第9話 死闘の末の日々1
メリュジーヌは応急処置を終えると、体が動くようになるまでその場から一歩も動けなかった。
体のあちこちが傷ついているせいでオーダーマリオネットなしでは指一本動かない。
もはや痛みすら麻痺していた。
薄れゆく意識の中で必死に抗うが、抵抗むなしく少しして意識を失ってしまう。
目が覚めると、体感で数日が過ぎているように感じた。
押し寄せてくる空腹感と喉の渇き。
そして圧し掛かってくる様な体の重み。
未だに指先一つ動かせず、魔力も回復しきっていない。
短剣にどれほどの魔力を持っていかれたのかと、思いながら見える範囲を見渡した。
敵の気配はない。
そのことに少し安堵しながらも、食料をどうするか考え始める。
「……これしかないか」
目の前に転がっているカマキリをじっと見つめる。
感情がほとんどなくなってしまっているその声や表情からでも、抵抗感を覚えているのがわかる。
意を決して食べる覚悟をすると、操糸術で体を動かしてカマキリに近づいて行く。
肉が露出した場所まで糸で体を移動させると躊躇なく頬張った。
なんとも言えない血の味が口いっぱいに広がった。
意外にも生臭くはなく、鉄の味もあまりしない。
どちらかというと草の汁に近い。
舌の上で多少血を転がすようにして様子を見るが、特に異変がないことを確認するとすぐに飲み込んだ。
「本には下処理なしで魔物を食べると拒絶反応があるって書いてあったけど……別になんともない。相性の問題かな?」
思い出した知識の中に魔物を生で食べるとどうなるのかを示した本の内容が思い浮かんだ。
しかし、血を飲んでもなんら問題がなかった点に首を傾げながら、安全だと判断してそのまま肉を喰らった。
火を起こす魔力も体力もない。
なんなら体が動かない。
今のメリュジーヌには生で食べる以外に選択肢などなかったのだ。
肉を咀嚼して飲み込んだ。
するとすぐに体に異変が起こる。
全身を炎で焼かれ、槍でめった刺しにされたような激痛に襲われた。
体の一部には痺れを感じる。
あまりの痛みにメリュジーヌは泣き叫び絶叫し、もがき苦しむ。
そして胃から熱いものが込み上げてくる。
それを抑えること出来ず、簡単に吐き出してしまった。
食べた物が体外に出てなお、その異変は止まらない。
むしろ次第に悪化していく。
その痛みは、かすかに残っている感情を確実に削るほどには、辛いものだった。
そして拒絶反応による痛みでのたうち回っていると、気が付いた時には意識を失っていた。
次に目を覚ますと、体が楽になっていた。
どうやら拒絶反応が治まったようだ。
下着が濡れていて、お尻の方からは気持ち悪い感触があった。
もし昔の自分だった両方失敗したことに恥じらいを感じていたのだろうと、どこか他人のように感じていた。
そして自分の声すら今では自分の物ではないように聞こえる時があった。
「あれが拒絶反応……生きてるなんて運がいいみたい。……いっそ死んじゃった方がむしろ楽だったのかな」
メリュジーヌは少し長めに目を瞑り、そして開いた。
結論など出ない。
今の自分には、生きる目的がないのだから。
もし、目的を作るならと考えるが思い浮かばない。
強いて言えば生き残ること。
それ以外の言葉は出てこなかった。
それからもメリュジーヌは体が回復するまでの間、カマキリの肉を喰らい血を啜って飢えと渇きを耐える日々を送る。
当然、拒絶反応で吐き下して全身を激痛が襲う。
そんなことを繰り返していると次第に、痛みが分からなくなっていった。
それは痛みへの慣れと精神が擦り切れてしまったからに他ならない。
日が進むに連れてメリュジーヌから死への抵抗感が薄れていったのだった。
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