十話「ハロウィンの大暴走」
雲の上の小さな楽園、天界。
天界の雲の上では、ハロウィンは関係ないはず……なのですが、何故かかぼちゃがズラリ。
ウリエル様は怪訝な顔ですそれらを眺め、指でつつきます。
「トリエルでもあるまいし、一体誰が」
……と、一瞬呟きながら考えたウリエル様ですが、すぐに一つの結論に達します。
…………
神様の謁見の間では、神様が天使のコスプレをしていますね。
そして手にはカボチャ。
「何をしている」
ウリエル様は汚いゴミを見るような目で、神様のご褒美をあげます。
神様はそんなウリエル様にトゥンクしつつ、かぼちゃをズイと突き出します。
「トリック・オア・トリート」
神様は期待を込めたつぶらな瞳とツルツルの頭でウリエル様に視線を送ります。
対するウリエル様は青筋を立てて拳をぎゅっと握っております。
ああ、これはダメですねえ……
「お前は万年ハロウィンだろうがー!!」
ウリエル様は神様に渾身の回し蹴りをお見舞いすると、神様は頬を赤くしてキャイーン!
椅子に激突してバチコーン!
かぼちゃも木っ端微塵です。
「……はあ……はあ……片付けとけ、ハゲヤロー」
「イエッサー、ウリエル様」
完全に尻に敷かれる神様でした。
――――
7畳のあゆむの部屋では今日も今日とて万年ハロウィン状態です。
なにせ天使、悪魔、おばけ、怨霊、魔王がこの7畳という狭い空間にひしめき合っているのです。
何も事情を知らない人がもし見たならば、「何このクオリティ凄い」でしょう。
しかし、あゆむからすれば「何このクオリティ凄い」です。
人外天国と化している部屋では、あゆむにプライベートなどありません。
例えば、あゆむの守護霊であるピピは、何かにつけてあゆむとイチャイチャしようと試みますが、
ことある事に邪魔されます。
現に今もベッドの上に座って、あゆむに膝枕をしているのですが……
「あゆむ様の体温……大好きです」
ピピの冷たい手があゆむの胸を撫で、やがてその手があゆむの唇に達すると……
「もっと撫でてーん」
「イヤンバカーン」
「うふーん」
このようにアンポンタンが割り込んで、必要以上のスキンシップを妨害するのです。
そのせいで、ピピは未だに膝枕以上はお預け状態。
もはや我慢の限界です。
「いつもいつも!! この白茄子!!」
ピピは前方にいたアッチにアイアンクローをお見舞いすると、壁に向かって乱暴に投げますが、
そこにはわかっていたかのように、バアルゼブルが待ち構えておりました。
「お返し致します」
そう言うとバアルゼブルはアッチを思い切り蹴飛ばし、それはピピの顔に向かって一直線!
「ピピに何するんじゃー!」
するとママ役のピピを守ろうと、ママっ子のサタンちゃんが尻尾ブンブンでフルスウィングー!
スファァン!!
ストライーーーーク!!
バアルゼブルが蹴飛ばしたアッチはフォークボールとなって、あゆむの顔面に直撃!
さらにそこから回転をつけて天井にバウンド!
「ダンクよー!」
するとそこにポンポがアッチを両手で掴んでダンクシューーーー!!
バゴーーーーン!!
さらにあゆむのお腹に直撃!!
