第31話 骨、仕立て屋に行く
ボキンちゃん事件でマリーさんに土下座して以降は、特に事件もなく平和な毎日だ。ルビアとマローダーと一緒に暮らしてとても充実している。仕事の方もこの間街の公衆トイレを完璧にキレイに仕上げて見せたら役所の方からとても感謝された。俺の清掃スキルにも磨きがかかってきてるなぁ、もはやこの街で掃除に関しては俺の右に出る者はいないんじゃないかと思っている。家族が増えてから教授の家に行く機会は減ったが、時間を作って出向き、ホーミング・ロケットパンチの話をしたらとても喜んでくれた。帰りにお土産にお菓子をたくさんくれたので、宿でルビアやエメラ、サリーたちと美味しくいただいた。
そんな感じで、もはや街の中で人生を終えてもいいような気がしている現在だ。エレーナさんは未だに俺を冒険に出そうとするが、街の中の依頼を受けるのも冒険ですよと諭してみたら、すごく冷たい目で見られた。だってさぁ、最近寒くなってきたんだよなぁ。俺がこの街にきて大体8か月くらいか・・・多分もうすぐ冬が来ると思うんだよね。だから余計に外に出たくなくなってきたんだよなぁ。
そんな日々を過ごしていたある日、俺は依頼を終えエレーナさんに方向にきていた。
「はい、依頼完了ですね。おつかれさまでした」
「おつかれさまです。じゃあ、俺はこれでかえ・・・「おまちください」・・・はい、すいません!」
「?・・・なんであやまるんですか?」
「いえ、なんとなく」
脊髄反射のようなものだろうか・・・要件を聞く前に謝罪が先に出てしまった。いやだって、このパターンって俺が怒られるやつでしょ。じゃあもう先に謝るか、あとで謝るかじゃないの?なら俺の脊髄も間違ってないわけで・・・
「・・・あのぅ、俺なんかしました?」
「いえ、クレストさんは何も悪いことはしていませんよ」
その言葉を聞いてホッとした。なんだよもう、エレーナさんも人が悪いな。またなんかやらかしたのかと思ったじゃないか。謝って損した。
「今はまだ・・・」
「あ、はい。すいません」
・・・やはり俺の脊髄は正しかったようだ。
「クレストさん、ルビアちゃんとマローダーちゃんと家族になってもう1か月以上が過ぎましたよね」
「はい、そうですね。俺たち仲良し家族です」
「それは何よりです。それで気になったんですけど、ルビアちゃんの服がいつも同じなのが気になりまして」
「え?同じじゃないですよ。ちゃんと毎日服を変えて洗ってます」
なんとルビアの服の話だったか。しかし、抜かりはないぜ。子供にずっと同じ服なんてネグレクトもいいところだからな。そもそもずっと同じ服は不衛生だし、毎日変えても大丈夫なように余分にルビアの服は用意してある。もちろん毎日お風呂にも入れてるし、洗った服も”浄化”は欠かさないぜ。病気には細心の注意を払っている。ただ、”浄化”を使いすぎて抵抗力が落ちることを危惧してルビアとマローダーにはあまり”浄化”はしないようにしている。これはエメラとも相談して決めた。こっちの世界でもそういう懸念はあるみたいだし、気を付けていかねば。その分服は洗った後は俺の特別な”浄化”を使ってふんわりな感触に仕立て上げている。エメラが 「なんで”浄化”でこんなふわふわな感じになるんですか!?しかもなんかいい匂いまでするし!」 と言っていたが、俺もよくわかっていない。
と、その辺を熱を込めてエレーナさんに説明したのだが・・・
「それは大変素晴らしいことだと思います。クレストさんがルビアちゃんとマローダーちゃんの健康面にも注意をめぐらせていること、私も疑ってはおりません。しかし、そういうことを言っているのではありません。まさかクレストさんわからないんですか?」
あ、これはやばい。やばいルートに入った。エレーナさんの機嫌が悪くなってきている。
「い、いや。もちろんわかっていますよ」
「では説明をおねがいします」
「え・・・と、えっと・・・ね、それは・・・ね、服の色の・・・バリエーションが・・・ね、少ないとか?」
バン!!
ひぃぃぃ!エレーナさんが机を叩いた!新しくなった机がまたへこんでしまう!!
