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四話「ミカエルの帰還」

どこぞの異世界「ドコカーノ」


紆余曲折あり、ミカエル様は魔王の所へやって来たみたいです。

つか……つか……つか……と青い血の着いた大剣を引きずりながら歩いていますね。

こわー……


魔王の居場所、そこは薄暗い石の城。

ロウソクの灯りが揺れる螺旋階段を剣を引きずりながら登るミカエル様。

階段には青い血がつう……っと伸び、

もうどっちが悪魔なんだかわからなくなっております。


やがて長い螺旋階段を抜け、そこには赤じゅうたんと幾つもの石像が迎える大広間が。

そう、ここに魔王がいます。

しかし魔王の様子はどこか異様です。


黒いマントに身を包み、大きな角が二本生えるその姿は威厳のある魔王そのものですが、

下を向き、フフフと不敵に笑っております。

いえ、笑うと言うよりは呟くに近いでしょうか。

その身体からは黒いモヤがあふれております。


「貴殿がミカエルとやらだな……?」

「魔族に答える必要はありません」


ミカエル様は血まみれの剣を突きつけますが、

魔王は余裕の笑みでクククと笑います。

なにか秘策でもあるかのようです。


「そう言うな。ここも悪くはないぞ。どうだ? 共に世界を支配せぬか」

「興味がない」


ミカエル様は即答するとそのまま前進します。

しかし、魔王は意に返さず話を続けます。


「そうであろうな。 ならば天界ならばどうだ? 神に一泡吹かせたくはないか?」

「天使にそれを言うとは、いい度胸ね……」


そう言うとミカエル様は青い剣を天井へ掲げます。


「神よ」


しかし、いつものようにミカエル様のハローは、エラーを示す赤点滅を繰り返しています。

ミカエル様は「またか……と」ため息を吐いて大きく息を吸います。


「さっさと承認しろ!! 魔王の次は貴方らの番よ!!」

「ええ!? 今言ったセリフ覚えてるー!?」


ミカエル様の華麗なブーメラン発言、これには魔王もポカーンです。


…………


この世界の天界。


メインルームでは今けたたましいブザーが鳴っております。


「自称天使、ミカエルの権能申請がまた来ています! かなりの圧です!」

「もう許可しちゃいましょうよー。魔王倒してくれるみたいですし」


「いやいや魔王倒したらこっちに来るんでしょ!? 却下却下」

とまあ、許可されないのですが……


「え……嘘!?」

ここでオペレーターの天使がなにかに気付き、

キーボードを必死に叩いています。


「どしたー?」

「メインシステムに侵入されました!! ハッキングです!!」

「はあ!? なんなのアイツー!?」


ここでこの天界の大天使様でしょうか、四翼の天使様が指示を出します。

「これまでは許可してきたが、もう擁護出来ん!! 

 ヤツを悪魔第3911号と認定する!! 阻止しろ!!」


大天使様の命を受け、オペレーター達がキーボードを必死に叩きますが、

次々とそれが破られていきます。


……


「対象、第一防御プログラムを突破! 第二防御プログラムも侵入されます!」

「防御プログラム、システム復旧急げ! 温いぞ!」

「やっていますよ!」


……


「第二防御プログラムも突破されました! ファイアウォール、攻撃を受けています!」

「ファイアウォールが突破されたらもう終わりだぞ! 食い止めろ!」

「言われなくてもやってますよ!!」

「ファイアウォール、破られました!! パスワード解析されています! もう持ちません!」


ピーーーーーー!!


ここでランプが青く光り、天界のパソコンが強制再起動されていきます。

「侵入されました……強制再起動……パスワード変更されてます」

「システム、完全に乗っ取られました」


「もうなんなのアイツー!!??」


こうしてミカエル様はこの世界の天界を乗っ取り、権能を無理やり通します。


…………


一方下界の魔王城ではミカエル様のハローが承認を示す青色の光を放ち、

剣に光が集まっていきます。


負けを認めたのでしょうか?

