第6話 骨、教わる
「そもそもマナとアニムスは似て非なるものだといわれております。大昔には同じものだとされその時代には魔力と呼称されていたこともありましたが、現在はマナとアニムスにわけられております。」
「かの創造新メルクリウスはすべての命に対して尊命をくだされました」
【命よ、アニマを広げ、マナを満たせ】
「これは、生きとし生ける者すべてに対する創造新からの至上命題とされています。人種はもちろん、動物も植物も魔物たち、アンデッドでさえこの命題からは逃れなれません。己のアニマに根差した根源なのです」
「この世のあらゆる命はこの命題に沿って生きています。本能といって差し支えありません。そこでマナについてですが、これは命に対しての燃料だといわれています。命はこのマナを利用してあらゆる現象を起こします。マナは世界中のあらゆる場所に存在します。花や風や町にまで、もちろん私たちの中にも」
「対してアニムスですが、これはアニマの素、あるいは存在力の素とでもいうべきものです。アニマとは器を指します。存在の器、魂の器、マナの器。自身を形作る自己の器。私たちはアニマを鍛え、広げ、その中にマナを満たしていくのです。ここまではいいですか?」
おおう、これ相当重要かつ基本的な話だよな多分。小学1年から6年までの通知簿で[人の話を聞きましょう]と書かれ続けた俺でもこれはマジのガチでちゃんと聞いとかなきゃいけないのがわかる。よし、もうちょっと集中力を上げとこう。
「お、おう。もちろん。続きを頼む」
「はい。アニマはあらゆる方法で鍛えることができます。体を鍛える、食事をする、勉強をする、瞑想をする、商売をしたりしても鍛えることができます。しかし一番効率がいいのが・・・」
「魔物を倒す・・・とか?」
「そうです。命が砕けるときアニマも砕けます。その時生じるのがアニマの素、アニムスです。魔物を倒せば自然とアニムスは自身に流れ込んできますが、残ったアニムスの残滓も意図的に吸収するのが一般的です。そしてアニムスを取り込んだアニマはさらなる高みに昇ります。これがマナとアニマを分ける理由です」
なるほどねぇ。さしずめ、アニマがMPの入れ物でマナがMP、つまり魔力ってことか。
「つまり、アニマがでかくなればなるほど使えるマナが増えるってことか」
「簡単に言えばそうなります。まぁそう単純ではありませんが」
「というと?」
「ここに火のマナを使える術者がいたとします。アニマが大きければ一撃の火の術の威力は大きくなるでしょう。しかしアニマが大きくても内包するマナが多いとは限らないのです」
「え、そうなの?アニマにマナを満たすんでしょ?」
「たとえば、ここに貴族の子息と庶民の子供がいたとします。貴族の子息は豪華な生活をし、訓練などもあまりしていないとして、庶民の子供は冒険者にあこがれ日々鍛錬をしていたとします。貴族の子息は庶民より質の高い食事をします。実際に己で倒すよりは当然質は格段に落ちますが、それにもアニムスは内包しています。当然庶民の子供よりアニマは広がりやすいのですが、全く訓練をしていない貴族と庶民ならば、同じ魔法を使えばおそらく庶民の方が威力は高くなるでしょう。」
「へぇー、そうなんだ。簡単な話じゃないんだね」
「はい、まぁ今のはかなり極端な話ですね、アニマとマナについてはまだまだ分かっていないことが多いので学者たちが研究を進めていますね。過去にアニマが小さいのにとんでもないマナを内包している人物も確認されています。興味深い話です」
確かに興味深い話だ。貴族と庶民の話から察するにパワーレベリング的なものは推奨されてないねこれ。多分過去になんかあって、教訓にされているのだろう。強くなりたきゃちゃんと鍛えろってか。それと最初に戦った時のことも腑に落ちた。俺は本能的にアニムスの残滓を吸収してたんだな。
「じゃあアニマを鍛えることにはあんま意味はなかったり?」
「いいえ、とんでもありません。さっきのは極論ですので基本的にはアニマが大きければ大きいほど生物としての格は上がっていきます。アニマが大きければ体も頑丈になり寿命も延びます。常人よりも若さを保ちやすくもなります。いいことづくめですよ」
うーむ、アニマはMPの入れ物的な受け取り方をしたけど、HPとしてみたほうが妥当なのかもしれないな。というよりHPとMP両方の入れ物か。そんでもってアニムスが、レベルアップのための経験値ってか。
「さらに稀に進化を果たすこともできます」
・・・・・・なんですと?
