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傀儡魔法は不吉だと忌避されるので極めようと思います。  作者: 暁ユウ


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第12話 少女との出会い

 商人の馬車が盗賊に襲われていた。


「――逃げ……」


 母親らしい人物が娘に手を伸ばしたが、盗賊の男が容赦なく頭部に剣を突き刺した。

 女性の体が一瞬痙攣して絶命する様を、盗賊は楽しそうな笑みを浮かべながら見ている。


「俺は子持ちの女には興味ねーんだ。悪いな」

「大事な商品を殺すな馬鹿野郎」

「いいだろー。こっちの方が高値が付きそうなんだからよ」


 盗賊たちが嘲笑している傍らで、力なく座り込んだ幼い少女が身を震わせながら母親の方へ手を伸ばす。

 

「マ、ママ……パパ? 返事をして……ねぇ……」

「ははは! お前のパパとママは死んだよ!」


 盗賊が大声で言うと冷たくなった少女の父親を蹴り飛ばした。

 絶望する少女の顔を、盗賊の男が嬉しそうに笑う。


「ああクソッ! いい表情しやがるじゃねーか。ああ! 達するぜ! 達しちまう!」


 盗賊団の中で一番の異常者が、自分の興奮を隠さずに喜んでいる。


「この変態が! こんなガキに欲情するなんてよ」

「「ハハハハハ」」


 盗賊たちの笑い声が響く。

 それは少女にとって悪魔の嘲笑に見えた。

 盗賊が一歩少女に近づくと、少女は後ろに後ずさる。


「ほ~ら、次はお前の番だぞー」


 盗賊の一人がナイフを舐めると、少女の首筋に当てて少しだけ引く。

 すると、少女の首筋から鮮血が溢れ出し、重力に従って伝い落ち行った。


「こいつ糞を漏らしやがったぞ。ククク」


 盗賊たちがあざ笑うようにそして舐めるような視線を少女に送る。

 そんな部下を見て盗賊の頭はため息を吐いて呆れていた。


「ったく。俺の盗賊団には変態しかいねーのか。……てめぇーら、撤収だ。そのガキと金目のもん持ってずらかるぞ」

「一発キメてもいいですか?」

「勝手にしろ。ただし壊すなよ大事な商品だ」

「やっほー! やったぜ!!」


 喜んでいる盗賊に冷静な盗賊が声を掛ける。


「ここは死の森からも近い。楽しむのはアジトに戻ってからにしてくださいよ」

「わーってる。流石にここじゃリスクがたけーからな。とは言え――」


 盗賊の男が頭から許可が出て嬉しそうに少女に近づいていく。

 そして撫で回すような視線で体中を見ると、少女の下半身に手を当てて体のラインに沿って撫で上げていく。


「ははは、たまらねーな。……おら立て! んでついてこい!」

「きゃっ! い、いや! 放してください!」

「ダメ……だ……?」


 いきなり力が入らなくなった右手に視線を送ると、手首から先がなくなっていた。

 噴き出した鮮血と同時に男が絶叫が響く。


「なんとか間に合った……とは言い難いか」


 メリュジーヌが辺りの惨状を見て言い直した。

 状況は言われなくてもすぐにわかった。

 目の前で絶叫している男を糸による攻撃で、一瞬でサイコロステーキに変える。

 そして流れるような動きで、剣を抜くと近くの盗賊を両断して迎撃してきた盗賊の攻撃を回避して心臓に剣を突き刺して、ゆっくりと剣を引き抜いた。

 噴き出す鮮血。

 それを浴びてまるでトマトのように赤く体を染める少女。

 そしてメリュジーヌは無表情で何の感情も籠っていない目を盗賊に向ける。


「残り八人……いや九人」


 後ろから襲おうしてきた盗賊の頭部目掛けてナイフを投擲した。


「これで八人」


 無感情の目に睨まれ、盗賊の一人が怯んだ。

 

