第27話 骨、盗賊を倒す
・・・・・・俺は間違いなく恵まれている。
この世界に転生して、エメラに会って、三馬鹿に会って、アルバートに会って、エレーナさんに会って、アレクサンダーとクリスティーナに会って・・・他にもいっぱい会った。
そのみんながいい奴で・・・俺は居心地が良くて・・・もしかしたら前世より楽しんでいたのかもしれない、この異世界を。だから、俺は忘れていたんだろうか・・・いい奴もいれば悪い奴もいるということを。
いや、エメラは初めから言っていた。あれは生かしておいてはならないと・・・ずっと言っていたな・・・俺は分かっていた・・・分かったつもりで聞いていた。
そのエリアに足を踏み入れた瞬間俺の思考は停止した。目の前の光景が理解できなかった。命の気配は三個だけだった。視界の先には三人以外にも人がいた。いや、人の残骸だったものだ。その残骸の頭に足をおいて笑っている奴がいる。足をおいている奴と楽しくしゃべっている奴がいる。俺は全く理解できなかった。なんでそんなことができるんだ・・・なんで笑ってるんだ・・・それは死体だぞ?笑って雑談していた奴らは不意に俺に気づいて視線が合った。その瞬間、俺は反射的にそいつらに向かって走っていた。そしてそいつらが声を上げる前に三人とも斬り殺していた。
目の前に奴ら以外の三人の遺体がある。苦しそうな顔をしている。俺は彼女たちの目を手で伏せてやり、布をかぶせてありったけの”浄化”をかけた。せめて遺体はキレイにしてやりたいと思ったんだ。
気づいていた、背後から命の気配が近づいていたからな。俺がちょうど”浄化”をかけ終わった瞬間に背後から斬りかかられた。俺は体をひねってよけて相手を真正面からみた。
「チィッ!」
相手は屈強な大男だった、右手には斧を持っている。バトルアックスというやつだろう。
「なんなんだお前は?俺の部下共に何をした?たたいてもまったく起きやしねぇ」
どうやらこいつが盗賊の首領の様だ。
「・・・・・・聞きたいことがあるんだけど・・・」
俺は奴が返事をする前に、布をかぶせた遺体に視線を少し向けて、尋ねた。
「なんでこんなひどいことができるんだ?」
奴は俺の質問の意味が理解できないのか、一瞬キョトンとしたあと大声で笑いだした。
「あっはっはっはっは!!何言ってんだお前、どこの甘ちゃんだ。まぁいいや、そんなに聞きたいなら話してやるよ」
そういってボスは話し始めた。
「俺はバストールで冒険者をやってたんだよ。今はこんな風だが当時は真面目にやってたんだぜ、そりゃぁ問題も起こしたりもしたが、それなりにはちゃんとやってたんだよ」
話好きな奴なのだろう、ペラペラしゃべりだしてきた。バストールって確か帝国の名前だよな、メルヴィス王国から結構遠いはずなのに・・・
「それなのによ、俺が護衛してやるって言ってんのに断りやがったんだぜ、あの商人の野郎!思わず殺しちまったけど俺は悪くないだろ!?」
「・・・・・・」
「なのに、手配書が回っちまって仕方なく盗賊やってたんだよ。本当は真面目に冒険者やりたかったのによぅ」
「・・・・・・」
「そんでバストールにいずらくなったからここに来たのに、馬鹿な部下が捕まえてたゴブリンを逃がしちまってよ、本当に使えない奴らだぜ。ゴブリンにあの女どもをもっといたぶらせて遊ぶつもりだったのによぅ。罰として見張りに立たせたがお前をここまで侵入させているし、あとで始末・・・「もういいよ」 あん?」
「もうしゃべらなくていい、お前はもう死んでいいよ」
そう言って、剣を構えて奴に向かっていった。
俺の行動に奴は一瞬面くらった顔をしたが、ニヤッと笑って迎え撃ってきた。上段から振り下ろした剣をいともたやすく受けられる、横から、袈裟斬り、逆袈裟、なるほど、盗賊の首領を務めるだけはあるようだ。
