表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/57

十二話「桜色の微笑みの天使」

トリエルの真の権能シリーズ最終回です。

 ここは雲の上の小さな楽園「天界」


 …………


 白く聖なる宮殿内部、左右に分かれる右奥の部屋、

 その室内でウリエル様は瞑想しておりました。

 室内には小さな金属製のテーブルと椅子が一つ。


 中央には赤い水晶が置かれ、窓がない部屋には観葉植物が隅に置かれております。


 ウリエル様は、椅子に座った状態で水晶に両手を置き、

 目を閉じて意識を集中しております。

 こうすることで地上の様子を天界にいながら確認できるのです。


「……妙だな。地上の悪意が大して減っていない」


 ウリエル様はそう呟くと、立ち上がり炎となって部屋から消えます。


 …………


 楽園の端、雲の上にウリエル様はおりました。

 ウリエル様は、そこから赤い長髪をなびかせて地上を眺めておいでです。

 その表情は険しく、時折、唇を噛む仕草を見せます。


「私の予想が外れている……?」


(それはないか。そもそも、神も認めたのだ)


 ウリエル様はさらに意識を集中させて下界を直接眺めます。

 しかし、しばらくすると首を横に振られます。


「やはり以前と変わっていない……

 いくら不完全とはいえ……ある程度は効いているはずなのに」


(まさか……!?)


