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九話「トリエル、キノコ狩りへ行く!」

色あせた記憶と想像の世界、夢。


夢の主は誰なのでしょうか。


視界に広がる景色、それは何も無い白。

そこに黒いモヤがかかっているのみです。


五感はなく、夢の主は自分が今、立っているのか座っているのか、

あるいは浮いているのか、そうした情報は全く入っては来ません。


しばらく夢の主は黒いモヤをなにかの意志に従うように見続けますが、

そこに赤く大きな目が現れます。

その目はこれまであゆむの前に現れたそれに酷似しているように思えます。


どうやらかの目玉は夢の主に興味があるようです。

口などない、ただの目玉なのに、「興味がある」ということだけは何故かわかります。


「……はそれでいいのか?」


その言葉は、脳に直接届くかのように、音ではなく意思として、伝わります。


「君はそれでいいのか。君の望みは、本当の願いは違うはずだ」


かの目玉は問いかけを続けます。

夢の主は何も答えません。

それでも、目玉は夢の主のことを知っているのか、 あるいは「わかっている」とそう思い込んでいるのか、一人の会話を続けます。


「君の中にもあるはずだ……闇が」


そう言って目玉はモヤと共に消え、白い空間が明るくなります。


どうやら、夢の主が目を覚ましたようです。



――――



雲の上の小さな楽園、天界。


天界では今日も今日とて天使達が仕事に追われております。

相変わらず亡者達の神隠しは続き、地上や魔界などで発見される毎日。


天使達の疲労はピークです。

彼らは必死にパソコン画面と睨めっこしてキーボードを叩いております。

そのデスクには栄養剤の空き瓶が散乱し、天使達の目がギラギラに充血しています。


「祈りが足んねーぞ!! コノヤロー!!」

「宣教師が不足してんだよ! バカヤロー!」

「ガタガタ言ってんじゃねーよ! コノヤロー! ぶちのめすぞ! コラ!」


現場では怒号が飛び交い、まるでヤクザ映画です。

お互いに相手の不手際や他の部署の悪口を言い合っています。

それはエスカレートし、バカヤロー、コノヤローの応酬です。

こうなると全員悪者みたいですよね。


「親父は今何やってんだ!」

「知るかよ! さっさと手を動かせよ! コラ!」

「やってんだろ!? バカヤロー!!」

「るせーぞ!! コノヤロー!!」


どうやら亡者の神隠しやら、地上での信仰心の低下やらで、

天界の収入減少、運営エネルギーの低下が深刻なようです。

そのせいで天使達のストレスがマッハで口も悪くなっているみたいです。


こんな時に親父こと神様はどうしているのでしょうか?


…………


――――


「キノコっのこのこ元気のこー!」


今神様は謁見の間にいません。

どうやら天界の宮殿の一角に6畳ほどの隠し部屋を作り、一人鍋パーティーをしているようです。

鍋の中にはブナシメジやエノキ、松茸までありますね。


グツグツと音を立てる鍋からは、湯気とともにキノコの香ばしい香りが漂ってきます。


「うひゃひゃひゃひゃ! いい香りだもんねー!」


神様はお椀にキノコをいっぱいに盛ると、ビールと枝豆を冷蔵庫から取り出します。


カシュ! 


