十二話「桜色の微笑みの天使」
トリエルの真の権能シリーズ最終回です。
ここは雲の上の小さな楽園「天界」
…………
白く聖なる宮殿内部、左右に分かれる右奥の部屋、その室内でウリエル様は瞑想しておりました。
室内には小さな金属製のテーブルと椅子が一つ。
中央には赤い水晶が置かれ、窓がない部屋には観葉植物が隅に置かれております。
ウリエル様は椅子に座った状態で水晶に両手を置き、目を閉じて意識を集中しております。
こうすることで地上の様子を天界にいながら確認できるのです。
「……妙ですね。地上の悪意が大して減っていない」
ウリエル様はそう呟くと、立ち上がり炎となって部屋から消えます。
…………
楽園の端、雲の上にウリエル様はおりました。
ウリエル様はそこから赤い長髪をなびかせて地上を眺めておいでです。
「私の予想が外れている……?
いえ、それはないはず。そもそも、神も認めたのですから……」
ウリエル様はさらに意識を集中させて下界を直接眺めます。
しかし、しばらくすると首を横に振られます。
「やはり以前と変わっていない……いくら不完全とはいえ……ある程度は効いているはずなのに」
その時、ウリエル様の中で一つの可能性が浮かび上がりました。
「まさか!? ……だとしたら、確かめねばなりませんね」
ウリエル様はそう仰ると、炎の柱となって何処かへ消えました。
――――
…………
ここは地中のさらに奥深く、魔界と呼ばれる世界の更なる下層。
「暗黒魔界」と呼ばれる死の世界……
地上の光は一筋すら届かず、空と呼べるものもない。
天は薄暗い殻で覆われており、稀に上層魔界より、ほんの微かな暗い暗い光が漏れるのみ。
そんな世界です。
空気は汚く淀み、生物は虫すらいない。
その奥に一柱の魔竜……いえ、かつて神に最も近かった「それ」はおりました。
かの竜は七つの頭を持ち、背には朽ちた六枚の翼、頭には十本の角が生え、
その頭上、かつて光り輝いていたであろうハロー。
それは黒く変色してもなお、その力を失わないのか、
あるいは別の何かに目覚めたのか、黒く不気味な光を放っております。
その四肢は光の鎖で繋がれ、かの竜は頭上から漏れる魔界の光を眺めております。
表情は伺い知れず、悲しんでいるようにも、あるいは怒っているようにも見えます。
「神よ……貴方が我を貶めるのであれば、我は貴方の宝を奪おう」
かの竜はそうしてグオオ……という呻き声をあげると、
たちまち黒いオーラが身体を包み、それは地上目掛けて昇っていくのでした。
…………
――――
ここは夢。
色あせた儚い世界。
白く広がる天井に無機質な蛍光灯。
以前見た内容と、同じ夢。
右隣に立つ女性からは嗚咽が聞こえます。
涙をポロポロと流し、自分の手を握っているようです。
胸が張り裂けるような、そんな悲しい思いが伝わってきます。
「……なんで……なんで……こと……聞くの……?
