79.布教の押し売り
「そうだ! 魔法少女マイの新刊は見たかしら!」
「ええ、読みましたよ。今回も面白かったですよね!」
教科書の印刷の傍ら、ココさんと感想会を始める。ここの展開が良かっただの、台詞がよかっただのと盛り上がっていた。
「なぁ……その漫画はそんなに面白いのか?」
そんな僕たちの会話を聞いていたのか、警備をしていたアイリスさんが思わず尋ねてきた。
「もちろんだよ!」
「当然よ!」
僕とココさんの声が重なる。タイミングがあまりにもバッチリ決まった、息のあったコンビネーションだった。
「魔法少女マイって言うのは主人公のマイが魔法少女という存在になり、人々を襲う魔物たちと日夜戦う話なのよ。まず話は王道でそこが魅力の一つでもあるわ。分かりやすい話って別につまらないわけじゃないもの。次に登場キャラたちね。主人公豊中マイは元気で明るい子。ちょっとドジなところもあるけどそこが可愛いのよね。次に彼女を先輩として導くのが春日井フジカよ! フジカは第一話から登場するんだけど、主人公のマイより先に魔法少女となって活躍しているのよ。最初は仲間なんて要らないとマイに対して冷たい態度を取るんだけど、結局見捨てられなくてなんだかんだで世話を焼いちゃうのよね。ここ、私がフジカを好きなポイントでもあるわ。特に第三話の――」
「ココさん、ココさん。そんなに一気に語ったらダメですよ」
「……え?」
オタク特有の早口で長々と語っていたココさんを止める。
「ああ……うむ。ココ殿の熱意は分かったぞ……。しかし、さすが魔法使いであるな、早口であれだけ話せるとは……」
アイリスさんがちょっと引き気味だった。
好きな作品を進める時ってちょっと熱く語り過ぎるとこうやって引かれてしまうことがあるからね……。
どっちかと言うと作品に対する興味より、ココさんの早口に対しての興味に惹かれちゃったみたいだし……。
「それにアイリスさんなら口で説明されるより実際に読んでみたほうが良いと思いますね」
「それもそうね! なら、一巻をあげるわ!」
ココさんが腰の〈魔法鞄〉から魔法少女マイの一巻を出してきた。
「いや、さすがにタダで貰うわけには」
「大丈夫よ、これ布教用だもの。だから遠慮なく貰って!」
さすがオタクの鑑……! 布教用の一巻を常に持ち歩いている……! 観賞用保存用もしっかりあるんだろうな!
「布教用……? まぁそういうことなら」
ココさんの熱意に押されたのか、アイリスさんは一巻を受け取った。そして一巻を開いてペラペラとめくって読んでいく。
「ふむ……読んだぞ」
「はやっ!?」
「ちょっと五分も経ってないわよ!?」
「絵が多いからな。読みやすかった」
漫画はアニメと違って、自分のペースで読める。小説とも違って絵で視覚的な説明もできるから、人によっては読むのが異常に早いよね。僕は二十分くらいだ。
「どうでしたか、アイリスさん?」
「ふむ……」
アイリスさんは今度は確認するようにページ開きながら言った。
「戦闘描写のリアリティが無さすぎないか?」
「リアリティ……ですか?」
「ああ、特にこのマイが戦っているシーンだが、これはよくない。魔物の動きが行儀良すぎる。なんで変身前に襲わない。変身後の戦闘描写を見るにこの魔物の実力なら、変身前にさっさとやれていたはずだ」
て、手厳しいっ! いやでもそうか! 異世界人だから魔物とは戦い慣れているから、魔物の恐ろしさをよく知っているのか。
「フジカに至ってはお前は本当に戦闘経験者かといいたいくらいに動きが悪い。こんな動きをするなら、すぐ死んでしまうだろ」
「あー! アイリスさん! それはちょっと言い過ぎというか、禁句っていうか!」
確かにフジカ先輩は先の展開で死んでしまいますけどっ! ちょっとフジカ先輩のこと悪く言わないでください!