「ぐえーー!!」
「参りましたと言いなさーい!」
最後はタンタが尻尾でペチペチ。
いつもの光景であゆむはノックダウン……
「このナスボケが……クソー」
あゆむはピピが介抱する中、起き上がろうとしますが、
痛みで身体にうまく力が入りません。
アンポンタン達はベロベロバーしていますが、ここで思わぬ援軍の手が入ります。
「コラ!」
それはトリエルでした。
トリエルはアンポンタン一匹一匹にチョップを入れて叱りつけます。
「遊ぶのはいいけど、いじめちゃダメって言ってるでしょ」
トリエルは頬をぷくりと膨らませると、小さな翼を威嚇するように広げて怒ります。
すると、ご主人様であるトリエルに本気で怒られてアンポンタン達もシュン……
スゥっと消えていってしまいます。
「おい、トリエル。奴らだって暇なだけなんだよ。あんまり怒るな」
普段怒らないトリエルが怒ったことで、あゆむも少し異様なものを感じたのか、
トリエルをたしなめ、頭を軽く撫でてあげます。
周囲のおばけも心配そうにトリエルを見ていますね。
するとトリエルも落ち着いたのか、翼を閉じてニコリと微笑みます。
その表情はどこかエミエルを思わせて、同じ人間の少女恵美がベースなのだと、
あゆむは改めて実感します。
「彼女でも怒ることがあるんですね」
部屋の隅でその一部始終を眺めていたミカエルさんが、呑気に小説片手に呟きます。
彼女は天使のはずなんですが、まるで他人事。
争い事を止める気はないようです。
そんなミカエルさんに、あゆむも薄い苦笑いを浮かべます。
「ミカエルさんも見てないで止めてくれよ」
「落ちぶれたとはいえ、わたし、ミカエルは元大天使です」
ミカエルさんはそう即答しますが、ツッコミ待ちなのか、妙に歯切れが悪いです。
あゆむをチラチラと見つめています。
あゆむは軽く息を吐きつつ、付き合ってあげることにします。
「つまり?」
「助けて欲しいなら頼ってください」
(めんどくさ)
「今めんどくさいとか思いましたね?」
自覚あるなら治せや……と、あゆむは言ってやろうかと二瞬ほど思考しますが、
それを言うと、きっともっとめんどくさくなるのでやめました。
落ちぶれたとはいえ、元大天使の彼女は頼られることが大好きな性格です。
基本、頼られればなんでもします。
『お願いします! ミカエルさん!』
このように頼めば、膝枕だろうが耳かきだろうがきっとしてくれます。
まあ技術と、その後のことまでは知りませんが。
「じゃあミカエルさん、次からは軽くでいいから助けてくださいな」
「そ、そこまで言うなら……このミカエル、考えましょう」
(うわチョロ)
「いまチョロいとか思いましたね」
(やっぱめんどくさ)
ピー、ピー!
するとここで、場を仕切り直す合図であるかのように、無骨な電子音がキッチンから鳴り響きます。
「あ、忘れてました」
ピピは、そう言うと間仕切りのカーテンをすり抜けて、奥のキッチンへと消えていきます。
数秒後、部屋にはかぼちゃの甘い香りが立ち込めて、あゆむの食欲を刺激します。
「皆さん、パンプキンパイですよー」
ここでピピは、大きな皿に盛ったパンプキンパイを部屋まで運び、
ガラステーブルの上にどんと乗せます。
「わー、美味しそう!」
開口一番反応するのはやはりトリエルです。
彼女は早速一つを手に取ると、勢いよく口の中へと放り込み、むしゃごくで食べてしまいます。
「おいしー!」
トリエルのその一言と、弾けんばかりの笑顔で部屋の空気が一気に明るくなるのがわかります。
きっとそれは、彼女の持つ『笑顔』の権能によるものなのでしょう。
だとしても、その権能の裏側を、既にあゆむ達は知っています。
思い返せば去年、あゆむは生前の彼女とその生き様を知ったのです。
生前の彼女、桜井恵美の魂に深く刻まれた願いである『笑顔』は、
今確かにこうして皆を笑顔にしているのです。
「えへへっ! みんなで食べると美味しいね!」
「……そうだな」
「はーい! ママもトリエルと一緒に食べまーす!」
あゆむの中で、トリエルの笑顔とエミエルのそれが重なり、