「だとしたら、確かめねば」


 ウリエル様はそう仰ると、炎の柱となって何処かへ消えました。


 ――――


 …………


 ここは地中のさらに奥深く、魔界と呼ばれる世界の更なる下層。


「暗黒魔界」と呼ばれる死の世界……

 地上の光は一筋すら届かず、空と呼べるものもない。


 天は薄暗い殻で覆われており、稀に上層魔界より、

 ほんの微かな暗い暗い光が漏れるのみ。


 そんな世界です。


 空気は汚く淀み、生物は虫すらいない。

 その奥に一柱の魔竜……いえ、かつて神に最も近かった「それ」はおりました。


 かの竜――サタンは七つの頭を持ち、

 背には朽ちた六枚の翼、頭には十本の角が生え、

 その頭上、かつて光り輝いていたであろうハロー。


 それは黒く変色してもなお、その力を失わないのか、

 あるいは別の何かに目覚めたのか、黒く不気味な光を放っております。


 その四肢は光の鎖で繋がれ、かの竜は頭上から漏れる魔界の光を眺めております。


 表情は伺い知れず、悲しんでいるようにも、あるいは怒っているようにも見えます。


「神よ……貴方が我を貶めるのであれば、我は貴方の宝を奪おう」


 サタンはそうしてグオオ……という呻き声をあげると、

 たちまち黒いオーラが身体を包み、それは地上目掛けて昇っていくのでした。



 …………



 ――――



「ねーねー見てー! 外キレーだよー!」


 そう無邪気に「守りたい、この笑顔」で微笑むのは、

 空飛ぶ破壊兵器ことトリエルです。


 普段彼女はハロー……

 つまり、天使の輪っかをシルクハットの中にしまっているのですが、

 こうしている分にはとても愛くるしい少女です。


 ただ、あゆむは知っております。


 彼女がシルクハットを脱ぎ、


「Hello」


 とハローが出現した時は地獄の始まりだと言うことを……


 けど、あゆむはトリエルを怖がることも、まして責めることも致しません。

 何故だが、そのような気が湧かないのです。


 どれだけハチャメチャにやられても、彼女の笑顔を見ると許してしまう。

 それはまるで心の中から、悪意や怒りといったものが直接消されるような感覚でした。


 彼女が笑った瞬間、そうしたものが直ちに消えてしまうのです。

 それもあって、あゆむはそんな破壊の権化とも言えるようなトリエルと、

 今日も今日とて平和(?)に暮らしております。


「桜ですね」


 そうあゆむに優しく微笑みかけたのはピピです。

 窓の外には近所の小さな桜の木が花をつけています。


「せっかくだ。どこか出かけるか」


 あゆむがそう言うとピピの顔が明るくなり……


「ではお花見に行きましょう!! お弁当作ります!!」


 この笑顔は断れんな――と、あゆむは諦めモード。


「じゃあ行こうか」


「わーい! お外でお花見だー!」


 自ら墓穴を掘る形で、破壊神の満面の笑みに付き合うことに。

 一抹……いえ、千抹の不安を抱きながら……



 ――――



 ――二時間後――



 着いた先は歩いて20分ほどの距離にある、町の中央公園。


 およそ1000人は座れるであろう、芝生の広場には、中央に大きな桜の木が一本あり、

 その周囲にも小さな桜が無数に存在しています。


 広場の外には出店もあり、綿あめや焼きそばなどの定番物はもちろん、

 ビールや日本酒も売っています。


 花見会場と化した広場には、既にパッと見で500人ぐらいの花見客が既に来ており、

 中には酒瓶片手に出来上がってる客の姿もチラホラ……


 時刻はまだ10時30分ですが、もう中央の木には既に人がいっぱい。

 とても近付けそうにありません。


「わーーー!! 桜だーーー!!」とトリエルは着くなり、近くの桜の木に猛ダッシュ!


「走ると転ぶぞー!」


 トリエルはそのまま一目散に、まるで吸い込まれるように桜の木まで疾走します。

 そして木の幹に手をつくと、花弁を見上げます。

 彼女の桜色の髪が木漏れ日で照らされる中、ふわり……と風に乗ってその髪が揺れると、

 あゆむの鼻腔まで桜の香りが舞ってきます。


 ――トクン、という胸の高鳴りを一瞬感じたあゆむは、

 自然と目を細め、彼女のもとへゆっくりと歩み寄ります。



 ――その時、

 トリエルの動きが一瞬痙攣したように止まり、

 それがあゆむにも波及します。



 ──────────



「――くん、あゆむくーーん!」


 自分に太陽のような『笑み』を向け、手を振る少女。

 桜の木の下で靡くツーサイドアップの茶髪。


「――ちゃん、早いって!」


 その少女を追いかける自分。


(なんだ……この記憶……)



 ──────────



 気付くと、あゆむはトリエルの肩を掴んでいました。

 まるで、手離したくない宝物のように……



「……どうしたの?」



 トリエルの問いかけに、応じることが出来ません。



「大丈夫? ポテチミン切れ?」

「なんだそれ」


 トリエルのボケに、やっと声が出ます。


 あゆむのツッコミを聞いて安心したのか、

 トリエルは桜の木を見上げます。



 風に揺れるツーサイドアップの髪が、記憶の少女と重なります。



「懐かしいなあ……」



 一拍、あゆむは魅入ってしまいます。



 …………



「……懐かしいって、天界にもあるのか?」


「ないよー」


「え……じゃあなんで懐かしいだなんて思ったんだよ」


(どうにも違和感が消せないな……)


