第28話 骨、家族がふえる
俺がベルガイアにたどり着いたころには日はすっかり沈み、街には夜の帳が下りていた。ルビアとマローダーはやはり衰弱していたので、途中から俺がルビアを背負って、マローダーは抱きかかえて歩いてきた。
心配していたのだが、やはり門は閉じていた。夜空いてたら門の意味ないもんな。最悪ここで朝を待とうか悩んでいたら・・・
「あ、お前は!」
その声に安心する日がくるとは・・・
「確か、ユネ 「シィィィーー」 ・・・?」
大声で名前を呼ぼうとしていたので、人差し指を口にたてて静かにしろとジェスチャーした。マローダーは起きてるようだがルビアがおねむなのだ。寝た子を起こすわけにはいかん。というかこいつまた名前を間違えようとしてやがったな。頭文字からして違ったし。
「・・・この子はどうしたんだ?それにこの犬・・・犬かこれ?」
犬だろどうみても。俺が簡単に事情を説明したら、複雑な顔をして 「特別だぞ」 といって、門を開けてくれた。本来は特別な事情がない限り朝まで待つのが常識だが、今外には俺しかいないことと、ルビアの事情を勘定してくれたらしく、脇の小さな門から通してくれた。こいつらは本当にお人好しだ。今度何か奢ってやろう。それと借り一つだ。
「ありがとうな」
礼を言って、俺はルビアたちを背負ったままギルドに向かった。
ギルドに到着すると酒場は盛り上がってるようで、冒険者たちの声が外まで聞こえてきた。入った俺をみたアレクサンダーが 「おう、クレスト。おそかった・・・な」 途中で声を失っていた。
酒場の他の連中も俺が背負っているルビアを見て、声をなくしている。姿を奇麗にしてもガリガリにやせて衰弱してる様子が一目瞭然だからだろう。
「クレスト、お前・・・」
アレクサンダーが何か言いたそうにしている。後ろのクリスティーナもか・・・
「・・・後でな」
その一言で二人も引き下がってくれた。
受付に来るとエレーナさんはまだいてくれた。
「・・・おそくなりました」
「・・・いえ、事情を説明願えますか?」
エレーナさんもルビアをみて普通ではないと察してくれたようだ。話が早いと俺は、今日起こった出来事を順番に報告した。エレーナさんは黙って聞いてくれていたが、俺が盗賊を殺す件を聞くと、少し表情をゆがめた気がした。
「・・・話は分かりました。とりあえずその子とワンちゃんは医者に診せましょう。そして今日はギルドで預かります」
「・・・俺も付き添っていいですか?」
「・・・クレストさんはかなり疲労しています。休むべきだと思いますが」
「そばにいるだけですよ。そこで俺も休みますから」
「なら私があの子に付き添います。それじゃだめですか?」
本当にこの人には頭が上がらない。でも・・・
「俺が檻のカギを探すためにルビアの傍を離れようとした時、すごく不安な顔をしたんですよ。傍にいてやりたいんです」
「・・・わかりました。無理はしないように」
「ありがとうございます」
「では、奥の部屋へこの子たちを・・・それと遅くなりましたがクレストさん・・・」
「なんでしょう?」
「依頼の件ありがとうございました。無事に戻ってきてくれて嬉しかったです」
胸が熱くなる言葉だ、俺は返事を返すことができなかった。
ベッドのある個室に案内された。職員の簡易宿泊施設らしい、夜勤担当の仮眠室も兼ねているとか。
ルビアをベッドに寝かせたら、マローダーはベッドの傍でうずくまって眠りだした。こいつも大変な目にあってただろうに、ルビアを守ろうとしている。マローダーの頭を軽くなで、椅子に座ってルビアの様子を見ていたら、ルビアの様子がおかしくなってきた。
「・・・いかないで」
うなされている・・・俺はルビアの手を優しくにぎり 「ここにいる、どこにもいかない」 と言った。その言葉が俺を指しているのか、それとも他の誰かを指しているのかはわからないが、なんとなく言葉が出てきた。
手をにぎったら安心したのか、落ち着いて寝息をたてはじめた。