トリエルを見る目が優しくなります。
『守りたい、この笑顔』
この言葉はやはり彼女のためにある。
そんな言葉があゆむの心の中に浮かんできます。
それはガブリエルママも同じでしょう。
彼女はトリエルを抱っこすると、わざわざパイを半分こしてトリエルに食べさせ、
残りを自分の口に運んでいます。
「ちょころで、にゃんでがぼちゃなんじゃー」
ここでサタンちゃんがパンプキンパイを食べながら、
普段出ないお菓子に疑問を感じたようです。
サタンちゃんは両手でパイを食べながら、尻尾を器用に使ってコーラまで飲んでいます。
「食うか喋るかどっちかにせい!」
あゆむはサタンちゃんの行儀の悪さをたしなめますが、
サタンちゃんはそっぽを向くと、ピピの元へ歩いていきます。
ピピはサタンちゃんを優しく抱っこすると、
美味しそうにパイを食べる様子に目を細めながら説明します。
「今日はハロウィンだからですよ」
「そういえば、あしゅたとろも幼稚園でそんな事を言っておったじょ!」
それを言うならアスタロトで、先生は飛鳥露都だよーという声が聞こえてきそうですが、
ピピよりも先にバアルゼブルが面白がって説明します。
「ハロウィンというのは仮装して町を面白おかしく練り歩くイベントですよ」
「適当言うのやめい!」
あゆむは思わず突っ込みますが、あながち否定も出来ず、その声に力がありません。
そしてお祭り事ともなれば、火がつくのが……
「ハロウィンやりたいじょー!」
「トリエルもやるー!」
そう、この二人です。
今あゆむの部屋にはトリエル派とサタンちゃん派という二つの派閥が存在します。
圧倒的多数を占めるのがトリエル派でおばけ達とガブリエルママ、バアルゼブルはトリエルの味方です。
一方のサタンちゃん派は彼女のママ役であり、部屋の守護者ピピと、隠れ信者のミカエルさんがいます。
ピピはともかく、ミカエルさんは意外かもしれませんが、
彼女は嫌い嫌いと言ってもサタンちゃんを嫌いきれておりません。
要するに『好きのうち』なわけです。いわゆる。
なので、なんだかんだでサタンちゃんの味方をするのが、めんどくさいツンデレこと、ミカエルさんなのです。
現に、彼女はサタンちゃんの幼稚園代を払っています。
魂が詰まるとか、意味がよく分からないめんどくさい理由を付けてはいますが、
サタンちゃんの将来を考えているわけです。
「く……こうなると不利じゃのう」
あゆむはここで唇を噛み締めます。
あゆむはどちらの派閥でもありませんが、この二人がやる気になると、
部屋の残り全員がどちらかの味方につくので、拒否権がなくなる。
それだけはよくわかっているのです。
一応の最終決定権だけは任されているのか、皆の視線があゆむに集中し、
あゆむは事実上の一択を迫られるわけです。
「……出かけるか」
「わーい!」
「ハロウィンだじょー!」
あゆむは一抹どころか十抹の不安の覚えつつ、街へと繰り出します。
…………
――――
「みなすわーん、ここでは立ち止まらないでくださーい!」
すっかり暗くなり、ビルの灯りが輝くオフィス街では、
DJポリスが既に街宣車の上に立ち、マイク片手に呼びかけていますが、
みんな知らん顔で盛り上がっています。
吸血鬼やゾンビ、狼男など思い思いのコスプレが目立ちます。
しかし、その中でもとりわけ目立つのはやはり……
「スゲー……あのおばけ達、どうやって浮かしているんだよ」
「あの女の子の足透け特殊メイクすごー!」
そう、万年ハロウィン状態のあゆむ達です。
街ゆく人の視線を一身に集め、皆そのトリックに興味津々で写真を撮りまくりです。
ピピやサタンちゃんなんかは特に人気でポーズを求められています。
「ハッハー! 苦しゅうないじょー!」
「魔王様ーこっち向いてー!」
サタンちゃんはノリノリで魔王様をやっています。
まさかモノホンとも言えず、あゆむは苦笑いしか出来ません。
そして、出かける前のあゆむの不安は現実のものとなります。
「みんなー! ハッピーハロウィンだよー!」
ここでトリエルがシルクハットをぽーい!