 ・知ってるはずのないアニメの旧シリーズをピンポイントに見ていたトリエル。

 ・それと同世代に流行ったゲーム機を知っていたトリエル、

 ・雛人形を知っていたトリエル。

 ・すき焼きを知っていたトリエル。


 そして……


 ・桜を見て「懐かしい」と言ったトリエル。


 あゆむの中で、それらの情報が一つずつ……

 パズルのピースのように、一つの答えに向かってはめ込まれていきます。


 いえ、おそらくもう答えはあるのでしょう。

 しかし、最後の決め手に欠ける……そんな時でした。


「もういっぺん言ってみろ!!」


 会場に突如大声が鳴り響き、その声の方向を見ると、

 酔っ払い同士が殴り合いの喧嘩をしているようです。


「……よくある事とはいえ、全く……間が悪いな……」


 あゆむはこの時、そうボヤいていました。

 来るタイミングが悪かった。


 しかし、それは誤りだと、すぐに気が付きます。

 なぜならば、突如地中より黒いモヤが会場を包み込んでいるからです。


「これは……!?」


 驚愕するあゆむをピピが守るように前方を塞ぎます。


 その目はかつての怨霊時代を思わせるように険しく、

 しかしなんとしても、

 あゆむを守ろうとする愛情も感じられる、そんな鬼気迫る表情です。


 あゆむの後方にはアンポンタントリオも、

 震えながらあゆむにしがみついています。

 今はふざけているときではない。それは彼らとて同じなのです。


「悪意……!? いえ……瘴気と言うべきでしょうか」

「瘴気?」

 ピピは「はい……」と静かにうなずき答えます。


「瘴気とは悪霊や怨霊、そういった類のものが放つ気です。

 ある程度強い守護霊に守られている者ならば、

 多少の時間は耐えられますが、そうでないものは……」


「者は……?」


 ゴクリ――と、あゆむは息を飲み、ピピの答えを待ちます。


 ピピは暴徒と化した人達を目線で追って「ああなります」と冷たく言い放ちます。


「瘴気」


 それは人が誰しも当たり前に持つ、しかして中々表には出ない闇、

 心の闇を増幅させ、

 そのままに動かす邪悪な力であると、あゆむはそう理解しました。


 だから、さっきまでワイワイとしていた会場が、

 一気に地獄のようになったのだと。

 それと同時に想像します。


 もしここに、特殊な力や武器があったらどうなっていたのだ……と。


 心の闇が命ずるままに人を動かすエネルギー、瘴気。

 そこに特殊な武器や力が加わった際の恐ろしさを、つい想像してしまいます。


「……花見は中止だ。帰るぞ」


 あゆむはピピの手を連れて帰ろうとした時です。


「……トリエルはどこだ!?」


 そこに、先ほどまでいたはずのトリエルがいない事に気が付きます。


 あゆむの頭の中で最悪のシナリオが瞬時に浮かび、

 黒いモヤが立ち込める会場を見渡しますが、

 焦るばかりでトリエルの姿は見えません。


「クソ……!」


 あゆむはピピの制止を振り切るようにその手を離すと、会場の中へ入っていきます。


「待ってください! 危険です!」


 ピピもその後を追うと、おばけ達も互いに見つめ合い、うなずくとその後を追いかけました。


 …………


「……これは、瘴気!? 馬鹿な……なぜ地上にこれほどの瘴気が……」


 その時、会場の上空ではウリエル様が

 魔界のような状態と化した花見会場を見つめ驚愕しておりました。


 ウリエル様は軽く首を横に振ると、

 すぐさま鋭い目付きに変わり、右手を掲げ炎の大剣を出現させます。


 翼をピン――と張り、争いを鎮圧すべく、地上へ降りようとした時でした。


「!!」


 ここで不意にウリエル様は先日の神様との会話を思い出します。


『ですが、ならば何故堕天などと! 共に地上で教育という形で良かったはず!』


『天界での教育でも、人間界で天使を連れたものでもだめなのだ』


 あれはトリエル自身の成長で覚醒せねばならぬ。そういう力なのだ。

 だから悪意に満ちた人間界でトリエルを単独で落とした。


「……クッ!! そういう事か……」


 ウリエル様はここで神様が仰った言葉を理解しました。


 天使が地上へ降り、争いを収めるのは容易い事です。

 所詮人間など、天使には絶対に勝てません。


 しかし、ここで自分が解決してしまうと、

 永遠にトリエルの真の権能は覚醒しない。


 神様はそれが分かっていたから、

 堕天という方便を使ってトリエルを地上へを送ったのです。

 それには、真の権能の発現には悪意が必要だからです。


「……トリエル。信じているぞ。お前を」


 ウリエル様は剣を収めると静かに上空で見守ることになさいました。


 …………


「トリエルー!! どこだ!!」


 あゆむは夢中でトリエルを探し、ピピとアンポンタンもそれに続きます。


「トリエルさん! どこですか!?」

「トリエルさーん。オイラたちと帰りましょうー」


 声は瘴気の中で不気味に木霊するばかりで、トリエルは見えません。


「クソ……」


 あゆむが歯を食いしばった時でした。


「……だよー!!」


 右前方にトリエルの声がしました。

 あゆむはそこへダッシュすると桜の木の下で泣き叫ぶ少女と、それを庇うトリエルがいます。


「どけオラ!! そこのガキが俺のスマホを踏みつけやがったんだ!!!」


 40代と思しき男の目は血走り、手には割れたビール瓶があります。

 あゆむは男の前に立ち塞がり「やめろ!!」と声を張りますが、足は震え、まともに動けません。


「どけぇ!! クソガキャ!!」


 男は乱暴に怒鳴りつけますが、あゆむは後ろで泣き叫ぶ少女を必死で庇います。


「どくかよ!!」


(すぐにピピが来る……)


 ピピは霊なので、ビール瓶など効きませんが、ヒトには致命傷になりかねません。

 あゆむはピピの到着を内心願うばかりです。


「ウザってえ!!!! ぶっ殺してやる!!!!」


 男がビール瓶をあゆむに振り下ろした、その時です。


「やめてーー!!」


 トリエルの胸を裂くような悲痛な叫びと共に、

 目が開けられないほどの激しい虹色の光が放たれ、

 振り返るとハローも出していないのに、トリエルの身体が桜色に光り輝いています。


 しかし、その姿が……


「茶色い髪に……茶色い瞳……」

(まるで日本人だ……)