ホーッと安堵の溜息をついたあたりで背後に気配を感じた。振り向いたらエメラが立っていた。
「・・・クレストさん」
寝た子に配慮して小声でエメラが話してくれる。
「エレーナさんから事情は聞きました。大変な一日だったようですね」
「・・・そうだな、でもこいつらだけでも助けられて良かったよ。医者の手配ってエメラの事だったんだな、悪いなこんな遅くに」
「大丈夫ですよ。では早速診させてもらいますね」
お互い声を落として話し合い、ルビアが手を放してくれないので場所だけ譲った。エメラはその様子を見て生暖かい視線を俺に向けた。
「・・・なにか?」
「いいえ、いいものを見ただけです」
そうですか。
「うーん、大丈夫ですね。衰弱が激しいですが、休養と食事をしっかりとれば回復するでしょう。そっちのワンちゃんも同じですね」
エメラの診察に俺は胸をなでおろした。
「ところで、クレストさん」
「ん、なに?」
「その・・・そのワンちゃんの名前はなんていうんですか?」
おっとそのキラキラした目は、あなたも犬好きでしたか。
「マローダーだ」
「マローダーちゃん・・・ルビアちゃんも・・・こんなかわいい子たちがこんな目に・・・やはり盗賊は皆殺・・・」
なんか物騒なことを口走っているが、俺も激しく同意だ。エメラのいうことはすべて正しかった。あれは生かしておく意味のない種族だわ。次からは迷うのはやめよう。発見しだい殲滅だ!
「それで、この子たちのことは何かわかっているのですか?」
「・・・帰りの道すがら、少し聞いてみたけど名前以外何も覚えていないらしい」
「・・・そうですか」
その後少し話した後、エメラは帰っていった。俺はルビアの手を握ったままいつの間にか眠りに落ちていた。
「・・・ストさん、クレストさん」
誰かが呼ぶ声で目を覚ますと、目の前にエレーナさんが立っていた。窓を見るともう陽が昇っている、少し寝坊してしまった。ベッドを見るとルビアも目を覚まして俺を見ていた。
「・・・おはよう」
「おはよう、クレスト、マローダーも」
「ワン!」
マローダーも起きているようだ、俺が最後か。
「おはようございます、クレストさん、ルビアちゃん、マローダーちゃん」
「・・・おはよう」
ルビアはまだ少し怖いのか俺の服の袖をつかんでいる。
「この人は大丈夫だよ。とてもいい人だ」
俺がそういうと安心したように、エレーナさんを見上げた。
「それで・・・その・・・クレストさんはこれからどうするつもりなんですか?」
エレーナさんが質問してきた。なんの事かは確認しなくてもわかる。
俺は、ベッドから降りて俺の方を見てるルビアに膝をついて目線の高さを合わせて聞いた。
「ルビアはこれからどうしたい?」
「ちょっ!・・・クレストさん!」
エレーナさんが慌てたように俺の名前を呼ぶ、だけどこれでいい。この子は分かってる。
「・・・ルビアは、クレストとマローダーと一緒がいい」
ルビアは不安そうな顔で俺たちをみている。俺はルビアをみてニヤリと笑って言ってやった。
「気が合うな、俺も同じことを思っていたんだ」
「クレストさん!簡単に考えすぎです!子供を一人育てるのは簡単なことじゃ・・・」
「わかってますよ、簡単じゃないのは。でもしょうがないじゃないですか。ルビアは俺と一緒にいたい、俺もルビアと一緒にいたい。もちろんマローダーもね」
そこまでいってようやくルビアは笑顔になった。
「・・・・・・あああもう!好きにしてください!何かあったらちゃんと相談するんですよ!」
「はい、もちろん!」 そういって俺が指2本を額に当てて弾くと「あい、もちろん!」 と言って笑顔でルビアが俺の真似をした。
「っ!・・・・・・ああもう!かわいいわね!ルビアちゃん、この男がなにか馬鹿をしでかしたらすぐにお姉さんにいうんですよ」
エレーナさんの言葉にルビアが嬉しそうに 「あい、もちろん!」 といってまた同じことをした。どうも気に入ったらしい。それにしてもひどい言われようだが否定できないのが悲しいところだ。
