二話「大晦日だヨ!! 全員集合!!」
金色の雲の上の八百万の神々が住まう世界、高天原。
黄金のジェット機が止まる横には大きな朱い宮殿が聳え、
今そこはてんやわんやです。
「天界から転生希望者が全員送り返されてきました!!」
「転生希望者から暴動が起きています!!」
「閻魔庁からも苦情が来ています! 陳情を拒否された死者が、
閻魔庁になだれ込んで抗議してるみたいです!!」
「このままでは日本の死者産業は崩壊します!!」
「なんとか天界と連絡を取り付けろ!!」
「やっています!!」
「通話オペレーターは何をやっている!!」
…………
ここはアマテラス様のお部屋。
金色の畳が広がる部屋に赤い屏風。
その中央には大きなソファ。そしてガラステーブル。
そこにアマテラス様は腰掛け、両サイドには金髪……いえ、パツ金ホストをはべらせております。
アマテラス様がタバコを取り出すと、すかさずホストがライターで火をつけます。
「……はあ……」
アマテラス様はタバコを吸いながら、扇子を開いてはテーブルに叩きつける行為を繰り返しています。
そこに側近の巫女が入ってきます。
「アマテラス様、このままでは転生希望者が溢れかえって、日本の死者産業は終わりです!」
「スマホをこれに」
側近がアマテラス様のスマートフォンを差し出すと、アマテラス様は電話帳を開きます。
ディスプレイに表示されているのは「行き遅れ小娘」
「私だ」
「強制送還とはやってくれましたね、ウリエルさん」
「元はと言えばそちらが始めたことだ。転生ならそちらでやれ」
「もちろん、高天原や閻魔庁にも転生システムは存在しますよ。
しかし、和限定なんですよ。需要あると思います?」
「知らんな」
今や両者は大変仲が悪い、いわば犬猿の仲。
このままでは話し合いなど上手く行きません。
「望みはなんです? ウリエルさん」
「望み?」
「だってそうでしょう? なにかご不満があるから、このようなことをなさるのでしょう?
やめましょうよ、こんな事。神界同士で争ってどうしますか」
「よくいう。そちらの好色のせいで、一体どれだけの天使がわりを食っていると思っている」
「自己紹介ですか?」
「用がないならこれで切るぞ」
「……合コン」
「何?」
「週に一度、見返りとして、高天原で合コンを開きましょう。
天使にそれはそれは目がない、高身長の美男子神もおりますよ?」
「……先にその席を用意しろ。再開はその内容次第だ」
「ではそのように」
…………
「っしゃオラーーーーーー!!!! 所詮行き遅れ小娘なんざ、男で釣ればこんなもんよ!!!」
ここでアマテラス様ガッツポーズですが……
「アマテラス、ちょっと」
気が付くと後ろには旦那様のニニギノミコト様が、スマートフォンの中継アプリを開いて見せてきました。
「あ……」
アマテラス様はここで目の前のテーブルが、天界からの贈り物だったことに気が付きます。
「カメラ仕込みやがったな…………」
――――
どこぞの異世界「ドコカーノ」
ミカエル様は今、薄暗い河原を挟んで単独で大量の魔物…
おそらくはこの世界の魔王軍と退治しております。
その先頭、幹部らしき魔物、六本腕の漆黒の怪物が語りかけます。
「一体何が望みだ、ミカエルとやら」
「何も」
「……何!?」
ミカエル様はおもむろに青い剣を天へかざします。
「わたしはただ、天へ……家に帰りたいだけなのーーーーーー!!!!」
「……はあ!?」
「すぅぅぅぅ……はぁぁぁ……神よぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
瞬間、ミカエル様のハローがエラーを示す赤色に輝きますが、
ミカエル様は構わず気合いで権能を申請します……
…………
この世界の天界。
メインルームでは、異常を示す赤ランプが、けたたましいサイレンとともに点滅しています。
「またミカエルというものから申請が来ています!! なんかすごい圧です!!!」
「メインコンピューターに異常!! 圧が強すぎて処理落ちが起きています!!