爽快な音が部屋に響き、神様はまずビールをゴクゴク。


「プへァーーーー!!」


のどごしの良い炭酸が食道を駆け抜け、神様は満足気に大きな息を吐きます。

口の中が麦の香ばしさで満たされ、その中に出汁を吸ったキノコをドカドカと放り込み、

最後に汁で乱暴に流し込みます。


この不健康なドカ食いが最高に美味しいのです。


「たまんないのー!」


「サボって食べるメシは美味いだろう」


「そりゃあもう……!」


…………


ここで神様、背後の気配に気が付いたようです。

背中からは炎でしょうか、熱いものが迫る感覚があります。


「こっちを見ろ」


神様に拒否権はなく、恐る恐る振り向くと、

そこには炎の大剣を突き立て、仁王立ちするウリエル様が……


「ですよねー」


ウリエル様は鍋を強奪すると、中のキノコを次々と口の中に放り込んでいきます。

神様は恨めしそうに手を伸ばしますが、そんなもの知ったことではないといった表情です。

やがて彼女の頬がハムスターのようになると、むしゃむしゃと噛み始め……


ごくん。


「さーて、ワシちゃんは仕事をするかー」

「待てコラ」


神様は何事もなかったかのように逃げようとしますが、

そうは問屋が降ろさなかったようです。


「ワ、ワシちゃん健康に気を使ったよ!? キノコ食べたもん!!」

「そういう問題じゃねーんだよ!! このハゲヤロー!!」


ウリエル様の大剣が振り下ろされ、神様は真っ二つになったそうです。



――――



ここは7畳のあゆむの部屋。

部屋の窓から見える景色は秋の深まりを示し、

紅葉や落ち葉が目に留まります。


「秋じゃのう……」


あゆむはテレビを見ながら緑茶をすすり、

そんなことをポツリと呟きます。

その様子はなんだか……


「ジジくさいじょー」


サタンちゃんに先を越されてしまいました。


「お前に言われたくないわい」


それはそうです。

あゆむの部屋には今や神話の時代から生きる人外がウヨウヨいます。

サタンちゃんはその代表格と言えるでしょう。


「ハッハッハー! 人間はひれ伏すのじゃー!」

「ミカエルさーん、この悪魔でーす」

「知りませーん」


即答されました。

今ミカエルさんは小説を読んでいますね。


なるほど。サタンちゃんの逆らう力を利用して自身の奇跡体質を抑えているようです。

なのでサタンちゃんに無関心を決め込んでいるみたいですね。


ところで何を読んでいるんですかね?

「肝試ししたら天使(自称)が憑いてきたんだが」という小説みたいですね。


……なんか親近感がありますね。


「はーい、今日わたくしはここ高い山に来ておりまーす!」


女性リポーターのこのような元気の良い実況が聞こえ、

あゆむは視線をテレビに戻します。


「見てください! この美味しそうなキノコ!」


どうやら彼女らテレビスタッフは山でキノコ狩りをしているようです。

リポーターが木の根元に生えているキノコを指さし、

隣にいるガイドらしき人物にマイクを向けます。


「これは舞茸ですね。似たようなキノコもあるので注意が必要です」


「キノコかー」

「キノコ狩りにでも行きますか?」


あゆむが呟いていると奥からピピがお茶を持って現れます。

どうやらあゆむとお揃いの湯呑みをいつの間にか買ったようです。


さりげない正妻アピールでしょうか。

トリエルに向ける視線がちょっと自慢げです。


「食費の節約にもなるしのう……どうせなら大勢で行くか」

「お出かけか!? 行くじょー!!」


「トリエルも行くー!」


早速怪獣(サタン)破壊神(トリエル)が釣れました。

外出となれば喜んで着いてくるのがこの二人です。


ともなれば……「ママも行きまーす!」とバカママ(ガブリエル)も手を挙げ、

「……どうしてもと言うならついて行ってあげますよ……?」

めんどくさいツンデレ(ミカエル)も漏れなく来るわけです。


「では私は部屋の掃除でもしておりましょう。フフフ」


目を細くし不敵に微笑むバアルゼブルにあゆむは一抹の不安を覚えますが、

(まあ奴がなにか企むのはいつもの事だしな……)

などとあゆむは慣れてしまったのか、あるいは調教されたのか、

バアルゼブルを残し、それ以外のメンバー全員でキノコ狩りをする事に。


さてはて、どうなる事やら……


…………


――――


やって来たのは近所の山。

廃ホテルのあるかの山です。


山の麓まで来ると、トリエルが早速なにか見つけたようです。


「キノコだー!」


トリエルは木に生えたキノコをむんずと取ると、口を開けて……


「待て待て待てーい!」


パクリする寸前で、あゆむがそれを奪い――


「セーフ」


と思ったのもつかの間……


「Hello」

掴んでいたのはアンポンタンでした。

彼らは先回りしてキノコに化けていたようです。

ここであゆむはバアルゼブルのあの笑いを思い出すのでした。


(アンポンタンをそそのかしやがったな)


