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八話「お盆に帰る天使」

 7畳の部屋では、世間がお盆休みで浮かれる中、

 普段通りのおばけ動物園……

 いえ、万年お盆状態です。


 六匹のおばけ達は今やお線香を勝手に炊いて香りを食べ出す始末。

 それどころか「他のブランドも用意しろー」と注文までつけてきます。

 お線香を箸に見立てて皿を鳴らしているおばけもいますね。

 あ、こっちはメガホンで訴えてますよ。


「やかましいぞ! 居候共が!」

 あゆむは半ば呆れ顔で一喝しますが、きっと買ってしまうのでしょう。


「お盆だぞー!」

「おばけに感謝しろー」

「感謝されるようなことしとらんじゃろがい!!」


 あゆむが手でしっしとやると彼らはベロベロバーで散っていきます。

 ……が、そうでない者もいます。

 そう、あゆむの宿敵、アンポンタンです。


「おおん!? 聞き捨てなんねーな!」

「普段遊んでやってるのにー!」

「もう遊んでやんないぞー!」


 彼らの畳み掛けるような意見も、あゆむは鼻で笑うと親指を下げてしたり顔です。


「おー、そいつはいい。静かに暮らせるぜ」


 あゆむはふふんとドヤ顔で勝った気でいますが、アンポンタンも負けていません。

 彼らはニヤリと笑うとすうっと後ろへ下がり、一人の少女を差し向けます。


「先生、お願いします」

「魔王様、やっちゃってください」

「サターン!」


「お前ー! あちょべ!」


 いつの間にサタンちゃんを手懐けたのか、アンポンタンは巧みにあゆむへけしかけます。

 サタンちゃんはすっかり遊んでもらう気満々です。

 リボンの巻かれた可愛い尻尾が上向きでブンブンです。


「お前らずるいぞ!」

「アッカンベー!」

「お腹ポンポーン!」

「尻尾フリフリー!」


 完全に舐めきってます。最初からサタンちゃんをそそのかして遊ばせる気だったのでしょう。


「ギャオー! 怪獣ごっこじゃー!」


 一方のサタンちゃんは怪獣ごっこなどと言ってはいますが、口からは本当に黒いブレスが出ています。

 結構熱いらしく、あゆむは手をブンブン振ってます。


「アチチ! やめーい!」

「ワハハー! ギャオー!」


 するとここでアンポンタンも参入!

 あゆむに追い打ちを仕掛けます。


「バアルのアニキ! お願いしやす!」

「ええ、構いませんよ。ククク……」


 バアルゼブルはそう不敵に微笑むとアッチを思い切りシュート!

 相変わらず華麗な足さばきです。


「甘いわ! ピピ!」

「はい!」


 しかし、ここで久々にピピがシーツ状態であゆむの前に立ちはだかると、アッチをブロック!

 アッチは天井にぽーんと跳ね返りますが……


「行くわよーん!」

 そこをポンポがバットに化けてアッチをカキーン!


「させませーん!」


 ピピは飛び上がり、再度それをブロックします!

 これにはあゆむもガッツポーズです。


「でかしたー!」


 しかし、健闘もここまででした。

 アッチは今度はV字に壁に激突すると、ぐにーんと縮んで……ビュン!


 ケチューン!! とあゆむのお尻に激突!


「ほげえ!?」


 あゆむはお尻を押えて飛び上がり、これにはおばけ達大爆笑。

 ケラケラと笑い、真似までしだします。


 一方ピピは申し訳ないのか、恥ずかしいのか、シール状態のままキッチンへ消えていきます。

 そして最後は……


 ゴーン!


 タンタがタライに化けて体当たり!

