第30話 骨、教護院に行く
キノコ狩りで死闘を終えた俺はすっかり日常の生活を取り戻しつつあった。ギルドで査定されたキノコは味が良かったのも相まって求道キノコの歴代査定額の中でもかなり上位に入る値が付いたらしい。懐が潤いほくほく顔の俺は冒険も満足していたので、しばらくは街の中での依頼でいいやって思って街の外の依頼を受けないかというエレーナさんの追撃をかわしつつ、ベルガイアに引きこもって仕事をしていた。
そんな生活をしていたある日、俺は時間ができたのでメルヴィン教会の教護院に顔を出していた。
メルヴィン教会にはどの支部でも大体の所には、教護院と聖護院がセットで付随されているところが多く教護院は孤児院の側面を持つ学校のような存在で孤児だけでなく街の子供たちや町人達にも門戸を開き、広く教育を施す立場として領主や貴族達の補助に支えられて運営されてきた。とはいえ、教護院や聖護院で学んだ者やケガをして冒険者を続けられなくなった者たちの再出発するための受け皿としても機能し、またそういった者たちが領主邸で働く人材獲得に一役買ったり、貴族たちの専属護衛や町の警備隊など持ちつ持たれつの関係を築き上げていた。
そして、孤児院はここで育つ子供達の自立支援を積極的に行っている。子供たちはギルドで街の清掃や町人の手伝いなどをしている姿をよく見かける。そうやってここの子供達は、巣立っていくのだろう。
そして俺は、たまに森で獲った獲物の肉や薬の素材、あとは依頼でもらったり街で買ったりした野菜なんかを修行の礼も兼ねて寄付しに行くことにしている。まぁ俺が余計な真似をしなくても聖護院の奴らがもってくるけどな。あいつらのおかげで飢える心配はないだろう。ただし奴らは肉しか持ってこない。肉さえ食ってれば泰平なムキムキ脳筋集団だ。せめて野菜も差し入れろ。あれで治療院も担ってる神官なんだから詐欺だよな。まぁ一部の、本当にごく一部の知力キャラがフォローしてるとは思うんだが・・・してるよな?
それでも不安だ。そいつらも所詮メルヴィン教徒なんだ。まぁ、うちのルビアも世話になっているし義理を欠くわけにはいかないからな。
「こんちわーっす」
「あら、クレストさんこんにちは。あらあら、またそんなにいっぱいもってきてくれたの?いつもありがとうねぇ」
いつものシスターのお姉さんが出迎えてくれた。この人いつもニコニコしててすごく人当たりがいいけど、怒ると超怖いってルビアが言ってたからな。怒らせないように注意せねば
「どうしましたクレストさん?」
「いえ、今日も笑顔が素敵です」
「あら、ありがとう」
一瞬気づかれたかとヒヤリとしたが大丈夫だったようだ。しかし誉めてもまったく動じないな。言われなれているんだろうなぁ。
「ルビア、どこにいます?」
「中庭でみんなと遊んでいますよ」
「ありがとうございます」
シスターに荷物を渡して別れ中庭に向かう
「あー!クレスト!」
中庭に向かう途中でルビアがこっちに走ってくるのが見えた
「おーう。元気にしてたか」
「うん。元気超元気。今日もルビア学んだ」
「ほう。どんなことを学んだんだ?」
「うん。汝、隣人を愛しなさいって」
「おお。それは大事なことだな」
「うん。それでね、汝、敵を殴りなさいだって」
「・・・うん、まぁ大事なことだな」
