第24話 骨、日常に戻る
ひとしきり歓声を上げた後、俺たちはギルドに向かって歩いていた。街の外のブラックオークの死骸は街の兵士が片付けてくれるらしい。そういえば、俺たちが仕留めたオーク共はどうしたんだろう。エメラに聞いてみると、俺が気絶してる間にゲンガイが達がマジックバッグに詰めて持ち帰ってくれたらしい。ギルドで戦果に応じて報酬を分けるそうだ。ちなみに、ダムブレッドとゴールドバルグの二人が仕留めたオーク共は街に寄付するらしい。豪儀なことだと感心していたら、どうも暴れすぎて外の穀倉地帯に被害が出らしい。そういえば、でっかいクレーターがいくつもあったな。もしかしてあれって、あの二人のやらかした後なのか?ゲンガイのクレーターの三倍くらいはでかい穴だったぞ。あれでも加減したそうなんですけどねってエメラが苦笑いしながら教えてくれた。やっぱ人間じゃねぇわ、あいつら。
みんなでギルドに凱旋すると、ギルド員がみんな並んで出迎えてくれた。エレーナさんが俺の姿を見た時一瞬ホッとしたように見えた。
「みなさん本当にありがとうございました。みなさんのおかげでベルガイアの街が救われたこと、ギルド員一同感謝しております」
エレーナさんが代表してお礼をいって職員がみんな一緒に頭を下げてきた。
「い、いや別に」 「ね、ねぇ。当たり前のことしただけだし」 「そ、そうだぜ。気にすんなよ。な?」 「お、俺に振るなよ。解決してよかったじゃん」
なんだ、こいつら。こういう場面に慣れてないのか。ここにはシャイなあんちくしょうしかいないのか。まったく情けない。
「ありがとうございます。なかでもクレストさん・・・」
「は、はい!」 いきなり呼ばれて、声が上ずってしまった。
「あなたの活躍は報告を受けております。しかしまだ、駆け出しのあなたに重荷を背負わせてブラックオークの討伐に向かわせてしまったこと、深く謝罪をするとともに、改めて感謝の念を送らせていただきたいと存じます。街を救ってくださって本当にありがとうございました」 と言ってまた頭を下げられた。
お、おう・・・なんかすごい謝られたぞ、いやお礼を言われたのか。どうする、ここは気の利いたセリフの一つでも返さないとだめだよな。俺はあんなコミュ障どもとは違う。できる男だってことを見せつけてやらねば。えっと、えっと・・・
「き・・・」
「き?」
「気にすんなよ」 と言って親指を立てて笑ってみた。
「「「「「・・・・・・」」」」」
静寂があたりを包み込んだ。やっべぇ、すべった。俺は立てた親指をしまうことすらできずに固まってしまった。
「「「「「ぶわっはっはっはっはっは!!」」」」」
次の瞬間全員が大爆笑した。
「なんだそりゃ!」 「なに、あんた照れてんの!」 「なんだよ、いつもふてぶてしいのにかわいいとこあんじゃねぇか」 「コミュ障だったのかお前!」
頭が恥ずかしさでカーッと熱くなる。
「やっかましいわお前ら!誰がコミュ障だ!お前ら人の事言えんのか!?さっきどいつもこいつもウジウジモジモジしてただろうがよ!この陰キャどもが!!」
「誰が陰キャだ!」 「そうよ、あんたふざけてんじゃないわよ!」 「てめぇちょっとエレーナさんに個別に褒められたからって調子こいてんじゃねぇぞ!」 「そうだ、そうだ、うらやましいぞこの野郎!」
最後の奴はただのひがみじゃねぇか。
「上等だこら!てめぇらそこまで言うからには飲みニケーションもできるんだろうな!」
「当たり前だこら!」 「あんた、言ったからにはもう帰れないわよ!」 「てめぇ、朝日を拝むまで帰れると思うなよこらぁ!」 「飲み比べだ・・・!報酬で懐はあったかいんだ、店の酒全部飲ませてやるからな!」
「やってみろボケ共が!俺を潰せると思ったら大間違いだよ!改めてエレーナさんただいま、というわけで今日は酒場貸し切りでよろ」