 あゆむはバターン! そしてお決まりの顔ペチペチ……


「バーカバーカ」

「ザーコザーコ」

「雑魚雑魚お兄ちゃーん!」


 屈辱のクソガキ煽りを受け、あゆむはノックアウトするのでした。


「お、おのれ……いつか必ず滅ぼして(地獄へ送って)くれるわ……がくっ」


 久々の誓いも飛び出して、気持ちよく(?)負けるあゆむでした。


 …………


 ――――


「大丈夫ですか?」

「うう……まだズキズキするのう」

「すみません……」


 冷たく柔らかい感触で目が覚めると、

 そこにはワンピース姿に戻ったピピが膝枕で介抱する姿がありました。


 彼女の青髪がふわりと揺れて、金木犀に似た森の香りが漂います。

 まるで山で見つけた小さな小川で寝ているような気分です。


 あゆむが心地よさそうに目を閉じると、ピピも目を細めて、

 愛おしそうにあゆむのおでこを撫でて満足気です。


 しばらくそんな甘い空気がキッチンを満たし、

 あゆむは静かに目を開けると、小さな違和感に気が付きます。


「そういえばトリエル達がいないのう」


 あゆむがピピを見つめると、彼女は静かにうなずき答えます。


「ミカエルさんとガブリエルさんを連れて出かけていきましたよ」

「ん……桜井邸へ行ったのか……?」


 あゆむは答え合わせのようにピピを見つめますが、

 彼女も知らないようで、首を傾げます。


「ガブリエルさんはともかく、ミカエルさんも一緒とは、珍しいのう……」


 あゆむはそんな事を呟きながらキッチンの天井を眺め、

 彼女らに思いを馳せます。


 …………


 ――――


 白い壁の小さな家、桜井邸。


 桜井美恵はお盆ということもあって、

 自室に移動した娘恵美の仏壇に手を合わせます。


 その娘恵美はエミエルとして転生し、

 美恵もそれは知っているところではありますが、

 それでも仏壇に手を合わせるのが親心というものなのでしょう。


 すると、ここでインターホンが鳴ります。


「はーい」


(こんな時期に誰が? 恵美?)