「やるじゃねぇか、だがお粗末な剣術だな、その程度じゃあ俺には勝てねぇぜ」
ラージーにも似たようなこと言われたな。でもラージーの時とは違う、こいつに褒められても全然嬉しくない。そしてこいつは勘違いをしている、俺は別に剣士じゃない。
「!?」
突然奴の目の前にドクロちゃんを出現させ目から指向性のフラッシュをかました。奴は目がくらんで驚きたじろいだ。俺はそのスキに奴を斬り殺そうとした。俺の常套手段だ、だが奴は目が見えないのに俺の剣を弾き飛ばしたのだ。おそらくマナで俺を感知したんだろう。
「甘かったな、俺の勝ちだ!」
奴は俺の剣を弾き飛ばしたことで勝利を確信したんだろう。だけど間違っている、俺は奴の左胸に手を添えた。
「?何の真似だ・・・!?グハッ!」
奴の心臓に思い切り”スタン・ヒール”をぶちかましてやった。奴の部下どもにしたような加減は一切せず心臓を過回復で破裂させてやるつもりで・・・
「く・・・はっ!ぐぅっ・・・なん・・・だ、これ・・・は?」
口から血を吐き奴は膝をついた。
「思い切り打ちこんだのに死なないなんて、マナで抵抗したのか。なるほど、今後の参考にさせてもらうわ」
多分相手の体内の操作は熟練の使い手なら抵抗されるということなんだろう、”スタン・ヒール”も必勝というわけではないことを頭に入れておこう。そう思いながら俺は奴の頭に手を置き”スタン・ヒール”をかけ・・・いや、今からやるのはもはやスタン・ヒールの範疇にないか・・・ならこう呼ぶのがふさわしいのだろう。
「!?ま、待て!・・・「待たない、≪デス・ヒール≫」・・・!!」
脳の血管に直接致死量の”スタン・ヒール”をぶち込んでやった。奴は目や耳や鼻や口から血を流して倒れた。やはりこれは”スタン・ヒール”じゃなく”デス・ヒール”と呼ぶべきだろうな・・・これを使う時は、常に本当に使っていいかを自問しながら使おう。俺は心にそう刻み込んだ。
「・・・・・・」
奴のアニマからアニムスが流れ出ている。
こいつの・・・こいつらのアニムスは吸収したくない。俺はそのままこいつらを放置して遺体の女性たちの前に来て膝をついた。
「もう、あんたらのことを傷つける奴はいないよ。・・・遅くなってすまなかった」
俺は、もう一度”彼女たちが安らかに逝けるように心を込めて”浄化”をした。
首領は倒したがまだ問題が残ってる。部下のほとんどは拘束してるだけであって死んではいないのだ。俺は残った奴らを一つの場所に引きずっていき、どうしようか考えた。こいつらはまだ俺の”スタン・ヒール”で意識を失っている、息はしてるし寝言を言ってるやつもいる。しばらくすれば目を覚ますだろうな。殺すべきなのかもしれないが、無抵抗の相手を殺すことがどうしてもできなかった。しばらく悩んだが、結局俺はこいつらを縛ったまま放置することにした。ベルガイアに戻って報告して街の衛兵に引き渡そう。衛兵がくるまでに何かしらの要因で死んだならそれはそれだ。そう考えることにした。
後は残ったもう一つの問題を片付けに行こう。実はあと二つだけ命の気配が残っていたのだ。しかしまったく動くそぶりがないから後回しにしていたのだ。
気配は洞窟の一番奥にある。俺は慎重にその場所まで行った。
奥の場所は盗賊の倉庫代わりにしていたようで、奪った戦利品だろう物が置いてあった。そんなに多くはないようなのはここに逃げ延びてきたからだろうか・・・
そこに鉄格子の檻がありその中に女の子が一人、犬が一匹入っていた。
「・・・誰?」
少女が俺に問いかけてきた。5歳くらいだろうか、俺をみて少しおびえている。横の犬が少女の前に立ち唸って警戒している。見る限り少女と犬の関係は良好の様だ。