 その時、あゆむの頭の中で全てのピースが重なり、一つの答えが出ます。


「トリエルは、やっぱり人間だったんだ……《《彼女》》も」


 声が震えていました。

 あゆむ自身でも気づかないうちに、胸の奥で何かが——


 ずっと引っかかっていた違和感が、音を立てて、崩れていきます。


 ずっと、知っていたのかもしれない。

 気付きたくなかっただけで。

 あゆむは、ただ——トリエルを⋯⋯その中の『彼女』を見ていました。


 トリエルは真剣な眼差しでシルクハットを放り投げると、

 ハローが激しく、鮮やかな桜色の光を放ちます。


(桜の天使⋯⋯)


 あゆむは胸に静かな痛みを覚え、記憶にノイズがかかります。


 ずっと見ていた少女。夢の少女。


 自身を『あゆむ君』と呼んだ彼女。


 その確信が、すぐそこにある気がして、手を伸ばします。



 しかし――



 トリエルは、あゆむへ『笑み』を浮かべると、

 上空へ飛び立ち、普段より大きくなった白い翼を一気に広げます。

 翼からは眩い光が溢れ、舞い散る羽がそれを乱反射させます。


「痛いのも辛いのもいらないよ……笑顔になろう……?」


 そう言うとトリエルはにこりと微笑み男に語りかけます。


「……■みと、わたしと遊ぼ!」


 トリエルがそう言うと、いつの間にか男が持っていたビール瓶。


 それが、ふわふわで甘そうな綿あめに変わっています。

 その手からは小さなオタマジャクシおばけが生まれ、彼ら「ケケケー」と無邪気に笑い、

 その綿あめを美味しそうに食べています。


 それだけではありません。

 会場に溢れる瘴気が徐々に晴れ、無数のオタマジャクシおばけに変わって行きます。


「みんなー! わたしと一緒に遊ぼうよ!」


 それを号砲に、おばけ達が一斉に突撃していきます。


「おばけミサイルだよー」


 ……ポヨン。

 普段であれば爆発するそれが、「ポヨン」と弾け、七色の光が溢れます。


 またそこから、小さなオタマジャクシおばけがさらに生まれます。


「あはは!! なんだこれ!! おもしれー!!」


 先ほどまで、あれほど殺気立っていた会場が一気に笑いに、笑顔に変わっていきます。


 まるで子供時代、親兄弟にくすぐられて、

 それがおかしくて仕方がなくて笑っているような……

 そんなどこか懐かしく、そして優しい――ノスタルジックな光景が広がります。


 空を見上げると、無数のおばけ達が飛び、

 その後には、キラキラと輝く虹色の軌跡が生まれます。


 ハートや星が次々と描かれる様は、まるで花火。

 しかし、それはすぐに消えることなく、視界に残ります。


「これは……!!」

「……廃墟で、見た」


 あの時から、もうずっと——そういうことだったのか。


 おばけミサイルが命中した人からは、七色の光が放たれ、

 まるで魔法のように、たちまちと笑顔になります。

 そして、童心に戻ったかのように、はしゃぎだすのです。


「あははっ! いいぞー! やれやれー!」


 先ほどまで暴れていた大人達は、

 まるで幼い子供のようにおばけ達に笑顔で手を振っています。


 辺り一面、そこはまるで夢の国のよう。

 七色に輝く空に、絵本から飛び出してきたような、

 愉快なおばけ達が手を振り、泳ぐ。


「みんなー! 一緒に遊ぼー!」


 トリエルのその声に導かれるように、彼女の身体から七色の光が広がります。

 それは笑顔の眷属――クマのぬいぐるみ、びっくり箱を作り出します。


「わーーーーい」

「ばあーーーー」


 クマのぬいぐるみが走り回り、びっくり箱がばあーっと飛び出てイタズラで笑わせる。


 空では「ワーワー」とおばけ達が泳げば……

「ほらほらー」とトリエルが次々と指示を出して、

 華麗な空中アクロバットをおばけ達が決めていきます。


 地上ではクマのぬいぐるみが

 子供達とかけっこしたり、一緒に綿あめを食べたり、

 子供を持ち上げて一緒に飛んでる子もいますね。


 びっくり箱と睨めっこしあって変顔をしてる子もいますよ。


 夢の国と化した広場にいる全員が、

 みんなまるで絵本の中に入り込んだかのように、

 満面の笑みで夢中になって遊んでいます。


 その中央、『桜色の微笑みの天使』茶髪茶眼のトリエルは、

