七話「夏だ! プールだ! トリエルだ!」
日本の神界、高天原。
アマテラス様の自室では、今日も彼女はパツ金イケメンホストをはべらせ、
朝から冷房ガンガンでウィスキーを飲んでいます。
コンコン――という、木製のドアをノックする音が響きます。
「アマテラス様」
「入りなさい」
赤い着物を着た秘書が一礼をして中に入ります。
アマテラス様は若干不機嫌そうに足を組み、ウィスキーを一口。
「ご報告です」
「んー……? これは」
アマテラス様の表情が変わります。
足を組み替え、報告書を両手で持ち、視線を素早く送ります。
「やはりそうでしたか」
「皆姿こそ異なりますが、おそらくは同一の存在だと思われます」
「かのモノは、あの青年……いえ、正確には天使の少女に興味がありそうですね」
アマテラス様はまた足を組み替え、ウィスキーを含みました。
――――
空の上の小さな楽園、天界。
「ウリエル……通知だぜ」
「はーい!」
ウリエル様はキャッピキャピの猫なで声でスマートフォンを取り出します。
ちなみに今彼女は自室に一人です。
先の声は推しのホストに入れてもらった通知ボイスです。
「チッ……アマテラスのババアか……」
ホストからの愛のメッセージでなく毒づく彼女ですが、
次の瞬間、真面目な顔を作ります。
どうやら先の内容がウリエル様と共有されたようです。
「なるほどな、ハゲにも言っとくか」
なんかウリエル様、どんどん口悪くなっていきますね……
…………
「ちめたー!!」
一方の神様は糖尿病予備軍にも関わらず、練乳たっぷりのイチゴかき氷を食べています。
これはフラグですよー。
「何してる。ハゲ」
「ハゲとはなんじゃあ! ワシは……」
「ワシは?」
「神ちゃんでーす!」
「仕事しろやぁぁ!!」
「ぎゃーん!」
久々の回し蹴りが炸裂し、神様ウットリです。
「痛いけど……痛いけど……」
「クソ……帰る!!」
損した気分になったウリエル様でした。
――――
ミーンミンミンミーン……!!
あゆむの部屋ではそんなセミの鳴き声……を真似したアンポンタンの騒音が響きます。
「やかましいんじゃい!!」
「ミミミミミ!!」
すると彼らは死にかけのセミのごとく、地面をバタバタ!!
あっれ、きっしょく悪いんですよね……!
「キモイわい!!」
あゆむは、もはやよくわからないそれを蹴飛ばすと、それが壁にぐにーん。
「ミミミミ!!」
跳ね返って顔面にべチーン!! 情熱のセミキッス!!
「ミミ!!」
変な液体までかけてきました。
ちなみに本物のセミのそれは水です。
「やめい! このアンポンタンめが!!」
「フォッフォフォッフォッフォ……」
「セミ違いじゃ!! チョキ星人め!! グーパンチじゃい!!」
そのパンチはタンタの尻尾に捕まり、そのままあゆむに反射!
「ぐぇ!?」
「フォッフォフォッフォッフォ……」
「お……おのれい……いつか必ずスペシウムの刑じゃい……!」
うん。できるといいねえ(投げやり)
「全く……暑苦しい男ですね……」
「ガブリエルママー、暑いー」
「はーい!! トリエルちゃーん、風ですよー!」
「涼しーい!!」
「あの……ガブリエルさん、こっちにもその風、くれませんかね?」
「……フッ!!!!」
バシャ……
「あら、水も滴るいいブサイクですよ!」
「失礼、手が滑りました。クク」
「大丈夫ですよ、バアル。彼は暑いと言っていたので」
「それは何よりです」
「クソがー!! おのれら!! ここは俺の家じゃあー!!」
いつもながら同居人は我が物顔です。
今日も今日とて好き放題。
「あー……暑いのー……ピピー」
「ダメじゃ! ピピは妾のじゃ!」
あゆむが恨めしそうに視線を送ると、
サタンちゃんが尻尾まで巻き付けて、ピピにピッタリ。
冷たいその体で涼んでました。
「ごめんなさい……サタンちゃんが離れてくれなくて……」
「ピピー」
幼稚園に通うようになって、多少「お姉ちゃん」としてママ離れ出来るかと思ったら、
夏になり、逆戻り。
「フン……情けないですね」
「ミカエリュ、ピピの手を掴んでたら説得力ないじょー」
「う、うるさいですね! 冷たくて心地いいんです!」
「のう、ここは俺の家なんじゃが、忘れとらんか?」
やはりみんな暑いのでしょう。
思い思いの方法で涼んでいます。
特におばけ達は人気で、アンポンタンのみならず、
他のおばけ達も誰かしらが抱っこしています。
彼らはひんやりしていて気持ちがいいようです。
「いっそ肝試しでもするかー?」
「これは異なことを。万年肝試し状態ではありませんか」
「やかましいぞ、バアル」
「暑い暑いと言っていると余計に暑いものです。心頭滅却ですよ」
「風にあたりながらおばけを抱いて言うても、なんの説得力ぞ。
ミカエルさんや」
(誰も味方はおらんのかー)
あゆむはそんな事を考えながらベッドにごろーん。
すると……頬にピトッという冷たい感触が。
「はい。コーラ」
「……エミの方か。うう……俺の味方はお前だけじゃあ……エミー」
「聞き捨てなりませんね……わたくしは味方ではないと……?」
「いちいち怨霊化すんな! 怖いんじゃい!」
「涼しくしてあげますよ……?」
「お願いです。やめてください」
カシュ! 爽やかなプルタブを抜ける炭酸の音が、
あゆむに若干の涼を提供します。
「……ふぅ。水に浸かりたいのう」
「三途の川でしたらご一緒しますよ?」
「ピピさん、そろそろ許してください」
あゆむが彼女の手を握ると、ようやく彼女も機嫌を直します。
「……不安にさせないでください」
「ピピ……」
「あゆむ……」
「ブチューん!」
「アテレコすんなー!」
あゆむの拳は空を切り、アンポンタンはケラケラ。
「クソ……塩に漬けたろか。ん? そうじゃい!」
「気持ち悪いですね……」
「やかましいぞ、ミカエルさん! プールじゃ! プールに行くぞ!」
「プール行きたい!」
「わたくしも行きたいです……エミエルが行くなら」
「だから怖いんじゃい……」
(やれやれ……これじゃあ、身が持たんな)
そう思いつつも、どこか楽しげなあゆむです。
「……まあエミもピピも行く気じゃ。せっかくなら、みんなで行くぞ」
「し、仕方ありませんね……どうしてもと言うなら……」
「トリエルが行くならママも行きますよー!」
「では執事の私もお供しましょうか」
「妾も行くじょー!」
こうして、みんなでプールへ行くことになりました。
…………
そうして、あゆむ達は今、最寄りの市営プールにいます。
市営プールは丸型の流れるプールがウリの人気スポット。
皆それぞれの水着で楽しそうに水に浸かっています。
はい? 女性陣の水着を語れ……?