「な、なんなんだよ!?」

「何でもいいだろ。良い商品が向こうから来てくれたんだからよ。野郎ども追加の仕入だ! とっとと仕入れて帰るぞ!!」

「「おおー!!」」


 一斉に盗賊が襲い掛かってくる。

 盗賊の一撃を糸で受け止めると、糸で剣を絡め取って無防備になったところを自分の剣で両断した。

 そして奪い取った剣を糸で絡めたまま近くの盗賊の首を斬り、噴き出る血で苦しんでいるところに、糸を振り上げて勢い良く振り下ろして頭部に奪った剣を突き刺した。


「残り六」

「化け物が!!」


 メリュジーヌは大振りの一撃を難なく回避すると、すれ違いざまに心臓を刺し斬った。

 さらに糸を横に勢い良く振って二人まとめてバラバラにする。

 剣と糸による隙のない攻撃に盗賊は成す術がない。

 一人、また一人と確実に殺されていき、盗賊の頭だけが残る。


「降伏するなら痛みなく殺してあげる。どうする?」

「降服する! 降伏するから! た、頼む命だけは見逃してくれ、いや、ください」

「そうやって命乞いする人をあなたは一人でも見逃したの?」

「み、みのがし……!? あああああ!!!」


 メリュジーヌは容赦なく男の片足を糸で斬り飛ばした。

 盗賊の言葉など聞く必要がない。

 略奪を生業とするなら命を略奪されても文句は言えないはずだ。

 そして感情が壊れてしまったメリュジーヌにとって、盗賊の言葉など実際のところどうでもよかった。

 ほんの少しだけ残っていた貴族としての矜持に従って、男を殺そうとしていた。

 何の感情も宿っていない虚ろなその目は、盗賊の恐怖心をかき乱した。

 残った足を斬り飛ばし、肢体をバラバラにして殺そうとした時だった。

 森から強力な魔物が近づいてくるのに気が付くと、メリュジーヌは恐怖で怯えている少女を抱きかかえて咄嗟に壊れた馬車の下に滑り込むようにして隠れた。

 少女が驚いて声を出そうとした時、メリュジーヌは腿の上に少女を座らせて口を手で押さえると、少女の口元で空いている手で人差し指を立る。

 少女はすぐにその意図を汲み取ると、コクコクと小さく頷いて自分の口を押さえた。


「なんだ? へへ、今のうちに……」


 片足を失った盗賊の男が、地面を這いながら必死にその場を離れようとした。

 しかし、もうすでに遅かった。

 猛獣のような唸り声が聞こえるのと同時に、壊れた馬車の上に重く大きい何かが飛び乗った。

 ミシミシと壊れた馬車は軋み、今にも押しつぶされそうだった。

 大きな四足歩行の魔物が盗賊の男を見据えている。

 その恐怖に負けて男は失禁しながらメリュジーヌたちの方を見る。


「た、たすけてくれ!! なんでもす――」


 盗賊の男は言い切る前に生きたまま魔物に喰われた。

 何かがちぎれる音や骨が砕ける音、そして男の断末魔が響く。

 メリュジーヌは、それが聞こえないように、少女の耳を両手で塞いだのだった。


 男を喰い終わると魔物が涎を垂らしながら、唸り声と共に馬車の周りを歩いていた。

 メリュジーヌは、腿の当たりで温かいものが広がっていくのを感じ、震える少女をそっと抱き寄せると優しく頭を撫でる。

 そして腰に付けたポーチから強烈な植物の匂いがする液体が入った匂い瓶を出すと、キャップを取って自分たちの周囲に音が立たないように慎重に垂らしていく。


(まさか森の中で匂いを消すために使ってたのが、ここでも役に立つなんてね)


 どこで何が役に立つかわからないなと感じていた。

 そして目を瞑って震えている少女を、メリュジーヌは両手で優しく抱き寄せるのだった。


(もし見つかってもこの子だけは絶対に守る。私のような思いをさせない為に)