は……助かる……助かる……から。
天国なんて……必要……ない……でしょ……?」
ここで視界が明るくなります。
――――
「ねーねー見てー外キレーだよー!」
そう無邪気に「守りたい、この笑顔」で微笑むのは、空飛ぶ破壊兵器ことトリエルです。
普段彼女はハロー……つまり天使の輪っかをシルクハットの中にしまっているのですが、
こうしている分にはとても愛くるしい少女です。
ただ、あなたは知っております。
彼女がシルクハットを脱ぎ、「Hello」とハローが出現した時は地獄の始まりだと言うことを……
現に(裏で)ウリエル様が天使の権能で再生しているとはいえ、
彼女は何度も地上を壊滅させております。
これがアニメであれば来週には元通り……で済ませることが出来るのでしょうが、
現実世界でそれを目の当たりにすると、天使の力というのは空恐ろしいものです。
破壊された地上を次の瞬間には元通り。
まるでコメディアニメのご都合主義のようなワンシーンを、現実にやってしまうのですから。
しかし、人々にそれは、「記憶」として刻まれ、多くの人は「何度も滅んでる」わけです。実際に。
けど、あなたはトリエルを怖がることも、まして責めることも致しません。
何故だが、そのような気が湧かないのです。
どれだけハチャメチャにやられても、彼女の笑顔を見ると許してしまう。
それはまるで心の中から、悪意や怒りといったものが直接消されるような感覚でした。
彼女が笑った瞬間、そうしたものが直ちに消えてしまうのです。
それもあって、あなたはそんな破壊の権化とも言えるようなトリエルと、
今日も今日とて平和(?)に暮らしております。
「桜ですね」
そうあなたに優しく微笑みかけたのはピピです。
窓の外には近所の小さな桜の木が花をつけています。
左手の薬指に嵌められた指輪を見る度、ピピの頬は桜のように染まります。
微かに揺れる白いワンピースと青い長髪がなんとも幻想的で、あなたは見入ってしまいます。
その姿はまるでどこかの姫君のようです。
ヒミことピピはそっとあなたの右手を左手で握り、まるで指輪にあなたの体温を宿すように指を絡めてきます。
そして……その唇はそっとあなたの唇に……
「ピピ……愛してる」
と思ったらあなたの顔をしたアンポンタンが割り込んでいましたとさ。
なおあなたの方はピピの顔をしたアッチがぶちゅー!
「いやーん!」
「ピピ……好きだぜ」
ピピはあなたの顔をしたそれを殴れず、真っ赤な顔で軽く退けるのでした。
「怒りますよ?」
そうは言っていますが、なまじあなたの顔をした存在に愛を囁かれたためか、
そこには怒りはないようです。
しかし、あなたは別のようで……
「いやんじゃないわ! この白茄子が!!」
アッチを鷲掴みするとそのまま前方のポンポへ投げつけます!
するとポンポはそのアッチを「ヘーイ!」と蹴り飛ばし、アッチはさらに加速。
そこにドアの形をしたポンポが扉を開けて……
アッチがあなたの後頭部へワープ!
「Nice try」と軽く煽ってスコーン!! と延髄蹴り!!
あなたバターン!!
そこにタンタがお尻をスリスリして……
ぶーーーーーーー!!!!!
屈辱のぶー! 周囲が一気に臭くなります。
「なんか臭くねえ?」
「誰か屁ーこいたろ?」
「ケツの匂い嗅いでみようぜ?」
などと小学生のようなコンボを決められ「今に見ておれ……いつか必ず|抹消《最初からラスボスが出てくる異世界送りに》してくれる……!!」と決意を新たにするのでした。
「……大丈夫ですか?」
ピピはあなたを優しく起こし膝枕で介抱しますが、ちょっと臭そうです。
「……気晴らしにどこか出かけるか」
あなたがそう言うとピピの顔が明るくなり……
「ではお花見に行きましょう!! お弁当作ります!!」と断れない、この笑顔で提案。
さすがにこれは断れず……
「じゃあ行こうか」と若干の苦笑いを浮かべて了承します。
「わーい! お外でお花見だー!」
満面の笑みのトリエルを横目に一抹の不安を抱きながら……
――――
――二時間後――
着いた先は歩いて20分ほどの距離にある、町の中央公園。
およそ1000人は座れるであろう、芝生の広場には、中央に大きな桜の木が一本あり、
その周囲にも小さな桜が無数に存在しています。
広場の外には出店もあり、綿あめや焼きそばなどの定番物はもちろん、
ビールや日本酒も売っています。
花見会場と化した広場には、既にパッと見で500人ぐらいの花見客が既に来ており、
中には酒瓶片手に出来上がってる客の姿もチラホラ……
時刻はまだ10時30分ですが、もう中央の木には既に人がいっぱい。
とても近付けそうにありません。
「わーーー!! 桜だーーー!!」とトリエルは着くなり、近くの桜の木に猛ダッシュ!
