくい路地裏にその店はあった。
看板には剣と槍が描かれている。
「多分ここ」
ヴァレリアは紹介状の裏に書かれた紋章と看板が一致していることを確認した。
「うう、ちょっと怖いです」
「大丈夫。何かあったらわたしが守ってあげる」
メイが裏路地の雰囲気に当てられて、少し怯えている。
そしてヴァレリアは躊躇なく店の扉を開けて中に入って行く。
最初に目に入ったのは、綺麗に陳列された武器と隅に無造作に捨てるように置かれている武器だった。
メイも店の中に入ると、さっきまでの雰囲気と打って変わって商人らしい雰囲気を纏い、商品を眺めながら目利きしていた。
「すみません。誰かいますか?」
「誰だ? うちは今、武器を売ってねーよ。さっさと出ていけ!」
太い男の声が奥から聞こえてくるのと同時に、金属を叩く音が一緒に響いてくる。
二人はよく自分たちの声が聞こえたなと感心しながら、店の武具を一通り見て回っていると、奥からドワーフの男が出てきた。
「気配がすると思ったらまだ居やがったか」
二人が女であることは、まったく気にしてない様子だ。
むしろ別の理由で苛立っているように思えた。
その理由が何かはわからないが、態度に出てしまうくらいには当人にとっては大切な物なのだろうとメイは感じていた。
「武器を売って欲しい。事情があって、使ってた武器を持ち主に返すことになったから」
「すまねーがさっきも言った通り、今は武器を売るつもりがない」
「なんでですか? メイが見るに、どれも素晴らしい一品です。あそこに雑に置かれているものでも、相場ならもっと良い値で売る事もできる物です。でも、なぜ売る気がないんですか?」
メイは率直に思った感想を口にしつつ、頑なに商品を売ろうとしないことに疑問を持った。
良い物があればそれを欲している人に届ける。
それがメイの商人としての在り方だった。
それ故かそれともまだ幼いが故か、職人魂をまだ察することができなかった。
「んなもん決まってるだろ。納得がいくもんを作れねーからだ。それができるまでは売る気はねーんだ」
「わたしも至急武器が必要なの」
「わざわざ来てもらったのに悪いが、他を当たってくれ」
「なら、せめてこれを読んで。紹介状はあるの」
「紹介状?」
店主が怪訝な顔をしながら、ヴァレリアが差し出したボロボロの紹介状を受け取った。
そして中に目を通して行く。
「なるほどな、あのバカ弟子の紹介か。それにしてもこれは本物か? あいつはプライドだけはたけーからな」
「そこはわたしを信じて欲しい」
ヴァレリアの空虚な瞳を見て、店主が大きなため息を混じりに口を開く。
「この店の店主のダリヤだ」
「わたしはヴァレリア。こっちが妹のメイ」
「メイリィ・ティリハです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。ったく……弟子の紹介なら無下にもできんな。好きなもん持ってけ。特注品は今度作ってやる。日を開けてからまた来てくれ」
「ありがとう。それで代金は?」
「いらねーよ。納得いかないもんを売る気もねーからな。どうしてもってんなら、嬢ちゃんたちで値段を決めてくれ」
ダリヤがカウンターに戻ると、まだ値札が付けられていない武器を選ぶ彼女たちをじっくりと観察する。
武器の選び方や持ち方、そして目利きのための動作。
それら一つ一つ丁寧に観察する。
それはダリヤにとって武器を作るに値するかの値踏みでもあった。
値段だけで性能を決めつけ、真に大事な部分である自分にあった物を選ぶかどうか。
それがダリヤの選定基準であり、実力など二の次だ。
過去には高い武器を買って行った者も当然いる。
しかし、彼らは高い技量をもって武器の癖を理解し、完璧に合わせることができるような者たちだった。
そしてヴァレリアは、いくつか武器を構えた中で手に馴染む片手剣を二本と投擲用の小型ナイフを数本選び、さらに防具はチェストプレートと籠手を選んだ。
本音を言うとドレスアーマーと糸からのダメージを軽減するものが欲しかったが、条件を満たす物が無くて断念した。
「これ一式ください」
軽戦士の一式装備を目の前に置かれ、ダリヤはヴァレリアの戦闘スタイルを大まかに理解した。
「これくらいの値段でどう?」
ヴァレリアが金貨と銀貨を置いた。
これでも元貴族であり、値段の目利きくらいはできると自負していた。
装備の品質やそれを作るまでの過程、そして材料費を考慮して、これくらいが適正だろうとヴァレリアは判断した。
そして職人が作るものに対しての敬意もそこに加わっていた。
メイも少し割高とは思いつつも、この店の良質な武具にはこれくらいの価値があると感じ、ヴァレリアの判断に従うことにした。
もしも、相場以上の金額をヴァレリアが提示すれば、それを止めようと思っていたのも事実である。
「出来損ないにこんな大金つけるんじゃねーよ。銀貨四枚でいい」
ダリヤが残りのお金を突き返した。
本当なら全て突き返すつもりだったが、ヴァレリアの職人に対する態度や命を預ける物への扱い方を見て、そんな不誠実なことはできないと感じたからだ。
「ホントにいいの?」
「ああ、構わん構わん。思うところがあるなら、嬢ちゃんがホントに欲しがってるもんが無かった詫びとでも思っておいてくれ」
「……ん、ありがと。また来る」
「そん時は特注品を作ってやる。要望をまとめてこい」
「わかった」
ヴァレリアとメイが店を出て行くのを見送ると、ダリヤは再び工房に戻っていく。
「にしても傀儡士か。このご時世だと生きづらい職業だな。見た感じ糸と剣が主体って感じか。はっ! 根っからの人形好きだなありゃ。さて、イッチョ作ってみっか」
ダリヤは思いついた物を形にするために再び槌を握り、鉄を鍛え始めるのだった。
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