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聖なる骨  作者: 骨素子 陽晶


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第5話 骨、話す

 少女は杖を向けこちらを見たまま動かない。さっきの攻撃は彼女がやってくれたんだろうか。まぁそれ以外ないわな。あれのおかげで、奴を倒せたんだもんな。しかし少女は杖を下げずにこちらの様子をうかがっている。警戒されている?無理もないかスケルトンに襲われていたんだから。あれも骨、俺も骨。警戒するのは当たり前だ。むしろまだ攻撃してこないんだから良心的ともいえるだろう。向こうからしてもいくら同じスケルトンといっても明らかに助けに入ったことは理解してもらえてると思う。そんなことを考えていると


 「θδДξγЖβ?」


 !!  なんか話しかけた来た。言葉がわからない。


 「ЖΨΥ?ΩЯщЦДμΣΦжФЩЫ?」


 やばい、早く返事をしないと

 

 「こんにちわ。俺の言ってることがわかるだろうか?」

 

 「!?ЫΞλкΨζд」


 困った。全く何を言ってるのかわからない。どうすればいいんだ。


 「ΩдΘы・・・話し・・・わかり・・・」

 

 !?なんだ今のは?


 「もしもし、私の言ってることがわかりますか?」

 

 !わかる。いきなり彼女の言ってることがわかるようになったぞ。俺は首を縦に振りわかったことを表現する。


 「わかる。君の言ってることがいきなりわかるようになったんだけど、どういうことなんだ?」


 「すいません。あなたの言ってることが私にはわかりません。でも私の言ってることはわかりますね?」


 俺は再度首を縦に振って肯定を示す。しかしなぜ彼女の言葉はわかるのに俺の言葉は伝わらないのだろうか。


 「いきなり私の言葉がわかったので戸惑ったでしょう。これはマナ・チャネリングといって言語の違う相手に対して使用する方法です。体内のマナを自分の発する言葉に乗せて相手に伝えたい意思を込めて話してみてください」


 むむむ、マナってなんだ?魔力のことか?魔力のことだと思うんだけど、とりあえずやってみよう。魔力を言葉に乗せて彼女に伝われー


 「あー、あー、本日は晴天なり。本日は晴天なり。鳴くよウグイス、平安京」


 「・・・・・・あの、ヘイアンキョウってなんですか?」


 「おー、通じた。素晴らしい。ありがとう名も知らぬ少女よこの恩は今日一杯は覚えているからね」


 「そこは一生忘れないとかでは」


 「一生とか重いって思われたらいやじゃん」


 「は、はぁ。とにかく助けてくれてありがとうございました。あ、申し遅れました。私の名前はエメラと申します。メルヴィン教会の助祭として奉仕させていただいております。あなたの名前は?」


 「俺・・・の・・・名前」


 その時ふっと最初に目覚めたときに見た紙の単語が頭に浮かんだ。


 「クレ・・・スト」


 「クレストさんですね。よろしくお願いします」 と頭を下げてきた。


 言ってしまってから訂正しようと思ったが、よく考えてみたら、俺自分の名前覚えてない。それに自分の名前がクレストっていうのが妙にしっくりきたし、まぁいいかと思ってしまった。よしこれから俺はクレストだ!

 「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします」


 頭を下げてきた以上こちらも挨拶しかえせねばなるまい、それが日本人としての礼儀といえよう。


 「ふふ、ええどうぞよろしくお願いします」 と微笑みかけてくれた彼女はとても可愛らしい。


 あらためて見るとやはりエメラは幼いように見える。いいところ12、3歳といったところだろうか。そんな彼女がなぜこんなところにいるのだろうか。見た目は金髪翠眼といったところだろう。あざやかな緑色の目をしている。エメラルドアイとでもいおうか。


 「ところで・・・」 グゥーー


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 「・・・すまない、できればでいいんだが何か食べ物を持っていないだろうか。もう何日も食べていなくて」


 「ふふ、干し肉でよければどうぞ」


 彼女が背負いカバンから出してくれた干し肉を礼を言うのも忘れて口に放り込んだ。保存優先の携帯食なのだろう。塩っ気が強いが噛むたびに旨味が出てくる。肉の旨味と共に涙もあふれてきた。肉ってこんなうまかったんだな。食べ物のありがたみを思い知ったぜ。



 「ふー、本当にありがとう。人心地ついたよ」 食い終わった後に礼を言う。


 「いえ、本当に美味しそうに食べてくれて私もうれしくなっちゃいました」


 「そんで人心地ついたところで聞きたいんだけど」


 「はい、なんでしょう?」


 「ここって、どこ?」


 「ここ・・・ですか?」


 「そう、ここ」


 「ここは骨の洞窟の浅層ですよ」


 「・・・うん、最初から話すね」

 俺は目覚めてからのいきさつをかいつまんで話して聞かせた。



 「石畳の部屋で目覚めた・・・ですか」 腕を組み、顎に手を添えて彼女は呟いた。


 「うん、そう。その前はほぼほぼ覚えていないんだよね」 一応生前の記憶はぼやかして伝えた。現状何もわからない状況でありのまま何もかも伝えるのが正しいのが判断がつかなかったからだ。


