外界からの脅威 6
シャルチフ会長は肉体の制御を奪われないよう、必死に耐える。これは俺の体だ。俺だけの力だ。誰にも渡さない。絶対に。
神へと至ってみせる!!
そんな中、彼の頭の中に複数の声が響く。
神々は人間から望まれるからこそ存在出来る。
『お前は一体、誰に望まれている?』
それは人々にとって希望である必要はない。
『お前に与えられたモノは絶望のみ』
神々は人の屍を積み上げて生み出されるものではない。
『故にお前は許されない』
その言葉一つ一つがシャルチフ会長へと襲い掛かり、肉体の自由を奪っていく。最初は指先。その後は両手両足。どんどん自分が自分でなくなっていくこの不気味な感覚に先程までの元気はもうない。それどころか、おシャルチフはかつてないほどの恐怖が心に刻まれていく。
そして彼の思考はどんどん後悔と反省に染まっていく。
俺は一体、何を呼び出してしまったんだ。どこで道を間違えてしまったんだ。どうすればこうなることはなかったのか。本当に神を生み出す計画は人類が触れてはいけない禁忌のモノだったのか。
あぁ、どうすれば自分は許されるのだろうか。
そしてとうとう、脳まで乗っ取られる。その直後、その得体の知れない声たちは告げる。
『おめでとう、これで君は我々の仲間入りだ』
その最後の言葉でシャルチフ会長は全てを察する。
あぁ、そうか。レヴァレ・ケルムによって時間、空間全てが歪んでしまった。結果、彼らを呼び出してしまったのか。これらの正体は──
そこでシャルチフ会長の意識は完全に失われるのであった。
しかし、開けられた穴が勝手に塞ぐことはない。エネルギーは流体となって、洪水のように溢れ出る。それはかつてないほどの膨大な熱量を帯び、悪意と共に周囲へと広がっていく。
それは逃げていたアナトとアナーヒターを飲み込み、周囲で戦っていた兵士、冒険者などは何が起こっているのかすら分からずに散っていく。
「ダメだな、こりゃ」
そのように呟くのはこの状況を遠くから眺めていた者……サルワであった。その隣にはファールジュもおり、一緒にメイガス・ユニオンと冒険者連合の戦いを観戦していた。
彼女らは冒険者連合の予測通り、この戦争によって生まれる想い……悪意や敵意、怒りや悲しみといった負の感情を回収することを目的として訪れていたのだが──
「これは計算外、もう回収は不可能だな。退くぞ、ファールジュ」
そういってサルワは立ち去ろうとする。
それに対しファールジュは状況がまだ理解できずにいた。
「回収不可能、とは?」
「……戦争以前にこの場所には神が生まれる条件が揃っていたんだよ」
セレシアはエルフ族を至上とする思想で、多くの他種族が奴隷にされ虐げられてきた。さらにエルフの中でも魔術の才能がない者もまた奴隷に落ち、実力主義の社会だった。
誰もが救いを求め、絶望し、憎しみや怒りを抱えていた。
神々は人々に望まれるからこそ誕生する。その想いの源が負の感情であっても、正の感情であっても。
そして、そんな社会をのし上がり、この国のトップに立っていたシャルチフ会長。彼はまさにそんなセレシアの象徴的存在だった。さらに彼は神を生み出すために多くの者たちを犠牲にした。殺戮を行なった。シャルチフを中心に多くの者たちが負の感情を向けていた。
しかし、既に神代が終わりつつあるこの世界において、それでも新たな神が誕生する余地などありはしなかった。調和神アフラがそのように世界を調整していた。そう、本来であれば──
彼はレヴァレ・ケルムによって世界を歪めてしまった。
その結果、この世界の表層に出ないよう封じ込まれていた負の想いが一気に暴発した。外界から漏れ出るエネルギーと共に、それはシャルチフ会長へと入り込んでいった。そしてシャルチフは自身の望み通り、神へと至ったのだ。この国の負の感情によって生まれた悪神として。
言うなれば、十五の厄災とは異なる、新たな厄災。
暴虐の厄災となったのだ。
「シャルチフが負の想い全部、喰っちまった。シャルチフを殺して、残った分を取り込んだっていいんだが……メイガス・ユニオンに冒険者連合、敵が多すぎる。そのうえ、なんだ、あの液体は?莫大なエネルギーを感じるし、近づくのは危険すぎる。元々、気付かれずに吸収出来れば良いな程度で来たんだ。奴に執着する価値はない。それにやるべきことがまだ残ってるからな。そっちを優先しようか」
「了解」
そう言って二人はその場から去るのであった。




