第26話 骨、今度こそ本当に街道を行く
俺は昨日果たされなかった依頼を全うすべく街の北門へひた走った。今日も北門は人の列であふれていたので俺も大人しく並んでいた。今日は剣は鞘からださないぜ。
「あ、お前は!」
またかよ、さすがに昨日の今日だから誰かわかるぞ。
「・・・確か、フラスコ」
「誰が試験管だ!昨日名乗ったろうが!容器に流し込んで濾過すんぞコラ!」」
「いやすまん」 「そうだぞ、ひどいぞ」 「名前を間違えるなんて」
なんだよ、わかってるならいいんだよ。
「こいつの名前は、・・・」 「おい、なんだっけ?」 「なんだよ、お前らも覚えてないじゃないか」
・・・こいつら。
「はぁー、もういいよ。俺の名前は・・・「そうだ、思い出した!確か、ド〇スト!」
「誰が漂白剤だ!殺菌してやろうかお前ら!」
列を並んでる間にまた三馬鹿どもに絡まれた。
「はぁはぁ、まぁいい。昨日の礼を言っとかなきゃな。助かったよ、お前らのおかげで早く釈放されたって聞いたから」
「おう、気にすんなよ」 「お前のことは、エメラから聞いてたからな」 「もう知らない仲じゃないしな」
だったら名前くらい覚えてくれよ。
「それで今日はどうするんだ?」
「ああ、昨日できなかったからな。受けてた依頼をこなしに行く」
「そうか、気をつけろよ」
本当にこいつら人がいいな、馬鹿だけど。
「それにしても、お前の身元引受人超怖いな」 「俺ちびりそうだったぜ」 「エリザベスちゃんとため張れるぞあれは」
エリザベスちゃんってあのレベルで怖いのかよ。もし会うことがあったら怒らせないようにしよう。
三馬鹿とのコントを終えた俺は、手続きを終えて、街を出た。
街道を行く人々をそれとなく見ると、向こうも俺のことをチラ見している。思えばベルガイアの街に来た当初は、よくこんな感じで見られていたな。確かに昨日の俺はマナー違反だった。こんな往来で抜き身の剣を掲げるなんて、そりゃあ良くないよな、うん。なんか、グリスギンやNPC共にも反省してんのかって言われたけど、どんでもない。俺は超反省する男だよ。反省を次に活かせる男なんだよ。
というわけで、次に活かすことにしてみた。
つまりだな、剣をもったスケルトンが魔物なら、挨拶してくるスケルトンなら骨人族だろ、ということだ。前世ではウォーキングが趣味だったのだが、歩いているときにすれ違う人に挨拶するのは散歩人として常識だったからな。向こうもウォーキングしてる人だったら当然のように挨拶しあう感じになるし。
これで昨日のミスを帳消しにしてやるぜ。お、ちょうど向こうから人がくる。ベルガイアに向かってる人だ。一発かましてやるぜ!