「じゃあ飯食いにいこう!腹減ったな」
「はらへったな!」
「クレストさん!ルビアちゃんに悪影響です!言葉遣いを考えなさい!」
「あ、はい。すいません」
「きゃははは」
ルビアが楽しそうで何よりだ。
***
「ほら、これも食いな」 「ちょっとそれは脂っこくて消化に悪いでしょ、こっちのどすこい大根の煮物が体にいいのよ」 「バカめ、女の子はこの流星いちごの様な甘いものが好きなんだよ」 「何言ってんだ、余さず栄養を取れるこのモウロックミルクシチューが一番に決まってんだろ」
ギルドの酒場で朝飯を食おうと行ったら、そこにいた冒険者共がルビアに次々と飯を食わせに来た。ルビアはそのどれもに目をキラキラさせてその小さな口を目一杯広げて詰め込んでいる。俺はルビアが喉を詰まらせないようにさりげなく水を横においた。しかしこいつらルビアにメロメロだな。
「どうだ、うまいか?」 「ばかね、食べてる途中に喋れるわけないでしょ。ルビアちゃん、このおっさんの言葉は返事しなくていいからね」 「なんだとぅ、お前だって、喋りかけてるじゃねぇか。ルビアが喉を詰まらせたらどうするんだよ」 「なによ!あんた、文句あんの!」 「い、いや。ないです」
やはりうちのギルドは女の方が強いな。そんなことを考えながらボーっと飯食ってたら、口に入れてたものを飲み込んだルビアがにっこり笑って 「美味しい!」 と言った。
「「「「「くっ!」」」」」
その場にいた全員が胸を抑えた。うん、うちの子はとてもかわいい。
「みなさん、いい加減にしてください!」
そんな冒険者たちを見かねたエレーナさんが、止めに来た。
「そんなんじゃルビアちゃんが落ち着いてご飯を食べれないでしょうが」
「うっ!確かに」 「ま、まぁそうだな」 「ご、ごめんね、ルビアちゃん」
さすがはエレーナさんだ、ギルドの受付嬢として荒くれどもを取り仕切ってるのは伊達じゃない。
「それに・・・」
うん?
「ルビアちゃんに今最適な料理はこのベルガイアで獲れる野菜をふんだんに使った優しい味付けの、ベルガイア風野菜スープです」
「「「「「・・・・・・」」」」」
酒場にいる全員が思った。
あんたもかい・・・
「ところでクレストさん」
「・・・あい?」
飯をほうばっている途中の俺にエレーナさんが話しかけてきた。ルビアは未だ食事中だ。ちなみにマローダーもルビアがすわってるテーブルのしたで夢中で肉を食っている。その横でエメラがニコニコ顔でマローダーの頭をなで続けている。というかきみ、いつからそこにいたの?マローダーは食事中だからか、若干迷惑そうにしているが、されるがままで飯を食っている。
「クレストさん?」
おっといけない、エレーナさんが呼んでいるんだった。
「もぐもぐ・・・ごっくん、はい、なんでしょう?」
「マローダーちゃんですが、獣魔登録をおねがいします」
「・・・はい?」
「ですから、獣魔登録を・・・」
「え?あいつ、犬じゃないの?」
「やっぱり気づいてなかったんですね、そうですよ。あの子は魔物です」
「マジかぁ・・・まぁいいや、登録すれば問題なし?」
「あいかわらず軽いですね、獣魔が問題を起こせば登録した主人が罰せられるので注意してください」
「あいあい」
まぁ、あの様子を見ていれば大丈夫だろう。もともと賢い感じだし、ルビアを一番に考えているみたいだし。
「ちなみにあいつの種族とかってわかります?」
「わかります、さっき二人とも魂の水晶で調べました。身分証としてルビアちゃんも冒険者登録しておくべきだと思いまして、余計でしたか?」
「いえ全然、ありがとうございます」
「一応忠告させていただきますが、これから小さな子を育てるんですからもう少し防犯などに気を配ってください」
「大丈夫ですよ、エレーナさん以外には注意しますから」
「・・・・・・そうですか」
ふーむ、若干エレーナさんの耳が赤い。デレたか、これはデレだよね。うっひょーい、エレーナさんがデレたぜ!
