第18話 ギルドマスターとの邂逅
応接室に到着した。
受付嬢が扉を開け、一行を中へ案内すると筋骨隆々の赤髪の男が座っていた。
「おう! 来たか。適当に座ってくれ」
男の言葉に従い、ヴァレリアとメイがソファーに腰かけ、男の隣に受付嬢が座った。
「話は聞いてる。俺が冒険者ギルド、アラナン支部のギルドマスター、ヴァン・アッシュクロフトだ。よろしくな嬢ちゃんたち」
「よろしくお願いします。メイはメイリィ・ティリハと言います。こちらがメイのお姉ちゃんです」
「わたしはヴァレリア。よろしくギルドマスター」
互いに自己紹介を済ませると本題へと移る。
「さて、さっそく本題と行こうか。お前さんが持って帰ってきた冒険者の遺品についてだ。冒険者ギルドの一角を担うもんとして、粗末にできない問題でな」
「わたしも早くこれを遺族に返してあげたいと思ってた」
そういうとヴァレリアが立ち上がり、装備している剣や胸当て、籠手にポーチと次々と外していく。
そしてマジックポーチとバッグから、今までに回収した冒険者の遺品やギルドカード、冒険者プレートを取り出して並べていく。
律儀にもどれがどの冒険者の遺品なのか全て覚えており、セットになるように綺麗にまとめ上げる。
机に数人分の遺品が並べられ、受付嬢とギルドマスターが一つずつ確認していく。
そのどれもがずっと帰ってくることがなく、安否不明になっていた高ランク冒険者のものだった。
殺害して奪い取ったのではという考えが脳裏を過るが、ヴァレリアの実力でそれが可能なのかとも思ってしまう。
なにより、ご丁寧に遺品を届けることなんてありえない。
それはお金が入っている袋が物語っていた。
金銭目的なら絶対に残っていない物だからだ。
全員分では無いのは気になるが、それでも白と結論付けて問題ないとギルドマスターは判断した。
「これらはどこで見つけたんだ」
錆びたり、刃こぼれしている武具を指さしながらギルドマスターが問う。
その問いにヴァレリアは、何も感じることなくありのままを口にした。
「死の森」
「「死の森!?」」
メイも薄々は感づいていたけど、実際に口に出されると驚きを隠せなかった。
そんな驚く一行に何の反応も示さずにヴァレリアは続ける。
「うん、そうだよ。詳しい場所は、森に入らないとわからないけど、何人かはこの地図を使えばわかるよ。ただ、そこに載ってない範囲は、口では上手く説明できない」
「待て待て待て!? あの森で生き残ったって言いたいのか?」
「そうだけど?」
ヴァレリアが不思議そうに首を傾げた。
「ありえません! 子供があの森で生きて生還するなんて!!」
「なら、これを見れば納得してくれる?」
そう言って、常用していたマジックバッグから三年間で集め、厳選して回収した魔物の素材を全て取り出した。
「こ、これはレイジウルフの狂犬歯!? こっちは――」
受付嬢が驚きのあまり声を荒げた。
「これは全部一人でやったのか?」
「そうだよ。解体も初めてだったから上手くできた自信はない……あー、もしかしてまだ証拠が足りないってこと? なら、体を見る? ギルドマスターほどの人ならわかると思う」
まずは疑いを解くためにヴァレリアは躊躇なく服を脱ぎ始めると、受付嬢とメイが慌てて止めたことで未遂で終わる。
しかし、そこまでやろうとする素直さにギルドマスターの目からは疑念がなくなっていた。
「わかった。話を進めるために、とりあえずその言葉を信じるとしよう。これらの遺品の取扱いと素材の買取について話し合おうか」
ヴァレリアはギルドマスターと遺品の取り扱いについて話を始めた。
ギルドマスターと意見は一致していたおかげで、遺品は全て遺族へ返却する方向で話し合いは決着した。
そして素材の買取についての話は、全てメイに一任した。
見習い商人とは思えない交渉で、どんどん金額が上がっていくのにヴァレリアは素直に驚いた。
舐めていたギルドマスターと受付嬢の顔色がころころ変わっていく。
値段を吹っ掛けたり、ギルドの事情を知っているからこそ、相手が困るカードをチラつかせたりしていた。
交渉を通してギルド側の財源をおおまかに予測し、メイは出せる限界を探りながら交渉を進めていった。
メイは相手にもメリットを残して、そこを妥協点に持っていこうとしたが上手く話が進んでいき、逆にギルド側に妥協させることで、自分たちが最大の利益を得ることができた。
「結局いいようにやられた気がするぜ」
「だから、副ギルドマスターを呼びましょうと言ったんです」
二人はこってりと絞り取られたせいで、顔がやややつれているように見える。
「ヴァンさん、書面にまとめて頂けませんか? メイも後々、主張に齟齬が出てしまうのは不本意ですし、そうなれば互いの看板に泥を塗ってしまいます」
「そうだな。シア、書類の作成を頼む。その間に俺は買い取った素材をまとめておく」
「かしこまりました」
シアと呼ばれた受付嬢が一礼して、応接を後にするとヴァンが遺品と買い取った素材を綺麗にまとめていた。
その光景にメイとヴァレリアの二人は、ガタイがいいヴァンが細かい作業をしていることに少々驚くのであった。
それからメイが書面に同意のサインを書くと、ヴァレリアが代金とギルドカードを受け取った。
「あれ? ランクが一番下のGじゃないんだ」
「ああ、それな。死の森からの生還とレイジから評価を聞いての判断だ。有能な人材を遊ばせておくほどギルドも暇じゃねーんだ」
「いいの? 自分で言うのもあれだけど、わたしは傀儡士だよ」
「……あーそういうことか。少なくとも俺は能力と人柄で判断する質でな。世間がどうこう言おうと俺が見た物が正義だ。それ以上でも以下でもねー。だから、ヴァレリアお前は問題ないと俺が判断した。これで納得できるか?」
「ん。それなら……そう言う事にしておく」
お互いに腹の探り合いをしても良いことはないと判断して話を切り上げた。
そして二人はギルドを後にするのだった。
時間は少し進んでその日の夕暮れ、一人の青髪の女性がヴァンに抗議していた。
「――私は反対です! なぜ傀儡魔法の所持者を加入させたんですか!? ギルドマスター、あなたも知っているでしょう! あれは人を操るための魔法なんですよ!? まさか!? もうすでに操られているのですか?」
「俺は彼女と直接会ってその心配はないと判断しただけだ。現に使える人材を手放すのもギルドとしては損失だろ」
「それはそうですが……それでも――」
「それなら調査は全面的にお前に一任する。疑念の目がある方が、詳しく調べられるだろ。こっちもこっちで調査は進めるつもりだ」
「すでに調査を……わかりました。こちらでは詳しい裏取りを行っていきます」
「任せたぞ。……彼女の存在が吉と出ることを祈るとするか。はぁぁ、まったく面倒が増えやがった」
ヴァンがため息を吐きながら、窓から夕暮れ時の空を見上げた。
赤く染まった空が、夜の訪れを告げているかのようだった。
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