悪夢の再開 8
そんな、ありえない!
先ほどまで自分が優勢だった!それを、たった一人の少年。しかも、ただの人間の少年が一人増えた程度で覆されてしまうなんて……。
この世界はエルフのモノだ!他種族は劣った醜い存在だ!
だというのに……。
だというのに……!!
「ありえない、あってはらない!」
どんどん自分の力が押し返されていくラツィエルは、それでも魔力を送っていく。が、絶大魔術〈リベリオン〉は相手の力を跳ね返す術。ラツィエルが力を送れば送るほど、威力はさらに上がっていく。
「そんな、お前は……お前は一体、何なんだぁぁぁぁぁぁ!!」
その悲痛な叫びと共に、ラツィエルは自身の放った技によって、敗れることとなった。
気づけば、三人は元の場所……メイガス・ユニオン本部の廊下に立っていた。そして、目の前には「ぜぇ、ぜけ」と息も絶え絶え。魔力が完全に切らしてしまったラツィエルが倒れ込んでいた。
「わ、私たちは勝った、のか?」
ミトラはぺたり、と地面に座り込む。
無理も無い。あの状況で、文字通り全力を尽くしたのだ。気が抜けて、全身脱力してしまうのも仕方のない話だろう。アナーヒターも、「ふぅー」と呼吸を整える。
余裕のあるトーゼツはラツィエルの方へと距離を縮める。
「あれほどのエネルギー、よく耐え切ったな。殺してしまったかと思ったぜ。まぁ、そん時はまた俺の固有技能で治してやるつもりだったんだけどな」
「……よく分かりませんね。私は敵ですよ、これは戦争ですよ?誰かが死に、誰かが生き残る。それが当たり前でしょう。なのに、アナタは一体」
「よく言われるよ。夢みがちだとか、理想論だとか。でも、俺は誰かを助ける英雄に憧れてんだ。人を殺す気はないし、敵のアンタも、俺が救うべき一人なんだ」
その言葉を聞いて、ラツィエルは思わず笑ってしまう。
全身が痛い。笑うだけで、身体中の筋肉が軋み、痛みが脳へと伝わっていく。
でも、思わず笑い続けてしまう。
「は、はは」
それは誰かをバカにするモノでもなく、見下すものでもない。
いいや、ある意味、本当のバカを目の前にして思わず漏れた笑いなのかもしれない。
でも、それは彼の眼には──
「状況でなく、私の価値観すら覆してしまうとは……アナタ、最高の光ですね」
そうして、ラツィエルは意識を完全に失うのであった。
「ありがとう、トーゼツ。私は何度、キミに助けられれば良いんだろうね」
落ち着いたのか、ミトラは立ち上がり、トーゼツに頭を下げる。
「そんなかしこまるなよ。俺は当然の事をしただけだ。それに、これまでも連戦続きだったんだろ?逆にここまでよくやれたよ。剣聖の職は伊達じゃないな」
トーゼツは心の底から、尊敬するようにその言葉をミトラにかける。
本当に彼は、どこまでいっても頭が上がらない。やはり、彼はアナトの弟なんだな。というのをミトラは実感するのであった。