「・・・クレストさん、今何を考えていましたか?」
「イ、イエ。ナニモ」
一瞬でデレが失われた、だがそれもいい!
「コホン、話を戻しますが、ルビアちゃんの冒険者カードは後でお渡しします。それでマローダーちゃんの種族なんですが、ワイヤー・フォックス・ウルフでした」
「・・・ワイヤー・フォックス・ウルフ?」
なんかどっかで聞いたことある種類だな。
「はい、ウルフ種の中で突然変異の進化を果たした種族でかなり珍しい種類です。だから盗賊に捕まっていたんでしょう。あの子はまだ子供ですね」
「なるほど、つまり飼うのに問題はなし?」
「・・・ええまぁ、たださっきも言いましたが、珍しい種類ですのであの子のことも注意してあげてください。成長すれば強くなるのでそれまでは」
「了解っす」
子供と子犬を育てる・・・責任重大だな。
今俺は、宿屋の受付前で正座をしている。目の前にはマリーさんが腕を組んでこちらを見下ろしている。あと、脇にサリーがいる。飯が終わった俺たちは宿屋に戻ってきたんだが、入るなりマリーさんに捕まってしまった。
「それで、何の連絡もなく朝帰りしたかと思えば、女の子とワンコを連れ込んでどういうつもりだい?」
「いや、なんと申し上げればいいのか・・・いろいろあったんですよ」
「そのいろいろを聞きたいんだけどねぇ」
ううむ、確かに無断外泊はまずかった。しかし理由を離せばわかってくれるだろう。俺は昨日からの事情を説明した。
「・・・なるほどねぇ、そういう事情なら仕方ないわね。でもねぇ、うちは飯屋もやってるんだから、ワンコはちょっとねぇ・・・もしお客に噛みついたら問題だし」
マリーさんが難しい顔をしている。確かにこの宿がペットOKか確認してなかったのは俺の落ち度だ。
どうしたもんかと考えていると、今まで黙っていたルビアが 「マローダー、お手!」 と、いきなりマローダーに指示を出した。
マローダーがルビアにお手をする。
「うん?」
マリーさんが怪訝な顔で二人を見る、サリーは興味津々だ。
「マローダー、おかわり」
マローダーが反対の手をのせる。
「マローダー、お座り」
マローダーがおすわりをする。こいつ、いきなりですごいな。
「マローダー、伏せ」
マローダーが伏せる。マリーさんは 「ほう・・・」 と感心したようにつぶやき、サリーは目をキラキラさせている。
「マローダー、くるんと回ってお腹見せる」 と言って、マリーさんの足元を指差した。
マローダーはその場で一周回ってマリーさんの前でお腹を見せて 「クゥーン」 と鳴いた。マジかこいつ、すごすぎるだろ!
「うっ!」 「かわいい!」 マリーさんはマローダーのあざとさにやられ、サリーはメロメロになっている。これは落ちたか・・・
「はぁー、わかったよ。うちの庭に離れの小屋があるのは知ってるね?」
知ってる、テッドが趣味の木工なんかをやるために昔作った小屋らしい。だが、サリーが生まれて宿屋と食堂が忙しくなって使わなくなったって言ってたな。
「あそこを月40万、朝飯付きで貸してあげる。もちろんワンコが問題を起こさないように責任をもって面倒見るんだよ」
「わかった、だが一つ頼みがある」
「ん?なんだい?」
「月60万出す。そのかわり俺が何かの事情で家を空ける時は、ルビアたちのことを頼みたい。もちろん迷惑はできるだけかけないようにする。だけど、物事には絶対なんてない、だからお願いします」
そういって、俺は頭を下げた。
「・・・はぁー、あんたちゃんと親してんだねぇ。わかったよ、まかせな!そのかわりあんたは絶対にこの子たちの所に帰ってくるんだよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとございます!」
「ワンワンワン!」
二人も俺の真似をして、頭を下げた。
「あっはっはっは!あんたらしっかり家族してるじゃないか、ほら離れの掃除をしてきな。得意だろ?クレスト」
「あったりまえよ!秒で終わらせてやるわ!!」
「ルビアも手伝う!」
「ワオーン!」
俺たちは腕をまくって離れに向かった。