あきれた顔で俺たちを見ていたエレーナさんだったがあきらめたように溜息をついて・・・
「はぁー、わかっています。そうだろうとおもってもう酒場の方は準備ができております。査定の方については後日にしましょう」
エレーナさんの言葉に冒険者達は歓声を上げた。
「さすが、俺たちのエレーナさん。わかってるぅぅ!」 「今日は浴びるほど飲むぞ!」 「クレスト、逃げんなよ!」 「今日は潰すからね!」
フッ、お前ら雑魚共に俺が潰されるものかよ。
「ゲンガイ、お前達ももちろん飲むよな?エメラはどうだ?」
一応ゲンガイ達にも確認をとる。アルハラになってはいかんからな。
「もちろん飲むぞ、こんな日に飲まんでどうする」
聞くだけ野暮だったようだ。
「私は、お酒は得意じゃないので、ミルクを頂ければ」
「はい、エメラちゃんからミルク入りましたー!おい、そこのモブ1号、ひとっ走り行って取ってこい!」
「誰がモブ1号だ!ダッシュでモウロックミルク分けてもらってくる!」
モウロックミルクと聞いたエメラが、目を輝かせて首を何度も縦に振った。
「エメラ嬢がいいミルクを御所望だ。秒で行ってこい!!」
「あいあいさー!」
こうして俺たちは陽が昇るまで飲み明かした。俺が助けたトリステンとその相棒がベロンベロンに酔って泣きながら何度も礼を言ってきた。それはいいんだけど、死にかけたっていうか一度死んだお前がそんな飲んで大丈夫かって思ったが、途中からどうでもよくなって忘れた。そして、しこたま飲んで悪酔いした俺は酒場の備品を壊して翌日報酬から天引きされた。あとエレーナさんにめっちゃ怒られた。
酒場の備品を壊し、エレーナさんに二度目の土下座をしてから数日、俺はいつもの日常を取り戻しつつあった。決死の戦いで瀕死のボロボロだったにもかかわらず、朝まで浴びるほど飲んだせいで三日ほど完全にダウンしていた。その間サリーが俺の看病をしてくれたので今度お菓子でも買っていってやらねば。
四日目から復活した俺はギルドへ赴き、やっと来たかてめぇっていうエレーナさんからの視線をかわしつつ、報酬を受け取った。その額なんと600万、どうも俺が最後に倒した剣持ちのブラックオークはブラックナイトオークといって上位種だったらしい。あと討伐参加の報酬やらもろもろあわせてこの額になったそうだ。いやー、儲けたねぇー。これだけあれば1年くらいは遊んで暮らせるんじゃね?まぁ、ぶっ壊した酒場の備品の分はしっかり天引きされましたが。
そんなわけで、通常運転に戻ったので、とりあえず以前の生活サイクルにもどろうと清掃関連の仕事を軒並み受注した。
いやー、行く家行く家みんなに感謝されちゃったよ。街を守ってくれてありがとうって。うれしいねぇ、こんな風に感謝されるなんて骨冥利に尽きるってもんだ。
数日かけて一通り依頼をこなした俺は時間ができたので教授の所に行ってみた。教授にはロケットパンチの話で盛り上がってたから、戦いの顛末を報告しとこうと思ったのだ。教授の予想通り、マナで繋げれば体が離れていても動かせることを知らせたら、教授は興奮して根掘り葉掘り詳細を問いただしてきた。
一通り説明してなんか新しい知見があったら必ず知らせる約束をして教授の家を後にした。
そんなこんなでさらに数日過ぎたころ、街の依頼をこなしてきた俺をエレーナさんが呼び止めた。
「クレストさん、そろそろ外の依頼を受けませんか?」
「外の依頼?」
「ええ、またクレストさん、街の依頼しかしていないですよね」
そういえばそうだったな。
「そうっすね、じゃあ行ってみるかな。魔の森はもう行ってもいいんですか?」
「はい、警戒態勢は解除されました」
「じゃあ、今度こそヒール草を採ってくるかな」