魔王はただフフフと笑うのみです。


「お家へ……返してーーーー!!!!」


ミカエル様は巨大化した光の剣を振り下ろし、それは魔王をこの異世界の下界ごと滅ぼしました。


「はあ……はあ……」


一瞬で瓦礫の山となった魔王城。

その頂きにミカエル様は立っております。

剣の軌道上の大地は大きく抉れ、遠くに見えるかつて街があったであろう地点、

そこからは地下水が吹き出し、川と化していました。


すると、瓦礫の中から、黒いモヤがミカエル様へ入っていきます。


「先程のあれ? 大天使にそのような瘴気などは……」


しかし、それはミカエル様の体内に染み込み、彼女のハローが徐々に黒ずんでいきます。


「な……に……」


ミカエル様が瘴気と侮ったそれは、その正体は瘴気ではありませんでした。

真正面から立ち向かえば、最強の天使であるミカエル様には効かなかったでしょう。

しかし、油断がその優位性をねじ曲げたのです。

やがて、ミカエル様の金髪が黒く染まり始め、ハローが赤黒く点滅します。


「や……め……」


しかし、その声はすぐに消え——


「フフフ……今度は貴方達よ」


ミカエル様は不気味にそう笑い、この世界の天界へ飛び立っていきました。



――――



ここは、雲の上の小さな楽園「天界」


ミカエル様が異世界で暴れている頃、

こちらの天界では新年も終わり、穏やかでゆるい日常が戻りました。


ずらりと並ぶデスクに天使達が座り、パソコン画面と睨めっこしています。


「おい! 地上からの祈りが足んねーぞおら! もっと神の言葉を届けろ!」

「もう23連勤目ですよー……寝たい」


「ウリエル様は今日で95連勤だぞ! 甘えんな!!」

「ノルマは達成しましたよー……」

「ノルマなんて達成して当たり前なんだよ!! 当たり前を誇張すんな!! ボケ!!」


「高天原からの転生希望者、最近減ってまーす。今日は12人ですー」

「天界の収入に関わるぞ!! 高天原は何やってんだ!! クレーム入れろ!!」

「それが平均寿命が伸びたとかで……後事故も減ってるので死者数減少ですー」


「知るかよ!! おい!! 誰か高天原の地獄行って死神呼んでこい!!」

「無茶言わないでくださいよー!!」

「うるせー!! 無茶でも苦茶でもやんだよ!!」


……穏やかで……ゆるい日常……ですね?


一方神様はというと……


「もしもーし! オーディン? ワシワシー。だからー!! ワシだって!!

 ワシワシ詐欺じゃないの!! 名を名乗れって!? 名乗れないから言ってんだろ!!

 神だよ!! そう、ワシー。今からオンラインで金太郎電鉄やらん? そう金鉄ー。

 お? やるー? じゃあ仏陀と閻魔も誘うわー。あいよ!」


なんか凄いメンバーですよね……てか閻魔様本物があれやるってどうなんですかね?

強いんでしょうか?


…………


ところ変わってウリエル様の自室では……


「ウリエル……今日も可愛いぜ」

「ええー? そんなこと……あるけどー……んちゅー!」


などと推しの高天原ホストの等身大パネルを相手に、一人で盛り上がっています。

かつてはベッド以外の家具がなかった自室は今や……


・推しホストのポスター

・推しホストの等身大パネル

・推しホストとのチェキ

・コスメグッズ

・推しホストから貰ったプレゼント(離れ防止対策)


とまあ……生活がホスト一色に。

すっかりホストオタクのホスト狂いになってしまいました。


恐るべし、高天原ホストクラブ。



とここで……



ドゴーーン!! という何やら爆音が外から鳴り響きました。

これにはウリエル様も真面目モードへ。


「なんだ。人がせっかくハッピーホストタイムやってる時に!!」

ちょっとまだアブナイのが残ってますが、ウリエル様は部屋を出て、現地へ急行するようです。



――――



一方その頃、下界のあゆむの部屋は……



ぺチーン!!


このように爽快な音を立てるのはサタンちゃん。

抱き枕であるあゆむにしがみつき、尻尾で顔をビンタするツンデレっぷりです。


「痛て!!」

「起きろ人間! キュアぷいがはじまるぞ!」

「見たきゃ自分で見ろよー」


ぺチーン!!


「痛て!!」

「湯たんぽが生意気言うでないわあ!! はよ起きて妾をテレビの前へ運ぶのじゃ!!」

「はいはい」


あゆむは仕方なくベッドから起き上がると、コアラのようにしがみつくサタンちゃんをおんぶして、

そのままテレビの前のソファに腰かけます。


「キュアぷいがんばえー」

「まだ始まっとらんぞー」


ぺチーン!!


「湯たんぽが喋るでないわぁ!」


「ククク……本日も精が出ますね」

そう言うバアルゼブルは優雅に紅茶を運んできますが……


「おい! サタンのはあって俺のだけないじゃないか!」

「何を戯けたことを。あるではないですか。これは悪魔のスペシャルブレンドです。

 貴方が懇願するまで現れない特別なお茶ですよ?」


「おのれは悪魔か!!」

「ええ。元ですがね」


「やかましいわ!」


ぺチーン!