いやね間違ってはいないと思うのよ。でもね、うちの子がどんどんメルヴィン教義に染まっていってるのはなんか複雑だ。大体メルヴィン教徒は過激すぎると思うんだよ。あいつら常にシケってない火薬庫みたいなやつらばかりじゃん。火種もないのにすぐ点火するじゃん。敵・即・殴じゃん。冒険者でももうちょっと話し合いするよ。俺だって一度話を聞いてから殴るよ。あいつらは我慢が足りないと思うんだよね。ルビアよ、お前も一度話を聞いてから殴ろうね。・・・盗賊?ちょっと何言ってるかわかりませんね。あいつらは話を聞く価値ないからね。殺れる時に殺っちゃった方が世のためだから。賊・即・斬だから。
「あー!骨の兄ちゃんだー!」
わらわらと子供達が集まってくる。ここに来たばかりの奴ほど最初はガリガリに痩せてたからな。今はみんな大丈夫そうだ。子供達が飢えることだけはあってはならないからな。
「骨の兄ちゃん、今日はあそんでくれるの?」「何して遊ぶ?」「かくれんぼしよう!」 「かげふみがいい!」 「鬼ごっこ!」 「骨集め!」
「わかったわかった。遊んでやるから、・・・いや待て最後の奴。それ俺の骨で遊ぶって意味じゃないだろうな!」
子供ってのは本当に底なしの元気の塊だからな。前に引っ張られて腕がポロっととれた時は正直焦ったぜ。あの時はとれた腕が欲しいって泣かれてしまった。さすがに自前の腕はあげられないから、クレイジーボアの牙をあげてなんとかなだめたっけな。そういえば骨集めって言ってた奴その時のガキじゃねぇか。骨好きになってしまったんだろうか。見れば、向こうの方でマローダーが別の子供たちにもみくちゃにされている。しかし、マローダーは根気よく付き合ってあげてるな。あいつ面倒見良いな。
「クレストまたお話して欲しい」
「あー!私もー!」 「俺も俺も!」「菓子パンマン!」
「おー喜べお前ら。今日は菓子パンマンの新しい話をしてやるぞー」
俺の言葉にキャッキャ喜ぶ子供たちを見てると心が和むな。遊べ遊べと際限なくせがむ子供たちの気を何とかそらせないかと苦肉の策で持ち出したのが前世での物語だ。だってこいつら電池が切れるまで走り回るからな。こっちがヘロヘロになってもマジでとまんねぇんだもん。なんとかデコイで散らせないかと話し始めてみたのがはじまりだ。
しかし話し始めてみたのはいいものの、反応が悪かったんだよ。最初は王道だろって思って天空に浮かぶ城の物語や、ほうきに乗って空を飛ぶ魔女の話をしてみたんんだが、超退屈そうにされてしまった。考えてみればこっちの世界には普通に存在してるんだよな。天空に浮かぶ城どころか島だったり、魔女なんてそこらにごろごろいるし、そもそも魔法使ってる女は魔女だもんな。そんなもんだからそれに付随した物語や伝説なんかもゴロゴロしてるわけで。
そんなもんだから俺程度の話術で新鮮さの欠片もない物語を聞かせてもこいつらの興味を引けるわけがなかったんだ。だがまたあの地獄の耐久鬼ごっこはもちろんエンドレスかくれんぼや俺の骨を虎視眈々と狙ってるあいつとの骨遊びなんてもってのほかだ。今もギラッギラの目で俺の骨をみてやがる。また骨をすっぱ抜かれるのは勘弁だぜ。
そんなわけで子供ならこれかなって思って出してみたのが、頭が菓子パンのヒーローものの話だったのだが、これが信じられないくらいにウケた。えっ?そこまで?ってくらいに喜ばれて逆にこっちが軽く引いたくらいだ。
話としては小さい子供向けのアニメで頭が菓子パンのヒーローが困ってる人に頭の菓子パンをちぎって分け与えたり悪さをする配信マンを菓子パンチで懲らしめたりするヒーローストーリーなんだけど、これがなかなか単純そうに見えて奥が深かった。一見勧善懲悪の話に見えるんだけど、敵の配信マンにも悪さをする信念みたいなものがあったり、いじめられてる子供を見つけたらその子がいじめられてる証拠を配信したりして助けたり憎めない部分があったりした。まぁいじめなんて繊細な問題を配信すんなって教育委員会がらみで炎上してたけれども。あと子供たちに「配信って何?」って聞かれた時の説明が一番大変だった。何しろ配信って概念がこの世界にはなかったからな。町の記者や新聞で情報を発信する人って感じでなんとか納得してもらえた。そんなこんなでこの話は今やこの孤児院だけでなく町のほうまで広がってるらしいんだが、たぶんこの話がここまで広がった理由が・・・