「それなんですが、警戒態勢が解かれた日から冒険者がヒール草を集めてくれていたので、今はかなり余裕があります」
「え、そうなんですか。じゃあどうすっかなぁ」
「ひとつ提案がありますが、聞いてくれますか?」
「はい、どうぞ」
「毒消し草の採取依頼などどうでしょうか?」
「ほぉほぉ、毒消し草とな」
「ベルガイアから一番近い街のメローネまでの街道の近くに毒消し草が生えている沢があります。現在当ギルドではヒール草は在庫が十分ありますが、毒消し草の備蓄が心もとなくなっております。お願いできないでしょうか?」
「そりゃ構いませんが、毒消し草なら魔の森にも生えてるでしょ?っていうか多分そっちの方が数はありますよね?魔の森に行けばヒール草も一緒に採ってこれるしなんで街道?」
「最近、あの沢の毒消し草の質が落ちてきていると報告が上がってきました。その原因も調査してきてほしいのです。むろん原因が判明すれば報酬に上乗せさせていただきます」
ほむほむ、いいんじゃないかな。毒消し草も最悪”浄化”を使えば元気になるだろ。
「じゃあそれでお願いします」
「あの、相変わらず軽い感じですけど、いいんですか?」
「いいですよ、エレーナさんの提案なら間違いないでしょ。がんばって調査してきます」
「・・・ではお願いします」
お、ちょっとエレーナさんの表情が柔らかい。やったね。
「じゃあ行ってきまー「ちょっとお待ちください」・・・はい?」
なんか前にもこれあったよな、なんか嫌な予感がする。
「クレストさん、一応聞きますが、まさかその格好のままでいかないですよね?」
質問内容を聞いてホッとした。俺は今普段着で鎧も剣も装備していないから、指摘を受けたんだ。だが以前の俺とは違うぜ。ちゃんとマジックバッグに入れてあるもんね。
「はっはっは、まさかまさか。ちゃんと持ってきていますよ。ちょっと待ってくださいね」
そういいながら俺は、バッグから剣とレザーアーマーを出して装備した。これで完璧。
「では今度こそ、行ってきまー「ちょっとお待ちください」・・・あれ?」
おかしい、また呼び止められた。何故だ?準備は完璧のはずだ。
「クレストさん」
「は、はい」
「ご自身の装備をよく見てください」
「ゴジシンノソウビ?」
言われた通り見てみるが、何のことかわからない。
「ちゃんと装備して、防御力と攻撃力は上がっていますよ?」
「ハァーーー」
エレーナさんが、額をおさえてため息をつき始めた。やばい、なんか知らんが機嫌が悪くなってきた。どこだ!?どこに問題がある!?・・・あっ!そうか!
「わかりました、わかりましたよ」
そういって俺は剣を鞘から抜いた。やっぱりだ、剣が血で汚れてさび付いている。そうだよ、よくよく考えたら俺ってあの戦いの後、気を失って倒れたからね。だから剣は誰かが鞘に納めてくれていたんだけど、その後も忘れてそのまま放置してたわ。ちゃんと汚れをとらないと切れ味が落ちてしまう。俺って昔のドラ〇エとか、ファイ〇ァンとか古き良き時代のRPGが大好きだったんだけど、最近のゲームは切れ味が落ちたら、研ぎモーションとかなんかいろいろ面倒くさいアクションがあるんだよね。それも悪くないけど懐古主義とでもいうのか、昔のゲームが特に懐かしく感じるんだよねぇ。まぁどうでもいいか。
「≪クリア≫、これで完璧です」
”浄化”をかけたら刀身はピカピカになった。俺の”浄化”ならあそこまで汚れまくっていても楽勝よ。今度こそこれで準備OK。
「じゃあ、行ってきまー「ちょっとお待ちください」・・・あ、はい」
なんだ?もうわけわかんない。コントかこれ。いや、冗談言ってる場合じゃねぇ。見れば、エレーナさんのご機嫌アンマックスだこれ。
「クレストさん」
「は、はい」
「ご自身の装備をみて何も感じないのですか?」
やばい、マナが漏れてる。こわい!、前よりこわい!