 天を照らすような笑顔で周囲を包みつつ、

 おばけ達に次々と指示を出して笑顔の中心にいます。


 それはまるでオーケストラの指揮者。

 彼女の笑みは『拡散するように』周囲に広がり、

 おばけ達や周囲の人々が、トリエルの指示のもと、溢れんばかりの笑顔を奏でています。


「……これが本当の天使の力」


 瞬間、ゾワワ……と鳥肌が走ります。

 気付けば――


(目頭が⋯⋯熱い)


 ——ああ、そうか。


(お前は最初から、ずっとそれだけをやっていたんだな)


 その時、トリエルと目が合いました。

 彼女は——ただ、笑っていました。


 茶色の髪をなびかせて、眩しいくらいに。

 まるで、それが自分の全てだと言うように。


 あゆむは、何も言えませんでした。


 ただ、その笑顔を——

 どこかで、ずっと待っていたような気がして。


「トリエルさん……」


 ピピの声が、そっと隣に届きました。


 …………


「……素晴らしい……これが……これがトリエルの真の権能……『笑顔』」


 ウリエル様は、初めてトリエルが見せた真の権能、『笑顔』に言葉を失い、

 気付くと頬に涙が伝っておりました。


(神よ。貴方の言葉はこれを意味していたのですね)


 あらゆる悪意や破壊行為を『イタズラ』という形で、

 無垢な『笑顔』に変える、その力。

 神様をして『出来ない』とまで言わしめたその力は、破壊的な効力は一切持たないもの。


 その代わり、あらゆる悪意と暴力的な力に対しては

『絶対的に無敵』な力でした。

 普段の破壊は、その力が表のトリエルでは制御しきれず、

 暴走した結果にすぎなかったのです。


 虹色の光が会場全体を優しく包み込み、やがて笑顔で満ちると、

 トリエルはそっと地上へ降り、いつものピンク髪の少女に戻っておりました。


 もうそこには黒いモヤも、争いもありません。

 あるのは笑顔、ただそれだけです。


「お嬢ちゃんすげーよ!!」

「もっとやってー!!」


 会場からはワー……という拍手とアンコールの嵐、

 あゆむも笑顔でそれを優しく見守りますが……


「じゃあいっくよー!」とトリエルが再度権能を発動!! ハローがピカー!!

 そして……「Hello(ハロー)」とハローがいつものダジャレを……


「あ……これヤバいやつだ」


 あゆむは経験則で逃げようとしますが、時すでに遅し。


「今回は桜おばけボムだよー!」


 メチャクチャ物騒なワードが呼び出し中央の大きな桜の木がおばけに大変身!!


 そして……


 ぼべーん!


 会場は煙でゲッホゲホ!

 笑いとカオスに包まれるのでした。


 ――――


 その日の夕暮れ。


 西日が部屋に差し込み、桜色の髪を橙色に染めています。

 トリエルは茶色い目を輝かせて、窓の外をじっと眺めていました。


 そのどこか寂しげな視線の先、そこは住宅街の壁です。

 ですが、彼女はまるで、その先を見ているようです。


「何か気になるものがあるのか?」


 あゆむの問いに彼女は振り返り、くすりと微笑みます。

 その微笑みは普段見せる幼い笑顔とは違い、大人びて見えます。


「秘密」


 昼間に見せた茶髪の姿と一瞬重なり、あゆむの胸がドキリとします。


 そんなことを考えていたら、トリエルの瞳から茶色い輝きが消えて、

 代わりに赤い色が輝き出します。


(ああ。もう少しだけ、いてくれればよかったのに)


「どうしたのー?」

(帰ったんだな)


 あゆむはそう判断し、ふっと笑うと、トリエルの目を見つめ、手を伸ばします。


「秘密だな」


 そう言って、あゆむは伸ばした手で彼女の頭を優しく撫でました。


(またな)


 トリエルは不思議そうな顔であゆむを眺めていました。


 まだ何も知らなくていい。


 今は二人だけ知っていればいい。


 そんな気がしたので、それ以上は何も言いませんでした。



 ——その『笑み』が、誰かの世界を『包み』込み、

 そして変えてしまうということを。


 共に『歩む』彼は、もう知っているのです。



 …………



 ――――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