 メリュジーヌは自分の命を賭けてでも守ろうと誓った。

 しかし、それは杞憂だった。

 しばらくすると魔物は転がっている死体を食べてから、何処かに去っていったからだ。

 念には念を入れて気配がないのはわかっていても、メリュジーヌは外に転がっているガラス片に糸を巻き付けると器用に角度を変えながら外の状況をうかがった。


「もう目を開けてもいいよ。魔物はいなくなってるから」

「ほんとですか?」

「ん。大丈夫」


 メリュジーヌが先に出ると、少女がゆっくりとその後を追うように出てきた。


「!? パパ! ママ!」


 少女が安堵すると同時に、両親の安否を思い出して慌てた様子で二人の元に駆け寄った。

 しかし、現実は残酷だ。

 両親は既にこと切れて冷たくなり、魔物に食い漁られた無残な死体がそこにはあった。

 顔も食われていて、頭蓋がむき出しになっていたり、四分の一が無くなっていた。

 それを見た少女は、声にならない声を上げて大粒の涙を零す。

 後を追うようにやって来たメリュジーヌは、少女の両親の目を閉じると軽く祈りを捧げて大声で号泣する少女を抱き寄せて胸を貸した。

 

 しばらくすると少女は落ち着きを取り戻しつつあった。

 嗚咽は残りながらも涙を拭う。


「ゆっくりでいい。落ち着くまでは好きなだけこうしていていいよ」

「ありがとうございます。もう少しお胸を貸してください」


 メリュジーヌは、少女の頭を撫でるか少し迷いながらも結局伸ばした手を引っ込めずに頭を撫でることにした。


「落ち着いた?」

「はい。ありがとうございます、お姉ちゃん」

「なら良かった」


 メリュジーヌの言葉からは感情をあまり感じられず、瞳にも感情の色はなかった。

 それでも少女は、メリュジーヌが自分を心配してくれる優しい人なのだと直感する。


「場所を変えよう。また血の匂いに誘われて魔物が来るかもしれないから」

「……」


 俯く少女を見て、メリュジーヌは顎に手を当てて少し考え込んだ。

 少女の気持ちはわかるが、生存を優先するなら直ぐにでもこの場を後にした方がいい。

 しかし、合理性だけでは人は動かない。

 そのことも考えるとメリュジーヌは一つの案を少女に提案した。


「騎士団に報告へ行くまでの間、君の両親の遺体を埋めて魔物に食べられないようにするのはどう? そうすれば遺体を荒らされる可能性は低いと思うけど」

「……メイの我儘に付き合わせてしまってごめんなさい」

「気にしなくていい。乗りかかった船ってやつだよ」

「馬車の荷台にまだ使えるのがあるはずです。メイもお手伝いします」

「ありがと」


 メリュジーヌの言葉には、やはり感情が籠っていなかった。

 それでも少女にはメリュジーヌの思いはちゃんと伝わっている。


 メリュジーヌは少女に手伝ってもらい、数枚の布とスコップを壊れた馬車から取り出した。

 そして布を裁縫箱に入っている糸と針を使って縫い合わせていき、二枚の簡易的な死体袋が完成する。

 その中に少女の両親の遺体を入れると、道外れに穴を二つ掘ってその中に埋めて簡易的な墓を作った。


「騎士団に連絡したらしっかりしたお墓に埋めてあげよう」

「はい……ありがとうございます」

「じゃあ、行こうか」


 少女が小さく頷いた。


「その状態だと歩きずらいでしょ。ほら、おぶってあげる」

「だ、大丈夫です。今のメイを背負ったら服が汚れてしまいます」

「気にしなくていい。見ての通り、返り血で汚れてるし、服もボロボロだから」

「うう……お言葉に甘えさせてもらいます」


 少女が少し顔を赤くしながら、メリュジーヌの背中に手をかけた。

 そしてメリュジーヌが少女を背負い上げると持つ場所を少し調整してから歩き出した。


「そういえば近くの街はどこかわかる」


