第11話 そして3年後
それから三年の月日が経った。
死の森からの脱出を目標にしたが、魔物との会敵で激しい戦闘や逃走を繰り返す内に現在地が分からなくなっていた。
唯一の救いは、死の森の探索で拠点にしている場所だけはわかるということだった。
三年の月日でメリュジーヌは技術も体も成長したが、体の方は小柄の方が逃げ隠れに適していると判断して骨を生産魔法で再構築し、筋肉は操糸術で抑え込むことで年齢の割には小柄な体躯になっていた。
現在、メリュジーヌは木の上で気配を殺して隠れていた。
かつて戦ったカマキリが遠目に見えるが、古龍種が一撃で屠ってどこかに行く光景が視界に移る。
「あの強さでこの森だと、私と同じで弱い存在……か。つくづくここのイカれ具合が恐ろしい」
メリュジーヌが感情がほとんどない声音を漏らす。
敵がどこにいるか少し顔を出すと、別の種類のカマキリが木と一緒にメリュジーヌを引き裂こうと、飛び上がって鎌を振り上げていた。
「はぁー、しつこい」
即座に木から飛び降りると、糸を別の木に巻き付けて別の木に逃げる。
そして立体機動で逃げ回っていると、正面にかつて戦ったカマキリが居るがお構いなしに正面から突っ込んだ。
カマキリの首筋に糸を巻き付けて、巻き取る事で一気に加速する。
鎌による一振りを避けると、死んだ冒険者の亡骸から回収した剣を抜いて、一撃でその首を跳ねた。
頭部を失い、魔力に対する抵抗力が落ちたのを狙ってメリュジーヌが魔法を発動させた。
「――オーダー・マリオネット」
カマキリを自身の傀儡にして操作する。
追跡してきたカマキリに首のないカマキリで応戦した。
互いに鎌や足で攻撃するが、首のないカマキリがどんどん押されていく。
「やっぱりスペック差はどうしようもないか。こっちは糸を出したりの特殊行動はできないし……」
自身の魔法をもっと成長させないと思いながら、力不足を痛感する。
首のないカマキリがついに前足を切断された。
何とか攻撃手段の鎌を死守するが、だんだん体が刻まれ食い千切られていく。
「これ以上は流石に魔力が勿体ない。あとはこっちでやればいいか」
オーダー・マリオネットを解除し、操糸術で首のないカマキリを操作する。
動きはオーダー・マリオネット使用時と比べると制限されるが、その分魔力を消費しないという利点がある。
メリュジーヌは糸を器用に操って、まるで生きているかの様に首のないカマキリを動かした。
防戦一方になるがそれでもカマキリにしっかりと傷を与えていく。
死を恐れず痛みを感じない人形は、命令に従って淡々と攻撃と防御を繰り返す。
次第に首のないカマキリの肉体は、カマキリの攻撃によって肉がなくなり始め、鎌も一本切断されてしまった。
「ここ!」
首のないカマキリを無謀に突撃させると、即座に操糸術を解除すると、糸を巻き取りながら離脱して逃走を再開した。
いい目くらましにもなり、小柄なメリュジーヌはすぐに姿を消して、カマキリの視界から消える。
気配を消してとにかく距離を取る。
自分の索敵範囲からカマキリが消えても油断はしない。
カマキリ系の魔物は気配を消し、音を立てずに近寄って来るものが多い。
これまでの経験がもっと距離を取れと言っている。
その勘に従ってメリュジーヌは、逃げ続けた。
「ここまで来れば流石に追って来れないでしょ。ふぅぅ」
息を深く吐くと、近くの木に背中を預けて短い休憩を取る。
そして息が整うのと同時に探索を再開した。
「あのカマキリのせいで、また予定してた方角とは反対に来ちゃった」
毎回毎回邪魔するように現れるカマキリは一体何なんだと疑問に思いながら歩いていると、冒険者の亡骸を見つけた。
白骨化しており、特に特徴的だったのが内側から何かによって腹を突き破られた痕だった。
「これの傷は一体? 寄生型の魔物や虫の類だと考えるのが妥当だけど……」
記憶を辿るが該当する存在を見つけることができなかった。
傷跡を指でなぞりながら、少しでも情報を得ようとする。
「感触に特徴的なものはない。つまりホントに何かしらの形で外に出たってことか。この森、まだまだ奥が見えない」