「え、えっと、えっと・・・あの、革の鎧の・・・ヒモが・・・えっと、・・・緩んでるとか?」
ダン!! エレーナさんが机を叩いた!痛恨の一撃!机が凹んだ。クレストは恐怖ですくみ上っている。
「なんでそれを見て何にも思わないんですか!剣は刀身が歪んでいるし、ヨロイはボロボロじゃないですか!ちゃんとグリスギンさんの所にメンテナンスに行ったんですか!?行ってないでしょう!グリスギンさんがそんな状態を許すわけないですからね!」
「ひぃ!い、行ってないです、ごめんなさい」
「そんな状態の剣で街の外に出て、武器が折れたらどうするんですか!予備の武器は持っているんですか!」
「も、持ってないです。すいません」
「ヨロイも、そんなボロボロで何を守れるっていうんですか!何が防御力は上がったよ!このおバカ!冒険なめてんじゃないわよ!」
「は、はひ。すいません!」
「わかったら、今すぐグリスギンさんの所へ行く!お金は十分あるでしょ。予備の武器もそろえてきなさい!」
「は、はい!今すぐ行きます!あ、あの、机凹んだけど大丈夫ですか?弁償するなら俺も少しは・・・」
「うっさい!早よ行け!!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!行ってきますぅぅ!!」 俺は涙目で走った。
泣きながら店に駆け込んだ俺を、グリスギンは温かく迎え入れてくれた。
「そうか、オークの討伐の後全然店にこねぇから、小言の一つも言ってやろうかと思ってたんだが、エレーナの嬢ちゃんにそこまでお説教されたなら必要ねぇな」
「・・・うん、ごめんなさい」
「まぁ、反省したんならいいやな。じゃあメンテナンスするから見せてみろ」
「おう、たのむよ。あと、予備の武器も見繕ってくれ。買って帰らないとまた怒られるからな」
「・・・お前、本当はあんま反省してねぇんじゃねぇか」
失礼な、反省はしている、立ち直りが早いだけだ。
「・・・ざっとチェックしてみたがな、剣はともかくヨロイはもうダメだ」
グリスギンに装備品を渡して、メンテをお願いしたら、そう言われた。
マジかよ、まだほとんど使ってないんだけど。
「刀身の歪みはなんとか直せる。だがな、ヨロイは穴が開きすぎてる。それでも破れた皮を取り換えて縫い直すことはできなくはないが、耐久力が落ちるし第一そこまでするなら新しいヨロイに変えた方がいい」
まぁ、あの激戦でいたんだろうなぁ。でもこれがなかったらまず死んでいたし、むしろヨロイと剣に命をつないでもらったんだな。作ってくれたグリスギンとこの店を紹介してくれたエレーナさんには感謝せねば。
「そうかぁ、残念だけど新しいのに変えるわ、ありがとうな、俺を守ってくれて」
思い出のクマメイルに最後の感謝を込めて、挨拶した。
そんな俺を見て、満足したような顔をしたグリスギンは・・・
「そんで予算だけどな、いくらまでなら出せる?」
「うーん、300万くらい?」
「ふーむ、悪かねぇが、黒鉄鋼の剣の修理と予備の剣、そしてヨロイも含めるならちっと物足りないな」
「そうなの?じゃあもう少し増やすか・・・」
「提案なんだがな、修理する黒鉄鋼の剣を予備にしねぇか?」
「ふむふむ、続きを・・・」
「お前はブラックナイトオークを倒したそうじゃねぇか。そのレベルなら黒鉄鋼の剣じゃちぃと足りねぇ、もうワンランク上の剣を持った方がいい。ヨロイも含めてな」
「つまり?」
「500万出せ、黒鉄鋼の剣の修理、新しい剣は銀鉄鋼の片手剣、そしてヨロイは総赤銅熊のレザーアーマーにしてやる」
「わかった」
「即答かよ、お前こういうのは本当に歯切れがいいな」
「俺は、その辺は素人だ。グリスギンの判断に従った方がいい」
俺がそういうと、グリスギンは嬉しそうに 「ちょっと待ってろ、用意してやる」 と言って、奥に消えた。
しばらくして、グリスギンがいぶし銀な剣と、前のヨロイより赤みがかかったレザーアーマーを持ってきた。
「おお!どっちもかっこいいな」
そういうとグリスギンは少し照れて顔をそむけた。うーん、かわいくない。
「じゃあ着てみろ、合わせてやるから」
「そうだな、武器や防具はちゃんと装備しないと、効果を発揮しないからな」
「・・・お前、前もそんなこと言ってたけど、ホントに何言ってんだ?」
言われるがままに、着て質問攻めにあうが、相変わらずよくわからないので 「最初よりすごく動きやすくなった」 と言っておいた。満足そうにしてるからこれで正解だろう。剣の方も同じ感じでごまかした。だって、最初からいい感じなんだもん。わかんねぇよ。
調整が終わり金を払った後、グリスギンが言った。
「黒鉄鋼の剣の方は3日ほどしたら来い、直しておいてやるから」
「おお、ありがとうな。今度はちゃんとメンテナンス忘れないようにするよ」
「ケッ!お前がものぐさなのは最初から分かっていたことだ。だが、命を守る道具だ、だからちゃんと持ってこい。もってきたら、俺がキッチリ直してお前の命をつないでやる」
少し照れ臭かったのか、顔をそらしてグリスギンは言った。うん、今のはかっこいいぞ。
よし、短かったが日常はひとまずお預けだ。また冒険に行こう!