「やかましいのはお前じゃ! キュアぷいがはじまっやじょ!」


「毎日飽きませんね。トリエルー! ママと朝ごはん食べましょうー」

「はーい!」


するとここでバカ親コンビがキッチンからやって来てテーブルへ。

トリエルは口をヒナのようにーあーんと開けると、ガブリエルママが

ポイ、ポイとふりかけご飯を次々と投入!


トリエルはむしゃごくと相変わらずのブラックホール爆速食い。

噛まないと栄養の吸収悪いですよー。


「ピピー俺にもくれー」


ここであゆむが奥にいるピピを呼んだ時でした。

突如部屋の中央に炎の柱が立ち、ウリエル様が現れるのですが……


「はーい……って、ウリエルさん大丈夫ですか!?」


ピピのその声にあゆむも振り返ると、そこには負傷したウリエル様がおりました。

ただ事ではない。

あゆむはそう直感し、側まで駆け寄ります。


「ウリエルさん、どうしたんだ!!」


ウリエル様は肩を抱き、苦痛に顔を歪ませながら、重そうに口を開きます。


「……ミカエル様が帰ってきたのだが……やられた」


ミカエル。この言葉にバアルゼブルとサタンちゃん、ガブリエルママも反応します。


「ウリエル!? どうしたのですか!! ミカエルが帰ってきたのですか!?」

「なんじゃ、ミカエリュのやちゅめ反旗をひるがえちたか」


サタンちゃんは尻尾をピンと立てながら、負傷しているウリエル様を見つめます。

その表情は少し不安げです。


「そのようですが、ミカエル殿らしくないですね……もしや?」


ここでバアルゼブルはなにかに気付いたようです。


「ああ……おそらくは瘴気だ。だが、ミカエル様を取り込むとは

 ただの瘴気ではない。おそらくは神。それも邪神と呼ばれる類いだ」


瘴気。

その言葉は久しぶりに出た言葉であり、

バアルゼブルにもサタンちゃんにとっても忘れることが出来ないものです。

何故ならば、彼らは瘴気によって異形の存在、最悪の悪魔と化したのですから。


「つまり、異世界で邪神に取り憑かれたと?」

「そうとしか考えられない。トリエル、いや……エミエルの力を借りたい」


ここで視線がトリエルに集中すると、トリエルは目を閉じ、エミエルに変わります。

髪の色はピンク色のままですが、その目は赤と茶色で強く輝いています。


「ミカエルさんはどこに?」

「今は天界にいる。案内しよう」

「俺も行くよ。エミエルの力になれる」


あゆむがそう言うとウリエル様もうなずき、

ピピとアンポンタンも続きます。


「よし……行くぞ」


ウリエル様は目を閉じ、ゲートを開こうとしますが……


「馬鹿な!?」

「どうしたんだ?」


ウリエル様の表情が強ばります。

まるで確かにパスワードを入力したのに、ロックが外れないような、そんな表情です。


「ゲートが開けない。それどころか、権能も使えない」

「そんな馬鹿な!?」


ゲートが開けないと聞き、ガブリエルママはメガネを放り投げますが、

それはハローに変化せず、メガネのまま地面に落下します。


「天使の権能が使えない……」


しかし、何故かエミエルとサタンちゃんのハローは輝いております。


「その割にはエミエルとサタンの力は使えるっぽいけど、なんでだ?」

「多分わたしの『笑顔』とサタンちゃんの『反逆』は打ち消す力だからだと思う」


エミエルはそう解釈したようです。


「つまりは悪意が働いている……という事か」

「わたしがゲートを開くから、みんなこっちへ」


あゆむ達はエミエルの周りに集まり、彼女の力で天界へと向かいました。



…………



――――



「なんだこりゃ……」

「これは酷い……」


天界の惨状を見たあゆむとガブリエルママからそんな言葉が漏れます。

そこはかつて見た魔界のように黒い瘴気に包まれ、先が見えません。


その空気はかの魔界よりも重く、エミエルの力がなければ、

天使とて長くは持たないでしょう。


それほどの瘴気でした。


「まずは天界システムを回復させないとダメだな……いや、

 ミカエル様がハッキングしているなら、ミカエル様を元に戻さねばならんか」

「ウリエルさん、そのミカエルさんはどこに?」


あゆむのその問いに、ウリエル様は前を見つめます。

そこは神様の謁見の間の方角を指していました。