「違うでしょうが!女の子が毎日同じデザインの、しかもあんなシンプルな服だけでいいわけないでしょうが!!」
「・・・あ、そっちか。なるほど」
「なるほどじゃない!ちゃんとそういうところも考えてあげないとだめでしょうが!私がこの後、知り合いの仕立て屋に連れて行ってあげるから、ルビアちゃんたちを連れてきなさい!」
「は、はいぃ!わかしました!すぐ行ってきます!それで・・・あの・・・」
「なんですか?」
「今回は机・・・凹まなくて良かったっすね」
「うっさい!早よ行け!!」
「ひぃぃ!すぐ行きますぅぅぅ!!」
慰めるつもりが怒らせてしまった。俺はダッシュで教護院に向かった。
教護院で仕立て屋に連れていく話をしたら、ルビアは大喜びだった。そうか、エレーナさんのいう通りおしゃれな服が欲しかったのか・・・
「おしゃれ、おしゃれ♪」
ギルドでエレーナさんと合流して、仕立て屋に連れて行く途中もルビアはご機嫌だった。マローダーはルビアの足元をシッポを揺らしながら歩いている。お散歩気分かな。
「ルビア、その・・・おしゃれな服欲しかったの?」
気が付かない父ですまない、俺が聞いてみると・・・
「んーん、別に」
「あれ?でもご機嫌じゃん」
「クレストとお出かけ、うれしい」
「うっ・・・」
思わず口元を抑えた。横を見るとエレーナさんも口元を抑えている、そしてこっちを見ている。わかってるから、言いたいことはわかってるから・・・これからはもっといろいろ連れて行くから・・・
「・・・ルビア、今度マローダーと三人でまたどっか遊びに行こうな」
「うん!」 とはじける笑顔をくれた。
エレーナさんが連れて行ってくれた仕立て屋はアリスの錬金術ショップと同じ裏通りにあった。この辺って隠れた名店通りだったりすんのかな・・・グリスギンの店もこの通りのむこうにあるし。
店の前に一人の人間がたっていた。近づいてみるとえらい別嬪の姉ちゃんだ。美形度でいったら今までで1番かってくらいの美人だ。肩までかかった髪は艶やかで風で滑らかに揺れている。服装もとてもおしゃれだ、さすが仕立て屋ってか。
「ジェシー、来たわよ」
「おや・・・やぁ、エレーナ、こんにちは。そちらの人たちもいらっしゃい」
「どうも、うちの子にいい服買いにきました。なんかかわいい服ください」
「クレストさん、いきなりすぎます」
「あははは、いきなりだね。エレーナが気に入りそうな人だ」
「ジェシー、余計なことは言わない」
なんかえらい親しそうだな、友達かな。
「あらためて、クレストといいます。ほら、挨拶しような」
「ルビアです、こっちはマローダーです」
「ワンワン」
ルビアがお辞儀をして挨拶し、マローダーが鳴いた。
「これはどうも、ご丁寧にありがとう。僕はジョシュアといいます。ジェシーって呼んでね」
爽やかな人だな、しかも穏やかな感じだ。苛烈なエレーナさんとは対極の 「クレストさん」 いや嘘だ、穏やかなエレーナさんと同極の人だ。
・・・ん?
「ジョシュア?」
「うん、そうだよ」
「名前が男の人に思うんだけど・・・」
「うん、そうだよ。僕は男だよ」
「へぇー、そうなんだ」
「あれ?すごい普通の反応だね。初見の人はみんなもっと驚くんだけど・・・」
「いや、驚いているよ。ジェシーちゃんじゃなくジェシーくんだったんだろ」
「・・・なんか独特な人だねエレーナ」
「はい、まぁ」
「まぁ、とにかく店にどうぞ。店長呼ぶから」
この御仁は店長ではないらしい。こんなに個性立ってんのに。
店に入ると中は前世の服やと大差なかった。店の広さはそんなに大きくないが所狭しと服が並んでいる。みると女物だけじゃなく男物もあるようだ。うーん、すごく上等な布っぽい。手触りとかすごい滑らかだもの。といっても所詮ウニクロでしか服を買ったことがない俺が見ても何がいいのかわからんが。
「店長、お客さんだよー!」
ジェシーが呼ぶが誰も来ない、留守かな?
