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78.広がっていくもの

「よし」


 迷宮の太陽とは違う、地上の太陽に照らし出された【スマイルストア】の新しい店舗を前に、僕は満足気に頷いた。


 そう、この度三号店が地上の街、迷宮都市オルウェイにオープンしたのだ。


 気付けば百五十万SPほど貯まっていた。

 スマイルポイント、略してSPはお客様を笑顔にした際に増えていくポイントだ。

 その用途は店舗の改装から増築、備品の購入など店舗に必要な設備を充実させることができる。


 新規店舗に必要なポイントは百万SP。余裕で払えるポイントだった。迷宮伯から地上に店を開いて欲しいと言われていたので、街中に建てたのだ。


 場所は西区と南区の間あたり。商業施設が連なる東区も考えたけど、あそこは探索者向けの施設が多く、出入りする人々も住んでいるのも探索者が多い。探索者たちは迷宮内の店舗に行くことができるけど、地上の住人はそうじゃない。


 なので地上の住人たちが多く集まる住宅区に進出することにしたのだ。貴族が多く住む北区にこそ先に進出すべきだという貴族や富裕層の声も上がったけど、あちらは住んでいる住人は多くはない。

 店舗ではなく、移動販売車を常設させることで一先ず納得してもらった。幸い、残り五十SPくらいならすぐに貯まりそうだったし。


 今回のポイントの倍増はきっと魔力風邪の流行を沈静化させたからだろう。迷宮の探索者だけでなく、地上の多くの住民たちをスマストの商品で笑顔にしたから、それだけ増えたのだ。

 さすがにこの巨大な都市に一店舗では無理があるので地上の店舗はいずれ三、四店舗くらいは増やしたいところだ。


 店舗を増やしていけばそれだけSPが貯まる速度も上がっていくだろう。最も、今のところの使い道はその店舗を増やすくらいしかあまりないところだけど。

 ラインナップ増えたりとかしないのかな? 例えば備品でゲーム機購入できたりとか……やっぱりダメか。


「さて、ロンダール迷宮三号店の初日です。大変な混雑が予想されますが頑張りましょう!」


「「「はい、オーナー!」」」


 バイトの店員たちとミーティングを済ませ、三号店の初日は幕を開けたのだった。



 ――正直、僕は舐めていたと思う。地上店の繁盛ぶりを。


 そりゃ探索者しか入れない迷宮と違って、地上の街に制限なんてないわけで。移動販売車で巡っていた時は魔力風邪が流行っていたから外出する人々も少なかった。


 あれよあれよと増えるSPを前に、二店舗目、三店舗目と増やしていった。繁盛が落ち着いたのは四店舗目ができたあたりだった。

 客足が分散され、一店舗ごとの客数も軽くなったのだ。あと単純に商品が出回ったのもある。


 ちなみに店舗数上限ってのがあるから無限に増やせる訳でもない。現在は七店舗まで増やすことができる。現在迷宮に二店舗、地上に四店舗、合計六店舗抱えていることになる。

 地上より迷宮の各所に増やしたほうが探索者たちの為にはなるんだけど、客数が見込めるのはやっぱり人の集まる地上の街だ。その分SPが増えるのも早くなっているから、SPに余裕がなかった昔と比べて今なら迷宮内にも増やすのも簡単だ。

 まずは安全地帯の五層あたりにでも。危険な階層に増やすのもありだろう。

 どちらにせよ、探索者たちは出発前に地上の店舗で商品を購入できるようになったから、利便性は増えている。


 こんなに一気に増やして大丈夫か?とは思ったけど、増やさないと暴動が起きるレベルだった。

 店員もクローバー商会から教育された販売員を派遣してもらうことでなんとかなった。

 あとは殺到した客の列整理から客同士のトラブルまで迷宮騎士団が引き続き対応してくれた。


 本当に商会のロウシェさんや騎士団のアイリスさんたちには世話になりっぱなしだ。


 ◆◆◆


「だいぶ大変だったみたいね」


 地上の店舗が落ち着いて、久々に一号店の店先に立っていたら、やってきたココさんにそう労われた。


 地上に店舗ができたことで一号店は客足が減っていた。これでも探索者が行きやすいようにと、実は一層の中でも便利が良いところに移設したんだけどね。移設費は五十万SPだったよ。


 地上の繁盛ぶりと比例して、一号店の店内は静かだ。客もココさんしか居なければ、僕がいるだけだ。なんだか初めてココさんがやってきた日を思い出すなぁ。


「あたしも何か手伝えればよかったのだけど」


「でも、ココさんも忙しかったんでしょう? ほら、文字の学習用の教科書作りで」


「まぁね」


 トラヴィスさんが作った文字の学習のための教科書。その制作にはココさんも少し手伝っていたらしい。あれから中級や上級用を作るにあたって、トラヴィスさんだけでは難しくなったそうだ。

 ただでさえ、トラヴィスさんには迷宮騎士団の副団長としての仕事もある。なのでココさんが本格的に手伝うことにしたそうだ。所謂、共作というものだね。


「これも布教のためだもの!」


 実は地上の街でもこの文字学習の教科書はそこそこ人気だ。まだ探索者以外に書籍の販売は許可されてないけど、ゆくゆくはされることだろう。それに向けた布石として、識字率向上のためにココさんは教科書の作成を手伝ったのだろう。


「今日はその為に来たんだったわ。はい、これ原本。PDF化ってやつ頼めるかしら?」


「ええ、任せてください」


 確かめるようにペラペラと原本を捲る。手書きで書かれた文字は筆跡を見るにトラヴィスさんのものと、もう一つの筆跡がある。

 トラヴィスさんの筆跡は細くて繊細な筆跡だ。対して新しく増えた方は少し線が歪であるが普通に読めるものだった。

 ココさんって確か魔法陣を描いたりする図形は苦手だったはずだ。意外と――。


「……何意外そうな顔してるのよ」


「いえ、そんなことは!?」


 ……顔に出ていたらしい。


「お父様に文字だけは誰が見ても読めるように書けと厳しく躾けられたのよ。『知識は共有なくして発展はなし。己が得た知識は残すべし』、これはお父様の言葉よ」


 ココさんのお父様といえば……偉大なる魔法使いジョナスだ。伝え聞く限り、伝説的な魔法使いのようで、この世界の魔法の基礎を作り出した人だ。

 知識を独占することなく、共有する。その姿勢は弟子であるココさんにもしっかり受け継がれているようだ。


 おかげで僕もその恩恵にあずかれる。僕もまたこの世界の文字を覚えているところだから。


 なるほどなぁと思いながらさらにページを捲ると、三人目の筆跡を見つけた。均等の取れた美しい筆跡だった。


「ああ、それは弟弟子のよ。清書する時にちょっとだけ手伝ってもらったわ」


 弟弟子というとエイブラハムさんか。……あの人もあの人でコピー機の魔導具開発に忙しくしていたはずだけど。……たぶん、姉弟子の依頼を断れなかったんだろうなぁ。エイブラハムさんが書いたページは三ページほどなのでそこまでの作業量ではなかったようだけど。


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