間章「サタンちゃん、初めてのお使い」
7畳の部屋は今日は暇でしゅた。
あゆむは本屋のアルバイトで留守、
ガブリエルママはウリエルの有給消化の補填に駆り出されやはり留守でしゅ。
バアルゼブルはあゆむのお金で紅茶店へ行きましゅた。
さらにトリエルは桜井邸。
今部屋にいるのはミカエルさんとピピ、サタンちゃんだけとなっているでしゅ。
後はアンポンタンも含めた六匹のおばけ達でしゅ。
でしゅ!
――――
時刻はお昼の13時。
ピピはキッチンでお料理の最中でしゅた。
今日はビーフシチューにするみたいでしゅ。
しかし、ここでピンチが!
でしゅ!!
……ところで、辛いんで語尾戻していいですか?
「困りました……」
ピピが冷蔵庫を見て固まりました。
どうやら肝心の材料がなかったようです。
おばけ達は元々人間の食事は食べないので興味無さそうです。
今はボードゲームの人生ゲームしてますね。
おばけが人生ゲームというのは、中々シュールな光景です。
あ、今一組結婚しましたね。
ノリノリでぶちゅーしてます。
「どうかしましたか?」
ここでミカエルさんが元とはいえ、天使の性分でピピに何かあったと察知。
話しかけるその表情は真剣ですが、どこか嬉しそうです。
「わたしを頼るのです」と顔に書いているかのようです。
「あ、ミカエルさん。実は少し困ったことに――」
ピピがここまで言いかけた時でした。
「困ったこと」というワードと「《《ミカエルに頼った》》」ことで、
サタンちゃんがブゥオウン! とマッハで襲来!
阿蘇パンマンの動画を見ていましたが、それすら投げ出す反応です!
「おい! ピピ! なじぇ妾を頼りゃんのじゃ! 妾のがお姉ちゃんじゃぞ!」
確かにサタンは神話ではミカエルの双子の《《兄》》ですが、
それとこれとは話は別で、現在のサタンは幼女のサタンちゃんでしゅ!
ピピも同じことが言いたいようで口ごもります。
「え……でも、サタンちゃんは……」
ペチン!
「でももデーモン小倉殿下もないわぁ!
こやちゅなんじょに頼りゃんで、妾に頼りゃんかぁ!」
ペチン!
どうやらママ役のピピが、妹のミカエルに声をかけたのが余程気に入らないらしく、
先ほどから尻尾をペチペチ床に叩きつけまくってます。
しかし、本人からすれば姉(?)のプライドが傷付けられた事件でも、
傍から見れば幼女のかわいい、かんしゃくでしゅ。
「ぷーくすくす。いい加減ご自分の立場というものをわきまえるべきですね。
“お姉様”
貴女ではわたしには勝てないということに。くぷぷ」
カッチーン!
ペチン! ペチン! ぺチーン!
「よいか! ピピ!
ミカエリュに出来て妾に出来んことなじょないんじゃ!」
「……フッ!!」
「こにょ!」
ペチン!
「……フッ!!」
やはり天使と悪魔というのは仲が悪いようで、
方や元魔王、方や元序列一位大天使。
いくら姉妹とはいえ、立場が対極すぎて喧嘩が絶えません。
サタンちゃんが天界にいた頃は仲が良かったはずなんですけどねえ……
これにはピピも困り果てて、目が赤くなってます。
あ、ちょっと黒いオーラも出てますね。
「……二人とも、いい加減にしないと食事を抜きますよ」
食事を抜くと言われ、ここはミカエルさんが折れるようです。
と言うよりは、サタンちゃんには何も出来ないと見込んだ上で、
“わからせる” つもりのようです。
「……仕方ありませんね。ではここはお手並み拝見といきましょうか」
「ふん! 吠えじゅらかかしぇてやりゅわ!」
ペチン!
「さあピピよ! このサタンになんなりと言うが良いじょ!」
「ではサタンちゃん、お肉とデミグラスソースを買ってきてください。
お願いできますか?」
「おやしゅいご用じゃ!」
サタンちゃんは腰に手を当てドヤ顔ですが、ピピは不安そうです。
「では行ってくりゅじょ! じょ!」
サタンちゃんはピピからお金を受け取ると尻尾をフリフリ、
腕をブンブン振って、黒Tをふわふわなびかせて歩いていきました。
…………
「やっぱり心配ですね……アンポンタンの皆さんはどこですかー?」
「ナンダヨー」
「ダヨー」
「ヨー」
アンポンタンはふよふよ上から飛んできましたが、ちょっと面倒くさそうです。
「サタンちゃんが心配なので、見てきてもらえますか?」
「アッカンベー!」
「お尻ペンペーン!」
「お前のあゆむブサイクー!」
カッチーン!
あゆむの悪口を言われて、ここでピピが怨霊モードに!
目を赤く見開き、体は壊れたマリオネットのように、
ガガガとありえない方向に曲がっていきます。
全身から黒いオーラが吹き出し、周囲から冷気が漂い完全ホラーです。
ピピは逃げようとするタンタを瞬間移動で捕まえると、アイアンクローで捕捉します。
「わたくしの大切な人をブサイクと言いましたね……」
普段アンポンタンがあゆむをいたぶっても、ピピはじゃれつきの延長線上として、
やり過ぎなければ大目に見ますが、悪口は看過できないようです。
タンタはじたばたと、もがいていますが、さすがに相手が悪いようです。
「フン!!」
ピピはタンタを掴んだまま塩の箱に突っ込んで押さえつけています。
あー、タンタの体が徐々にサラサラいってます。
「タンター!」
「やめろー!」
アッチとポンポの叫びに対し、ピピは首を180度曲げて応え、
さすがのアンポンタンも今回は屈服するようです。
やっぱりヤンデレが最恐なんですかねえ。
「行ってくれますね……?」
「覚えてろー!」
「忘れるなー!」
「これぐらいで勘弁してやるー!」
負け惜しみを言いながら飛んでいきました。
…………
――――
「おっかいもにょー! おっかいもにょー! 東部ー春市ー!」
サタンちゃんはニッコニコで歩いておりますが、早くもトラブルの予感でしゅ!