ハローが「Hello」
さあ、ハッピーハロウィンだ……
ゴゴゴゴゴゴ……
「あ、やべ……」
今更になってあゆむはトリエルを見ますが、時すでに遅過ぎて、
トリエルは群衆が見守る中、空へと舞っています。
これにはシャッターの嵐で、生配信する実況者までいます。
「ばぁーーーー!!」
トリエルのその声に従うように、おばけ達は群衆に向かってベロベロバーしたり、ウィンクしたりと
完全にやりたい放題です。お尻ペンペンやアッカンベーまでしていますね。
「みんな楽しもー!」
トリエルがさらに指示を出すと、街のかぼちゃのオブジェがクケケケと笑いだし始めました。
これにはみんな驚いて覗き込んでいます。
すると、かぼちゃ達は笑ったまま宙に浮き、口から黄色いかぼちゃ光線を発射ーー!!
カボーー!!
するとそれを浴びた人は頭がかぼちゃになる、かぼちゃ星人に!!
「カボー?」
かぼちゃ星人となった人はさらに仲間を増やそうと、目からかぼちゃビーーーーム!!
「カボー!」
次々と仲間が増えていきます!
「やめろアホタレー!!」
あゆむが叫び声をあげたその時でした。
ビルの影から見覚えのある触手が顔を出します。
ですが、心なしか、今回は人型に近い姿をしているように見えます。
「コレガ キミタチノ オマツリカ」
件の邪神と思われるそれは、確かにそう言いました。
(言葉を話せるのか……!?)
あゆむがそう思った直後です。
触手は独立して動き、トリエルのかぼちゃビームに対抗するかのように、触手ビームを発射します!
「なんだじょー?」
するとそれはサタンちゃんに当たり、サタンちゃんが見る見るうちに巨獣化します!
「サア カオスヲ タノシモウ」
「ギャオー!」
七つの頭を持つドラゴンと化したサタンちゃんは、サタンブレスで大暴れ!
それを浴びた人はミニドラゴンとなって、かぼちゃ星人と戦争をはじめます!
「カボー!」
「ギャオー!」
「もうダメじゃあああ」
収拾がつかないと判断したあゆむは、最後の手段を使います。
「ミカエルさん、頼む」
あゆむはミカエルさんの肩を叩くと、彼女はため息を吐きつつ、天へ祈りを捧げます。
するとどうでしょうか、天から光の柱が降り注ぎ、まるで昼のような明るさになります。
ハァァァァ……アアアアアアア!!
いつもの歌が聞こえ始め、空からは天使が剣とラッパを持って現れます!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
プップー!
キンキンキンキンキンキンキンキン!
え? しつこい?
でも本家はもっと凄かったんだよ??
「ここで終わりにしましょう……」
ミカエルさんは飛び上がると、天に剣をかざし、光を集めます。
やがてそれは巨大な剣となって、約束された破壊をもたらします。
「イクス……キャリバーーーーーー!!!!」
ズバドドドドドドドーーーーン!!!!
振り下ろされたイクスキャリバーは例の邪神ごと街を木っ端微塵に吹き飛ばし、
空にはかぼちゃと天使が戦争をはじめ、地上ではかぼちゃ星人とミニドラゴンが戦う地獄絵図に。
「カボー!」
「ギャオー!」
「インドラの矢ーーーー!!」
さらに天使奥義の光の矢まで降り注ぎ、かぼちゃ星人とミニドラゴンもみんな吹き飛ばされていきます!!
「ハロウィンって、こんなに盛り上がるんだねー!!」
「殴りてー! この笑顔ー!」
「きゃーーーー!! トリエルすごーーーーい!!」
後に残されたのは瓦礫の山。
そしてそれを喜ぶバカ親だけでした。
あゆむはガブリエルママからスマホを奪うと、ウリエル様に電話をして、後始末をお願いするのでした。
――――
次回! 落ちてきた天使と同居することになった件。
「スキーは混沌の味」にご期待ください!