トトトと走っていきます。
「走ると転ぶぞー!」
あなたはそう声をかけながらピピと手を繋ぎながら後を追います。
その様子は完全に兄妹です。
「懐かしいなあ……」とトリエルが桜の木に手をかけて呟きます。
その目は若干茶色のような、そんな輝きを放っております。
「懐かしいって、天界にもあるのか?」
あなたの問にトリエルは赤い瞳を輝かせて「ないよー」とあっけらかんに答えます。
「え……じゃあなんで懐かしいだなんて思ったんだよ」とあなたはまたしてもトリエルに違和感を抱きます。
・知ってるはずのないアニメの旧シリーズをピンポイントに見ていたトリエル。
・それと同世代に流行ったゲーム機を知っていたトリエル、
・雛人形を知っていたトリエル。
・すき焼きを知っていたトリエル。
そして……
・桜を見て「懐かしい」と言ったトリエル。
あなたの中で、それらの情報が一つずつパズルのピースのように、一つの答えに向かってはめ込まれていきます。
いえ、おそらくもう答えはあるのでしょう。
しかし、最後の決め手に欠ける……そんな時でした。
「もういっぺん言ってみろ!!」
会場に突如大声が鳴り響き、その声の方向を見ると、酔っ払い同士が殴り合いの喧嘩をしているようです。
「……よくある事とはいえ、全く……間が悪いな……」
あなたはこの時、そうボヤいていました。
来るタイミングが悪かった。
しかし、それは誤りだと、すぐに気が付きます。
なぜならば、突如地中より黒いモヤが会場を包み込んでいるからです。
「これは……!?」
驚愕するあなたをピピが守るように前方を塞ぎます。
その目はかつての怨霊時代を思わせるように険しく、
しかしなんとしても、あなたを守ろうとする愛情も感じられる、そんな鬼気迫る表情です。
あなたの後方にはアンポンタントリオも、震えながらあなたにしがみついていますね。
今はふざけているときではない。それは彼らとて同じなのです。
「悪意……!? いえ……瘴気と言うべきでしょうか」
「瘴気?」
ピピは「はい……」と静かにうなずき答えます。
「正気とは悪霊や怨霊、そういった類のものが放つ気です。
ある程度強い守護霊に守られている者ならば、
多少の時間は耐えられますが、そうでないものは……」
「者は……?」
ゴクリとあなたは息を飲み、ピピの答えを待ちます。
ピピは暴徒とかした人達を目線で追って「ああなります」と冷たく言い放ちます。
「瘴気」
それは人が誰しも当たり前に持つ、しかして中々表には出ない闇、
心の闇を増幅させ、そのままに動かす邪悪な力であると、あなたはそう理解しました。
だから、さっきまでワイワイとしていた会場が、一気に地獄のようになったのだと。
それと同時に想像します。
もしここに特殊な力や武器があったらどうなっていたのだ……と。
心の闇が命ずるままに人を動かすエネルギー、瘴気。
そこに特殊な武器や力が加わった際の恐ろしさを、つい想像してしまいます。
「……花見は中止だ。帰るぞ」
あなたはピピの手を連れて帰ろうとした時です。
「……トリエルはどこだ!?」
そこに、先ほどまでいたはずのトリエルがいない事に気が付きます。
あなたの頭の中で最悪のシナリオが瞬時に浮かび、黒いモヤが立ち込める会場を見渡しますが、
焦るばかりでトリエルの姿は見えません。
「クソ……!」
あなたはピピの制止を振り切るようにその手を離すと、会場の中へ入っていきます。
「待ってください! 危険です!」
ピピもその後を追うと、アンポンタン達も互いに見つめ合い、うなずくとその後を追いかけました。
…………
「……これは……瘴気!? 馬鹿な……なぜ地上に、これほどの瘴気が……」
その時、会場の上空ではウリエル様が魔界のような状態と化した花見会場を見つめ驚愕しておりました。
ウリエル様は軽く首を横に振ると、すぐさま鋭い目付きに変わり、右手を掲げ炎の大剣を出現させます。
飛ばさをピン!! と張り、争いを鎮圧すべく、地上へ降りようとした時でした。
「!!」
ここで不意にウリエル様は先日の神様との会話を思い出します。
――ですが!! ならば何故堕天などと!! 私どもと一緒に教育でも良かったはず!!