「進化とは?」
「進化は進化です。いいですよねぇ進化。私も憧れます」
そんなトップモデルに憧れます見たいに言われても。
「ええと、もうちょい具体的にお願いします」
「命はアニマを広げ、マナを満たしてその存在強度を上げていくのですが、極稀に存在進化を果たすことがあります。これまでの生物としての根本から作り替えられるようなそんな存在昇華です。聞いたところによると、普段アニマを広げる時にも体に熱を帯びるような感覚がありますが、それとは比較にならないほどの熱量が体中を駆け巡り意識をたもっていられないほどのめまいと高揚感がするといわれています」
「マジで。俺一回あったよそれ」
「ええ!ほんとですか!?それはすごいですね。それで、どうだったんですか?」
「いや、何回目かの骨をぶっ飛ばしてアニムスを吸収したときに、さっき言われたことが起きて気絶した。起きたときはマジで生まれ変わったかのような清々しい気分になったよ」
「ほぇーー。いいなぁ。存在進化、いいなぁー」
そんなに羨ましがられる現象だったのか。なんかドヤ顔したくなってくるな。
「ハッハッハッ!コツが知りたいならばいつでも聞くがいい」
「はいぜひ」
そんなこんなでプチマウントを取りながら洞窟の出口を目指す。
「それで、エメラはどうして一人でここに来ていたんだ?」
「一言でいえば修行ですね。私は普段ベルガイアのメルヴィン教会の聖護院で働いていますが、冒険者も兼任しています。私は僧侶なので浄化や治癒の力を得意としています。その中の浄化の力を高めたくてここに来ました。浄化はスケルトンやアンデット系の魔物に極めて有効な力を発揮します。この骨の洞窟はスケルトンタイプの魔物しか出ないし浅層は危険も少ないので、僧侶の修行の場として有名なんですよ」
「ほへー。そうなんだねぇ。しかしその割にはエメラ以外に誰にも会わなかったし、エメラ自身も結構ピンチだったように見えたんだけど」
「そ、それは、その実は、道に迷っちゃって思ったより深く来ちゃったみたいで、あとまさかホーンソルジャースケルトンに遭遇するとは思わなくて焦っちゃいました」
あの角付きはホーンソルジャースケルトンっていうのか、なんかかっこいいな。
「なるほどねぇ。ほかに人がいないのは?」
「それはですね、ここは確かに僧侶の修行の場として有名なんですが、ベルガイアの街からかなり距離がある上に魔の森を通らないといけないんですよ。昔はそれでも多くの僧侶が修行に訪れていたんですが、今では廃れてしまって偶に物好きが訪れるくらいになってしまって」
「流行じゃないってか。世知辛いねぇ」
「それと、ここはスタンピードが起こらないので放置されている側面もありますね」
「スタンピードとな。なんぞ?」
「混沌の神が作ったとされるダンジョンには、一定量の魔物を間引かなければ溢れて魔物が外に出て暴れだすとされていますね。ここはただの洞窟でダンジョンではないからスタンピードは起きないといわれています。まぁダンジョンでもスタンピードが起きるダンジョンと起きないダンジョンがあるので、これも一概にはいえませんねぇ」
「ふむふむ、なるほどねぇ」