僕はアイリスさんの言葉を大声で誤魔化そうとしたが、遅かった。
「……何ですって?」
バチッと電気が弾けるような音がした。ココさんの周囲に電気が漂い始めて、店内の照明がチカチカと点滅した。
「戦闘描写は分からなくもないわ。作者の技量不足ね。そんなこと言われなくても、こっちは分かってんのよ」
……あ、そこはココさんも思っていたんだ。
「でもそこは重要じゃないのよ。リアリティがあったからと言って面白くなるわけじゃないもの。……あたしが聞きたいのは面白かったのか、面白くなかったのかよ。どっちだったの?」
ココさんの静かな怒りを表すように、静電気で少し髪が逆立っている。しかしアイリスさんは気にすることなく少し思案してから口を開いた。
「そうだな……色々と気になる箇所はあったが、面白かったぞ」
「……ふふ、当然よ!」
その答えを聞いて一転してドヤ顔をするココさん。バチバチしていた静電気もいつの間にか収まっていた。
……よ、よかった〜。一触即発みたいな雰囲気だったけど意外と大丈夫だったみたい。と、僕は思っていたのだけど。
「ちょっとハジメ、顔かしなさい」
「えっ、な、何!?」
僕は怖い顔したココさんにバックヤードに連行されてしまった。
「なんなのよ、アイツは〜〜〜!!」
「ひっ!」
バンッとココさんが壁を叩いた。……あの、僕が間にいるからココさんに壁ドンされているんだけど!? 何この状況!?
「分かってない分かってない分かってない! そんな当たり前のことにいちいち突っ込んでどうすんのよ! 戦闘描写が現実的じゃない? 彼女たちは一般人の学生よ、騎士と一緒にするんじゃないわよ。大体フジカだってまだ一年目の新人と言っていい子なの。あの不慣れな様子は二巻で判明することなのよ! フジカのこと何も知らないくせに分かったような口で語らないで欲しいのだけど!!」
怒りのこもった愚痴を言いながらココさんが僕を睨んできた。
「あんたもそう思うわよね、ハジメ?」
「そう思いますが……それは僕じゃなくて本人に言ったら?」
「ネタバレになりそうだから、言えるわけないじゃない!!」
ネタバレ配慮してたぁー!
怒ってはいたけどその配慮をした結果、何もいえないから、代わりに僕にそれをぶつけてきたわけか……。
「頭が硬すぎるのよ、まったく! こうなったら全巻布教してやるわ! 全巻読んだら不満点は出てこないはずよ!」
バックヤードから戻るなり、ココさんはアイリスさんに全巻叩きつけていた。布教の暴力すぎる。
そこまで言うならと、アイリスさんも全巻読んでいた。読むスピードが速いので三十分もしないうちに全十巻を読み切っていた。早すぎる。
「……相変わらず戦闘描写はツッコミたい気持ちはあるが、魔法の描写は面白いな。こちらの世界にも通じるものがあり、使い方や対策など勉強になったな」
十巻を閉じながら、アイリスさんがそんな感想を述べた。……なんというか……漫画の感想というより参考書を読んだ時のような真面目な感想だ。
「概ね同意ね。ちなみにストーリーはどうだったのよ? 推しキャラはできたかしら?」
「やはり主人公のマイ殿だな。話もマイ殿の成長物語としてよかったのもある。彼女の無辜の民を救おうとする気持ちは高いが現実はままならない。それでも諦めずに前を向こうとする姿勢に共感したよ」
「わかります! 僕もマイのそういうところが好きなんですよ!」
「……ちなみにフジカはどうだったのよ?」
「ああフジカも好きだぞ。特に七巻が素晴らしかった。……死亡してしまったのが惜しいキャラだ」
「やっぱり七巻よねぇ! そうよねぇ!!」
推しキャラを褒められて上機嫌のココさん。
僕たちはアイリスさんを加えて感想会の続きをした。キャラに重点を置いて話すココさんに対して、アイリスさんはこの戦闘場面はどう切り抜ければ適切だったか、という実践的な視点からの感想がやっぱり多かったけど、新たな視点で読めてなかなか楽しかった。
それからというもの、アイリスさんは他の漫画もいくつか読むようになったんだけど……。
「なぁ、ハジメ殿。このマンガに描かれている料理を作れるか?」
最終的に彼女が一番ハマったのは料理漫画だった。これもこれで実にアイリスさんらしい……。