――天界での教育でも、人間界で天使を連れたものでもだめなのだ。
あれはトリエル自身の成長で覚醒せねばならぬ。そういう力なのだ。
だから悪意に満ちた人間界でトリエルを単独で落とした。
「……クッ!! ……そういう事ですか……」
ウリエル様はここで神様が仰った言葉を理解しました。
天使が地上へ降り、争いを収めるのは容易い事です。
人間など、いくら強化しようとも天使には絶対に勝てません。
それこそ、アリと人間ぐらいの絶対的な差があります。
しかし、ここで自分が解決してしまうと、永遠にトリエルの真の権能は覚醒しない。
神様はそれが分かっていたから、堕天という方便を使ってトリエルを地上へを送ったのです。
それには、真の権能の発現には悪意が必要だからです。
「……トリエル。信じていますよ。貴女を」
ウリエル様は剣を収めると静かに上空で見守ることになさいました。
…………
「トリエルー!! どこだ!!」
あなたは夢中でトリエルを探し、ピピとアンポンタンもそれに続きます。
「トリエルさん! どこですか!?」
「トリエルさーん。オイラたちと帰りましょうー」
声は瘴気の中で不気味に木霊するばかりで、トリエルは見えません。
「クソ……」
あなたが歯を食いしばった時でした。
「……だよー!!」
右前方にトリエルの声がしました。
あなたはそこへダッシュすると桜の木の下で泣き叫ぶ少女と、それを庇うトリエルがいます。
「どけオラ!! そこのガキが俺のスマホを踏みつけやがったんだ!!!」
40代と思しき男の目は血走り、手には割れたビール瓶があります。
あなたは男の前に立ち塞がり「やめろ!!」と声を張りますが、足は震え、まともに動けません。
「どけぇ!! クソガキャ!!」
男は乱暴に怒鳴りつけますが、あなたは後ろで泣き叫ぶ少女を必死で庇います。
「どくかよ!!」
あなたはそう啖呵を切りますが、内心ではピピがすぐに来てくれるはず……とそう願うばかりです。
霊体であるピピにビール瓶など効きませんが、あなたにとっては当たり所次第で致命傷になりかねません。
「ウザってえ!!!! ぶっ殺してやる!!!!」
男がビール瓶をあなたに振り下ろした時です。
「やめてーー!!」
すると後ろで突如、目が開けられないほどの激しい虹色の光が放たれ、
振り返るとハローも出していないのに、トリエルの身体が桜色に光り輝いています。
しかし、その姿が……
「茶色い髪に……茶色い瞳……??」
そう、その姿はまるで自分たち日本人のようだと、あなたは感じました。
その時、あなたの頭の中で全てのピースが重なり、一つの答えが出ます。
「……トリエルは……やっぱり人間だったんだ……」
以前、トリエルは天使は天使の種子を天界樹に植えることで、そこから生まれると言いました。
すなわち、天使ははじめから天使であると。
しかし、トリエルは違ったのです。
トリエルは人間が転生した天使であった。
その疑念はピピも持っていました。
けれど、天使の生い立ちを説明する際に、トリエルは完全否定したのです。
故にあなたの中の疑念は違和感どまりでしたが、この最後のピースであなたは確信しました。
過去の記憶が、状況証拠が、それを物語っているからです。
トリエルは真剣な眼差しでシルクハットを放り投げると、
普段は「Hello」とダジャレを言うハローが何も言わずに激しい光を放ちます。
その光は桜色の強い光でまるで人間時代のトリエルの魂の色を象徴しているようです。
トリエルは上空へ飛び立つと普段より大きくなった白い翼を一気に広げます。
翼からは眩い光が溢れ、舞い散る羽がそれを乱反射させます。
「酷いことや痛いことはダメ! ……だから……」
そう言うとトリエルはにこりと微笑み男に語りかけます。
「……みと、わたしと遊ぼ!」
トリエルがそう言うと、いつの間にか男が持っていたビール瓶。
それが、ふわふわで甘そうな綿あめに変わっています。
その手からは小さなオタマジャクシおばけが生まれ、彼ら「ケケケー」と無邪気に笑い、
その綿あめを美味しそうに食べています。
それだけではありません。
会場に溢れる瘴気が徐々に晴れ、無数のオタマジャクシおばけに変わって行きます。
「みんなー!! わたしと一緒に遊ぼうよ!」
トリエルは会場の全員に語りかけるようにそう語りかけると、おばけ達が一斉に突撃していきます。
「おばけミサイルだよー」
……ポヨン。
普段であれば爆発するそれが、「ポヨン」と弾け、七色の光が溢れます。
またそこから、小さなオタマジャクシおばけがさらに生まれます。
それだけではありません。