挿絵ありませんか? ほら、見えてくるでしょう?
スポーツ水着にパレオのガブリエルママ、
フリル付きの全身水着でアヒルの浮き輪を持ったサタンちゃん。
白と水色のボーダービキニのミカエルさん。
ピンクのレース水着のトリエル。
彼女らが、楽しく水でバシャバシャしてるじゃないですか。
「えーい!(裏声)」
「やったなー!(裏声)」
え? 見えない? 修行が足りません。念で見てください。
ちなみにピピはワンピースのままです! ざんねーん!!
さて、そろそろあゆむを見てみましょう。
何やら腰に手を当てていますね。
「ふ……アンポンタン破れたりじゃい」
あゆむは既にプールに浸かっている女性陣を見ます。
彼女らは浮き輪を持っていますが、皆色が白いですね。
「名ずけて! 浮き輪に化けさせて、塩素でバイバイ大作戦じゃい!!」
どうやらそういうことのようです。
なるほど、ですが効果あるんでしょうかねえ。いいえありません。
「ケッ!」
「うわっ!? おのれい……浮き輪の分際で人間様に逆らうとは……」
あゆむは浮き輪のアンポンタンを睨みますが、
いかんせんどれが本物かわかりません。
さらに浮き輪を着けているのは女性陣。
下手に触れません。
「ぐぬぬ……策士が策に溺れるとは……プールだけに」
スコーン――と、浮き輪の一匹があゆむに頭突き!
「ほげえ!!」
あゆむはそのまま塩素水にじゃぶーん!
どうやらつまらなかったようです。
「お、おのれい……そうじゃい!!」
あゆむは不敵に微笑むとトリエルを探します。
またなにか企んだようです。
やめときゃいいのにー。
「やかましいぞ! ナレーター!」
へーい。
「おーい! トリエルー! イルカが見たいぞー!」
「はーい!」
そう言うと彼女は野球帽をぽーい!
ハローが「Hello」
さあ……地獄のイルカショーだ……
ゴゴゴゴゴゴ……
クェクェクェクェクェ……
するとどこからともなく大量のイルカ軍団がプールに襲来!
これには観客さんもビックリ!
「イルカの騎馬戦だよー!」
トリエルが口笛を吹くと、なんとイルカ達は多数の騎馬を作り出します。
何故かプールって最後騎馬戦ですよねー?
「クェー」
イルカ達がおばけのボールを口で飛ばしながら相手の騎馬にシュート!
イルカはぽーん!
すると落ちた騎馬はプールを泳ぎ、ジャーンプ!
「クェー」
そのまま空中で水をブシャー!!
会場大喜びでキャー!!
トリエルわーい!!
「いけーいけー!」
いつの間にかトリエルも騎馬戦に参加しだし、すると相手はサタンちゃん!
「フハハ! 負けんじょー!」
「イルカビームだよー!」
すると水を含んだイルカが口からビーーーーム!!
「なんでやねーん!!」
会場どごーん!!
みんなひえー!!
「負けんじょー!! ギャオーーーー!!」
サタンちゃんも負けじと水を含んでサタンブレス発射ー!!
ギュゥオオオオォォォォン!!
ブレスがドゥゥゥゥゥゥン!!
会場はバゴーン!! バゴーン!!
コンクリートは破壊され、水がドババー! で大こうずーーーーい!!
逃げ惑う人々、暴れ回る破壊神と魔王。
最初は平和だったのに、どうしてこうなった……
「ギャハハハハー!!」
「プールって楽しいねー!!」
ビームドガーーーーン!!!!
「ふざけんなーーーー!!!!」
あゆむはビームの直撃を受け、そのまま瓦礫にグシャー!!
…………
気が付けばそこはプールの残骸だらけ、遠くではサイレンがなり、
呆然とするスタッフ。
わんわん泣く人々。
地獄絵図がそこにありました。
「ウ、ウリエルさん……助けてくれえ……ガク」
…………
あゆむ達は無事プールを出禁。
プールはウリエル様の権能により修復され、ガブリエルママの権能で大反響。
一部始終を撮影した動画がネットで大バズり。
連日行列を呼んだそうです。
「夏よはよ終われ……」
あゆむの平穏と秋はまだまだ遠そうです。
――――
次回 落ちてきた天使と同居することになった件。
「お盆の帰宅とこぼれる笑み」にご期待ください。