このままでは神界システムがダウンします!! 持ちません!!」
「もういいもういい!! 許可許可!! 怖い怖い!! 気合いが怖い!! あとなんか可愛い」
「……は!?」
こうして今回もミカエル様の権能発動申請は、彼女の気合いとセンスだけで許可されました。
ミカエル様のハローが青く発光し、権能発動を示します。
暗い雲から眩い光が差し込み、雲が晴れていきます。
それは彼女の青い剣へ集約し、どんどんと巨大化していきます。
そして………
「八つ当たり……イクス……キャリバーーーーーー!!!!」
「ちょ……!? 待っ!!??」
ドドドドドーン…………魔物は一瞬でチリになり、
後ろではハッピ舞台がキレッキレのダンスを踊っておりました。
「――の、クソチビ(Pーーーーーー)!!!!」
「待ってなさい魔王……今すぐぶっ倒して、――も張り倒して家に帰ってやる……」
魔物の残骸からは黒いモヤ――『瘴気』が溢れ、ミカエル様を取り囲みます。
「大天使にそのようなものは無駄です」
彼女はそれを振り払うと、モヤは消え失せますが、
まるで夏の湿気のように、まとわりつく様な瘴気の残滓が漂います。
「普通の瘴気じゃない? ……なんだか、嫌な予感がするわね」
それがなんなのかは、まだ分かりません。
――その時、遠くの空がわずかに黒く滲んだように見えた気がしましたが、
ミカエル様は気のせいだとして前を向きました。
「……もう、いいわよ」
ミカエル様はそう呟くと、魔王城の方角を見据えました。
「終わらせましょう」
後ろの応援部隊は放っておき、ミカエル様は一人、進軍します。
…………
「ミ……ka……el」
――――
あゆむの家。
7畳のそこは、今ではさらに狭い空間に。
物理的にはもちろんそうなのですが、怪獣が増えたことで体感的にも狭くなる一方です。
「人間ひまじゃ!! あしょべ!!」
サタンちゃんがあゆむの背中に飛び乗って、尻尾でお尻をペチペチ叩いてきます。
元魔王というだけあって、彼女はよく言えば天真爛漫、悪く言えば傍若無人。
やりたい放題、好き放題です。
「ガブリエルさんに頼めよー」
「わたくし、悪魔には興味ありませんの。ごめんあそばせー?」
あゆむはガブリエルママにお守りを押し付けようとしますが、
ガブリエルママはあくまでもトリエル《《だけ》》のママなので、
本人が言う通り、悪魔などは対象外の外のこれまた外なわけなのです。
「バアルゼブルに頼めー!」
「遊べと命を受けたのはあゆむ様ですよ?」
ならばとあゆむはバアルゼブルにふりますが、
彼はクククと笑うと、あゆむのお金で買った高い紅茶をすすります。
それはもうこれ見よがしなまでに優雅に。
「この悪魔め!」
「ええ、悪魔ですよ。元が一応つきますが」
「クソがー!!!」
そんなこんなで誰もサタンちゃんの面倒を見ようとせず、
あゆむは完全におもちゃに……
「ほらほらー! 馬じゃししめー!」
サタンちゃんは右手をあげて、尻尾で無知のマネをしておりますね。
ペチン! ペチン! と叩かれ、あゆむはトコトコと歩かされます。
すると、天の助けか、そこにはピピが。
「ピピ……助けてー」
「サタンちゃん、もっと遊んであげてください」
ピピは笑顔で、あゆむの眼前にキャロットジュースを差し出します。
(飲めってか……ん?)
急に背中が軽くなって、見上げると、サタンちゃんを持つエミエルの姿がそこにありました。
「一緒にキュアプリ見る?」
「ふん! しょんな子供だましなじょに興味ないわあ!」
サタンちゃんは尻尾をブンブンと回し不機嫌モードですが、
仕方なく見ることに……
……20分後。
「キュアぷいがんばえー!! がんばえーー!!」
そこには、手のひらを返して、泣きながらキュアプリを応援するサタンちゃんの姿がありました。
やっぱりお子様ですねえ。
……放送後。
「なんじゃもう終わったのか! 人間! 早く次の週にするんじゃ!」
「無理言うな!!」
キュアプリが終わり、次週までお預けと知ると、
サタンちゃんは尻尾をぺチーン! と床に叩きつけてまた不機嫌モードに。
「くう……!! 週に一度30分しかキュアぷいを見れんのかー!!」
ぺチーン!