「あははは!! なんだこれ!! おもしれー!!」
先ほどまであれほど殺気立っていた会場が一気に笑いに、笑顔に変わっていきます。
まるで子供時代、親兄弟にくすぐられて、それがおかしくて仕方がなくて笑っているような……
そんなどこか懐かしく、そして優しいノスタルジックな光景が広がります。
空を見上げ、無数のおばけ達が飛ぶその後には、キラキラと輝く虹色の軌跡が生まれ、
それはなんとも幻想的かつメルヘンチックです。
ハートや星が次々と描かれる様はまるで花火。
しかし、それはすぐに消えることなく視界に残ります。
「これは……!!」
この光景、あなたには見覚えがありました。
「廃墟で見たあれだ」
そう、廃墟で初めてトリエルとあった際もトリエルはこのようなトリックを使い、
痛くないおばけミサイルを使っていました。
あなたが破れかぶれで廃材を投げた時も、それをおばけが食べて無効化しました。
今になって思えば、あの時、真の権能の片鱗が現れていたのです。
しかし、今回のはあの時の非ではありません。
それ以上です。
おばけミサイルが命中した人からは七色の光が放たれ、
まるで魔法のようにたちまちと笑顔になります。
そして童心のようにはしゃぎだすのです。
「あははっ! いいぞー! やれやれー!」
先ほどまで暴れていた大人達は、まるで幼い子供のようにおばけ達に手を振っています。
辺り一面、そこはまるで夢の国のよう。
七色に輝く空に絵本から飛び出してきたようなおばけ達が手を振り泳ぐ。
「みんなー! 一緒に遊ぼー!」
トリエルのその声に導かれるように、彼女の身体から七色の光が広がります。
それは笑顔の眷属――クマのぬいぐるみ、びっくり箱を作り出します。
「わーーーーい」
「ばあーーーー」
クマのぬいぐるみが走り回り、びっくり箱がばあーっと飛び出てイタズラで笑わせる。
その光景は見ているだけで笑顔が溢れそうです。
空では「ワーワー」とおばけ達が泳げば……
「ほらほらー」とトリエルが次々と指示を出して、華麗な空中アクロバットをおばけ達が決めていきます。
地上ではクマのぬいぐるみが子供達とかけっこしたり、一緒に綿あめを食べたり、
子供を持ち上げて一緒に飛んでる子もいますね。
びっくり箱と睨めっこしあって変顔をしてる子もいますよ。
夢の国と化した広場にいる全員が、みんなまるで絵本の中に入り込んだかのように、
満面の笑みで夢中になって遊んでいます。
その中央、「桜色の微笑みの天使」茶髪茶眼のトリエルは、太陽のような微笑みで周囲を照らしつつ、
おばけ達に次々と指示を出して笑顔の中心にいます。
それはまるでオーケストラの指揮者。
おばけ達や周囲の人々が、トリエルの指示のもと、溢れんばかりの笑顔を奏でています。
「……こんなの……見た事ないそ」
瞬間、ゾワワ……と鳥肌が走り、気付くと目頭が熱くなります。
これまでさんざん振り回されたトリエル、その真の権能を見た時、
あなたの中でこれまでの暴走が全て繋がります。
「今までも、“お前” はただ、みんなを “笑顔” にしたかった……それだけだったんだな……」
「トリエルさん……」
ここであなたを探していたピピも合流し、静かにあなたの手を指輪が光る左手で握り、
トリエルをそっと見守ります。
…………
「……素晴らしい……これが……これがトリエルの真の権能…… “笑顔”」
ウリエル様は、初めてトリエルが見せた真の権能、「笑顔」に言葉を失い、
気付くと頬に涙が伝っておりました。
それは偶然かもしれません。奇跡の産物かもしれません。
しかし、「彼」の命が危機に晒された時、
トリエルの中の「人間の少女の魂」が燃え上がり、その真の権能を使ったのです。
あらゆる悪意や破壊行為を「イタズラ」という形で、無垢な「笑顔」に変える、その力を。
神様をして「出来ない」とまで言わしめたその力は、破壊的な効力は一切持たないもの。
しかしその代わり、あらゆる悪意と暴力的な力に対しては《《絶対的に無敵》》な力でした。
普段の破壊は、その力が表のトリエルでは制御しきれず、暴走した結果にすぎなかったのです。
虹色の光が会場全体を優しく包み込み、やがて笑顔で満ちると、
トリエルはそっと地上へ降り、いつものピンク髪の少女に戻っておりました。
もうそこには黒いモヤも、争いもありません。
あるのは笑顔、ただそれだけです。
「お嬢ちゃんすげーよ!!」
「もっとやってー!!」
会場からはワー……という拍手とアンコールの嵐、あなたも笑顔でそれを優しく見守りますが……
「じゃあいっくよー!」とトリエルが再度権能を発動!! ハローがピカー!!