「チョットだけよ……?」

「あんたも好きねえ!」


キノコに化けたアンポンタンはグイグイとあゆむの口の中に入り込みます。


「いい度胸じゃ! 食ってやるわ!」


あゆむはアンポンタンを噛み切ろうとしますが、彼らはゴムのように固く、

さらには噛む度に嫌な臭いのする液体を体から出してきます。


それはまさに腐ったキノコのようような味と臭いです。


「ヴォぇ……!!」


「あゆむーん! スーパーキノコよーん!」

「ビュンビュンビュン! しましょうねー!」

「俺のキノコが食えねってのか!!」


コロ! テレッテレテッテ レテテッテテ。


またしてもアンポンタンにしてやられ、あゆむの残機は1減るのでした。


「クププー」

満足したのか、アンポンタン達はベロベロバーして飛んでいきます。

最後にお尻ペンペンも加わりましたね。


「クソ! 覚えてろよ! ナスポンタン!」

「お茶で口直しますか?」


あゆむはピピが渡してくれた水筒のお茶で口の中をきれいにし、

改めてピピのありがたさを実感したところで、気を取り直し周囲を見渡します。


「……サタンとトリエルはどこだ」

「……え?」


ここでもっとも重要な人物が消えたことに気が付きます。

その時でした。


「これ美味しそー!」


トリエルの声が遠くにして、その方向を見ますと、

今まさに怪しいキノコをトリエルが口に含もうとしています。


「バ、バカ!!」


パクッ!


ビュンビュンビュン!


ピロリロリン! ピロリロリン! ピロリロリン!


するとどうでしょう。この様な音が連続で鳴って、トリエルが分裂しだしました。


「何やってんだ! アホタレー!」


気付けばトリエルのハローが出現しており、どうやらキノコに反応したようです。

これにはガブリエルママも大喜び。


「キャーーーーー!! トリエルがいーーーーっぱい!! ママ嬉しい!!」


ここでガブリエルママもメガネをぽーい!

ハローがピカー!


「ギャハハ! 面白そうだじょー!!」

「面白くねーわ! バカタレー!」


ついでにサタンちゃんもキノコを食べてハローがピカー!


さあ……|スーパー地獄絵図の始まり《天使の権能発動》だよ!



ゴゴゴゴゴゴ……



分裂したトリエル軍団はガブリエルママの権能、繁栄により巨大化、スーパートリエルとなります!

ビュンビュンビュン!!


そこへ怪獣となった巨大サタンちゃんも加わって、もう辺りはしっちゃかめっちゃかです!


「みんなー! キノコ食べよー!」


上空に飛んだトリエルがそう叫ぶと、トリエル軍団からは無数のキノコが地上に降り注ぎ、

キノコ達は身体をブルブル震わせて胞子を飛ばしまくります!


ポコポコポコ……


するとそこから小さなキノコが出現し、彼らもトリエルの力で急成長!

どんどん仲間を増やしていきます!


「こんなに食えるかー!」


それはねずみ算式で膨れ上がり、あっという間に山を埋めつくし、町にまで進出し始めます!


「面白そうだじょー!」


それを先導するかのように怪獣サタンちゃんがドーン! ドーン! と町へ進出!

家という家を次々となぎ倒していきます!


「もういい! ミカエルさん! 出番――」

「ノコノコー!」

「食ってんじゃねーよ! バカヤロー!」


どうやら頼りの綱のミカエルさんがキノコに毒され使えないみたいです。

さすがに複数の権能が集合したスーパーキノコを前には、落ちぶれたミカエルさんの奇跡体質は効かないとわかりました。


「落ちぶれて、すみません」

「もう遅いわい!!」


そんなことをやってるうちに、トリエルはさらに大暴走!

数の暴力で胞子を撒き散らします!


「キノコ食べよー!」

「食べてー食べてー!」


キノコ達はあっという間に町を埋めつくし、やがて日本を支配しました。


「わたしは今ここに、キノコ王国の建国を宣言するノコ!」


キノコ達は国会議事堂を占拠し、キノコ王国の建国を表明、新たな憲法を作ります。


「キノコ憲法その一! 人間達は一日100グラムのキノコを食べるノコ!」

「ノコー!」

「公用語はキノコ語とするノコ!」

「ノコー!」


こうして日本国はその歴史に幕を閉じたのです……


………


「7時のニュースノコ。昨日、キノコ嫌い! などと言ったとして、

 キノコ法違反の疑いで38歳の男が逮捕されたノコ」


この地獄絵図はトリエルの力が切れるまでの7日間続いたそうノコ。


「キノコって楽しいねノコー!」

「どこがじゃノコーー!!」


あゆむは二度とキノコ狩りはしないと、そう心に誓ったそうノコ。

ノコ。



――――


次回 落ちてきた天使と同居することになった件。


「ハロウィンの大暴走」にご期待ください。


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