「動画チャンネルがあるよ。一緒に見よう」
そう言うとエミエルはサタンちゃんをソファの隣に置くと、頬を赤らめてあゆむを見つめます。
「……一緒に見る……?」
「……しょうがないな」
あゆむは頭をポリポリかきながら狭いソファに入って、
間隔を詰めてくるエミエルの体温を感じながらキュアプリを見るのでした。
身体が熱くなるのはエミエルの体温がそうさせているのか、
あるいは彼女を意識しているのかはあゆむには分かりませんでした。
エミエルはしきりに髪をいじりながら、チラチラとあゆむの顔を覗いてきます。
彼女の髪からは、ラベンダーのようなシャンプーの香りが広がり、甘い空間を作り出します。
キュアプリを食い入るように見るサタンちゃん。
彼女を桜色の笑顔で見つめるエミエルは、少し大人に見えました。
…………
夕食時。
「大晦日なのですき焼きですよー」
「すき焼き」という言葉に反応したのか、エミエルの身体からポン! と桜色の煙が一瞬上がると、
ニコニコ顔の天使が現れます。
「すっきやきー! すっきやきー!」
「このテンションはトリエルの方か」
トリエルはテーブルへ一直線へ向かうと椅子にどっこいしょ! と腰掛けます。
その様子は先程のエミエルとは大違いで、同じ身体を共有している分、
その精神年齢の差にあゆむの脳がバグりそうになります。
おばけ達もヒュルルーっと集まり、お椀を叩いて催促をしていますね。
「お前達は香りしか食わんやろがい」
そんなツッコミに対してスコン! という軽快な反撃の音が鳴り、
後ろを見るとアンポンタントリオことアッチがアッカンベーをしております。
「この……」
あゆむがアッチに気を取られていると、横からポンポがあゆむのお椀から肉を強奪!
「ちょ! お前!」
「やめてよしこよー!」
取り返そうとするあゆむが前に身体を傾けると……
ムニ……スリスリ。
「イヤーン!」
そこにあるのはタンタのお尻。
そして彼は、尻尾であゆむをターン! とビンタ!
そして……ぷっ……!
「臭!!」
満足したのか、彼らは帰っていきました。
「おのれい! このナスッタレ共が!」
拳を握るあゆむを横目に、ガブリエルママは「トリエルー!お肉ですよー!」と
アンポンタンが奪った肉をトリエルのお椀にぽーい!
トリエルはそれをむしゃごく! と爆速で飲み込み、あゆむは「あーーーっ」とうなだれるのでした。
…………
「結局肉食えんかった……」
食後、ガッカリしてキッチンへ食器を片ずけるあゆむでしたが、そこにぴとりとお肉が。
「はい。どうぞ」
どうやらピピがあゆむの分を取っておいてくれたようです。
「助かったよ。ピピ」
「はい」
ピピはそう言って雪のような白い頬を桃色にします。
「うん。美味いな」
「それは良かったです」
その後、あゆむとピピは協力して食器を洗い、
キッチンには彼女の優しい森の香りが広がりました。
…………
「さあ、皆さんそろそろカウントダウンですよ」
ここでバアルゼブルは意味ありげにトリエルを見つめると……
「カウントダウンするー!」とトリエルがカウントダウンにやる気満々です。
そしてシルクハットをぽーい! ハローが「Hello」
「あ……これヤバいやつだ……」
さあ……久しぶりのショータイムだ。
ゴゴゴゴゴゴ………
どこから出てきたのか、ペットボトルコーラ達が「総員、スタンバイ!」と隊長らしきコーラの指示に従い、
何故か部屋の外へ。
そして懐かしのワルキューレの騎行が鳴り響きます。
「ん……今日は平和パターンかこれ……いや……やっぱ無理だわ」
あゆむのその予感は的中します。
シャカシャカシャカシャカ……
ゴボボボボボボ……
嫌な音が床下から聞こえてきますが、あゆむは全力で聞こえないフリをします。
「10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……」
「GO」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーン!! と床下からものすごい音が鳴り、
あゆむの部屋は上空へドゴーン!
「やっぱりこうなるんかーーーーーーい!!!!」
大量のペットボトルロケットがあゆむの部屋を上空へぽーい! そのまま宇宙へGOーー!!
地球が青いですねえー……
「おお!! 浮いとる浮いとるじょー!!」
これにはサタンちゃんも大喜び!!
「喜んどる場合かー!! 今度は落ちてるじゃろーー!!」
「ククク……落ちるなら飛べばよいではないですか」
バアルゼブルは宙に浮きながらあゆむを煽ります。
「お前はマリーアントワネットかー!!」
「ああ……彼女は」
「もういいんじゃーい!! その話!!」
やがてコーラがなくなると……ピューーーーーーー!!
今度は大気圏に突入します!!
「おーちーるー!!」
「あははっ!! カウントダウンって楽しいね!!」
「ふざけんなー!! 掃除大変だろー!!」
掃除どころではすまないと思いますが、あゆむの部屋は無事着地。
ドドゴーーーン!!
部屋の中はグッチャグチャ!! トリエルとサタンちゃんだけニッコニコ!
「あけましておめでとうー!!」
「めでたくねーーーー!!」
あゆむの絶叫がボロボロの部屋に響くのでした。
――――