「クラーネ、私よ出てきて!」
エレーナさんが呼ぶと奥からガタガタっと音がした。
そして奥の部屋から、少しだけなにかがはみ出してきてる。そしてそこから一歩も動かない。
「・・・・・・」
ん?何かしゃべっておられるようだが何も聞こえない。
「・・・・・・」
やはり聞こえない。声が小さな方なのだろうか?ならばマナを耳に集めて・・・
「・・・いらっしゃいませ」
全マナを耳に集めてようやくかすかに聞こえた。
「どうも初めまして、エレーナさんの紹介できました。こっちのルビアに似合う服を見繕ってほしくて来ました」
俺がそういうとビクッとした顔で、店長らしき人物は奥に消えた。あれ?対応ミスった?
「もう、クラーネったら。ちょっと待ってください」 と言い、エレーナさんも奥に消えた。
「ははは、ごめんね。店長は人見知りでお客の前に出られないんだよ」
「仕立て屋の主人としてそれは大丈夫なの?」
「まぁ、腕は確かだからね。それにしてもさっきの声よく聞こえたね。エレーナが紹介するだけあってよく鍛えているよ」
なんか褒められた。ルビアは 「クレストはすごいんだよ!」 とドヤ顔をしている。うん、かわいい。
「そうだろ、俺はすごいんだよ」
そう言ってやると、ルビアはキャッキャと喜んでくれた。マローダーは俺たちの周りをまわっている。
「仲がいいねぇ君たち」
そんな話をしていたらエレーナさんが、店長を首根っこつかんで引きずって連れてきた。店長はされるがままだ。だいぶ小柄な美少女って感じの子だ。
「クレストさん、この子がこの店の店長のクラーネです」
「・・・クラーネです」
念のため耳の感度を最大にしていたのが良かった。
「そんじゃ、改めまして。クレストと言います。ほーらルビアご挨拶」
「ルビアです!」
「ワンワン!」
マローダーも律儀に挨拶している。
クラーネと名乗った人物は二人を見た瞬間、よろよろと近づいて二人の頭をなでた。そして、次の瞬間さっき奥の部屋から顔を出していた位置に戻っていた。早いって次元じゃないんだけど。瞬間移動かってレベルだったんだけど・・・間違いなく只者じゃねぇなこれ。
「もう、クラーネこっちにきなさい」
「・・・こ・・・ここで大丈夫」
「クレストさんすみません、あの子はちょっと・・・人見知りで」
「ああ、はい。大丈夫ですよ。さっきジェシーから聞いたんで」
「あら、そうですか。ジェシーともうそんなに仲良くなったんですか」
「え、ええ。まぁ雑談してただけですけど」
ジェシーはニコニコ笑ってこちらを見ている。
「まぁ、クラーネはあんな感じですけど、技術はすごいんですよ。才能だけなら王国一かもしれないくらいに」
ほーん、そりゃすごい。
「じゃあ、ルビアの服見繕ってください」
「・・・あれ」
ちっちゃい声でどこかを指差した。少しは慣れてきてくれたのだろうか、耳にマナを集中しなくても聞こえてくるようになった。
「ああ、あれだね。了解」
ジェシーにはわかったらしい、取りに行ってくれた。
持ってきてくれた服はひらひらフリルがついた可愛らしい子供用の服だった。ドレスほど大げさではないが、かなりおしゃれだ。
「かわいい!」
ルビアは一目見て気に入ってくれたようだ。
「じゃあこれください」
「クレストさん、早いです。ちゃんと試着してサイズを確かめたり他の服と着比べたりしなきゃいけません」
「おおう、なるほど。よしルビア、着てきてみ」
「うん!」
ルビアはジェシーに案内されエレーナさんと共に試着室に行った。マローダーは賢くお座りしている。だがシッポは揺れていて機嫌がいいようだ。うん、かわいい。
ボーっと待っていたら、クラーネと目が合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なんとはなしに会釈をしたら向こうも会釈を返してくれた。
「えーと、しゃべっても大丈夫?」
そう聞くと、彼女はうなずいてくれた。
「エレーナさんと仲いい感じ?」
彼女はうなずいた。
「さっき、すごい動きしてたけど。もしかして強い感じ?」
彼女はうなずいた。