盗賊共がどこかから捕まえてきたんだろうな、檻に入れられた少女はやせ細って髪はぼさぼさ、何日も風呂にも入れてもらえてないのか汚れが目立ち、すえた匂いがした。犬もガリガリで汚れている。なのに少女の前から下がろうとしない。俺から少女を必死に守ろうとしている。
俺はそんな一人と一匹を見てひどく胸が痛んだ。おかしいよな、俺の心臓なんか、とっくの昔になくなってるってのに・・・
俺はこの子たちをできるだけおびえさせないように檻の前で膝をついた。少女は俺が近づくのをみてすこしビクッとしたが後ろには下がらなかった。
「俺の名前はクレスト、君の名前を教えてくれないか?」
俺はできるだけ穏やかな声を意識して少女に問いかけた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少女は返事をしない、俺も何も言わない。そのままただ時間が過ぎていく。
先に動いたのは犬の方だった、威嚇音を止め座り込んだ。
「ワンワン・・・」
少女が心配そうに犬に声をかけてから俺の方を見た。
「・・・喉が渇いているのかもしれない」
俺は檻の隙間からマジッグバッグから取り出した皿をおいて水筒から水を入れた。犬は皿の水をペロペロと舐めて飲み始めた。
それを見た少女は安心したようにホッとした顔を見せた。
「君も飲むか?」
俺が水筒を出すと少女はそれを受け取り飲み始めた。かなり喉が渇いていたのだろう、夢中で飲んでいる。
「ふぅ・・・・・・・・・おいしい」
「それはよかった」
犬はまだ水を飲んでいる。どちらも衰弱しているようだが、今のところ命に別状はなさそうだ。だけど・・・
「なぁ、二人に”ヒール”をかけていいか?」
「”ヒール”?」
「ああ、少しは元気になるかと思ってな」
その提案を少女たちは受け入れてくれた。
「じゃあ、いくぞ。≪ヒール≫」
”ヒール”をかけられた二人は驚いてビクッとしたが、さっきよりも格段に元気になったようで俺も安心した。しかし腹も減ってるだろうしなにか食わしてやらないと。そうだ・・・
「なあ、これ食うか?」
昼飯用にマリーさんに包んでもらっていた弁当だ。俺1人分しかないがないよりましだろう。
「・・・いいの?」
「ああ」
そういって弁当のサンドイッチを少女に渡した。
少女はそれを半分にわけて犬に渡した、優しい子だ。
犬は夢中でサンドイッチを食べている。少女もサンドイッチを口に入れた瞬間少し笑顔になった。
「・・・ごちそうさま」
犬と少女がサンドイッチを食べ終わったところで俺の方を向いた。
「・・・ルビア」
「・・・ん?」
「・・・名前」
一瞬なんのことかわからなかったが、どうやら名前を教えてくれたらしい。そうか、ルビアというのか。
「いい名前だな」
「そう?」
「うん、いい名前だ」
よく見ると、汚れがひどくてわかりにくいがこの子の髪は赤色だ。
「なぁルビア。なんでここにいるのかわかるか?」
「・・・わかんない、気づいたらここにいた」
「・・・ルビアはここにいたいか?」
ルビアは首を横に振って 「いたくない」 と言った。
「じゃあ俺と一緒にくるか?」
一瞬俺の質問の意味が分からなかったんだろうか、ルビアはキョトンとした顔をしたあと 「・・・いいの?」 と聞いてきた。
「いいよ」
「ワンワンも?」
「ワンワンも」
「じゃあクレストと一緒にいく」
そういってルビアは初めてちゃんと笑ってくれた。
「じゃあこんなとこ早いとこ抜け出そうな。ちょっと待ってろよ、檻のカギを探してくるから」
俺がそういってこの場を離れようとするとルビアは悲しそうな顔をした。もしかしたら置いていかれると思ったのかもしれない。
