第8話 骨、冒険者ギルドに行く
「「「「すいませんでした!!!」」」」
街門大扉の脇にある門兵控室で俺は汗臭い兵隊どもに謝られていた。
「私の方からも謝罪したい。部下が失礼した」 と頭を下げてくるのはこいつらの隊長らしい。そういえば兵隊の誰かが隊長呼んで来いって言ってたな。
「私もすいませんでした。まさかこんなことになるなんて」 と言うのはエメラ。まぁ事故みたいなものだし仕方ないよな。
「骨人族は数が少ないうえに現在ベルガイアにはいない。見たことのない者も多いので先走ってしまったようだ。一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていた。本当に申し訳ない」 と隊長さんが真摯に謝ってくれる。この人物腰が柔らかいうえに腰が低いな。門番達の隊長がこんなんで大丈夫か?なめられたらまずいんじゃないだろうか、と思っていたら
ズガン!ゴン!バキ!ボガン!!
「ほら、お前らもちゃんと謝らんか」 といって連中に拳骨を落としていた。今度は違う意味で大丈夫か?拳骨の音にしてはかなり派手だったけど、謝るあいつらのヘルムが拳骨型にくぼんでいるんですけど、あいつら動かないんですけど、死んでないよな。
「あらためて自己紹介させてもらう。私はベルガイア守備隊隊長のアルバートという。よろしくたのむ」
「あ、これはどうもご丁寧に。クレストと申します。骸骨やってます、はい」
「街門で騒ぎが聞こえてきたので、何事かと向かっていたらそちらのお嬢さんが事情を説明しにきたのだ」 おおう、エメラが助けてくれたんだな
「トーマスさんはいい人なんですけど、その、少し思い込みが激しいところがあるので言っても聞いてもらえないと思いましたので」
「そうだったのか。助かったよエメラ」
「いえ、私の不注意でしたので」
「ふむ、理性的だな。確かに骨人族の方のようだ。少し事情を聞かせてもらえるだろうか?こちらに来てくれ。茶でも出そう」
「なるほど、石畳の部屋で目覚めたと」
俺は目覚めてからここに来るまでの事情をかいつまんで説明した。説明したのだが、俺はそれよりもこの隊長様にぶん殴られた奴らのことが気になって仕方なかったんだけど。あいつら俺が部屋から出る時も結局最後まで動かなかったんだけど。大丈夫だよね、ただの屍になってないよね。ていうか、隊長もそうだけどエメラも全く無反応なんだけど、え、これって日常の風景なの?よくあることなの?
「うん?どうかしたか」
「い、いえ何でもないです」 と言いつつ壁の方を見て目そらす。
「・・・そちらの壁が気になるかい」
「え?いやいい壁紙だなぁって、ははは」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
え?なんだよそんなに変なこと言ったか。俺は部屋の内装は結構こだわるタイプだぞ。洗面所の天井にも漆喰を自分で塗ってDIYとかしてたからな。あれは、超大変だったぞ。
「まぁいい。素性はともかく悪い人間ではなさそうだ。ただ身分証も何もない状態なのはよくないんでね。早めにギルドで作成してもらいたい。それと本来ならわが領の身分証を持たないものは通行税で5000メルクかかるのだが、うちの部下の不始末と相殺で免除ということでどうだろう?」
マジで!おお、ラッキー。さっきまではあいつらに対してぶん殴ってやろうとか、生きてるか大丈夫?とかいろいろあったけど最後は感謝の気持ちが持てたわ。
「うっす。それでお願いします」
「ではこれで放免だ。おっと最後に言い忘れていた」 うん?なんだろう?
「ようこそベルガイアへ。君にとってこの出会いが幸福であるように」
「・・・ありがとう」
なんかいいな。ちょっとうれしい気持ちになってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二人が部屋から出て少しして、アルバートは呟くように誰もいないはずの背後に話しかけた。
「それで、彼のことをどう思った?」
「油断ならない人物と見ました」 誰もいなかったはずの場所からすーっと人が現れた。黒装束の人物でマスクをし黒いフードをかぶっているので顔が見えない。声も男か女か判断に迷う、まるであやふやさを全身で表現しているかのような人物だった。しかし、もしクレストがその姿を見ていたら 「あ、忍者だ!」 と叫んでいたことだろう。
「確かにな。彼は君にも気づいていたようだね」
「はい、驚きました。まさか自分の隠形の術が見破られるなんて」
実はアルバートは門の騒ぎが起こった時すぐ近くにいた。本当なら騒ぎが起こった瞬間飛び出して現場を収めることもできたはずなのだ。しかしあえてそれをしなかったのは、もちろんクレストを見極めるためだ。確かに骨人族はメルヴィン王国では権利が保障されている。だからといって、いきなり現れたしかもめったに見かけない種族を、さらにいえば全く素性の分からない者を警戒しないはずもない。こんな怪しい人物、たとえ生身の人間だったとしても警戒するのは門兵として当然の事だといえる。騒ぎが起こったのはただの偶然だが、見極めるにはちょうどいいと様子をうかがっていたのだ。ついでにいうと、クレストは黒フードにも当然気づいていない。ただ目をそらした先で件の人物が隠れていただけだ、というのが真相だ。
「そのとおりだ。君の術は私でも見破るのは困難だからな。そういえばアンデット系の魔物は生命力を感知する個体もいると聞く。もしかしたら彼もそのスキルを持っているのかもしれない」 そんなものは当然もっていない。クレストのいないところで彼の株は意図知れず上がっていた。
「だとしたら脅威です。今のうちに排除しますか」