「やっぱエレーナさんも強い感じ?」
彼女はうなずいた。
「ジェシーも強い感じ?」
彼女はうなずいた。
ということはだ。やっぱそういうことなんだろう。
「昔冒険者で一緒にパーティーを組んでた感じ?」
彼女はうなずいた。
「やっぱそうか、通りでギルドの受付嬢なのに大通りまでぶっ飛ばされるわけだ」
そういうとクラーネは初めて笑ってくれた。ああ、なるほど。人見知りなだけで人と話すのが嫌いなわけじゃないんだな。
「また、ルビアとマローダーと一緒に来てもいい?」
「・・・もちろん」
彼女は返事をしてくれた。とても嬉しい。
「あとマローダーにもなんかいいのない?ルビアだけじゃかわいそうだから」
彼女はくすっと笑って、あっちを指差した。指定された場所に行くとスカーフが置いてあった。なるほど、これをマローダーの首に巻くか。良さげなスカーフを見繕ってお座りしていたマローダーの首にまいてやるとうれしそうに 「ワン!」 と鳴いてくれた。
「あー!マローダーなんか巻いてる。いいなぁ」
試着が終わって出てきたルビアが一言目にそれを言った。
「おう、ルビア。超かわいくなったな。決まってるぞ」
「本当?ルビアかわいい?」
「本当だぞ、かわいいじゃないぞ。超かわいいだ!」
「ルビア、超かわいい!」
ルビアはとてもうれしそうだ。
「クレストさん、マローダーちゃんの首に巻いてあるのは?」
「クラーネにお勧めしてもらったスカーフを巻いてみました」
俺がそういうとエレーナさんは驚いたように 「クラーネと話ができたんですか?」 と言った。
ジェシーも驚いたようで 「すごいね、クレスト君。あのクラーネといきなり会話を成立させるなんて」 どうやら俺は、なかなかにすごい偉業を成し遂げたようだ。
俺がちょっとドヤ顔をしていたら、向こうでドアに隠れて見切れたクラーネもドヤ顔をしていた。なんで君もドヤってるの?
「・・・ジェシー、あの子の服他にもあっちとそっち。それと袖は2センチ詰めて、肩の部分を少し伸ばして、それから・・・」
なんかジェシーにめっちゃ指示を飛ばしている。エレーナさんに聞けばあの位置からでもルビアの寸法を掌握しているらしく細かくサイズを直しているらしい。スゲーな、メジャーもなしに目測で全部わかるんだ。
いろいろ図り終わって、後日受け取りに来ることになった。なかなかのお値段だがルビアの喜ぶ顔が見れたので悔いはない。
「じゃあね、エレーナ、クレスト君、ルビアちゃん、マローダー君」
「ああ、ありがとうな、ジェシーとクラーネ。また来るよ」
「・・・いつでもどうぞ」
挨拶をして店を出て、しばらくしたところで・・・
「ちょいちょい、ルビアにエレーナさん」 二人を呼びとめた。
「はい?」 「なぁに?」
「これをどうぞ」
そういって渡したのは、マローダーにあげたスカーフの色違いだった。ルビアが羨ましそうにしてたのを俺は忘れていないぜ。
「わぁ!」 「・・・いいんですか?私にまで」
「もちろん、今日のお礼です」
「うわーい!」 そう言って、うれしそうに首にスカーフを巻くルビア。うん、かわいい。
「あ、ありがとうございます」 と言って、少し恥ずかしそうにスカーフを巻くエレーナさん。うん、かわいい。
「クレストは?」
ルビアがそう言ってきた。さすがに俺もここまできたら空気も読める。
「俺も買ってきた。家族おそろいだな」
そういって俺も首にスカーフを巻いてみた。
「おそろい!」 「・・・・・・」
ルビアは嬉しそうにして、エレーナさんは何やら恥ずかしそうにもじもじしている。
「ところで、すぐそこに錬金術師の店があるんだけど寄らないか?」
「うん。よるー!」
「え、あの、ちょ・・・私は・・・」
「エレーナちゃんいこー!」
ルビアに手を引っ張られたのでエレーナさんは逃げられない。
「じゃあ、行こうか」 そう言ってアリスの店に顔を出した。
おそろいのスカーフを巻いて店に訪れた俺たちをみてエレーナさんはアリスに散々からかわれていた。俺たちは気にしなかったが、エレーナさんは終始顔を赤くしてうつむいていた。うん、超かわいい。