「しかし、この骨の洞窟は未だに謎が多いんですよ!最深部がまだ判明していませんし。とんでもなく広大でもはや大洞窟といっても過言ではないかと。今は人気がなく寂れていますが、発見された当時は洞窟の全貌を把握しようと時の辺境領主様が大調査団を派遣されたんですよ。その時にはあの有名な冒険者にして探検家のユリアナ・グッドフェローも同行していたとか!彼女はすごいんですよ!アトラス遺跡の発見、ヘッジストーン遺跡の解明、ヴァルキリア王朝時代の大地下墳墓の調査。例を挙げればキリがありません。冒険者としても有名で彼女は探検家をしながらプラチナランクまで上り詰めた才媛で、あの有名なアビスの探索にも参加したとか!他にも三つ首竜の討伐、海王イカの撃退、災害級の魔物ミュースの討伐。あとは・・・・・・」
「おおう、ちょ、ちょ、ちょっと待った。そのフリアナとやらがすごいのは十分わかったから」
「ユリアナです!!ユリアナ・グッドフェロー!!」
「は、はい。そのユリアナさんがすごいのは理解しましたから。この洞窟の話からそれてるから」
「あ!そ、そうですね。失礼しました」
いきなりすごい熱量だった。歴史好きなのかな。いや多分ユリアナという探検家のファンなのだろう。
「話を戻しますが、そんな調査団が調べてなお、この骨の洞窟は踏破できなかったらしいのです。その当時でもここはダンジョンだという意見とただの洞窟だという意見で割れたといいます。しかしクレストさんが目覚めた言う石畳の部屋というのは記録に残っていません。また調査団の一員の中の何人かがそのとき行方不明になったともいわれています。やはり謎の多い洞窟なのですよ。今回のクレストさんの話でまたここはダンジョンだという意見が盛り上がってくるかもしれませんね」
謎が多いダンジョンね。確かにあんなに一杯の骨どもはどこから発生したとか、あの恐竜スケルトンはなんのかとか、もちろん俺が目覚めた部屋は何だったのかとか。いろいろあるけどわからないものは考えても仕方ない。ちなみにユリアナさんはダンジョン派と洞窟派どっちだったんだろう?エメラに聞いてみようか。・・・・・・いや、やめておこう。また話が止まらなくなりそうだ。
「もうすぐ洞窟の入り口です。ここまできたらすぐですよ」
あれからしばらく歩いてようやく出口に近づいてきたらしい。やっとお外に出られる。うれしくて走り出しそうだ。
「おお、ようやくこの穴倉ともおさらばか。早く出ようぜ」
「あ、慌てないでください。この洞窟は入り口付近がすごく危ないんです。だから急がないでください」
「そうなのか。わかったよ」
彼女に止められて走り出しそうな体を無理矢理とめた。やっと出られる寸前でトラブルはごめんだぜ。
出口に近づくにつれて彼女の言った意味が分かった。かなり大きな螺旋状の道が上に続いており、中央にポッカリ巨大な穴が開いている。まるで火山を火口から上に昇っているみたいだ。ただし中央の穴は底が見えない。とんでもなく深そうだ。落ちたら死ぬなこれ。グルグル回って登るのは確かに面倒だ。これもこの洞窟が人気ない理由じゃないのか。上の方に小さく空が見える。今は夜のようだな。早く空を拝みたいぜ。焦る気持ちを落ち着けてゆっくり二人で洞窟を昇っていく。これもう洞窟っていうより山だよな。
ようやく登りきった先で大きく手を上げ、体を広げる。やったぞ!俺は遂に脱出したんだ。きっと閉じ込められ系映画の主人公とかこんな気持ちだったんだろうな。空気が美味しい。そしてふっと空を見上げて
「OH,ジーザス」
ここが異世界だという証拠が空に浮かんでいた。
俺の頭上を優しくお月様が照らしていたのだ・・・・・・・・・・・・二つ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。もし面白いと感じていただけたら、差し支えない範囲でブクマ、感想、評価をしていただけたら嬉しく思います。