「おはようございます!」
「え!?お、おはようございます」
俺が軽く会釈しながら挨拶すると、相手はビクッとしてそれでも返事を返してくれた。
やったぜ!やっぱ挨拶は人としての基本だよな。よし、これからも積極的に挨拶していこう。
「おはようございます!」
「え!?あ、はい。お、おはようございます」
「おはようございます!」
「え!?俺?お、おはよう・・・ございます」
「おはようございます!気持ちのいい朝ですね」
「はい、おはよう。そうだねぇ気持ちがいいねぇ」
すれ違う人に問答無用でおはようテロをしていたが、まずまずの戦果だ。なかにはシャイなのか挨拶を返してくれない人もいるが、会釈はしてくれる。最後のおばあちゃんなんかすごく優しそうな顔で返事を返してくれた。うーん、気持ちがいいな。散歩をしていたころを思い出すぜ・・・記憶は虫食い状態だけど。
しかし、目論見は大成功だな。これで、昨日の俺の悪いイメージは払しょくされて、品行方正なウォーキング・ボーンの噂が流れることであろう。
そんな感じで辻挨拶をかましていたが、ベルガイアの街からかなり離れたらすれ違う人がいなくなってしまった。まぁ、戦果としてはもう十分だろう。意識を切り替えて依頼のほうに集中するとしますか。
エレーナさんから教えてもらった情報によると、ベルガイアからメローネまでの北に向かう街道を三分の二ほど進んで、途中で東にそれた森の中にある沢に目当ての毒消し草があるらしい。気候の影響か何か他の要素があるのかは定かではないが、ここの毒消し草はとても質が良いらしくて、そのままでも十分使えるし、上質なキュアポーションの素材としても使えるので、誰かに荒らされないようにベルガイアとメローネの冒険者ギルドで管理していたらしい。依頼を受ける冒険者も信頼のおける者に限定していたとか。
ってことはだ・・・俺ってエレーナさんに信頼されているってことだわな。うふふふ、なんかすごく嬉しいんですけど。
そして、最近その毒消し草の質がとても落ちてきたんだって。確かにそれは由々しき事態だ。
毒ってのはなぁ、やっかいだよなぁ。俺もアクションRPGやってる時、毒のデバフ受けても攻撃特化のパーティー編成にしちゃうから毒解除を面倒だからって後回しにして、攻撃して先に倒そうなんてしちゃうもんなぁ。それで後々困ることになっちゃうし。
まぁ、リアルでそんなことしないけどね。真っ先に治すわ、今俺回復特化のヒーラーだし。
しかし、毒消し草の質の低下かぁ、なにが原因なんだろな。
持たされた地図を頼りに半日以上を歩き続けてようやく目的地の沢に到着した。思ったより遠かったが、考えてみればそりゃそうか。徒歩だけでここまで来てるんだから、当たり前だわな。これ今日中に帰れるのかな?
さてさて、件の毒消し草はっと、探し始めようとした瞬間何か生き物の気配がした。
とっさに近くの藪に潜んで様子をうかがう。
「ゲギャ!ゲギャ!」 「ギギ!」 「ギゴ!グガ!」
!!あれは?もしかしなくてもゴブリンか!
エメラ経典の三大滅殺種族の一つ、ゴブリンだ!
数は四匹、瘴気もまとっているから間違いない。しかし、おかしいな。この辺でゴブリンの目撃情報なんてあったか?エレーナさんからなにも聞いていないしな。
「ゲギャ!」 「グゴ!グガ!」 「ギシ!ギガ!」
様子をうかがっていると、ゴブリン共は沢に生えている草を食べ始めた。おいおい、あれってもしかして毒消し草じゃないのか?ここからじゃはっきりわからないけど、もしそうなら毒消し草の質の低下ってこいつらが原因なんじゃ・・・
みてると、こいつらは草を一心不乱に貪り食っている。そしてその草のあたりを踏み荒らしている。しかしこいつらガリガリだな、よほど腹が減っていたんだろうが、なんでこんなに痩せてんだ。よその地方からここにきたはぐれ個体かな?見たところ四匹しかいないようだが・・・
・・・うん、とりあえず狩るか。エメラもゴブリンは即ぶっ殺推奨してたからな。
四匹いるとはいえ、さすがにあれは小細工なしでも倒せるだろう。ガリガリでフラフラだし。ただあれが毒消し草なら、あそこで戦って地面に血がしみこむのは避けたい。よそに追い立てるか。
夢中で草を食ってる畜生どもの目の前に、マナのリードで遠隔操作したなまはげコスチュームのドクロちゃんを出現させて 『悪い子はいねがぁー!』 といって、脅かしてみた。
ゴブリン共はなまはげドクロちゃんをみて恐慌状態に陥り、泡を吹いてバラバラに逃げ出した。
あ、しまった、散らばっちゃった。一瞬慌てたが、飢餓状態だからか、こいつら超遅い。沢から離れた場所で一匹ずつ殺していった。四匹殺してバッグに詰め込んだ。こいつらをバッグに詰め込むのはオーク以上に嫌だし、原因究明のために”浄化”をかけることもためらわれたので最悪だ。一応オークの教訓があるので丈夫な麻袋を常備していたのがせめてもの救いか。
沢にもどって調べてみたが、やはり毒消し草で間違いないようだ。ゴブリン共はこれを必死に食らっていたけど、ゴブリンって草食だったのか?