やがてその歩みを進めますが、その足取りはとても重く、

思った以上に進みません。

絶対に離反しないはずの天使が離反し、落ちないはずの天界が落ちたのです。

あゆむも含め、皆の心境は複雑でしょう。


「まさか生きてるうちに天国へ行くことになるなんてなあ」


…………


途中……ウリエル様のスマートフォンが鳴ります。

ディスプレイは「パツ金狂い」と表示されています。


「私だ」

「アマテラスです。何事ですか? そちらへの空路が封鎖されましたが」

「ミカエル様が邪神に取り憑かれ戻ってきた。今取り込み中だ」

「それはそれは……神界の力が必要ですね。

 手を貸しましょう。貴女は上客ですからね」

「お気持ちだけで結構。こちらには秘密兵器があるのねで。

 それよりも高天原で宴の準備を」

「ではその様に」


そう言って通話を終えると、謁見の間の扉に差し掛かりました。


「良かったのか?」


あゆむの問いにウリエル様は

「神界の神とて、この状況でどこまで力が使えるかわからん。ミイラ取りがミイラになる可能性もある」


そう分析し、あゆむはウリエル様なりの優しさだと判断しました。


「開けるぞ」


…………


ウリエル様が手をかけると、扉の向こうからは重たくて冷たい、

おびただしい量の瘴気が流れてきます。


「アハハハハハハ……!!」


そこには狂気の笑みを浮かべる漆黒の四翼を広げ、

頭に角の生えた悪魔と化したミカエルが立っておりました。

そのハローも黒く染まり、不気味な赤黒い光を放っています。

ウリエル様は前に出て手をかざしますが、剣が出ません。


「チッ……やはり天使の力はエミエル以外は使えんか」

「バアルはどうですか? 戦えますか?」


ガブリエルママの呼び掛けに、バアルゼブルが軽くジャンプしてウォーミングアップをしています。


「問題はなさそうです」

「妾もやれるじょ!」


「どうやら悪魔の方は戦えるらしいな」

ウリエルの言葉を制するように、エミエルが叫びます。

「みんな! ミカエルさんが来るわ!」


エミエルの言葉――それと同時に、ミカエルが突っ込んできます。

現状戦えないウリエル様を始めとする天使は、

ピピとあゆむを連れて奥へと退避します。


「アハハ!!」

ミカエルはバアルゼブルに剣を振り下ろしますが、彼は蹴りでそれを止めます。

「チィッ!!」


しかし……


「神よ……!!」

その声と共にミカエルのハローが黒く光り、ミカエルの黒い剣に黒いモヤが集まっていきます。


「はぁぁ!!」

「グゥッ!!」


ミカエルが剣を横凪に払うと、バアルゼブルは足を斬られ、

そのまま壁まで回転しながら吹き飛ばされます。


「バアル!」

「来ては駄目です!!」

サタンちゃんが飛び出して助けようとしますが、そこをミカエルが捉えます。


「悪魔め!! 滅びろ!!」

「ダメー!」

ミカエルの剣にエミエルが割り込みますが、

板チョコレートの壁にミカエルの剣が食い込んでいきます。


「おいコレやばいんじゃないのか!? エミエルの権能にまで逆らってるぞ!」

「ヒェッ! サタンよりおっかないよー!」

アンポンタンもあゆむにしがみついて怖がってますね。


「なんでついてくるんじゃい。背中に隠れてろ!」

とは言うものの、人間のあゆむもミカエルの気迫に完全に臆しています。


「まずいな……ミカエル様の権能は『封印』だ。

 現状、悪意が反応してエミエルが防いでいるが、押されているぞ」


「エミエルは本当の力が使えるのではないのですか!?」


ガブリエルママはあゆむを見ますが、あゆむは首を横に振ります。


「エミエルが本当の力……というか、フルパワーを使うには、恵美の魂が燃えなきゃダメなんだ」

「何とか引き出せないか!?」

「心当たりというか、方法はある……けど、それには時間稼ぎがいる」


あゆむのその答えに、二柱の大天使は下を向きます。

権能が使えない今は、天使といえど戦闘力はちょっと強い人間レベルです。


「きついな……」

「わたくし達の権能さえ使えれば……」

「バアルの兄貴も足斬られて無理だよー」


あゆむにはエミエルこと恵美の魂が燃える条件、

その心当たりがあります。


それはあゆむの命が危機に瀕する――

もしくは……


その時です。