「よし、ちょっぱやで帰ってくるから安心しろよ」
そういってルビアの頭をなでてやったら笑顔で喜んでくれた。なんだ、このかわいい生き物は。
俺はマナの許す限り最速でカギを手に入れ檻の前に戻ってきた。案の定といっていいのか、カギは盗賊の首領が持っていた。
檻からでたルビアは 「んー・・・」 といって大きく伸びをした。犬も俺の足元にまとわりついて尻尾を振っている。こいつ案外チョロいな、しかしかわいいから許す。俺は犬が大好きなのだ。
「じゃあここから出ような」
「うん」
俺がそう言って手を出すとルビアは嬉しそうに手をつないできた。
「ルビア、お前とこいつだけど、”浄化”を使ってキレイにしてみようか」
二人はだいぶ汚れている、その方がこいつらも喜ぶだろう
「うん」
ルビアはよくわかっていないようだな、こいつら後で風呂にも入れてやらねば・・・
「≪クリア≫」
「「!?」」
”浄化”をかけると二人はビクッとしたがすぐ大人しくなった。しかしなかなかきれいにならない、そうとうな頑固汚れだ。だが、俺の”浄化”の前にすべての汚れは無力だ。マキシマムで叩き込んでやったら二人ともピカピカになってかなり驚いていた。
「ワンワンふわふわ・・・いい匂い」
洗濯の洗剤、それもラベンダーの香り付きをイメージしたからか何故か、ラベンダーの香りもしている。犬は洗濯したての服のようにふかふかの毛並みに仕上がっている。うむ、我ながらいい仕事をした。しかし匂いまでつくとは、我ちょっとびっくり。ルビアは着ている服はボロボロだが奇麗にはなったようだ。というか本人の姿をみてびっくりした。フランス人形のような整った顔立ち、ルビーのような赤い瞳にストロベリーブロンドの奇麗な髪の美少女だった。俺がルビアの美少女強度に驚いていると・・・
「クレスト、ワンワンとルビア奇麗になった。うれしい」
「お、おう」
ルビアがお礼を言ってるのだが、俺は面食らってまともに返事できなかった。犬も奇麗になったのが嬉しかったのか、俺たちの周りをうろついている、そういえばこいつの名前を聞いてなかったな。
「ルビア」
「なぁに?」
「こいつの名前はなんだ?」
そういって犬を指差したのだが・・・
「ワンワン」
「そうか、ワンワンか・・・じゃあなんか名前をつけてやらないか?」
「・・・クレスト、つけて」
「そうか・・・じゃあ、マローダーにしよう」
別に深く考えたわけではない、直感的に頭に浮かんだからそう名付けただけだ。
「マローダー・・・マローダー・・・」
ルビアは何度も名前を呼んでいる。表情から察するに気に入ってくれたようだ、よかった。犬の方もそう呼ばれて反応しているので、お気に召した様子。しかしこいつ賢いな、自分がマローダーって名付けられたのを察してるように見える。
手をつなぎながら、洞窟を一緒に出る途中ルビアが不意に・・・
「あっちの部屋には何があるの?」
と聞いてきた。そこは俺が盗賊の首領と戦った場所だ。
「・・・あっちにはなにもないよ」
「そう」
俺はルビアにあそこを見せたくなかった。ルビアも俺の返事に違和感を感じなかったようで気にした様子はなかった。
そんなこんなで洞窟を出たら、すこし日が傾いていた。今からベルガイアまで今日中に戻れるだろうか?位置的にはメローネの方が近いから、そっちに行くべきだろうか・・・いや、ベルガイアに戻ろう。ルビアとマローダーにはすまないが、少し頑張ってもらおう。
俺はルビアの手をひき、ベルガイアに向けて歩いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。もし面白いと感じていただけたら、差し支えない範囲でブクマ、感想、評価をしていただけたら嬉しく思います。