「いや、彼は兵士に囲まれても自分から手を出そうとはしなかった。直接話してみて感じたのは、根は善人だろうということだ。排除するまではしなくていいだろう」 実際はぶん殴ろうと考えていたクレストだったが、意図せずとはいえ、あそこで殴っていたら始末されていた可能性が高かったので、実はクレスト、かなりギリギリだったのだ。
「・・・わかりました」
「うん?不満かい?彼はそう悪い奴じゃないってのは君も感じ取っただろうに」
「それは・・・確かに」
「隠形の術を見破られたのが悔しかったのかい?」
「・・・いえ、そのような事実はありません」
「ふふ、そうかい。とはいえ警戒は必要だ。辺境伯様には伝えておく必要がある。今日の夜にでも出向くと伝えておいてくれ」
「承知しました」 返事をした瞬間、黒フードは音もなく消えていた。
「相変わらず見事なもんだね。さて、クレスト君、君はこの街で何を成してくれるんだろうね」
「あの」
「うお!?どうしたんだ。なぜ戻ってきたんだい?」
「いえ、あなたが殴った部下たちがまだ起き上がってないようなので、その・・・大丈夫なのかな・・・と」
「・・・・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー、いい人だったなぁ。通行税も免除してもらえてラッキーだったわ。」
「・・・めったに表に出てこないと噂の、守備隊長アルバート。私も姿を見たのは初めてです。このタイミングで出てきたのは本当に偶然でしょうか」
「え?そうなの。まぁ部下の尻拭いに出てこざるを得なかったんじゃない。謝ってくれたし絶対いい人だって」
「・・・そうですね。私の考えすぎですね。それで、これからどうしますか?ギルドに向かいますか?」
「え?いいの?ついてきてくれるの?」
「そりゃついていきますよ。私もギルドに報告に行かなければいけませんし、なによりここで中途半端にクレストさんを放り出すなんてことはしませんよ」
「おお!ありがとうな。ほらやっぱりいい人はいろんなところにいるもんだよ。君もいい人、俺もいい人、じゃあさっきの隊長もいい人だよ」 と半泣きで感謝を告げると
「え、ええ。どういたしまして」
若干ひかれていた。
「それで、冒険者ギルドってどんなとこ?俺でもなれるん?身分証って冒険者ギルドでないとダメなん?」
「ええと、一つずつ説明しますね。まず冒険者ギルドは簡単に言えば何でも屋ですね。魔物の討伐や解体、薬の素材の採取、商人の護衛、街の手伝いなど多岐にわたります。それこそ依頼があればなんでも引き受けます。そうした依頼の仲介管理をしているのが冒険者ギルドですね。次に冒険者ギルドは自己責任の名のもとに誰でもなれます。犯罪歴さえなければ種族、年齢問いません。最後に身分証は確かに冒険者ギルド以外でも取得はできます。例えば薬師ギルドや錬金ギルド、商業ギルドなど様々なギルドがありそれぞれのギルドが身分を保証しています。ただしそれぞれのギルドに加入するためには相応の知識やスキル、資金などが必要です。その中で一番ハードルが低いのが冒険者ギルドなんですよ。クレストさんはホーンスケルトンを倒しましたし大丈夫でしょう」
ふむふむ、すごくわかりやすい。俺は冒険者ギルド一択だなぁ。
「あ、ほら話してる間に着きましたよ」
「おお、結構大きいんだなぁ」
到着した建物は周りの建物に比べて頭一つ大きく見える。中に入ると酒場があり奥にいくつもの受付カウンターが見える。やっぱ酒場も併設してるんだ。冒険者ギルドの定番だよな。酒場にはまだ昼間だというの冒険者であろう奴らが酒盛りしてやがる。いいねいいね、こーゆーのテンション上がるわー。
入り口に入った途端、奴らが一斉に俺を見た。すれ違う人すれ違う人みんなが俺をチラ見してたからもはや今更だが、ここの連中は一瞬見たらもう興味をなくしたかのように日常に戻りやがった。さすがだ、伊達に冒険者してないってか。
酒場で盛り上がってる連中を横目に受付カウンターに向かう。それぞれのカウンターにはそれぞれの受付係の人が当然いる。こうゆう時、どのカウンターに向かうかって?もちろん美人受付嬢のカウンターに向かうのが定番だろうさ。しかーし、俺はあえて誰も近寄ってないやる気のなさそうなおっさんの所に向かった。なんでかって?美人受付嬢の所に向かうってみんなやってるじゃん、どの小説でもやってるじゃん。おんなじことやるのは面白くないじゃん。それに、こーゆーおっさんが実はできる奴だったりするんだよ。本当はギルドマスターだったりとか、ほらあれだよ、隠れて冒険者の観察をしたりとかさ。
「ちわーっす、冒険者になりたいんだけど」 と言いながら俺はおっさんのもとに向かった。
「あん?なんだお前。俺は今休憩中だ。よそへ行け」
うんうん、いい感じにとがってるね。ダメなおっさん風を装ってできる自分を隠してるね。
でも、俺の目はごまかせないぜ。
「いやいや、そんな隠さなくていいから。俺クレスト、よろし・・・」
「うるっせーな!休憩中だって言ってんだろうが!!どっかいけこのばか!!」
「・・・・・・あ、はい。すいませんでした」
とぼとぼと戻ってくる俺をエメラが慰めてくれた。その時他の受付嬢のひそひそ話が聞こえてしまった。
「やーね、あの人またサボってる。」 「全く働いていないのに、なんでまだクビにならないのかしら」 「お偉いさんのコネで入ったから、切りづらいらしいのよ」「本当に邪魔ね、休憩するならどっかよそでやってくれないかしら」
「・・・・・・」
ほんとにただのダメなおっさんだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。もし面白いと感じていただけたら、差し支えない範囲でブクマ、感想、評価をしていただけたら嬉しく思います。




