悪夢の再開 13
アナトは動き出す。莫大な魔力、エネルギーを抱えて。目的もなく、縦横無尽に。
まさに暴走列車。誰も予測出来ない災害のようであった。
「冒険者を押し返せ!!もうアナトはいないんだ、こちらが負ける道理などない!」
「どんどん押していけ!こちらが優勢なのは変わらない!」
もう既にアナトが展開していた絶大魔術〈グラビティ・ゼロ〉から解放された兵士たちは乱戦状態へとなっていた。あちこちから魔術が飛び出し、剣や槍が肉を裂いていく。
そこに一人の冒険者が気づく。
「ん、なんだ。あれは?」
遠くからやってきている一つの影。それはまだ遠く、小さい。しかし、目に映る莫大なエネルギー量はまさに只者ではない。新たなメイガス・ユニオンの兵器か?
「気をつけろ、何かが来るぞ!」
一人は叫び、構える。
しかし──
それは刹那であった。
目の前が紅く染まる。温かいモノが飛び散っていく。それは敵、味方関係ない。影が通り過ぎた場所にいたモノ全てが肉塊へと成り果てていた。そして、その地獄ような光景の中央にいたのは──
「…………」
返り血で真っ赤に染まった一人の女。まるで感情のない機械のように無表情、感情など持ち合わせていないようであった。そして、その存在はその場に居る全員が見知ったモノでもあり、しかし自分たちの知っているモノとは乖離した姿。
それは最高で、最強の冒険者アナト・サンキライ。
憧れたその存在は、しかし今ではまるで地獄から這い出てきた悪魔のような姿。ただそこに在るもの総て破壊し尽くさんとしている、まさに恐怖そのもの。
何が起こっているのか、分からない。だが、これだけは分かる。
このアナトはもう人ではない、と。
「ぁ、………」
一人の兵士が怯えた表情で後ずさる。
そこから連鎖するように、多くの冒険者、兵士もまたクマから逃げるように目線だけは外さず。しかし、ゆっくりと一歩、また一歩とアナトと距離を取り始める。身体中を嫌な熱が駆け巡る。今、彼らの額を伝っていくのは汗か、それとも仲間だったモノの返り血か……。
まずい。
ここにいてはいけない!
その時だった。
再びアナトが動き出す。それは残像が残るほどのスピードで、近くにいた冒険者へと近づき、ただ殺す。右手拳一つで体にいくつもの穴を開けていく。ぐちゃり、と骨も砕け、内臓は形すらなくなり、どんどんミンチへとなっていく。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
とうとう一人の兵士が恐怖に負け、一気に駆け出す。
アナトはその兵士を見つめ、ニタリ、と笑う。そこに渦巻く感情は殺意、などという重いモノではない。楽しい、愉快といった軽い感情である。だからこそ、より恐ろしさが増していく。
そして彼女は一気に地面を踏み上げ、距離を詰める。それは逃げる新たな獲物を殺さんと。




