第13話 三年ぶりの人里
翌日、二人は街を目指して再び歩き出し、丸一日休まずに歩き続けてやっと街の城壁が見えてきた。
無理に進もうとしたが日が沈み始めて、これ以上は危険だとヴァレリアが判断するとその日は野営することになった。
そして翌日の昼頃、ついに街に到着した。
入場列に並び、自分たちの番が来ると税を納める前に、騎士たちに事情を説明した。
真偽を確かめるために、騎士たち数名と共に件の場所に戻ると、ヴァレリアはメイを休ませて一人で現場検証に参加した。
そして運良く掘り起こされていなかったメイの両親の遺体を回収して帰路に着いた。
その頃には日が沈み始め、帰りの馬車の中でメイに当時の状況の事情聴取がヴァレリア同伴で行われたのだった。
通行税は、ヴァレリアがメイに聞こえない声で騎士にとある言葉を囁いて免除となる。
それは身分を隠した貴族がよく使う合言葉で、庶民や下級貴族が知ることの無いものだった。
それに税金が免除されたことにメイは少し疑問に思いながらも、特に気にする素振りは見せなかった。
「この時間だと宿は無理そうかな」
「交渉次第で何とかなると思います。ですが、メイたちには路銀がありません」
自信満々の言葉とは裏腹に、メイはお金の心配をしていた。
ヴァレリアも手持ちはない。
正確には、あるにはあるが、それは森で力尽きた冒険者のものだ。
それを使おうと思うほど、ヴァレリアも人間性は失っていない。
「ここはメイが出します!」
「ダメ。それはメイの亡き両親が稼いだものだから、メイの将来のために使うべき」
「それなら今が使い時だと思います。まずは衣食住を確保するのも立派な投資だと思うんです。どうですか?」
「……そうだね、メイの言う通り。わたしの分はおいおい返すからね」
メイに説得され、ヴァレリアは首を縦に振った。
「わかりました。では、さっき騎士の方がおすすめしてくれた宿に向かいましょう」
「そうと決まれば、早速行ってみようか」
二人は騎士が勧めた宿に向かって歩いて行った。
月が登り始めて周りが暗くなってきた。
すっかり雰囲気は夜になり、主に酒場の明かりが窓から漏れている。
屋台に人はおらず、昼の活気の余韻すら感じることができない。
少し寂しい景色を眺めながら、二人は宿屋までやってきた。
「ここ?」
「そうだと思います。看板も教えて頂いたものと一致しますから」
看板には”銀の豚皿亭”と書かれており、中からは楽しそうな声が聞こえてくる。
ヴァレリアは躊躇なく扉を開くと、彼女の格好に驚きながらも可愛らしい少女がやってきた。
「いらっしゃ~い。何名様ですか?」
「二人。取り合えず二泊したいけど、空き部屋はある?」
ヴァレリアが淡々と内容を語った。
「ちょっと待っててくださいね」
そう言うと店員の少女はカウンターの後ろに向かった。
それと同じくしてちょうどその話を聞いていた女将が近づいてくる。
「悪いね。今、二人部屋は空いてないんだよ。一人部屋と四人部屋なら空いてるけどどうする?」
女将が店員の少女に目配せして確認を取る。
「女将さん、一人部屋を一部屋お願いします。ですが、少しお勉強をさせていただけませんか?」
「それくらいお安い御用だよ。部屋に追加の毛布を置いておくから好きに使ってちょうだい。ついでに朝食もサービスしとくよ」
「ありがとうございます」
「なーに別嬪さんの頼みには逆らえないからね」
女将が笑いながらカウンターに行くと店員の少女に指示を出して厨房へと戻っていった。
「お母さんから聞いている思うけど、料金はこれくらいね。あとはこっちが部屋の鍵。階段を登って右手の四番目の部屋だよ。夕食を食べるなら別途料金がかかるけど、どうする?」
「ならこれくらいの料金で、二人分お願いすることは可能ですか?」
「うん、大丈夫だよ。階段下の二人席を確保しとくから準備ができたら降りてきてね」
メイがテキパキと支払いを済ませると、二人は鍵を受け取って部屋へ向かう。
荷物を置くと二人は食事を取りに階段を下りて行く。
すると、タイミングを見計らった用に二人分の食事が彼女たちの席に並べられた。
「冷めないうちに食べちゃいましょう」
「だね」
「「いただきます」」
二人はゆっくりと食事に手を付けた。
ヴァレリアに取っては三年ぶりのまともな食事に、感動を隠しきれておらず、例え感情が薄れていても体は素直だった。
それを見たメイは、どこか少し安心した気持ちが沸き上がってきた。
あった時からほとんど表情を変えず、虚ろで死んだ魚のような目をしていたヴァレリアを、ずっと心配していたからだ。
当の本人はそんなことになっているなど気づくこともなく、淡々と食事を進めるがその手は思いのほかいつもより遅く、料理を味わっているかの様だった。
そして部屋に戻ると濡れタオルで互いの体を拭きあうと、ベッドをメイに譲ると言って聞かないヴァレリアを説得するという出来事があったが、結局二人でベッドを使うことで合意がなされると、二人は疲れに襲われてそのまま眠ってしまうのだった。
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