 美恵は恵美がトリエルとして来てくれたのかと思い、ドアを開けます。

 すると、そこにいたのは……


 …………


 茶色のツーサイドアップの髪、トパーズ色の瞳――そんな16歳の少女。


「恵美……!?」


「来ちゃった……」


 美恵は思わず、息を呑み、恵美と言ってしまいました。

 しかし、それも無理はありません。


 今彼女はピンク髪でゴスロリ服のトリエルではなく、

 茶髪でミカエルさんから借りた私服、

 白ブラウスに青いプリーツスカート姿の桜井恵美なのです。


 そう、ここに元大天使の彼女、ミカエルさんが絡んできます。

 エミエルは事前にミカエルさんに協力してもらい、

 奇跡の力で恵美の姿に戻っていたのです。


「どうして……」


 美恵は目に涙を溜めて、信じられないといった様子で首を横に振ります。

 恵美はここで美恵の肩に手を置いて微笑みます。


「お盆だから、天使様に頼んで帰らせてもらったの」

「そういうことです。娘さんのたっての願いで」


 そういうガブリエルママはいつものママ姿ではなく、

 二枚の翼を持つ大天使姿です。


 恵美は美恵に抱きつくと、ずっと言えなかった、

 言いたくて仕方がなかったあの言葉を口にします。


「……ただいま。お母さん」

「……お帰りなさい。恵美」


 両者は感極まり、熱いものを頬に流しながら玄関先で抱き合います。

 ぎゅっと腕に力が入り、言いたくても言えなかった言葉が言えて、

 気持ちが込み上げてきます。


「それでは、わたくしはこれで。確かに、娘さんをお届けしましたよ」


 ガブリエルママは目を軽く指で拭うと、翼を広げて飛び立ちます。

 美恵はガブリエルママに静かに頭を下げて、恵美を再び抱きしめます。


「お盆の間はずっと居れるの?」

「うん……」


 二人はしばらく動くことなく、その場で思いを確かめ合いました。

 それはまるでこれまで溜まっていた思いを吐き出すかのように。


 恵美は美恵に静かに甘えて、美恵はそんな恵美を優しく笑顔で迎えます。

 ゆっくりと散る天使の羽が光に照らされ、

 母娘の再会を祝福するかのように輝いていました。


 …………


 ――――


 その日の桜井邸の食事はすき焼きでした。

 グツグツと煮える鍋を囲み、二人は「母娘」としての食事を楽しみます。


「向こうでの生活はどう?」

「ええとね……騒がしいけど、楽しいよ」

「好きな人は?」

「いるよ……少し進展した……のかな」


 二人はトリエルとおばさんとして普段から会っています。

 けれど、二人ともそこには一切触れず、恵美と美恵として振る舞います。

 美恵はずっと恵美に聞きたかった事を聞くように、

 恵美も美恵に言いたかった事を言うように二人の会話は続きました。


 リビングではすき焼きの幸せの味と共に、

 お盆で再会した母娘の幸福の時間が過ぎていきました。


 …………


 ――――


 その夜、恵美は自身の部屋に恵美として帰宅し、美恵と一緒に眠りに着きます。


「お母さん」

「なあに?」

「……大好き」

「私もよ……恵美」


 そんな幸福な時間はあっという間に過ぎ、やがてお盆の最終日を迎えます。


 …………


 ――――


 正午12時。

 玄関のインターホンが鳴り響き、それは魔法の再会の終わりを告げる合図となります。

 美恵は恵美を強く抱きしめ、涙で目を赤く腫らしながら、娘の顔を見つめます。

 恵美もまた、母親の温もりを惜しむように、赤くなった目で視線を返します。


 彼女達は普段トリエルと近所のおばさんという、優しい嘘の関係で会っています。

 しかし、今は、今だけは本当の姿です。

 それは普段の別れとは全く違う悲しみを作り出します。


「……時間みたい……帰るね」

「あなたの帰ってくる場所はここよ。だから、帰るだなんて、

 そんな悲しいこと、お願いだから言わないで……」

「うん……行ってきます」

「行ってらっしゃい……気を付けてね……恵美」


 二人は別れを惜しむように、互いに強く抱き合い、

 来年の再会を心の中で誓い合います。

 そして、ゆっくりと一緒に玄関の扉を開けます。


「お迎えに上がりました」


 眩しい光が差し込み、やがて目が慣れると、

 そこに立っていたのは天使の姿をしたガブリエルママでした。

 彼女は銀色の翼を広げ、神妙な表情で美恵を見つめます。

 彼女自身、母娘の絆の深さと別れの痛み、それはよく知っています。


 お盆の限られた時間、「亡き者(恵美)」は天界へと還らねばならないのです。


「娘を……恵美をお願いします」


 美恵は恵美を最後に強く抱きしめ、

 心の中で「連れていかないで」と叫びたい衝動を必死に抑え、

 拳を握りしめます。涙が頰を伝い、胸がキリキリと痛み出します。


 ガブリエルママは、母の苦しみを少しでも和らげようと、静かに恵美の手を取ります。

 言葉はなく、ただ優しい視線を交わすだけ。そして、無言で空へと飛び立ちます。


 どんな言葉をかけたとて、悲しみを広げるだけ、ならばせめて無言で。

 それは悲しみを知るからこその優しさです。


 舞い散る天使の羽は、昼下がりの太陽に照らされて、

 銀色に輝きながらふわりと落ちます。

 美恵はそれをそっと掬い上げ、胸に当てると、遠ざかる娘の姿に思いを馳せます。


「また来年ね……恵美」


 上空では涙を堪え、ガブリエルママにしがみつくエミエルの姿がありました。

 ガブリエルママはそんなエミエルをそっと撫で――


「笑顔の天使だからといって、泣いてはいけない……ということはないのですよ。

 悲しい時は泣きなさい」


 そう優しく説くと、エミエルは堰を切ったように泣きだし、

 こぼれ落ちる涙が太陽に照らされ、美恵の手のひらにかかります。

 それは一瞬、七色の光を放ち、今でも変わらない恵美としての気持ちを伝え、

 美恵の胸に来年への希望を残しました。


 …………


 その翌日から、再びトリエルとしての恵美と、

 近所のおばさんのフリをする美恵との関係が再開されます。

 二人は昨日のことなど、お互いに無かったかのように二人は振る舞います。

 普段の二人はあくまでも年の離れた友人同士。


 戻れない過去に縛られず、前を向こうと、

 自然と決まった「優しい嘘」の関係です。


「おばさんこんにちはー!」

「いらっしゃい、トリエルちゃん、ガブリエルさんも」

「お邪魔しますね」


 トリエルを中心として築かれた奇妙な絆。

 生前の母娘と転生後の母娘。

 彼女達はこれからもそんな関係を続けるでしょう。


 天使とて時間は有限です。

 いつ神からの指示で、天界へ帰らねばならぬかわかりません。

 でも、少なくともそれは今ではない。


 三人はそれを信じて、一分一秒を噛み締めるように、

 新たな母娘の絆を深めるのです。

 これからも、ずっと続くことを願いながら。



 …………



 ――――



 次回 落ちてきた天使と同居することになった件。


「トリエル、キノコ狩りへ行く!」にご期待ください。

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