そして……「Hello」とハローがいつものダジャレを……
「あ……これヤバいやつだ」
あなたは経験則で逃げようとしますが、時すでに遅し。
「今回は桜おばけアトミックミサイルだよー!」
メチャクチャ物騒なワードが呼び出し中央の大きな桜の木がおばけに大変身!!
そして……
ちゅどどどどーーーーん!!!!
会場は大ばくはーーーーーーつ!!!!
ぜーーーーんぶ! どかーーーーん!!!!
「結局最後はこうなるんかーーーーい!!!」
ピューーーーーー…………キラーン。
あなたは遠くへ吹っ飛んでいき、会場には大きなキノコ雲。
呆然と上空で言葉を失うウリエル様がおりましたとさ。
「……あたた……胃が」
修復お疲れ様です。
――――
その日の夕暮れ。
トリエルは茶色い目を輝かせて、窓の外を眺めています。
そのどこか寂しげな視線の先、そこは住宅街の壁です。
――が、彼女はまるで、その先を見ているようです。
「何か気になるものがあるのか?」
あなたの問いに彼女は振り返り、くすりと微笑みます。
その微笑みは普段見せる幼い笑顔とは違い、大人びて見えます。
「秘密」
昼間に見せた茶髪の彼女と一瞬重なり、あなたの胸がドキリとします。
――あの時の。
そんなことを考えていたら、トリエルの瞳から茶色い輝きが消えて、
代わりに赤い色が輝き出します。
それは “時間切れ” を意味していると、あなたはそう理解しました。
今思えば、肝試しの日も “彼女” は現れ、おそらく初めて目覚めました。
あの日から、彼女はあなたを裏から見つめていたのでしょう。
ふと、そんな思考がよぎります。
「どうしたのー?」
――帰ったんだな。
あなたはそう判断し、ふっと笑うと、トリエルの目を見つめ、
手を伸ばします。
「秘密だな」
そう言って、あなたは伸ばした手で彼女の頭を優しく撫でました。
――またな。
トリエルは不思議そうな顔であなたを眺めていました。
まだ何も知らなくていい。
今は二人だけ知っていればいい。
そんな気がしたので、それ以上は何も言いませんでした。
…………
――――
夜23時。
昼間の騒ぎでみんな疲れたのでしょう。今はスヤスヤと寝ています。
7畳という狭い空間に16匹のおばけ。
そして空飛ぶ破壊神トリエルとあなたの守護霊ピピ。
最初は大混乱したカオスな部屋も、
いつしか温かく、なくてはならない部屋になっていました。
「これからも、ヒミはあなたと共におります」
あなたはピピと手を繋ぎ、見つめ合います。
窓辺の月の優しい光が、ピピの青色の髪と白い肌を幻想的に輝かせ、
あなたの目を奪います。
「離れる気はないんだろう?」
「もちろんです。
浮気はたとえ相手が霊でも呪いますから……」
あなたのちょっとした意地悪に、
ピピは冗談とも本気とも取れるような返答であなたを苦笑いさせると、
そうっと、その青白くもほのかに赤みのある顔を近づけ、
今度は長く……その唇を交わしました。
…………
――――
次回!
「トリエル、遊園地へ行く!」