後ろに下がってきたサタンちゃんが真剣な表情であゆむを見つめます。


「……人間、時間稼ぎができえばいいんじゃな」

「サタン!? お前じゃ無理だ。そんな弱体化したお前じゃ」


「なめりでないわあ! ……キュアぷいは、こんなところで……諦めんのじゃあ!」

そう言うとサタンちゃんは宙に浮かび口を大きく開けると、あえて瘴気を吸い込んでいます。

「がぐぐぐぐ……!!」


「おい!? 何する気だ!? サタン!!」

「人間! ぬしの言葉を信じるじょ!! からりゃず……エミエルを覚醒させよ!」


そう言うと、サタンちゃんはどんどん瘴気を吸い込み、その身体は巨大化していきます。


「まさか……お前!?」


やがてその身体は10mほどまで膨れ上がり、七つの頭、十本の角が生えます。

そうです。この姿は……


「悪魔王の姿か……大丈夫なのか」


再び悪魔王と化したサタンは、苦しむ様子を見せながらもあゆむに語りかけます。


「グゥ……グ……!! 人間……長くは……理性が持たぬぞ……よいな!!」


そう言ってサタンはミカエルへ突進していきます!

「お前の相手は私だ!!」

「これは兄上……お久しぶりですね!!」


ミカエルの剣は容赦なくサタンの首を切り落としていきますが、

サタンは瘴気を吸って再生します。


「グァァァァオ!!」


サタンも負けてはおりません。

最強の悪魔のブレスはミカエルを剣で防御させます。


「小賢しい……!」

守るものが出来た悪魔の力は、最強の天使に肉薄し、両者はほぼ互角です。


「サタンちゃん!」

「エミエル!! お前はヤツの所へいけ! 私が理性を保っていられるうちに!」

「はッ!! お仲間ごっことは……くだらない!!」


ミカエルはその剣でサタンを次々と斬っていきます。

現状は互角で持ちこたえていますが、サタンがやられるか、サタンが瘴気に完全に呑まれるか、

確実にそのどちらになるでしょう。


今のままでは。


「サタン……」


サタンの決意にあゆむの胸は、静かに、そして強く熱を持ちます。

サタンはずっと、何千年も悪魔王の姿で魔界に孤独で縛られていました。

吸いたくもない瘴気を吸い続け、肉体は異形と化し、

何も無い天井を眺め続けた日々。


あの姿はサタンにとって、そんな忌まわしい姿なのです。

もう二度と戻らぬだろうと思っていた姿。


しかし、サタンはそれでも、あえてやりました。

あゆむの言葉を信じ、エミエルや仲間を助けたいと、

誰かを守りたいと、初めて心の底からそう思ったからです。


わずかな期間とはいえ、共に過ごすことで、サタンにもあの家が帰る場所となったのです。

その為に、サタンはプライドを捨てて、醜い過去の姿に戻ったのです。


「お前の覚悟……無駄にはしないぜ!」


サタンの理性がいつまで続くか分かりません。

あゆむはエミエルのもとまで全力で走ります。


「エミエルーー!!」

あゆむのその叫びにエミエルも気付き、あゆむの方へ飛びます。

するとあゆむは……


ぎゅ……


あゆむはエミエルをハグし……

「好きじゃーーーー」


そう叫ぶと、エミエルの唇に自分の唇を重ねます。


「……!!」


そう、エミエルの魂が燃えるもう一つの条件は――

恋心が燃えること。


エミエルは、ピピへのジェラシーだけで権能が暴走するレベルです。

彼女はそれだけ、あゆむに好意を寄せています。

ともなれば、ここまでされれば――


ポミーーーーー!!!!


となるわけです。


「ど、どうだ……」


エミエルをおそるおそる見ると、その顔は今にも火を噴きそうに赤く、

髪は茶色からピンクのグラデーションになっています。


「ズルい……」

「成功した!!」


そう喜ぶあゆむでしたが……


「帰ったら……お話があります……」


後ろで目を赤くして黒いオーラを出すピピがいましたとさ。


「非常事態でしょー……」

「関係ないです……」

「悪いことはダメ……だから!」


ミカエルが瘴気を込めた剣でサタンごと切ろうとしますが、

それは瞬間的にアイスキャンディーに変わり、サタンちゃんがパクっと食べちゃいます。


「おかわりじゃ!」


エミエルが本当の権能、笑顔の拡散を発動させた事で、

サタンも悪魔王の姿からサタンちゃんに無事戻り、ミカエルに尻尾ビンタ!