「ねぇボキンちゃんは?」 「ボキンちゃんはどうしたの?」 「ボキンちゃんはどうしてるの?」
これだと思うんだよなぁ。
ボキンちゃんは配信マンの相棒で見た目は可愛らしい小柄な女の子って感じなんだけど、二言目には「折るよ、ボキンと逝くよ」というセリフを発する超過激な子だ。曲がったことは許さない一本筋の入った男気溢れたかっこいい子だ。実際配信マンがオイタをしてボキンちゃんに骨を折られたことは一度や二度ではなかった。というより折られた配信マンが腕に包帯巻いてギブスをつけてるオチなんてざらだった。なんでこんな子が配信マンの相棒をやってるのか当時子供だった俺には疑問だった。事実教育委員会で当時大問題になってたのをニュースで見た覚えがある。これ絶対子供向けアニメじゃねぇだろうと思ってたのは俺だけではないだろう。しかしあっちの世界でも一番人気はボキンちゃんだった。俺も好きだったし、かっこよかったもんなぁ。炎上してでもボキンちゃんを出し続けていたのは制作側の信念だったんだろうか・・・
「はいはいボキンちゃんはもちろん出てくるよ。まぁ配信マンはこの後腕を折られてまた廃人マンになっちゃうんだろうねぇ」
ボキンちゃんの名前が出たとたんに歓声が上がったんですけど。いや確かに俺も好きだったけどね。熱量が半端ないんですけど。ヤダ怖い。
ボキンちゃん人気は留まることを知らないらしく、最近は貴族の子でさえ知ってるっていうから驚きだ。街のほうでもボキンちゃんの決め台詞が流行っているらしくて子供の教育に悪いと苦情が入ってきているらしい。大丈夫かこれ?不敬罪とかでしょっ引かれたりしないよな俺?
そんな不安を抱きつつ興奮冷めやらぬ子供たちの相手を終えシスターに挨拶をした俺とルビアはマローダーと一緒に宿屋に帰宅したんだが、宿屋の食堂に入った途端サリーが友達のビリー君と喧嘩しているのを見かけた。なんでもビリー君がサリーの髪飾りを汚してしまったのをぞんざいに謝ったのが気に入らなかったらしい。ビリー君はお年頃なので気になった女の子に素直になれなかったんだろうが、そのやり方は後々後悔につながるからおすすめしないぞ。食堂で飯を食っていた冒険者たちはいつものことだと微笑ましい目で二人の様子をみている。仕方ないから助け船を出してやろうと近づいたら
「いい加減にしろよ。折るよ、ボキンと逝くよ」
背筋の冷えるような雰囲気でボソッと小さくしかしはっきり聞こえる声でサリーちゃんが呟いた。
一瞬で場の空気が凍り付いた。周りの冒険者の野郎どもも固まったように全く動かない。当然ビリー君も凍り付いたがすぐにハッと気が付いて 「すいませんでしたー!!」 とフル土下座を敢行した。おでこが焦げるんじゃないかって勢いでスライディングしてたけど大丈夫かあれ。だがあそこで即座に謝れるのは感心だなってうなずきながら見守っていたら、ふと視線を感じて奥の調理場のほうを見たらサリーちゃんのお母様のマリーさんが満面の笑みでしかし目は全く笑ってない状態で俺のほうを見ている。あ、これボキンちゃんの発信源、俺だってバレてますね。
俺は粛々と日ノ本直伝の本家土下座を敢行した。