この森の脅威度を再確認すると、メリュジーヌは冒険者の装備に手を伸ばした。
剣は半分から先が折れて無くなっている。
チェストプレートも雨風に晒された影響か、錆びて使い物にならなくなっていた。
他に漁るが結局使えそうなのは、期限不明のポーションと腰にあった剥ぎ取り用のナイフだけだった。
鞄から手を抜こうとした時に、何かが落ちたのに気が付いた。
「これは手帳? まだ中身を読むことはできそうかな」
表紙を捲るとそこにはこの冒険者の日記が書かれていた。
平凡な日常から命がけだった冒険まで事細かに書かれている。
読み飛ばしていくと、この森での出来事が書かれていた。
――こんな依頼、受けるんじゃなかった。
死の森なんて今の俺なら攻略できると思ってたあの時の自分を全力で殴りたい。
この森の雑魚ですら災害級、いや、下手したらそれ以上の脅威度だ。
早く逃げ出さないと命がいくつあっても足りない。
メリュジーヌがページを捲ると最後に書かれてから数日が立っていた。
――ここに来て一週間くらいか。
はあ、生きて帰りたかった。
もしこの手帳を読むやつのためにここに記録を残す。
死の森の東側、その中でも特に植物と虫の巣みたいなので茂った地帯には立ち入るな。
あそこはやばい。
いや、やばいなんてもんじゃない。
人に寄生する魔獣や魔物の巣窟だ。
かく言う俺もへまっちまった。
人間の手の様な虫に顔を覆われ、何かを腹に入れられた。
吐き出しても出てこない。
クソッ!! ふざけやがって。
三日が経った。
寄生されてから妙に体が軽い。
内臓でも食われたか?
ははは、痛みがねーからそれはないか……ヒヒ。
か、かゆいかゆいかゆいうーまーかーゆー
ひひひひひひ
読み進めて行くと、もはや日記とは言えない状態になっていた。
文章にもなっていない。
まるでホラー小説を読んでいる気分だ。
それでも貴重な情報源であることに変わりはない。
メリュジーヌは最後まで目を通すと、最後のページだけ理性を取り戻したのか、ちゃんとした文章が書かれていた。
――もう長くはないだろう。
自分の体だからよくわかる。
それにしてもこんなに清々しいのは久しぶりだ。
俺は自分の最後を自覚せずに死ぬだろう。
どうかこれを読んだ者が同じ轍を踏まないことを祈る。
ささやかながら俺が作った地図を腿に付けたマジックポーチに入れておく。
うまく活用してくれたら嬉しい。
それと俺の武具は生き残るために好きなものを持って行ってくれ、ここでは資源は貴重だからな。
追伸
お前ら帰れなくてすまない。
俺はここまでみたいだ。
どうか子供たちよ健やかに育ってくれ。
三人とも愛している。
最後の数行には家族に宛てた遺言が残っていた。
その先もあるようだったが、文字と呼ぶべきなのかわからない状態だった。
恐らく寄生体の影響で書けなかったのだと、メリュジーヌは推察した。
短い間、手を合わせると亡骸からまだ使えるであろう物資を漁り、最後に彼の冒険者カードとプレートを回収してマジックポーチにしまった。
そして早速地図を見て場所を確認した。
地図は大雑把ながらも細かいことまで記されていた。
危険地帯や比較的魔物との遭遇率が低い場所などだ。
「すごい。この森でここまで――」
メリュジーヌは純粋にこの冒険者に敬意を持った。
実際にまともな精神状態で暮らすことなどできないことは身をもって体験しているからだ。
そして地図を指でなぞりながら道順を確認する。
「このルートなら知ってる。……まさかこの近くがここら辺で外に一番近いところだったなんて」
昔の自分なら無駄なことに時間を費やしたことに膝から崩れ落ちていたのだろうなと思いながら、地図を丁寧にしまって森から脱出することを決めた。
道中、またカマキリに見つかって追いかけ回されたがそれ以外に問題はなく、すんなりと森の外に向かうことができた。
外が近づいてくると森の外から少女の悲鳴が聞こえてメリュジーヌが駆け出した。
そして襲われている少女を助けるのだった。
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更新は来週の予定です。




