外界からの脅威
一方、その頃、メイガス・ユニオン本部内。コツ、コツと腸を腹からぶら下げながら、ゆっくり廊下を歩くのはアナトによって死にかけのシャルチフ会長であった。
(実験は失敗だな。確かにパワーだけで言うなら神に匹敵している。だが、知性のないあんなモノは神ではない!まさに化け物!だが、良い実験データを得られた!)
思わず彼の口から「クククッ」という嗤いがこぼれる。内臓がぐちゃぐちゃの状態だからだろう。嗤いと一緒にごふり、と血が口から飛び出す。身体中を駆け巡る痛覚で正気など本来は保っていられないはず。というのに、シャルチフ会長は嗤い続ける。
まだ、終われない。
このデータがあれば……!
自分の理論を完成させられれば……!
シャルチフ会長は自室へと向かう。アナトのおかげで外は敵味方共に混乱している。まだ時間は残っている。あともう少し、この残った時間を用いて俺は──!
そうして彼はようやく何十回、何百回と見慣れた自室の前へとたどり着く。
ドアノブに手をかけ、中へと入ろうとしたその時だった。
背中に嫌な気配が漂う。
顔は動かさず、目線だけを動かす。視界の端に映るのはギラギラと恐ろしく光る刃。剣先は自分に向けられており、あと少しで喉元が斬られそうである。
「何処に行こうとしているんだ?」
その声は女。それは聞きなれない声、そこから考えれば声の主がメイガス・ユニオンの者ではないのは確か。だが、決して聞いた事がないわけではない。彼が何度か聞いたことのある声であった。
「……貴様は剣聖ミトラ・アルファインか」
後ろの声に反応はない。だが、後ろの声の主は話を続ける。
「なるべく殺したくはない。が、お前の首だけでも用事は済む。まぁ、どっちにしろその怪我じゃあ死ぬだろう?捕虜となれば助けてはやる。選べ」
剣先がぐい、と喉元に近づく。皮膚が切れ、血がゆっくりと流れ出す。一歩でも動けば、この刃がシャルチフの首を断つことだろう。
シャルチフ会長は反応がない。それは考えているから……であったり、迷っているから……というものではない。激しい痛みの中、さらに身体中の血が抜けてもう思考出来なくなってきているのだ。視界ももう白くなってきており、自分が今まで何をしていたのかすらあやふやだ。
自分がもう保てない。だが、思考が停止しようと、彼の心、魂で自分がこれからどうするべきなのか、それは既に決めていた。
「はは……舐めるなよ。俺はお前たちの敵だ。最後の、最後まで──」
彼はドアノブを回し、思いっきりドアを開けると最後の力を振り絞って自分の部屋へと飛び込んでいく。アナトもすぐに剣で首を斬り落とそうとするが、シャルチフの動きの方が速かった。とはいえ、喉元の筋肉は大きく裂けていく。
本来であれば、大量に出血することだろう。が、もう既に体内の血液が不足している状態のためか。思った以上に首元からの出血量は少なかった。