沢に生えている毒消し草を”浄化”をかけずに採取した後、一応この辺りの地面を”浄化”しておいた。こうしておけば、また元気に生えてくるだろう。
これで一応依頼は完了でいいだろう。後はエレーナさんに報告して調べてもらうことにしよう。
帰路に就いた俺だったが、沢を離れて少ししたときに妙な気配を感じた。教授との話にもあったが、スケルトンには本来生命感知のスキルが備わっているだろうとのこと。生者を求めるスケルトンの本能に根差したもので、このスキルがあるからスケルトンは人間を見つけ襲ってくるんだろうって話。
じゃあ俺も生命力があふれているから襲われたんだろうか、と教授に聞いたが”さぁ?わかんないね”と適当に流されてしまった。
生命力感知なんて当初、俺には毛ほどもなかったが、トリステンを治療した後から、少しわかるようになってきた。命の鼓動とでもいえばいいのか説明しづらいんだが、何となくあっちの方に命があるなぁ、みたいな。
その感覚で感じたんだけど、俺が感じる命の気配は街道の方向ではない。しかしこの辺りに集落があるなんて聞いてない。正確な数はわからないが、多分人間だ。1人2人ではない、少なくとも10人くらいはいると思う。
うーん、一応確認しとくか。俺はその方向に向かって歩き出した。
件の目的地に近くにきたら、気配を殺し静かに近づき始めた。一応念のためだ。こんなところ
に集団で人間がいる理由。なにかケガをして動けない一団がいるなら、名乗り出て治療を申し出てもいい・・・それだけのことだ。
森の中を藪に潜みながら静かに進む。目的地は森の中にあって少し開けた場所だった。洞窟があり、入り口で二人の男が見張りをしている。うーん、これってあれだよな。エメラ経典、三大滅殺種族最後の一つの・・・いやいや、まだ決めつけはよくないか。でもなぁ、見るからにそれっぽい風貌だし、明らかに堅気じゃなさそうなんだけど。まぁ、少し様子を見よう。
俺が茂みに隠れて様子をうかがっていると、暇なのか片側の男がしゃべりだした。少し遠いが周辺が静かなので、何を言ってるのかわかる。まだ、喋るのは日常会話がやっとだが、聞き取りは慣れてきている。毎日サリー先生に学んできてよかったぜ。
「なぁ、おい暇だな。こんなところ誰もこないだろ?見張りなんかいらねぇだろ?」
「俺もそう思うが文句を言うな。ボスが決めたんだから、いちゃもんつけたら殺されるぞ」
会話の内容が絶対堅気じゃない。絶対あれだろ、でもまだだ、まだ確定じゃない。
「ボス、最近機嫌悪いよなぁ。やっぱグラスミンツでしくじったからだよな」
「いや、お前が捕まえたゴブリンを逃がしたからだろ。だから俺たちは罰として見張りをやらされてるんだぞ」
おいおい、件のゴブリンはこいつらが原因かよ。もうあれだよな。あれで決まりでいいんじゃないか。いやいや、まだだ、まだ我慢だ。
「いや、でもよぅ・・・グラスミンツのしくじりはやっぱボスのせいじゃねぇのか。商人の馬車を襲撃して一気に金を頂くはずだったのに下調べにミスって冒険者の護衛の数を間違えたんだから・・・おかげで手配書回されてこっちの方に逃げてくるはめになったんじゃねぇかよ」
「お前、本当にやめろよ。マジで殺されるぞ」
はい確定、こいつらあれで決まりですわ。女神エメラに絶対ぶっ殺認定されている盗賊ちゃんですね、はい。
「それによぅ、ゴブリンだけどよ、逃げてよかったんじゃねぇの。俺だって悪人の自覚はあるけどよ、あれはちょっと見てたくはねぇわ」
「・・・まぁ、あれはな・・・さすがに悪趣味がすぎるよな」
?なんの話をしてるのかわからないが、盗賊は見つけ次第、即殲滅だな。でもなぁ、俺一人でつっこんでも返り討ちにあう可能性もあるしなぁ。うーん、どうしよう。今から戻って応援を呼ぶか?
