悪夢の再開 14
狙われた兵士は諦める、自分はここで死ぬのだと。
アナトは目の前まで詰めてきた。恐怖のあまり、兵士は目を強く瞑る。死ぬのなら、痛くありませんように、そう願うしか無かった。そして、彼女の右手が兵士の胸を貫こうとするその瞬間──
「……?」
いつまで経っても彼女の攻撃はこない。恐る恐る目を開けてみるとそこには一人の少年がいた。その少年は長剣を持ち、彼女の手を受け止めていた。
「俺が……受け止めてる、間に…早く逃げろ!!」
ガチガチと刃が震えている。アナトはさらに力を入れ、無理やり押し進もうとする。それに対し、少年も腕の力をより強めていく。筋肉が盛り上がり、血管が浮き出ている。全身に力を入れ、歯を食いしばって彼女の腕を止めているのだ。
その兵士は感謝をいう事なく、泣きながら慌てて逃げて去っていく。周囲にいた他の兵士、冒険者もまた走り出す。1秒でも早く、この地獄のような場所からいなくなるために。
そうして、その場には少年とアナトの二人になる。
「邪魔者は消えたか。しかし、姉貴。その姿どうしちまったんだよ?」
少年もとい、彼女の弟であるトーゼツ・サンキライは鍔迫り合いのようになっている長剣と腕越しに話しかける。が、アナトから反応はない。
「まさか、姉貴ほどの戦士が魔術か何かで洗脳されてるってコトはないよなぁ?」
やはり、返事はない。
それどころか、アナトの力は増していく。トーゼツは魔力で肉体能力をさらに向上させ、それに耐えようとする。が、どんどん押し返されていく。そしてとうとう、拮抗状態が崩れる。
「……ッ!」
長剣を押し返したアナトが真っ先に攻撃したのは、トーゼツの喉元であった。首の肉を右手で引きちぎる。切れた大動脈から見たことないほどの血液が噴き出す。そこからつかさず空いた左手で心臓のある胸部分をいとも簡単に貫く。その後も両手を使い、手首、足首、頭から第二の心臓とも呼ばれるふくらはぎと、人間の弱点という弱点を壊していく。
気づけば、トーゼツはあっという間にそこらへんの肉体と変わらないような見るも無惨な状態となっていた。暴走状態とはいえ、実の弟にここまでするとは……。
動かなくなったトーゼツには興味を失ったようで、新たな獲物を探すように辺りを見回すアナト。周囲には面白そうなものはなさそうだ。移動するか、と動こうしたその時、血まみれの大地の中で起きあがろうとする肉塊の姿があった。
「……ってェな、姉弟の喧嘩にしてはかなりバイオレンスなことで」
それは先ほど、自分が肉塊にしたはずのトーゼツ・サンキライであった。自分が引きちぎったはずの彼の血管がつながり、筋繊維がみるみると修復されていく。そして、皮膚が伸びて傷口を塞ぎ、あっという間に元の状態に戻る。また、先れほど以上の魔力量でトーゼツに肉体は満たされていた。