 メリュジーヌは自分の現在地がわからないことを思い出し、少女に問う。


「ええと……反対側です」


 少女は少し言いずらそうに言い淀むと、今歩いている方向とは反対側だと伝えた。


「ありがと。恥ずかしい所を見せちゃったね」


 メリュジーヌは歩く方向を直して近くの街を目指して歩いていく。


(ボロボロだけど、お姉ちゃんの服にはいい生地が使われてる。まだ見習いのメイでも、これは触ればわかります。もしかしてお姉ちゃんは貴族の家の人なのかな?)


 少女の中でメリュジーヌが何者なのか気になったしまった。

 しかし、今の状況を考えるとメリュジーヌにも事情があるのだと言うのはすぐにわかった。

 だから、あえてそこに触れずに黙っていることにした。

 それこそメリュジーヌが話してくれるまで。


「そうだった君の名前を聞くのを忘れてた。わたしはメリュ……ヴァレリアよろしく」


 メリュジーヌは本名を言おうとして言い淀むと、少し悩んで偽名を名乗った。

 貴族の家を追い出され、その家名を名乗る事のリスクを考えてのことだ。

 咄嗟に名乗った偽名だが、案外カッコよくてヴァレリア的には満足だった。


「メイはティリハ商会の見習い商人のメイリィ・ティリハと言います。よろしくお願いします、お姉ちゃん」

「商人か。メイはすごいね」

「そんなことはありませんよ。まだまだ見習の身ですから。お姉ちゃんこそ凄く強くてかっこよかったです」

「わたしだってまだまだだよ。勝てない相手の方が多いくらいなんだから」


 二人は他愛もない話に花を咲かせながら、近くの街を目指して歩き続けた。

 その道中に川を見つけると、野営地とそこで今日は休むことにした。


「こんなもんかな」


 ヴァレリアは慣れた手つきで焚火を作り、魚を捕るための罠を作って川に設置した。

 その間メイは近くで薪や山菜を集めていた。


「さて、準備もできたし水浴びしようか。お互い汚れちゃってるから」

「はい。メイも早く水浴びしたいです」


 二人は焚火に火を点けると、早速服を脱ぎ始めた。

 ヴァレリアは、成長した影響で小さくなった服を脱ぐのに苦労しており、メイは恥ずかしそうに頬を赤くしていた。

 

「気にしなくていい。わたしも最初は怖くてお漏らししてたから」


 死の森にやってきた頃を思い出し、ヴァレリアはどこか懐かしい気持ちを抱いた。

 服を脱ぎ終えると、ヴァレリアがメイの分の服や下着まで洗う。


 メイが水浴びをしているヴァレリアの体を見て目を丸くした。

 年頃の女の子の体にもかかわらず、そこには生傷が数えられない程にあり、縫い傷や縫い目もたくさんあったからだ。

 高い再生力で傷跡は消え始めている物もあるが、それ以外が大半だった。

 体の傷はヴァレリアがどれほど過酷な場所で過ごしていたかを物語っている。


「お姉ちゃん、その傷……」

「ああ、これ。強い魔物とばかり戦ってたから、気が付いたらこんなことになってた」


 その言葉には何も籠っていない。

 後悔や高揚そう言ったものが何もなかった。

 それに気が付いたメイは、言葉にできない複雑な気持ちを抱く。

 

「お姉ちゃんも大変だったんですね」


 そう言ってメイはヴァレリアの頭を優しく抱き寄せた。

 ヴァレリアは目尻が温かくなり、何かが込み上げてきたのを感じたが、もはやそれが何だったのか覚えていなかった。

 

「そうだね」


 たったその一言しかなぜか話すことができなかった。

 そして水浴びを終えると、罠にかかった魚をメイが慣れた手つきで下処理をして串焼を作り、二人はそれを食べるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は来週の予定です。

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