なんと! 目の前に駄菓子屋がありましゅ!
うめえ棒が売ってましゅ!
「めんたい味があるじょ! じゅるり」
やっぱりめんたい味が最高ですよねー!
え? コンポタ? ……いい度胸してますね。
「あらー、可愛いお嬢ちゃんねー」
ここで駄菓子屋のおばあちゃん登場でしゅ!
サタンちゃん大ピンチでしゅ!
このままじゃあ、おばあちゃんちからでお金が消えていきましゅ!
コーン!
ところが、どこからともなく小石が頭に。
ここでサタンちゃんは目的を思い出したようで、
名残惜しそうに駄菓子屋を後にしました。
誰が投げたんでしょうね……
「めんたい味……」
めんたい味であるならば、この後ろ髪引かれる思いは仕方がないでしょう。
コンポタなどチヤホヤされているだけで、
所詮、真の王者たるめんたい味には敵わぬのです。
めんたい味こそ真のうめえ棒。
うちの中に入れた瞬間に広がる明太子の風味、
調味粉まで舐めたくなる背徳感……
それがめんたい味です。
後はサラミ味も美味しいですよね!
……なんの話でしたっけ?
…………
この後も、サタンちゃんには次々とトラブルが起こりましゅ。
「カーカー!」
カラスがサタンちゃんの財布を狙っています。
「アホー、アホー、ペーンペーン!」
おっとここで別のカラスがやってきて、例のカラスを挑発してますね。
アホーってホントに鳴くんですねえ……
例のカラスはそれにカッチーンで別のカラスの所へ飛んでいきましたね。
財布は無事です。
…………
「シューパーってどこじゃ? 迷ったじょ」
まずいです。サタンちゃん、迷子です。
周囲を心細そうにキョロキョロしています。
「ふぇぇぇ……ピピ……」
ああ、ここでママ代わりのピピの名を呼んでいます。
顔も泣きそうですよ。
「でーべそ!」
おっとここで猫がサタンちゃんの財布をひったくりました!
しっかし、変な鳴き声ですね……
「あ! 待てー!」
サタンちゃん、泥棒猫を追いかけダッシュです! ドドドドド!
負けるなー!
…………
「シューパーをみちゅけたじょ!」
おっと、ここでサタンちゃんは目的のスーパーにたどり着いたようです。
しかも取られた財布も目の前に落ちてます。
ハッハッハー! と腰に手を当てて入っていきますが、
道中、アンポンタンの陰ながらのサポートがあったことも、忘れてはなりません。
そうです。彼らが助けていたのです。
そりゃそうです。
アホーとなくカラスとか、でーべそって鳴く猫とかいるわけないんです。
え? わかってた?
…………
「何を買うんだったか忘れたじょ? ポテチ?」
おっとサタンちゃんがお菓子コーナーへ。
このままではお菓子の魔力でお金がなくなります!
「てーへんだ! てーへんだー!」
おっとここでカートを押す、ちょんまげの江戸っ子がやって来ました!
ドドドドとすごい勢いです!
「じょー?」
江戸っ子はサタンちゃんを引くと思いきや、
そのままカートに乗っけてダッシュです!
危ないからマネしないでね!
…………
「とまりぇー! お肉だじょー!」
おっとサタンちゃん、ここで思い出したようです。
江戸っ子もどこかに消えて無事お肉をゲット。
何故かカゴにデミグラスソースとお線香も入ってます。
「らくしょーだじょー!」
サタンちゃんははっはーと得意げにお会計へ。
「お嬢ちゃんお使い? 偉いねー!」
「もっと褒めるじょー!」
このサタンちゃんスマイルに周りのおばあちゃんがわらわら!
「まー可愛い」
「孫にそっくりよー」
「尻尾フリフリでワンちゃんみたいねー」
「くるしゅうないじょー!」
そうこうしている間に何故かお線香が消えて、
サタンちゃんは「じょ?」と思いながらも、
おばあちゃんズに送られて無事帰宅したそうです。
「またじょー!」
「バイバーイ」
ガチャ。
「ピピー!」
サタンちゃん、ピピママを見つけてダッシュです。
やっぱり心細かったんですね。
今はぎゅーって抱っこされて、尻尾フリフリで満足気です。
癒されますねえ。
「サタンちゃん! 良かった……」
「見るがよい! ちゃんと買えてるじょ!」
「はい。ちゃんと買えてますね。偉いですよー」
「もっと褒めていいじょ!」
「サタンちゃんはとってもいい子ですよー!」
「とーぜんだじょ!」
微笑ましい疑似母娘をよそに、ミカエルさんは舌打ちしてます。
もうどっちが天使で悪魔だかわかりませんね……
「あら? サタンちゃん、お釣りが足りないようですが、
お菓子を買ったんですか?」
「違うじょ。お線香がなくなったじょ」
お線香と聞いて、ピピの目が赤く光りましたね。
黒いオーラも出ています。
「アンポンタンの皆さん……ちょっと……」
サタンちゃんがお釣りでお菓子を買う分には優しいピピも、
アンポンタンのちょろまかしには厳しいようです。
お釣りで勝手にお線香を買われてご立腹です。
この後、彼らがどうなったかは……皆様のご想像にお任せします。
こうして、サタンちゃんの初めてのお使いは、
無事成功(?)で終わるのでした。
めでたし、めでたし。
――――