ペチ。


当たった瞬間、そこからは星が飛んで大量の瘴気がミカエルから出ていきます。


「わたし達と遊ぼ!」

エミエルの弾けんばかりの笑顔が広がり、七色の光が謁見の間を包みます。


そして……


「お? やはりこうなるのか」

「なんでわたくしはうちわなのですか」

「お似合いですよ。ククク」


ここで復活したバアルゼブルも加わり、笑顔の拡散が始まるようです。


「さあ……花火の大天使、再びだ!!」


ウリエル様が花火を横なぎに振ると、そこからは花火がババババーン!!


謁見の間の瘴気が大量に晴れて、ミカエルの翼が一枚消えます!


「さあ、風ですよー!」


ガブリエルママがうちわをパタパタ振ると、その風で瘴気がどんどん晴れていきます。

小さな妖精も出てきて笑顔で天界中を飛んでいきます。


「さあ、皆さん行きましょうか」

バアルゼブルが敬礼すると、アンポンタン達が飛んでいきます。


どうやらその蹴りに合わせて広がるリボンを、クルクル新体操のように回しています。


「うふーん!」

「あはーん!」

「ワンタッチー!」

「なんでやねん! 関係ないやろ!」


思わず出たあゆむのツッコミは、そのまま立体化してスコーン!


「あゆむ様はピピのものですー!!」

とついでにピピの叫びもスコーン!


アンポンタンもリボンで「バカ」を書いてミカエルに精神的なダメージを与え、

その翼がさらに一枚減りました。


「なんだ……この不愉快な力は……」

「笑顔だよ」


苦しみ出すミカエルに、エミエルが微笑みかけます。


「知ってる? 笑顔は拡散するんだよ!」


気付けば天界の瘴気は晴れ、四枚あったその翼も残り一枚に。

黒く染まったハローもヒビが入り、もうミカエルに戦える力は残っていません。


「お前は一体……なにものだ……」


ミカエルの身体から黒いモノが顔を出し、エミエルを睨みつけます。

ミカエルは、最後の力でアイスキャンディーとなった剣を下ろしますが、

エミエルはそれを素手で止めると、そのままミカエルにぎゅっとハグをします。


「怖くないよ……家なら、ここにもあるよ。一緒に笑お?」


その優しい抱擁が決め手となり、悪魔化したミカエルは最後の翼を失い、

ハローも粉々に砕かれます。

黒いモヤが、ミカエル様の身体から剥がれ、霧散するように消えていきます。


いえ——消えたのではなく、逃げたのです。

どこか遠く、暗い場所へ。


「ここは……」


気が付いたのか、ミカエル様が気を失い、戦いは終わりました。


「ミカエリュ……」


戦いが終わった後、サタンちゃんは少しだけ静かでした。

誰も何も言いませんでした。

ただピピだけが、そっとその隣に立っていました。



………



ちなみに神様は、トイレでガクブルしてたみたいです。


「ウリエルちゃーん! 怖かっぐはぁぁッ!!」

「貴様!! 神だろ!! 戦えやぁぁ!!」


ウリエル様の痛恨の蹴りが炸裂!! ごもっともです。



――――


あゆむの7畳の部屋は普段の日常に……戻ったのですが、

そのカオス度はさらに増したようです。

なぜなら――


「で、なんでいるんですか、ミカエルさん」

「し、仕方ないじゃないですか、翼が全部なくなって、ハローもないんですよ?

 完全に堕天してしまいました。もうお家がないんです」


――と、言うことらしいです。

今はサラサラストレートロングの金髪をクルクルと指でいじってます。

服装も天使の正装ではなく、白いレースブラウスと青いプリーツスカート、黒タイツです。


「か、勘違いしないでくださいね。責任を取ってもらいたいだけで、

 貴方のことなんて、なんとも思ってませんから!」


なんかめんどくさいツンデレですね……ちなみに顔が赤いです!


「ククク……ますます狭くなりますね」

「全く……わたくしのトリエルとの愛の巣が」

「おい! 妹のくしぇに、じゅうじゅうしいじょ!」

「……また女ですか……」


「ふざけんなーーーー!!!! ここは……俺の部屋じゃあああぁぁぁ!!!!」


こうしてツンデレ元天使のミカエルさんも加わって、

あゆむの部屋はさらに狭くなってしまいましたとさ。


めでた――


「めでたくねーーーー!!!!」



――――



次回 落ちてきた天使と同居することになった件。


「這いよる混沌編」にご期待ください。


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