第16話 冒険者登録試験1
道中、受付嬢と世間話をしているとすぐに地下訓練場に到着した。
すると、訓練場の奥にいる一人の男性が手を振って合図を出す。
「お、来た来た。冒険者登録を希望してるのは嬢ちゃんだよな? 流石にそっちの嬢ちゃんではないと思ってるけどさ」
男性がメイの方に視線を向けると、メイが首を横に振る。
「わたしが登録を希望してる」
「よかった。さすがに小さい子に剣を向けるのはな」
「わたしも小さい」
「ははは! そんな雰囲気を纏っておいてよく言うぜ」
ヴァレリアは、死の森での経験でいつでも即座に戦闘行動に移行できるように、普段の何気ない状態からでも糸による素早い迎撃や剣を抜けるように無意識的に立ち振る舞っていた。
男はそれを感じ取っていたのだ。
「レイジさん、初対面の方に失礼ですよ」
「はは、悪い悪い」
受付嬢に注意されてレイジが謝ると、ヴァレリアたちへと視線を移した。
「実技試験の試験官を担当する。Aランク冒険者のレイジだ。よろしく頼む」
「受験者のヴァレリアだよ。よろしく」
「んじゃ、問答する前にとっとと始めるか。ルールは簡単、どちらかの降参もしくは急所への寸止めだ。そこにある好きな武器を使ってくれ」
「一つ質問。自分のスキルを活かすための自前の武器はあり?」
「ああ、問題ない。ただし互いに怪我はあっても殺すのはなしだ」
「ん」
ヴァレリアは短く返すと、ポーチやナイフと言った森で死んだ冒険者の装備を壊さないようにするために外し、準備されている訓練用の剣を二本腰に装備した。
互いに距離を取って武器を構える。
ヴァレリアは、糸を活かすために剣を一本だけ鞘から抜いて右手で構えた。
互いに準備ができたのを確認すると、レイジが受付嬢に視線を送って合図を出す。
「では、僭越ながら私が審判を行います。……それでは始め!!」
開始の合図と共に両者が同時に動いた。
レイジが即座にファイヤーランスの魔法で攻撃を仕掛け、それを読んでいたヴァレリアが回避をした。
そしてヴァレリアが距離を詰めるために、ファイヤーボールを放つと予想通り迎撃されて爆発すると、爆炎に身を隠して一気に間合いを縮め、両者ともに剣の間合いに入り、ヴァレリアの攻撃をレイジは難なく剣で受け止めた。
「Aランク、やっぱり強い」
「こっちのセリフだな。ヴァレリアも大概の強さだぜ」
鍔迫り合いになり、両者とも剣を両手で握って力を込める。
やっぱり力押しじゃ、私が不利か。
それなら……。
じりじりと力負けして押されていると、ヴァレリアはあえて体勢を崩してレイジの剣を受け流すと、力を抜いていた左手で剣の軌道を無理やり修正してレイジの首を狙ったが、完全に読まれておりギリギリの所で回避された。
「その歳にしてはずいぶんと野性的な戦い方だな」
「素直に戦えない相手ばかりだったからね」
小細工が多いヴァレリアの戦い方にレイジは驚いていた。
素直に正面から攻撃したり、技をぶつけるのではなく、フェイントや視線誘導で攻撃を読ませないようにして足蹴りなど、到底この歳の子供が覚えるものではなかった。
しかし、その分技の熟練度が低く、レイジはそこに違和感を感じていた。
(なんだ? この違和感は。ここまでできる奴なのに技がお粗末な時がある。型自体は綺麗なんだけどな)
生きるために覚えた戦術と本来先に覚えるべき技を逆で覚えた結果だと言うことは、この時のレイジには知る術がなかった。
それからも攻防が続くが、ヴァレリアが押され始めた。
(攻撃が読まれ始めた。さすがAランク。ここまで実力差があるなんて)
死の森で生存したことで技には多少なりとも自信はあったが、上には上がいることを痛感した。
だが、ヴァレリアはまだ初級魔法と剣術しか見せていなかった。
レイジの攻撃をわざと受けて剣を弾かせる。
そして即座に二本目の剣を抜刀して追撃を受け止めた。
「危ない危ない」
「危なげなく受けといてよく言うぜ」
ヴァレリアはそのまま力を込めて両手で剣を握って、斜め下に薙ぎ払うように受け流した。
そしてその勢いを使って糸に勢いをつけると、こっそり糸で回収していた弾かれた剣がレイジ目掛けて背後から忍び寄る。
「? ……糸?」
レイジがヴァレリアの指の付け根から張られた糸に気が付いた。
そして試験開始前のヴァレリアの言葉を思い出す。
(――スキルを活かすための自前の武器はあり?)
唐突に思い出したその言葉に違和感を持つ。
何かを見落としている気がしてならなかった。
「!? まさか!」
驚きの言葉がつい漏れてしまう。
そして目尻で一瞬背後を確認すると、迫っている剣に気が付いた。
即座に火属性の魔法を使って剣を弾き飛ばす。
「しま――!?」
ヴァレリアは弾き返された勢いに負け、左腕を引っ張られてしまった。
すぐに剣を捨て、糸を回収する。
その間の隙を消す為に、左腕の勢いを利用して左回転で剣を振るって牽制した。
「よく気づいたね。この糸、かなり細くて見えにくいはずなのに」
「運がよかっただけだ。お前さんが最初に言った言葉と、光の加減がいい塩梅に重ならなかったら気づけなかった」
ヴァレリアは内心「よく言う」と思いながら剣を構えなおす。
遅かれ早かれ対応されていたであろうことは、ここまでの攻防を通してわかっていた。
Aランク冒険者がこれくらいの細工でどうこうできるわけなどない。
それは過去に見た彼らの技量を知っているから感じるものだった。
それからも糸で拘束したり、動きを阻害して遅らせたりするが全て対応された。
踏んだ場数の違いがここに来て顕著に出始めた。
そして何より地力の差が大きかった。
圧倒的な筋力と体格の差で糸の拘束が十分ではないのと、ルールによる殺害禁止のせいで本来の運用ができないことが戦況を悪い方へと転がしていった。
明らかに反応が間に合わない攻撃が来た。
どう足掻いてもこれで決まる。
両者がそう思い、決着を予期した。
しかし、ヴァレリアはふと思った。
ここで負けても別にいい。
だけど、今の自分がどの程度の実力なのか知っておきたい。
その思いはこれから歩む道の試金石になるような気がしたからだ。
そしてヴァレリアは、自分が使える唯一強力な魔法を使う。
「――オーダーマリオネット」
傀儡の魔法を使った瞬間、ヴァレリアの動きが変わるのだった。
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