「まぁ、ここも明日には引き払うらしいしな。多分これゴブリンを逃がしたからだろ?ゴブリンが街道にでも現れたら、ギルドがこの辺に冒険者をよこすからな。そうなる前に移動しようって算段だろうしな」
おっと、時間がない。しゃあない。俺一人でやるか、一応策はあるしな。
俺は見張り共の横から音を立てずにそーっと近づいた。普通なら絶対気づかれるが、ボーっと雑談しながら気を抜きまくってる二人は俺には気づかない。そして奴らが気づいた瞬間には俺はすでに奴らの頭に手をおいていた。
「な、なんだおまえぃらぇ・・・」 「おい、みんぁぃぁ・・・」
よし、成功!
俺が二人の頭に手をおいた瞬間、奴らは急に意識が昏倒し崩れるように倒れた。トリステンの治療を行ってから、マナの理解が進んだのか細かくいろいろできるようになった。さっきのあれはその時の応用だ。トリステンの時は体中の血管にヒールを流し込んで体全体の回復を図ったが、今回は頭の血管に絞って過剰なヒールを流し込んでみた。イメージとしては頭の血管の過回復により脳をバグらせて、意識を奪う感じ・・・名付けて”スタン・ヒール”
思ったよりうまくいったな。これ対人戦で相手を無力化するのに使えそうだ。盗賊相手だからエメラだったら無力化なんて考えずに即殺すんだろうか?うーん、俺にはまだちょっと即断できそうにない。とりあえずロープで拘束しておこう。アリス謹製の特別ロープだ、なんでも相手のマナも封じて縛った人間が定めたキーワードか、本人のマナを直接使わないと解錠できない仕組みだとか。よくわからんがスゲー!
縛った二人を茂みに放り込んで隠し、俺は洞窟の中に入っていった。
中は普通の洞窟のようなので、ダンジョンの様な光源はないが、俺は光のマナを応用して暗視の様な事もできるようになったので、問題はない。それに盗賊共が松明の様なものを配置しているからまったくの暗闇ではない。そして、俺には命の気配がわかる。精度は低いが、命のおおまかな大きさと距離が分かるのだ。これはとんでもないアドバンテージだと思う。おかげで俺は入り組んだ洞窟の中でも常に先手を取れる。そこの角を曲がったすぐのところに一人、その先の角の先に二人。位置さえわかれば、あとは”スタン・ヒール”で一発だ。
これなら段ボール箱がなくても簡単に侵入できるな。しかし俺もいろいろ芸が細かくなってきたな、暗視もできるし・・・いや待てよ、俺のマナは光だ。光ってつまり可視光線ってことだよな?つまり光を屈折させたりしていろいろコントロールできれば、姿を消したりもできるんじゃね?
マジか!じゃあリアルステルス迷彩もできるってことか!くぅぅぅ!滾るわぁー!!他にもいろいろできそうだな、光のマナ。楽しくなってきた。俺は鼻歌交じりに盗賊共を沈めていった。
危なげなく盗賊共を無力化していく俺、もう残りわずかの所で三人固まっているエリアを見つけた。三人はさすがに気を付けた方がいいな。ドクロちゃんフラッシュで気をそらすか、そんなことを考えながら先手を取られないよう、奴らに気づかれないようにそのエリアに足を踏み入れた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。もし面白いと感じていただけたら、差し支えない範囲でブクマ、感想、評価をしていただけたら嬉しく思います。