 「骨の洞窟に石畳の階層があるなんて聞いたことないですね」


 さっきから気になるワードがちょいちょいでてるので聞いてみる 「あのさ、骨の洞窟ってなんぞ?」


 「骨の洞窟はいま私たちがいる、この洞窟のことですね。出現する魔物がスケルトンタイプしか出ないことからそう呼ばれています。ここがダンジョンかただの洞窟かは冒険者の間でも意見が分かれているんですが、クレストさんの見た石畳の部屋が本当だとすると、ダンジョンだという意見に信憑性がでてきましたね」


 ほうほう、スケルトンタイプしかねぇ。どうりで骨しかいないわけだ。やっぱり俺以外あの状況じゃ死んでたなこりゃ。それにしても、さらに気になるワードがわんさか出てくるわ。


 「じゃあダンジョンって?あと冒険者とは?」


 「あの、話は洞窟を出てからでもできますし道すがらお話しませんか?ここはあまり安全とはいえませんので」


 「おお、ごめん。確かに君の言うとおりだ。俺がうかつでした」


 うっかりしてたね。彼女は今さっき骨三体にタコ殴りにされてたのに配慮に欠けていたぜ。


 「あの、タコ殴りにされていたわけでは」


 おっと、声に出ていたか。


 「よし、出よう。すぐ出よう。こんな忌まわしい洞窟なんか今すぐ脱出しよう」


 「え、ええ。ふふ、では行きましょう。ですが、その前に彼らをどうしましょうか。まだ残滓が残っているようですし、助けてもらいましたから、私はかまわないのでクレストさんが吸収していいですよ」


 「吸収?魔力の吸収のこと?」


 「魔力?ふふ、ずいぶん古風な表現をするのですね。ええそうです。今はマナって呼ぶのが主流ですよ。ですがこの場合は、アニムスと呼ぶのが適当です」


 なんかさらにいろいろワードが出てきたな。マナにアニムスね。とにかくサクッと吸収してここを離れよう。




 「それで、本当に何も覚えていないのですか?」


 「覚えていないっていうより、記憶が虫食い状態っていうかかなりぼやけたり穴が開いたりしているっていうか。あんま頼りにならないって感じ」


 「ふーむ、ここが骨の洞窟ってことも知らなかったみたいですし、もしかしてこのあたりの地域もわからない感じですか?」


 「そう、まさにそれ。ここがどこの国のなんて場所かも分かんないんだよね。ついでに言うと、多分基本的な常識も欠落しているかもしれないから、変な質問とかしちゃうかもしれないけどお願いします」

 こう言っとけば当たり前のような質問をしてもまぁ答えてくれるだろう。こういっちゃなんだが明らかに人が好さそうだしいろいろ聞いちゃおう。


 「なるほど、ちなみにここはメルヴィス王国の西の果てにある辺境都市ベルガイアのさらに西の魔の森にある骨の洞窟です。私は修行を兼ねて仕事でここに来ていたのですが。運悪く角付きのスケルトンに遭遇して襲われていたところを、クレストさんに助けてもらいました」


 「そうなんだ。俺は目覚めてからずっと彷徨ってたから、ようやく会話のできる人間に会えてとてもうれしいよ。なにしろ骨どもは全く相手してくれなかったからな。かなり会話に飢えていた。しかし今更だけどよく俺と会話しようと思ったよな。確かに行動で示したつもりではあるが、エメラから見たら間違いなく俺もあっち側の一員と思うのが普通だと思うんだけど」


 「ああ、それはクレストさんが骨人族かもしれないと思ったからですね。行動が理知的でしたし。明らかに私を助けてくれようとしているのがわかりましたから」


 「骨人族?俺ってスケルトンとは違うの?っていうか違いが分かんないんだけど」

 洞窟の出口に向かいながら周囲の警戒もそこそこに、俺たちは話をしていた。いやー、いろいろ知りたいこともありまくるけどそれ以上に会話が楽しい。長時間の孤独は俺を必要以上におしゃべりにしていた。やはり人は一人では生きていけないということだろうか。俺は骨だけど。しかし、気になるワードがゴロゴロ出てくるな。マナとかアニムスとか骨人族とか。


 「厳密には私たちにも明確な違いというのは、分かっていません。生前の行いの違いでそうなってしまったとか、強い未練を抱えていたらスケルトンになってから覚醒するとか、そもそもスケルトンと骨人族は根本から違う存在だとか、いろいろですね。なので骨人族かどうかは意思の有無だというのが一般論です。それに数は少ないので珍しくはありますが、骨人族の方はほかにもいらっしゃいますし、わが国ではちゃんと人種として認められていますよ」


 「それは普通にありがたいな。じゃあスケルトンが自我に目覚めて骨人族とやらに覚醒することもあり得るということか」


 「そう主張する学者もいますが、今まで確認されたことはありませんし、骨人族の方に質問してみてもスケルトンだった時の記憶はないそうです。クレストさんはありますか?」


 「・・・いや、ないな」


 「やはりそうですか」


 覚えているのは目覚めてからの記憶と、地球時代の虫食い記憶だけだ。目覚める前にスケルトン状態で徘徊しててあそこ倒れたというのもあり得ない話ではないが、それを証明することもできないし、する意味もない。ならば考えても仕方ないだろう。



 「あと、マナとかアニムスだっけ。あれは何なの?ていうか違うものなの?」


 「・・・なるほど、確かにクレストさんはいろいろ忘れておられるようですね。わかりました。では一から説明いたしましょう」

 ここまで読んでいただきありがとうございます。もし面白いと感じていただけたら、差し支えない範囲でブクマ、感想、評価をしていただけたら嬉しく思います。

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